こういったイベント用の出張る時のボックスワゴンの車中、運転席で運転しているスタッフと、助手席に座った愛香ちゃんを除いて、後ろではギュウギュウ詰めで乗っていた。
別に乗車可能人数は超えてはいない。イベント用の荷物が席を圧迫しているのだ。その上エレメリアン達は、それこそ大の大人よりも架台がいい事も原因の一つであった。
スタッフのアルバイトとして参加している総二は、行きと同じくテイルレッドの姿でドラグギルディの膝の上に座っているし、俺もスパイダーギルディの膝の上である。
その方が空間が生まれるからで、我慢していたりする。
「あっちのバスに乗ればよかったんじゃ…」
「あのなぁ、こんな顔でも男なの。あっちに乗ったら気まずいっしょ!?」
ちなみに姉さんは、真奈美ちゃん等が乗り込んでいく出演者用の大型バスでさっさと帰ってしまっていた。そこは正しく女の花園と化した空間とまではいかないまでも、俺の顔的に普通に溶け込めようとも、それだけは許してはいけない。俺は男だっ!!
後ろの席から顔だけを出して、俺に話しかけてくるテイルレッド、いやもう車中だし総二でいいか、に言い返す。
「しかし、大丈夫か?」
「まだズキズキする。先に帰ったトゥアールが検査の準備をしてくれてるらしいし、唯の傷なら完璧に治すって豪語してたから大丈夫だと思うけど…」
「うっ……悪かったわよ。」
だがその視線は俺の本来なら存在しない胸へと注がれていた。俺は今だ女の体で居たのだ。
変身を解いた後、それこそ俺は叫んだ。我慢できない痛みで。
愛香ちゃんに掴まれた跡が、青くくっきり残っていたのだが、痛みはそれ程でもなく油断していた。変身を解いた後、その痛みが凝縮されたのか、周りを慌てさせるほどに泣き叫んでしまったのだ。
ギルディギアで再度変身して痛みを抑えたのだが、それでも変身を解く前程痛みが気にならないとはならず、各パーツを外し、トゥアールに転移で先にパーツを持って帰って貰っていた。
申し訳なさそうな愛香ちゃんに気にしてないとは流石に言えず、事実トゥアールはそんな愛香ちゃんに高度な変態言葉で責めた後、いつも通り粉砕され、だけど検査と治療を申し出てくれた。
「それにしても、相変わらずねアンタ。」
「むぅ…」
「小さい頃かそうだもんね。何か怖い事や寂しい事、嫌な事があればそうやってスパイダーギルディに抱き着く癖。いい加減直さないと其の内犯されるわよ?」
「拙者が姫様を襲う等、死んでもありえん!!」
「鏡見て言えぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー…!!」
車中に愛香ちゃんのツッコみの声が響く。いやまぁ、俺も直さなきゃとは思うんだけど、なんでか治らないんだよなぁ、この癖。
確りとスパイダーギルディの上着の一部を、俺の、この年代の男にしてはかなり小さい手で握りしめている。
そんでもって、先から静かだったのは鼻血を出しながら瞑想しているからだ。時折煩悩退散とか聞こえてくるあたり、本当に身の危険を感じるんだが、それでもこの車中の様子なら仕方ないし、この癖だけは抜けないのだから仕方ない。
「それにしても、今日の奴はそれ程必死じゃなかったな。」
「本能に負けたのかもしれん。」
普段なら、こんな空気が悪くなりそうな話題を振ってくることの無い総二だけど、今回の事を愛香ちゃんに反省して貰おうとしたのかもしれないし、実際愛香ちゃんは小さくなっている。
そろそろ終わりにしようという合図代わりに別の話題を振ってきた総二の言葉に、ツインテールがふわりと触れる感触を楽しんでいたドラグギルディが答えた。
総二曰く、ライガーギルディから今までのエレメリアンの様な必死さが無かったと言うのだ。
それまで侵攻してきていたエレメリアンはドラグギルディの部隊の者。だけど、あのライガーギルディはまた別の部隊の長であり、こんなにも早く出て来る者でもないとのこと。
考えられるのは一つ。属性力はエレメリアンにとって食事の様なもので、食べる事を強要されており、しかもその内容が代わり映えしない内容だった時、目の前に別の食事が用意されていれば、そちらに食いつくだろうとの事だった。
「それに新首領様に貰った力だと…」
「そういえば、そんな事言ってたな。その首領様ってそんなポンポン代わるものなのか?」
「そんなわけないだろうっ!!」
「っ!?す、すまん…」
「あ、いや、こちらこそ悪かった。」
そしてライガーギルディの言っていた言葉に考え込むように呟くドラグギルディ。総二の気楽にとは違うが、何の気負いも無く聞いた質問に怒鳴り返す。
ドラグギルディの首領様への忠誠を馬鹿にしてしまったように感じたのだろうか、総二が驚愕しつつ謝る。
今の姿はテイルレッドのもので、幼子に理不尽に怒鳴り、謝らせている事に気まずそうに謝っている。
「だが、だとするとあの首領様よりも強敵が現れたと言う事になる。」
ポツリと呟かれたスパイダーギルディの言葉に車中に重い空気が充満する。ドラグギルディの実力も、スパイダーギルディ達の実力も知っているからこそ、それを纏める王でもある首領様の実力が想像できない。ましてやそれを超えるとなると…。
「それにあのライガーギルディって、レオンギルディの属性玉を取り込んだって…」
「いや、それは唯のノリだろう。」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー……っ!!」
もし他のエレメリアンも他のエレメリアンの属性玉を合わせてパワーアップしてくるのならと心配げに声に出した総二だったが、直後ドラグギルディに、あの場の空気に中てられただけだろうと返され、思わず叫んでいた。
曰くレオンギルディと言うエレメリアンは知っている中と付くが居ないそうだ。ましてや元とはいえ幹部であったドラグギルディもスパイダーギルディも知らないとなると、あのヒーローショーの空気に中てられ、勝手に作ったキャラクターなのではと言う事。
新首領様に貰った能力が二次元属性と言うのも考えると、それが正解の様な気がしてくる。
「ただ、我々も含めて他のエレメリアンの属性玉を取り込みパワーアップする事は可能だ。」
「お主らも属性玉変換機構は使っているだろう?」
ただエレメリアンは仲間意識が極端に強いらしく、だからこそ自ら誰かを殺してまでパワーアップしようなどとは考えないと言われた。
「ごちゃごちゃ考えていたって仕方ないじゃない。責めてくるのならば粉砕するまでよ。」
気負いなく、男らしい言葉で愛香ちゃんがそう締めくくる。その言葉で車中の空気が軽くなった気がした。
「そうだよな。それに勝てないなら特訓すればいいんだ。」
「おおっ!!」
その事に総二が追従し、実力が足りないと言うのならば、強くなればいいだけだと握り拳を作る。総二と同じくらい熱いドラグギルディもそれに同意し、気勢を上げていた。
俺、変身を解いた総二、愛香ちゃん、そして保護者代わりにスパイダーギルディは総二の家の前でワゴンを降りる。これから検査と治療だ。
「どうしたのさ?」
「あっ、いや、何でもござらん。未春殿ぉっ…」
ただ何かを考えている様な仕草のスパイダーギルディを不審に思い、声を掛けるも誤魔化されてしまった。総二の母親を呼びながら、気まぐれで開ける喫茶店「アドレシェンツァ」の扉を開いて中に入って行く。
この時もう少し気にしておけばよかったとも、後であれは後悔したと言えばいいのか分からない事態に巻き込まれたのだった。