「テイルオン!よし、やるか。」
鏡の前、総二の変身の掛け声に振り向くと、そこにはテイルレッドが居た。
「ねぇ、…何やってんの?」
「あん?ああ、トゥアールに聞いた所、この鎧とか脱げるんだってさ。」
「いや、なんでテイルレッドで脱いでんの?」
「そりゃ、風呂入る為だよ。」
鎧とか服とか、全部脱ぎ捨てて生まれたままの姿へと変わったテイルレッドの総二は、流石に隠すようにタオルを胸の上まで巻いて、風呂場への扉を開いた。
『おおおおォォォォ……』
「…何で?」
風呂場から先に入っていた変態達の歓声が聞こえた。只々呆然としてしまった俺だけが取り残されたのだった。
麗路の家の風呂場はかなり大きい。元々旅館だった事もあり、撮影スタッフが撮影終わりに入って行く事もあって、更には住込みのエレメリアンが従えている量産型戦闘員アルティロイドが、その無駄に高い家事能力でいつもピカピカに、完璧に整備していたりするからかなり気持ちいい。
「では、頼むぞ。」
「おう。任せとけ。」
目の前の漆黒に輝くごつい背中に泡立てたタオルを押し当てた。
「おおう、こ、こんな形で夢が叶うなんて、惜しむらくは傷がある事…」
「気にすんなよ?こんな事で良かったら、幾らでもやってやるからよ。」
泡立つドラグギルディの背中越しに、ドラグギルディの感動するような声が聞こえる。小さく縦に走る小さな傷を裂けて、ドラグギルディの座っていると言ってもかなりある座高と、テイルレッド状態になっている為小さくなっており、余計にそう感じる。
精一杯背を伸ばし、両手を上げて、何とか上の方から擦ろうとして、ドラグギルディの背中にツインテールがふわりと触れる。
「くぅ~、最高の時間を齎せてくれた事、礼を言うっ!!」
「おいおい…」
究極のツインテールを持つ少女、俺が言うのもなんだが、テイルレッドのツインテールは本当に良い物だ。に背中を流してもらい、その時に触れるツインテールの感触を楽しむというドラグギルディの思いを叶えた形になり、ついには男泣きを始めた。
これは対価を貰っての事だし、これを言い出したのはドラグギルディである事もあって、本当なら髪が傷むからツインテールを解くのが正しいのだが、今回ばかりは特別とツインテールのまま洗い場へとやってきたのだった。
『ひっくしゅ…』
「………」
そんな時、脱衣場からやけに可愛らしいクシャミが聞こえて来た。その時にまだ麗路が風呂場の方に来ていない事に気付いた。さっきまで騒いでいたエレメリアン達もまた無言で脱衣場へと続く扉を見ている。
「うう~、寒、寒。呆然とし過ぎたぁ。」
「…姫様、これを」
「あ、ありがとうスパイダーギルディ…」
普段なら見せ無い様な、寒さで震えて縮こまっている麗路が扉を開けて入ってくる。すかさずスパイダーギルディが麗路にタオルを渡した。
スパイダーギルディを含め、エレメリアン達の体格はかなり良く、タオルも俺達が使う様な物だと小さすぎて、とてもじゃないが体を洗うのに使えない。そこでバスタオルをボディタオルの様に使っている。
震えている麗路に渡したものもそれで、普通の男子と比べても背の低い麗路と比べれば、かなり大きい物だ。
「いえ、体に巻くのではなく、こうして、こうです。」
「えっと、こうで、こう?」
『おおおおおォォォォォォ……』
流石に寒がっている麗路は全身を隠すようにタオルを巻いてしまう。だがスパイダーギルディは、そうではないと小さく注意を幾つか入れ、麗路にタオルの巻き方を変えさせていた。麗路も寒さで頭が回ってないのか、素直に聞いてしまう。
まずタオルの一辺、真ん中よりも上側を胸に、体に押し付ける様に手で押さえさせて、もう一方の手を腹の部分で押さえさせる。更に後ろを向かせて、首から振り向かせてこちらを見せる。
麗路の、ツインテールにすれば、少なくともテイルレッドのツインテールに匹敵してしまうサラサラと揺れる長い髪が、臀部辺りで揺れている。
俺が入って来た時以上の歓声が風呂場に響いた。
「生きててよかったぁ…」
「何をやらせるのさっ!?」
「あ痛ぁっ!?」
スパイダーギルディの呟いた言葉に我に返った俺は、鏡を見て、自分の姿がどう見ても振り返り美人の様な浮世絵に出て来る美女の様にしか見えず、思わずこの格好をしてしまった事に顔を赤くしてしまう。
原因であるスパイダーギルディに、近場にあった石鹸、今日新しく出したばっかりで、まだまだ大きいそれを投げてぶつける。
痛いと言っている割に、属性力の籠らない俺の攻撃なんか効く筈も無く、逆に滑りやすい洗い場でのこの行動で滑って転ぶのを心配され、一定以上の距離を離れない事を悔しく思う。
確かに顔はもちろん、いまだ撮影が残っている以上、露出箇所が多いテイルポニーの格好をしなければならず、青痣なんか作れない。
「まったく…」
「すみません。だがどうしても男の娘がタオルで女の子の様に体を隠している場面を見ないのは、心に嘘を吐いているようで自分を許せず……」
俺が不機嫌になったのを見てスパイダーギルディが謝ってくるが、謝るのならばやるなよとも思うが、それでもこういった変態行為をしない変態達の方が心配になってくるのもあって、溜息一つ改めて体を洗う。
頭を伝って体に流れるシャワーのお湯。体が冷えていた事もあって、少し熱く感じるのが気持ちいい。
何故か後ろで、ごくりと喉が鳴る音が無数に響いたがあえて無視をする。
「はぁ…」
頭を洗い終え、体を洗い終え、湯船に浸かった。思わず安堵の息が漏れる。んで目を開ければ、目の前にアホな事をやっている変態が一人。
「例え気付かれて撃破されようとも、目の前に居る男の娘相手に下ネタを振ってセクハラ擬きをしない理由になるだろうかっ!?」
「なるわっ!!こん馬鹿っ!!」
俺に気付かれた所で止めるどころか、胸を張って開き直った為に桶の一つを蹴ってお湯の中に落とす。
桶四つを反対に向け、それぞれに手足を置いて、表面張力で浮きつつ真っ直ぐ向かって来ていたアメンボの怪人パンドスケーターギルディはお湯に叩きつけられ、プカーと仰向けの状態で浮かんできた。
「おい、誰かこの馬鹿を沈めろっ!!」
「任せろ!!」
「おい、ヤメロ、たすけてぇ…」
その正面に居て、汚い部分を見せられた連中が、パンドスケーターギルディを沈めに掛かる。流石にふざけ過ぎたと理解したのか、慌てて逃げるパンドスケーターギルディを追っかけて、壮大な追いかけっこが始まる。
「何をやってんだよ…」
「それを総二が言うっ!?」
隣でテイルレッドの姿でドラグギルディに抱っこされた状態で浸かっていた総二に、思わずツッコみを入れてしまった。ドラグギルディはマッタリと幸せを噛み締めており、あえて話しかけない。
ちなみにこの騒動は、家のヒエラルキートップに君臨する母さんが、うるさいと叱りに来るまで収まりを見せなかった。ちなみに初めて見た怒った母さんの迫力に、ドラグギルディも背筋を震わせていた。