ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!- 作:陽@曜花推し
前回は、千咲がOGLで新たな機体の開発に携わることになったお話でした。
小原千咲専用機となる「ヴァルキリーガンダム」。
そして、新堂陽哉の新たな愛機となる「デスティニーガンダムインフィニティ」。
2機の開発は、まだ始まったばかり。
一方、浦の星女学院では、千歌たちのスクールアイドル活動も少しずつ前へ進もうとしていました。
しかし、部活として正式に認めてもらうためには条件があります。
今回は、その条件が千歌たちに提示されるところからスタート。
そして、その条件を受けた千歌、曜、梨子が練習しているところへ、偶然千咲がやって来ます。
さらにそこには、なぜか陽哉の姿まで。
幼馴染という意外な関係が明らかになる一方、今回も千咲は本人の意思とは無関係にスクールアイドル活動へ巻き込まれていきます。
それでは、第7話「条件付きのファーストステップ」をどうぞ。
前回の-Sailing to the Sunshine!!-
千咲はOHARA GUNPLA DEVELOPMENTの開発施設、OHARA GUNPLA LABを訪れていた。
そこでは千咲専用機「ヴァルキリーガンダム」と、新加入したプロファイター新堂陽哉の「デスティニーガンダムインフィニティ」の開発が進められていた。
かつて全国大会で何度も戦った千咲と陽哉。
今度は同じチームの仲間として、それぞれの愛機を完成させるために力を合わせることになった。
一方、学校では千歌たちがスクールアイドル活動を始めるために動き出していた。
そして鞠莉は、千歌たちにある条件を突きつける。
数日前。
OHARA GUNPLA LAB。
広い開発スペースの中で、複数のモニターが並んでいる。
そのうちのひとつには、新しく設計された機体の3Dモデルが表示されていた。
赤を基調とした機体。
そこへ青や白のパーツが配置され、腰部、脚部、背部には既存のデスティニーとは異なる装備が追加されている。
「ここ、もう少し細くできるかなぁ」
モニターを見ながら千咲が言う。
「肩部のフレームですか?」
OGLのスタッフが確認する。
「うん。武装を載せるなら、こっちの方が動かした時に邪魔にならないと思う」
「分かりました。再調整します」
「ありがとぉ」
千咲は椅子に深く座りながら、モニターを眺めていた。
そこに表示されているのは、現在開発中のヴァルキリーガンダム。
まだ設計途中ではある。
装甲の細かな形状も。
武装の配置も。
細部まで決まったわけではない。
それでも、千咲が頭の中に思い描いていた姿は、少しずつ現実の形になりつつあった。
そしてもうひとつ。
その隣の画面には、別の機体が表示されている。
「陽哉」
「ん?」
「このバックパック、これでいい?」
千咲が聞く。
陽哉が画面を見る。
「……いいんじゃないか?」
「ほんとぉ?」
「むしろ、お前がそこまで考えてたことに驚いてる」
「だって、ボクが考えたんだからねぇ」
「まあ、そうだけど」
そこに表示されているのは、デスティニーガンダムインフィニティ。
かつて陽哉が使用していたデスティニーガンダム・シグムンドをベースに、千咲が再設計した機体である。
新たな武装。
新たな防御機構。
そして、陽哉のアシムレイトを活かすための新システム。
まだ名称すら決まっていない機能もある。
それでも、こちらも確実に前へ進んでいた。
「……なんか、不思議だな」
陽哉が言う。
「何がぁ?」
「俺たち、昔は全国大会で敵だっただろ」
「そうだねぇ」
「それが今じゃ、一緒に機体作ってる」
千咲は少し考え。
「まあ、人生ってそんなもんじゃない?」
「お前、相変わらず適当だな」
「眠いしぃ」
「それは関係あるのか?」
千咲は答えなかった。
ただ、モニターに映る2機を見ていた。
ヴァルキリーガンダム。
デスティニーガンダムインフィニティ。
新しい戦いへ向けて、2機はまだ産声を上げたばかりだった。
◆
そして、同じ頃。
浦の星女学院。
理事長室の前。
高海千歌、渡辺曜、桜内梨子の3人は、扉の前で顔を見合わせていた。
「……緊張するね」
千歌が言う。
「うん」
曜も頷いた。
「でも、行かなきゃ始まらないよ」
梨子が答える。
3人は、一度深呼吸。
「よし!」
千歌がノックする。
「失礼します!」
中から明るい声が返ってきた。
「どうぞー♪」
千歌が扉を開ける。
「失礼しま……」
言葉が止まった。
理事長室。
その奥に立っていたのは。
金髪の少女だった。
明るい笑顔。
制服姿。
どう見ても、学生にしか見えない。
「…………」
千歌が固まる。
曜も固まる。
梨子も、目を瞬かせた。
3人の視線を受けながら、その少女は楽しそうに微笑む。
「どうしたの?」
「あの……」
千歌が恐る恐る聞く。
「理事長……ですよね?」
「Yes!」
少女は笑顔で答えた。
「小原鞠莉。今日からこの浦の星女学院の理事長を務めてまーす♪」
「…………」
千歌たちはもう一度、顔を見合わせた。
女子高校生。
理事長。
どう考えても頭の中ですぐには繋がらない。
「えっと……」
曜が小声で梨子へ聞く。
「高校生だよね?」
「……そう見える」
梨子も小声で答える。
鞠莉はそんな3人を見て、クスクスと笑っている。
「私が若すぎるって思ってるんでしょ?」
「い、いえ!」
千歌が慌てて否定する。
「そんなことは!」
「顔に出てるわよ♪」
「すみません!」
「別に気にしてないわ」
鞠莉は笑顔のままだ。
「それより、あなたたちがスクールアイドルを始めたいという3人ね?」
「はい!」
千歌が答えた。
「お願いします!」
曜と梨子も続く。
「私たち、スクールアイドル部を作りたいんです」
鞠莉は3人をじっと見た。
そして。
「そう……」
少しだけ表情を変えた。
「あなたたち、本気なのね」
「はい!」
千歌が即答する。
曜も。
「もちろん!」
梨子も頷く。
「私も」
鞠莉は満足そうに笑った。
「だったら」
椅子から立ち上がる。
「場所を変えましょうか♪」
「え?」
「ついてきて」
◆
鞠莉に連れられて、3人がやって来たのは体育館だった。
扉が開かれる。
「ここよ」
「体育館……」
千歌が中へ入っていく。
曜も、梨子も続く。
誰もいない。
広い空間。
バスケットゴール。
ステージ。
観客席。
鞠莉は中央付近まで歩くと、3人へ振り返った。
「ここを使っていいわ」
「本当ですか!?」
千歌の顔が明るくなる。
「ええ」
「ありがとうございます!」
「ただし」
その一言で、千歌の足が止まった。
鞠莉が続ける。
「条件があります」
「条件?」
曜が聞く。
鞠莉は笑顔のまま。
しかし、少しだけ真剣な声で言った。
「この体育館を満員にして、ファーストライブを成功させること」
「…………」
3人が黙った。
「それができたら、スクールアイドル部として正式に承認します」
「…………」
千歌は体育館を見回した。
たしかに、この体育館を満員にできればスクールアイドル部が正式に認められる。
だが。
「満員……」
曜が呟いた。
「うん」
梨子も体育館を見回す。
「でも、私たちを見に来てもらうって……」
千歌は黙っていた。
簡単ではない。
それくらいは、なんとなく分かる。
けれど。
千歌は顔を上げた。
「分かりました」
「千歌ちゃん?」
「やります」
千歌は力強く言った。
「絶対に満員にします!」
曜が笑う。
「うん!」
梨子も続いた。
「私もやる」
鞠莉は嬉しそうに笑った。
「Good!」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、頑張ってね♪」
3人は深く頭を下げた。
理事長室へ戻っていく鞠莉。
その背中を見送りながら、千歌は体育館をもう一度見た。
「……よし」
小さく拳を握る。
「やろう」
曜と梨子も頷いた。
こうして、3人にとって最初の課題が始まった。
◆
そして、放課後。
三津海水浴場。
「1、2、3、4!」
千歌の声が響く。
海辺で、3人が踊っている。
千歌。
曜。
梨子。
昨日までとは少し違う。
明確な目標ができたからだ。
「もう1回!」
曜が声をかける。
「うん!」
千歌が答える。
「次はもっと揃えよう」
梨子も続く。
その少し離れた場所には、ひとりの男子が立っていた。
ストップウォッチを持っている。
「今の、前より0.8秒早い」
「本当?」
千歌が振り返る。
「うん」
「やった!」
「でも、最後のところがバラけてる」
「うっ……」
「もう一回やろう」
「分かった!」
その男子は、真面目な顔でストップウォッチを構え直した。
そして、ちょうどその時砂浜へ向かって歩いてくる、小さな人影があった。
「ふぁぁ……」
大きな欠伸。
小柄な体。
金髪にピンクのメッシュ。
浦女の制服。
「今日も疲れたぁ……」
小原千咲だった。
学校からの帰り道。
少し遠回りをして帰ろうとしていた千咲は、海の方から聞こえてくる声に気づいた。
「……あれ?」
足を止める。
「何してるんだろぉ」
海岸を見る。
見覚えのある3人。
千歌。
曜。
梨子。
そして。
「…………あ」
「…………ん?」
ストップウォッチを持った男子も千咲に気づいた。
目が合う。
千咲は首を傾げた。
「陽哉さん?」
「千咲」
「何してるのぉ?」
「それはこっちの台詞だろ」
「ボクは帰ってる途中ぅ」
「そうじゃなくて。俺たちに何か用か?」
「いやぁ」
千咲は海岸を指差した。
「練習してるのかなぁって」
「そう」
陽哉はストップウォッチを見せる。
「時間測ってる」
「へぇ……」
千咲は3人を見る。
「スクールアイドルの練習?」
「そうだよ!」
千歌が答えた。
「ふーん」
千咲は少し離れたところから見ていた。
「……楽しそうだねぇ」
「楽しいよ!」
千歌が笑った。
「まあ、大変だけど!」
「なんかあったの?」
千咲が聞く。
すると、千歌は少しだけ真面目な顔になった。
「実はね」
そして。
昨日の出来事を話し始めた。
理事長室へ行ったこと。
新しく理事長になった鞠莉に会ったこと。
女子高校生が理事長だったこと。
そして、体育館を満員にしてファーストライブを成功させるという条件が出されたこと。
「なるほどぉ」
千咲は頷いた。
「それで、ここで練習してるんだねぇ」
「うん!」
「でも……」
千咲は少し考える。
「その条件、簡単そうに見えて結構難しいよぉ」
「やっぱり?」
曜が聞く。
「うん」
千咲は体育館を思い浮かべながら話す。
「だって、浦女の生徒全員が来ても、それだけで満員になるとは限らないから」
「……あ」
千歌の表情が止まる。
曜も気づく。
「そうか」
「つまり」
千咲が続ける。
「学校の外からも人を呼ばなきゃいけない」
梨子が黙る。
「でも私たち、まだ誰にも知られてないよね」
「そこなんだよぉ」
千咲が頷く。
「ファーストライブっていうことは、実績もない。名前もまだ知られてない。そんな3人をわざわざ見に来てもらわないといけない」
「…………」
「だから結構大変」
3人は顔を見合わせる。
「……確かに」
曜が呟いた。
千咲は海を眺める。
「でも、鞠莉ちゃんは無理難題を押し付けるタイプじゃないからねぇ」
「…………え?」
千歌が顔を上げた。
「今……何て?」
「鞠莉ちゃん」
千咲が普通に答える。
「理事長の鞠莉ちゃん」
「鞠莉ちゃん?」
曜も振り返る。
「なんで千咲君、理事長のことそんな呼び方するの?」
「なんでって……」
千咲は首を傾げる。
「鞠莉ちゃんだからぁ」
「いや、それは分かるんだけど!」
千歌が叫ぶ。
「なんでそんなに親しそうなの!?」
「親しいよぉ」
「どうして!?」
「え?」
千咲は少し考える。
「従姉だからぁ」
「…………」
沈黙。
「……いとこ?」
曜が確認する。
「うん」
「小原理事長と?」
「そうだよぉ」
「…………」
「…………」
「…………」
千歌、曜、梨子、そして陽哉まで固まった。
陽哉が先に口を開く。
「お前……」
「なぁに?」
「小原家と親戚だったのかよ」
「うん、名字も一緒でしょ?」
「初耳なんだけど」
「言ってないもん」
「そういう問題か?」
千咲は気にしていない。
「まあ、従姉だよぉ」
千歌は千咲の髪を見る。
小原という名字。
金髪。
そして鞠莉も金髪。
「……だから金髪?」
「関係あるのかなぁ?」
「分かんないけど……」
曜が千咲を見る。
「じゃあ、もしかして小原理事長と同じ家に住んでる?」
「うん」
「…………え?」
「一緒に住んでるよぉ」
梨子が目を見開いた。
「同じ家に?」
「うん」
「……部屋は?」
千咲は何も考えずに答える。
「同じ部屋は別だけどぉ、寝る時は一緒だよぉ」
「…………」
4人が凍りついた。
波の音。
風の音。
遠くで聞こえる車の音。
それ以外、何も聞こえない。
千歌がゆっくり口を開く。
「……同じ部屋?」
「うん」
「理事長と?」
「そう」
「毎日?」
「毎日」
「…………」
千歌は隣を見る。
曜も固まっている。
梨子は完全に困惑している。
陽哉は頭を抱えた。
「お前……」
「なぁに?」
「そこまで一緒に住んでんのかよ」
「そうだよぉ」
「……マジか」
千咲は続けた。
「あ、そうそう」
「まだあるの!?」
千歌が叫ぶ。
「あるけどぉ」
「あるんだ……」
「夜はよく鞠莉ちゃんに甘えてるのぉ」
「…………」
再び沈黙。
「…………どういう意味?」
曜が恐る恐る聞く。
「そのままだよぉ」
千咲は眠そうに答えた。
「疲れたから撫でてぇ、とか」
「…………」
「眠いから抱きついててぇ、とか」
「…………」
「今日こんなことあったよぉ、とか話したりぃ」
「…………」
「まあ、そんな感じぃ」
千歌は完全に停止していた。
梨子も言葉を失っている。
曜は視線を海へ逃がした。
陽哉は。
「……俺、聞かなかったことにするわ」
「なんでぇ?」
「これ以上聞くと、なんか負けた気がする」
「意味分かんないよぉ」
「こっちも意味分かんない」
千咲は首を傾げた。
「変なのぉ」
千歌がようやく復帰する。
「千咲くん……」
「なぁに?」
「鞠莉ちゃんって、千咲くんに甘いの?」
「うん」
即答だった。
「すごく」
「…………」
「昔からずっと」
「…………」
「ボクのこと可愛いって言ってくれるしぃ」
「…………」
「学校のことも色々心配してくれるしぃ」
「…………」
「眠そうにしてるとすぐ休ませてくれるしぃ」
「…………」
「この前なんて――」
「もういい!」
千歌が叫んだ。
「そこまででいい!」
「そう?」
「そう!」
千咲は素直に黙った。
曜も頷く。
「うん……なんとなく分かった」
梨子も苦笑する。
「千咲くんと理事長がすごく仲がいいのは伝わった」
陽哉も。
「これ以上はもういいわ」
「みんな冷たいなぁ」
「冷たくない!」
千歌が突っ込む。
◆
しばらくして、3人は再び練習を始めることになった。
千咲は少し離れた場所に座り、海を眺めながら3人の練習を見ている。
陽哉は相変わらずストップウォッチを持っている。
「じゃあ、もう1回!」
「はい!」
3人が並ぶ。
音楽が流れる。
千咲はそれを黙って眺める。
千歌は全力。
曜は動きが軽い。
梨子は細かなところまで確認しながら動いている。
「……頑張ってるねぇ」
千咲が小さく呟いた。
「何だかんだで本気なんだな」
隣にいた陽哉が言う。
「うん」
「だから手伝ってる」
「幼馴染だからぁ?」
「それもある」
陽哉は海を見る。
「昔からずっと一緒だったからな」
千咲は陽哉を見る。
「へぇ」
「千歌は昔からああいう感じだった」
「曜も?」
「そう」
「なるほどぉ」
「お前もさ」
「ん?」
「なんか手伝ってやれば?」
「ボク?」
「お前」
「いやぁ」
千咲は首を振る。
「ボク、スクールアイドル詳しくないし」
「でも、見るのは楽しそうだろ」
「まあ」
「じゃあいいじゃん」
「何がぁ?」
陽哉は笑った。
「そのうち巻き込まれるって」
「嫌な予言だねぇ」
しかし。
その数分後。
それは現実になった。
◆
「千咲くん!」
「んー?」
千歌が手を振っている。
「ちょっと来て!」
「なんでぇ?」
「いいから!」
千咲は嫌な予感がしながら立ち上がった。
「なぁに?」
「ここ!」
千歌が3人の間を指差す。
「一緒にやってみて!」
「…………」
千咲が固まる。
「なんでぇ?」
「だって、人数が多い方が練習になるし!」
「3人でいいんじゃないのぉ?」
「千咲くんも一緒にやれば、動きの確認ができるじゃん」
曜も乗ってくる。
「確かに」
梨子も頷く。
「立ち位置の確認にもなるし」
「えぇ……」
千咲は渋る。
「ボク、男の子だよぉ」
「知ってる!」
千歌が即答する。
「でも今は関係ない!」
「そうかなぁ」
「そう!」
千咲は逃げようとする。
しかし、曜が腕を掴んだ。
「逃げない」
「うわぁ」
反対側から千歌。
「こっち!」
「ちょっとぉ」
「はい、真ん中!」
「なんでボクが真ん中なのぉ」
梨子が位置を調整する。
「ここが一番やりやすいから」
「絶対違うと思うけどぉ」
「じゃあスタート!」
陽哉がストップウォッチを構える。
「待ってぇ!」
音楽。
「1、2、3、4!」
千咲が動く。
「右!」
「右ってどっちぃ?」
「そっち!」
「えぇ……」
「遅い!」
「難しいよぉ!」
千歌が笑う。
曜も笑う。
梨子も笑う。
陽哉まで笑っている。
「陽哉!」
「何だ?」
「笑ってないで教えてよぉ!」
「自分で覚えろ」
「ひどいよぉ」
それでも。
もう一度。
「もう1回!」
「はいはい」
「最初から!」
「はいはい」
「今度はもっと早く!」
「分かったよぉ」
少しずつ。
千咲も動きを覚えていく。
最初はぎこちなかった。
右と左を間違える。
ターンで少し遅れる。
腕の高さも合わない。
それでも。
何度か繰り返していると。
「……あ」
千咲が気づく。
「今、揃った?」
曜が笑った。
「うん!」
千歌も。
「揃った!」
梨子も。
「今の良かった!」
千咲は少し驚いた。
「……本当?」
「本当!」
千歌が嬉しそうに笑う。
「やればできるじゃん!」
「まあ……」
千咲は照れたように視線を逸らす。
「ボク、こういうの初めてだからぁ」
「でも覚えるの早いよ」
曜が言う。
「ガンプラと同じなんじゃない?」
「全然違うよぉ」
「でも、好きなこと覚えるの早いじゃん」
「それはそうだけどぉ」
千咲は考える。
そう言われると、確かに少し楽しい。
音楽に合わせて動く。
3人の動きを見ながら自分も合わせる。
少しずつ揃っていく。
ガンプラバトルとは全然違う。
でも、どこか似ている部分もある。
3人が同じ方向を向いて、同じ動きをしてひとつのものを作る。
「……なるほどねぇ」
千咲は小さく笑った。
「こういうのも、悪くないかも」
「でしょ?」
千歌が笑う。
「じゃあ、次も!」
「まだやるのぉ?」
「もちろん!」
「疲れたぁ」
「まだ始まったばっかり!」
「えぇ……」
「千咲!」
陽哉が呼ぶ。
「位置につけ」
「陽哉まで……」
「ほら」
「……はい」
本来ならただ見学するだけのはずだった千咲。
いつの間にか、千歌、曜、梨子と一緒に踊っていた。
◆
しばらくして、練習が終わった。
「疲れたぁ……」
千咲は砂浜に座り込む。
千歌も座る。
曜も。
梨子も。
陽哉は少し離れたところでストップウォッチを整理していた。
「今日は結構できたんじゃない?」
千歌が言う。
「うん」
梨子も頷く。
「少しずつ形になってきた」
曜は海を見る。
「でも、お客さんを呼ぶ方法も考えないと」
「そうだね」
千歌の表情が少しだけ真剣になる。
「体育館を満員にしなきゃいけないから」
千咲もその言葉を聞いていた。
そして。
「宣伝とか、必要になるねぇ」
「やっぱり?」
曜が聞く。
「うん」
「どうしたらいいかな?」
千咲は少し考える。
「……学校の人だけじゃ足りないなら、外の人に知ってもらわないと」
「つまり宣伝!」
千歌が目を輝かせる。
「そう」
「チラシとか?」
「うん」
「駅前とか?」
「そういうところじゃない?」
曜も身を乗り出す。
「明日からやってみようか!」
「やろう!」
3人の目が輝き始めた。
千咲はその様子を見ていた。
やっぱり、この3人は前へ進むのが早い。
考え込むより先に動く。
「じゃあ」
千咲は立ち上がる。
「ボクは帰るねぇ」
「え?」
千歌が振り返る。
「もう帰っちゃうの?」
「うん」
「また来てよ!」
「暇だったらねぇ」
「絶対だよ!」
「はいはい」
千咲は手を振った。
「じゃあねぇ」
「また明日!」
千歌たちも手を振る。
陽哉も。
「じゃあな」
「うん」
千咲は海岸を歩き出した。
しばらく進んだところで。
ふと振り返る。
夕暮れの海。
3人はまだ話をしている。
明日のこと。
ライブのこと。
これからのこと。
「……頑張ってるなぁ」
千咲は呟いた。
そして。
「ボクも、ヴァルキリー頑張らないとなぁ」
そう言って、また歩き始める。
◆
夜。
小原邸。
部屋の中。
千咲はベッドに横になっていた。
枕元にはスマートフォン。
しかし。
今日はそれほど触らず。
ただ天井を眺めている。
「……体育館を満員かぁ」
昼間のことを思い出す。
スクールアイドル。
ファーストライブ。
そして。
鞠莉。
「鞠莉ちゃん、ちゃんと考えてるんだなぁ」
千咲は小さく笑った。
あの人は適当に見えて。
実はかなり人を見ている。
千歌たちにあの条件を出したのも。
ただ意地悪をしているわけではない。
きっと。
「やれると思ってるんだろうねぇ」
千咲は布団をかぶる。
「……まあ」
目を閉じる。
「ボクも、ちょっとくらい応援してあげようかなぁ」
そう呟いて。
欠伸。
「……眠い」
数分後。
千咲は眠りについた。
◆
同じ頃。
OGL。
ヴァルキリーガンダムの試作パーツが、ひとつずつ組み上げられていた。
頭部。
胸部。
肩部。
脚部。
まだフレームだけの部分も多い。
しかし、ただの設計図だったものが少しずつ実物になろうとしている。
別室では、デスティニーガンダムインフィニティの設計データも更新されていた。
陽哉が求めるもの。
千咲が考えたもの。
OGLが形にするもの。
それぞれがひとつになっていく。
まだ戦いには出られない。
まだ完成していない。
それでも。
これもまた。
最初の一歩だった。
スクールアイドルも。
ガンプラバトルも。
まだ始まったばかり。
だからこそ、これから先どんな姿になるのかは、まだ誰にも分からない。
ただひとつ分かっているのは、小さな一歩でも踏み出さなければ、何も始まらないということだった。
そして翌日。
千歌たちは、そのための新しい一歩を踏み出すことになる。
千咲もまた。
望んだわけではないのに。
その一歩に付き合うことになるのだった。
次回予告
スクールアイドル部の承認条件。
それは、体育館を満員にしてファーストライブを成功させること。
その条件をクリアするため、翌日から千歌、曜、梨子の3人は練習だけではなく、宣伝活動にも力を入れ始める。
向かった先は、沼津駅。
3人でビラを配りながら、少しでも多くの人に自分たちの存在を知ってもらおうと奮闘する。
そんな3人の姿を、偶然見つける千咲。
そして、一緒にいたのは黒澤ルビィと国木田花丸。
3人が頑張って宣伝している姿を見ていた千咲だったが。
ふと、とても重要なことに気づいてしまう。
「千歌先輩」
「ん?」
「アイドル名はぁ?」
「…………」
「あ……」
「決めてなかった」
肝心のスクールアイドルグループ名が、まだ決まっていなかった。
当然ながら、そこから放課後の練習は、急遽「グループ名を決める会」へと変わっていく。
しかし、候補は出ても決まらない。
何か違う。
これも違う。
もっといい名前はないか。
そんな中。
千咲が何気なく視線を向けた、その先に。
明らかに怪しい人物がいた。
マスク。
サングラス。
そして砂浜にしゃがみ込んで、何かを書いている。
「…………」
千咲は目を細める。
「ダイヤちゃん……?」
顔を隠しているつもりでも。
千咲には一瞬で分かった。
そして、砂浜に残された文字。
それは、3人の未来を変えることになる、ある名前だった。
次回、第8話「Aqours」
お楽しみに。