ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

前回は、千咲がOGLで新たな機体の開発に携わることになったお話でした。

小原千咲専用機となる「ヴァルキリーガンダム」。

そして、新堂陽哉の新たな愛機となる「デスティニーガンダムインフィニティ」。

2機の開発は、まだ始まったばかり。

一方、浦の星女学院では、千歌たちのスクールアイドル活動も少しずつ前へ進もうとしていました。

しかし、部活として正式に認めてもらうためには条件があります。

今回は、その条件が千歌たちに提示されるところからスタート。

そして、その条件を受けた千歌、曜、梨子が練習しているところへ、偶然千咲がやって来ます。

さらにそこには、なぜか陽哉の姿まで。

幼馴染という意外な関係が明らかになる一方、今回も千咲は本人の意思とは無関係にスクールアイドル活動へ巻き込まれていきます。

それでは、第7話「条件付きのファーストステップ」をどうぞ。



前回の-Sailing to the Sunshine!!-

千咲はOHARA GUNPLA DEVELOPMENTの開発施設、OHARA GUNPLA LABを訪れていた。

そこでは千咲専用機「ヴァルキリーガンダム」と、新加入したプロファイター新堂陽哉の「デスティニーガンダムインフィニティ」の開発が進められていた。

かつて全国大会で何度も戦った千咲と陽哉。

今度は同じチームの仲間として、それぞれの愛機を完成させるために力を合わせることになった。

一方、学校では千歌たちがスクールアイドル活動を始めるために動き出していた。

そして鞠莉は、千歌たちにある条件を突きつける。





第7話「条件付きのファーストステップ」

数日前。

 

OHARA GUNPLA LAB。

 

広い開発スペースの中で、複数のモニターが並んでいる。

 

そのうちのひとつには、新しく設計された機体の3Dモデルが表示されていた。

 

赤を基調とした機体。

 

そこへ青や白のパーツが配置され、腰部、脚部、背部には既存のデスティニーとは異なる装備が追加されている。

 

「ここ、もう少し細くできるかなぁ」

 

モニターを見ながら千咲が言う。

 

「肩部のフレームですか?」

 

OGLのスタッフが確認する。

 

「うん。武装を載せるなら、こっちの方が動かした時に邪魔にならないと思う」

 

「分かりました。再調整します」

 

「ありがとぉ」

 

千咲は椅子に深く座りながら、モニターを眺めていた。

 

そこに表示されているのは、現在開発中のヴァルキリーガンダム。

 

まだ設計途中ではある。

 

装甲の細かな形状も。

 

武装の配置も。

 

細部まで決まったわけではない。

 

それでも、千咲が頭の中に思い描いていた姿は、少しずつ現実の形になりつつあった。

 

そしてもうひとつ。

 

その隣の画面には、別の機体が表示されている。

 

「陽哉」

 

「ん?」

 

「このバックパック、これでいい?」

 

千咲が聞く。

 

陽哉が画面を見る。

 

「……いいんじゃないか?」

 

「ほんとぉ?」

 

「むしろ、お前がそこまで考えてたことに驚いてる」

 

「だって、ボクが考えたんだからねぇ」

 

「まあ、そうだけど」

 

そこに表示されているのは、デスティニーガンダムインフィニティ。

 

かつて陽哉が使用していたデスティニーガンダム・シグムンドをベースに、千咲が再設計した機体である。

 

新たな武装。

 

新たな防御機構。

 

そして、陽哉のアシムレイトを活かすための新システム。

 

まだ名称すら決まっていない機能もある。

 

それでも、こちらも確実に前へ進んでいた。

 

「……なんか、不思議だな」

 

陽哉が言う。

 

「何がぁ?」

 

「俺たち、昔は全国大会で敵だっただろ」

 

「そうだねぇ」

 

「それが今じゃ、一緒に機体作ってる」

 

千咲は少し考え。

 

「まあ、人生ってそんなもんじゃない?」

 

「お前、相変わらず適当だな」

 

「眠いしぃ」

 

「それは関係あるのか?」

 

千咲は答えなかった。

 

ただ、モニターに映る2機を見ていた。

 

ヴァルキリーガンダム。

 

デスティニーガンダムインフィニティ。

 

新しい戦いへ向けて、2機はまだ産声を上げたばかりだった。

 

◆

 

そして、同じ頃。

 

浦の星女学院。

 

理事長室の前。

 

高海千歌、渡辺曜、桜内梨子の3人は、扉の前で顔を見合わせていた。

 

「……緊張するね」

 

千歌が言う。

 

「うん」

 

曜も頷いた。

 

「でも、行かなきゃ始まらないよ」

 

梨子が答える。

 

3人は、一度深呼吸。

 

「よし!」

 

千歌がノックする。

 

「失礼します!」

 

中から明るい声が返ってきた。

 

「どうぞー♪」

 

千歌が扉を開ける。

 

「失礼しま……」

 

言葉が止まった。

 

理事長室。

 

その奥に立っていたのは。

 

金髪の少女だった。

 

明るい笑顔。

 

制服姿。

 

どう見ても、学生にしか見えない。

 

「…………」

 

千歌が固まる。

 

曜も固まる。

 

梨子も、目を瞬かせた。

 

3人の視線を受けながら、その少女は楽しそうに微笑む。

 

「どうしたの?」

 

「あの……」

 

千歌が恐る恐る聞く。

 

「理事長……ですよね?」

 

「Yes!」

 

少女は笑顔で答えた。

 

「小原鞠莉。今日からこの浦の星女学院の理事長を務めてまーす♪」

 

「…………」

 

千歌たちはもう一度、顔を見合わせた。

 

女子高校生。

 

理事長。

 

どう考えても頭の中ですぐには繋がらない。

 

「えっと……」

 

曜が小声で梨子へ聞く。

 

「高校生だよね?」

 

「……そう見える」

 

梨子も小声で答える。

 

鞠莉はそんな3人を見て、クスクスと笑っている。

 

「私が若すぎるって思ってるんでしょ?」

 

「い、いえ!」

 

千歌が慌てて否定する。

 

「そんなことは!」

 

「顔に出てるわよ♪」

 

「すみません!」

 

「別に気にしてないわ」

 

鞠莉は笑顔のままだ。

 

「それより、あなたたちがスクールアイドルを始めたいという3人ね?」

 

「はい!」

 

千歌が答えた。

 

「お願いします!」

 

曜と梨子も続く。

 

「私たち、スクールアイドル部を作りたいんです」

 

鞠莉は3人をじっと見た。

 

そして。

 

「そう……」

 

少しだけ表情を変えた。

 

「あなたたち、本気なのね」

 

「はい!」

 

千歌が即答する。

 

曜も。

 

「もちろん!」

 

梨子も頷く。

 

「私も」

 

鞠莉は満足そうに笑った。

 

「だったら」

 

椅子から立ち上がる。

 

「場所を変えましょうか♪」

 

「え?」

 

「ついてきて」

 

◆

 

鞠莉に連れられて、3人がやって来たのは体育館だった。

 

扉が開かれる。

 

「ここよ」

 

「体育館……」

 

千歌が中へ入っていく。

 

曜も、梨子も続く。

 

誰もいない。

 

広い空間。

 

バスケットゴール。

 

ステージ。

 

観客席。

 

鞠莉は中央付近まで歩くと、3人へ振り返った。

 

「ここを使っていいわ」

 

「本当ですか!?」

 

千歌の顔が明るくなる。

 

「ええ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし」

 

その一言で、千歌の足が止まった。

 

鞠莉が続ける。

 

「条件があります」

 

「条件?」

 

曜が聞く。

 

鞠莉は笑顔のまま。

 

しかし、少しだけ真剣な声で言った。

 

「この体育館を満員にして、ファーストライブを成功させること」

 

「…………」

 

3人が黙った。

 

「それができたら、スクールアイドル部として正式に承認します」

 

「…………」

 

千歌は体育館を見回した。

 

たしかに、この体育館を満員にできればスクールアイドル部が正式に認められる。

 

だが。

 

「満員……」

 

曜が呟いた。

 

「うん」

 

梨子も体育館を見回す。

 

「でも、私たちを見に来てもらうって……」

 

千歌は黙っていた。

 

簡単ではない。

 

それくらいは、なんとなく分かる。

 

けれど。

 

千歌は顔を上げた。

 

「分かりました」

 

「千歌ちゃん?」

 

「やります」

 

千歌は力強く言った。

 

「絶対に満員にします!」

 

曜が笑う。

 

「うん!」

 

梨子も続いた。

 

「私もやる」

 

鞠莉は嬉しそうに笑った。

 

「Good!」

 

「ありがとうございます!」

 

「じゃあ、頑張ってね♪」

 

3人は深く頭を下げた。

 

理事長室へ戻っていく鞠莉。

 

その背中を見送りながら、千歌は体育館をもう一度見た。

 

「……よし」

 

小さく拳を握る。

 

「やろう」

 

曜と梨子も頷いた。

 

こうして、3人にとって最初の課題が始まった。

 

◆

 

そして、放課後。

 

三津海水浴場。

 

「1、2、3、4!」

 

千歌の声が響く。

 

海辺で、3人が踊っている。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

昨日までとは少し違う。

 

明確な目標ができたからだ。

 

「もう1回!」

 

曜が声をかける。

 

「うん!」

 

千歌が答える。

 

「次はもっと揃えよう」

 

梨子も続く。

 

その少し離れた場所には、ひとりの男子が立っていた。

 

ストップウォッチを持っている。

 

「今の、前より0.8秒早い」

 

「本当?」

 

千歌が振り返る。

 

「うん」

 

「やった!」

 

「でも、最後のところがバラけてる」

 

「うっ……」

 

「もう一回やろう」

 

「分かった!」

 

その男子は、真面目な顔でストップウォッチを構え直した。

 

そして、ちょうどその時砂浜へ向かって歩いてくる、小さな人影があった。

 

「ふぁぁ……」

 

大きな欠伸。

 

小柄な体。

 

金髪にピンクのメッシュ。

 

浦女の制服。

 

「今日も疲れたぁ……」

 

小原千咲だった。

 

学校からの帰り道。

 

少し遠回りをして帰ろうとしていた千咲は、海の方から聞こえてくる声に気づいた。

 

「……あれ?」

 

足を止める。

 

「何してるんだろぉ」

 

海岸を見る。

 

見覚えのある3人。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

そして。

 

「…………あ」

 

「…………ん?」

 

ストップウォッチを持った男子も千咲に気づいた。

 

目が合う。

 

千咲は首を傾げた。

 

「陽哉さん?」

 

「千咲」

 

「何してるのぉ?」

 

「それはこっちの台詞だろ」

 

「ボクは帰ってる途中ぅ」

 

「そうじゃなくて。俺たちに何か用か?」

 

「いやぁ」

 

千咲は海岸を指差した。

 

「練習してるのかなぁって」

 

「そう」

 

陽哉はストップウォッチを見せる。

 

「時間測ってる」

 

「へぇ……」

 

千咲は3人を見る。

 

「スクールアイドルの練習?」

 

「そうだよ!」

 

千歌が答えた。

 

「ふーん」

 

千咲は少し離れたところから見ていた。

 

「……楽しそうだねぇ」

 

「楽しいよ!」

 

千歌が笑った。

 

「まあ、大変だけど!」

 

「なんかあったの?」

 

千咲が聞く。

 

すると、千歌は少しだけ真面目な顔になった。

 

「実はね」

 

そして。

 

昨日の出来事を話し始めた。

 

理事長室へ行ったこと。

 

新しく理事長になった鞠莉に会ったこと。

 

女子高校生が理事長だったこと。

 

そして、体育館を満員にしてファーストライブを成功させるという条件が出されたこと。

 

「なるほどぉ」

 

千咲は頷いた。

 

「それで、ここで練習してるんだねぇ」

 

「うん!」

 

「でも……」

 

千咲は少し考える。

 

「その条件、簡単そうに見えて結構難しいよぉ」

 

「やっぱり?」

 

曜が聞く。

 

「うん」

 

千咲は体育館を思い浮かべながら話す。

 

「だって、浦女の生徒全員が来ても、それだけで満員になるとは限らないから」

 

「……あ」

 

千歌の表情が止まる。

 

曜も気づく。

 

「そうか」

 

「つまり」

 

千咲が続ける。

 

「学校の外からも人を呼ばなきゃいけない」

 

梨子が黙る。

 

「でも私たち、まだ誰にも知られてないよね」

 

「そこなんだよぉ」

 

千咲が頷く。

 

「ファーストライブっていうことは、実績もない。名前もまだ知られてない。そんな3人をわざわざ見に来てもらわないといけない」

 

「…………」

 

「だから結構大変」

 

3人は顔を見合わせる。

 

「……確かに」

 

曜が呟いた。

 

千咲は海を眺める。

 

「でも、鞠莉ちゃんは無理難題を押し付けるタイプじゃないからねぇ」

 

「…………え?」

 

千歌が顔を上げた。

 

「今……何て?」

 

「鞠莉ちゃん」

 

千咲が普通に答える。

 

「理事長の鞠莉ちゃん」

 

「鞠莉ちゃん?」

 

曜も振り返る。

 

「なんで千咲君、理事長のことそんな呼び方するの?」

 

「なんでって……」

 

千咲は首を傾げる。

 

「鞠莉ちゃんだからぁ」

 

「いや、それは分かるんだけど!」

 

千歌が叫ぶ。

 

「なんでそんなに親しそうなの!?」

 

「親しいよぉ」

 

「どうして!?」

 

「え?」

 

千咲は少し考える。

 

「従姉だからぁ」

 

「…………」

 

沈黙。

 

「……いとこ?」

 

曜が確認する。

 

「うん」

 

「小原理事長と?」

 

「そうだよぉ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

千歌、曜、梨子、そして陽哉まで固まった。

 

陽哉が先に口を開く。

 

「お前……」

 

「なぁに?」

 

「小原家と親戚だったのかよ」

 

「うん、名字も一緒でしょ?」

 

「初耳なんだけど」

 

「言ってないもん」

 

「そういう問題か?」

 

千咲は気にしていない。

 

「まあ、従姉だよぉ」

 

千歌は千咲の髪を見る。

 

小原という名字。

 

金髪。

 

そして鞠莉も金髪。

 

「……だから金髪?」

 

「関係あるのかなぁ?」

 

「分かんないけど……」

 

曜が千咲を見る。

 

「じゃあ、もしかして小原理事長と同じ家に住んでる?」

 

「うん」

 

「…………え?」

 

「一緒に住んでるよぉ」

 

梨子が目を見開いた。

 

「同じ家に?」

 

「うん」

 

「……部屋は?」

 

千咲は何も考えずに答える。

 

「同じ部屋は別だけどぉ、寝る時は一緒だよぉ」

 

「…………」

 

4人が凍りついた。

 

波の音。

 

風の音。

 

遠くで聞こえる車の音。

 

それ以外、何も聞こえない。

 

千歌がゆっくり口を開く。

 

「……同じ部屋?」

 

「うん」

 

「理事長と?」

 

「そう」

 

「毎日?」

 

「毎日」

 

「…………」

 

千歌は隣を見る。

 

曜も固まっている。

 

梨子は完全に困惑している。

 

陽哉は頭を抱えた。

 

「お前……」

 

「なぁに?」

 

「そこまで一緒に住んでんのかよ」

 

「そうだよぉ」

 

「……マジか」

 

千咲は続けた。

 

「あ、そうそう」

 

「まだあるの!?」

 

千歌が叫ぶ。

 

「あるけどぉ」

 

「あるんだ……」

 

「夜はよく鞠莉ちゃんに甘えてるのぉ」

 

「…………」

 

再び沈黙。

 

「…………どういう意味?」

 

曜が恐る恐る聞く。

 

「そのままだよぉ」

 

千咲は眠そうに答えた。

 

「疲れたから撫でてぇ、とか」

 

「…………」

 

「眠いから抱きついててぇ、とか」

 

「…………」

 

「今日こんなことあったよぉ、とか話したりぃ」

 

「…………」

 

「まあ、そんな感じぃ」

 

千歌は完全に停止していた。

 

梨子も言葉を失っている。

 

曜は視線を海へ逃がした。

 

陽哉は。

 

「……俺、聞かなかったことにするわ」

 

「なんでぇ?」

 

「これ以上聞くと、なんか負けた気がする」

 

「意味分かんないよぉ」

 

「こっちも意味分かんない」

 

千咲は首を傾げた。

 

「変なのぉ」

 

千歌がようやく復帰する。

 

「千咲くん……」

 

「なぁに?」

 

「鞠莉ちゃんって、千咲くんに甘いの?」

 

「うん」

 

即答だった。

 

「すごく」

 

「…………」

 

「昔からずっと」

 

「…………」

 

「ボクのこと可愛いって言ってくれるしぃ」

 

「…………」

 

「学校のことも色々心配してくれるしぃ」

 

「…………」

 

「眠そうにしてるとすぐ休ませてくれるしぃ」

 

「…………」

 

「この前なんて――」

 

「もういい!」

 

千歌が叫んだ。

 

「そこまででいい!」

 

「そう?」

 

「そう!」

 

千咲は素直に黙った。

 

曜も頷く。

 

「うん……なんとなく分かった」

 

梨子も苦笑する。

 

「千咲くんと理事長がすごく仲がいいのは伝わった」

 

陽哉も。

 

「これ以上はもういいわ」

 

「みんな冷たいなぁ」

 

「冷たくない!」

 

千歌が突っ込む。

 

◆

 

しばらくして、3人は再び練習を始めることになった。

 

千咲は少し離れた場所に座り、海を眺めながら3人の練習を見ている。

 

陽哉は相変わらずストップウォッチを持っている。

 

「じゃあ、もう1回!」

 

「はい!」

 

3人が並ぶ。

 

音楽が流れる。

 

千咲はそれを黙って眺める。

 

千歌は全力。

 

曜は動きが軽い。

 

梨子は細かなところまで確認しながら動いている。

 

「……頑張ってるねぇ」

 

千咲が小さく呟いた。

 

「何だかんだで本気なんだな」

 

隣にいた陽哉が言う。

 

「うん」

 

「だから手伝ってる」

 

「幼馴染だからぁ?」

 

「それもある」

 

陽哉は海を見る。

 

「昔からずっと一緒だったからな」

 

千咲は陽哉を見る。

 

「へぇ」

 

「千歌は昔からああいう感じだった」

 

「曜も?」

 

「そう」

 

「なるほどぉ」

 

「お前もさ」

 

「ん?」

 

「なんか手伝ってやれば?」

 

「ボク?」

 

「お前」

 

「いやぁ」

 

千咲は首を振る。

 

「ボク、スクールアイドル詳しくないし」

 

「でも、見るのは楽しそうだろ」

 

「まあ」

 

「じゃあいいじゃん」

 

「何がぁ?」

 

陽哉は笑った。

 

「そのうち巻き込まれるって」

 

「嫌な予言だねぇ」

 

しかし。

 

その数分後。

 

それは現実になった。

 

◆

 

「千咲くん!」

 

「んー?」

 

千歌が手を振っている。

 

「ちょっと来て!」

 

「なんでぇ?」

 

「いいから!」

 

千咲は嫌な予感がしながら立ち上がった。

 

「なぁに?」

 

「ここ!」

 

千歌が3人の間を指差す。

 

「一緒にやってみて!」

 

「…………」

 

千咲が固まる。

 

「なんでぇ?」

 

「だって、人数が多い方が練習になるし!」

 

「3人でいいんじゃないのぉ?」

 

「千咲くんも一緒にやれば、動きの確認ができるじゃん」

 

曜も乗ってくる。

 

「確かに」

 

梨子も頷く。

 

「立ち位置の確認にもなるし」

 

「えぇ……」

 

千咲は渋る。

 

「ボク、男の子だよぉ」

 

「知ってる!」

 

千歌が即答する。

 

「でも今は関係ない!」

 

「そうかなぁ」

 

「そう!」

 

千咲は逃げようとする。

 

しかし、曜が腕を掴んだ。

 

「逃げない」

 

「うわぁ」

 

反対側から千歌。

 

「こっち!」

 

「ちょっとぉ」

 

「はい、真ん中!」

 

「なんでボクが真ん中なのぉ」

 

梨子が位置を調整する。

 

「ここが一番やりやすいから」

 

「絶対違うと思うけどぉ」

 

「じゃあスタート!」

 

陽哉がストップウォッチを構える。

 

「待ってぇ!」

 

音楽。

 

「1、2、3、4!」

 

千咲が動く。

 

「右!」

 

「右ってどっちぃ?」

 

「そっち!」

 

「えぇ……」

 

「遅い!」

 

「難しいよぉ!」

 

千歌が笑う。

 

曜も笑う。

 

梨子も笑う。

 

陽哉まで笑っている。

 

「陽哉!」

 

「何だ?」

 

「笑ってないで教えてよぉ!」

 

「自分で覚えろ」

 

「ひどいよぉ」

 

それでも。

 

もう一度。

 

「もう1回!」

 

「はいはい」

 

「最初から!」

 

「はいはい」

 

「今度はもっと早く!」

 

「分かったよぉ」

 

少しずつ。

 

千咲も動きを覚えていく。

 

最初はぎこちなかった。

 

右と左を間違える。

 

ターンで少し遅れる。

 

腕の高さも合わない。

 

それでも。

 

何度か繰り返していると。

 

「……あ」

 

千咲が気づく。

 

「今、揃った?」

 

曜が笑った。

 

「うん!」

 

千歌も。

 

「揃った!」

 

梨子も。

 

「今の良かった!」

 

千咲は少し驚いた。

 

「……本当?」

 

「本当!」

 

千歌が嬉しそうに笑う。

 

「やればできるじゃん!」

 

「まあ……」

 

千咲は照れたように視線を逸らす。

 

「ボク、こういうの初めてだからぁ」

 

「でも覚えるの早いよ」

 

曜が言う。

 

「ガンプラと同じなんじゃない?」

 

「全然違うよぉ」

 

「でも、好きなこと覚えるの早いじゃん」

 

「それはそうだけどぉ」

 

千咲は考える。

 

そう言われると、確かに少し楽しい。

 

音楽に合わせて動く。

 

3人の動きを見ながら自分も合わせる。

 

少しずつ揃っていく。

 

ガンプラバトルとは全然違う。

 

でも、どこか似ている部分もある。

 

3人が同じ方向を向いて、同じ動きをしてひとつのものを作る。

 

「……なるほどねぇ」

 

千咲は小さく笑った。

 

「こういうのも、悪くないかも」

 

「でしょ?」

 

千歌が笑う。

 

「じゃあ、次も!」

 

「まだやるのぉ?」

 

「もちろん!」

 

「疲れたぁ」

 

「まだ始まったばっかり!」

 

「えぇ……」

 

「千咲!」

 

陽哉が呼ぶ。

 

「位置につけ」

 

「陽哉まで……」

 

「ほら」

 

「……はい」

 

本来ならただ見学するだけのはずだった千咲。

 

いつの間にか、千歌、曜、梨子と一緒に踊っていた。

 

◆

 

しばらくして、練習が終わった。

 

「疲れたぁ……」

 

千咲は砂浜に座り込む。

 

千歌も座る。

 

曜も。

 

梨子も。

 

陽哉は少し離れたところでストップウォッチを整理していた。

 

「今日は結構できたんじゃない?」

 

千歌が言う。

 

「うん」

 

梨子も頷く。

 

「少しずつ形になってきた」

 

曜は海を見る。

 

「でも、お客さんを呼ぶ方法も考えないと」

 

「そうだね」

 

千歌の表情が少しだけ真剣になる。

 

「体育館を満員にしなきゃいけないから」

 

千咲もその言葉を聞いていた。

 

そして。

 

「宣伝とか、必要になるねぇ」

 

「やっぱり?」

 

曜が聞く。

 

「うん」

 

「どうしたらいいかな?」

 

千咲は少し考える。

 

「……学校の人だけじゃ足りないなら、外の人に知ってもらわないと」

 

「つまり宣伝!」

 

千歌が目を輝かせる。

 

「そう」

 

「チラシとか?」

 

「うん」

 

「駅前とか?」

 

「そういうところじゃない?」

 

曜も身を乗り出す。

 

「明日からやってみようか!」

 

「やろう!」

 

3人の目が輝き始めた。

 

千咲はその様子を見ていた。

 

やっぱり、この3人は前へ進むのが早い。

 

考え込むより先に動く。

 

「じゃあ」

 

千咲は立ち上がる。

 

「ボクは帰るねぇ」

 

「え?」

 

千歌が振り返る。

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「うん」

 

「また来てよ!」

 

「暇だったらねぇ」

 

「絶対だよ!」

 

「はいはい」

 

千咲は手を振った。

 

「じゃあねぇ」

 

「また明日!」

 

千歌たちも手を振る。

 

陽哉も。

 

「じゃあな」

 

「うん」

 

千咲は海岸を歩き出した。

 

しばらく進んだところで。

 

ふと振り返る。

 

夕暮れの海。

 

3人はまだ話をしている。

 

明日のこと。

 

ライブのこと。

 

これからのこと。

 

「……頑張ってるなぁ」

 

千咲は呟いた。

 

そして。

 

「ボクも、ヴァルキリー頑張らないとなぁ」

 

そう言って、また歩き始める。

 

◆

 

夜。

 

小原邸。

 

部屋の中。

 

千咲はベッドに横になっていた。

 

枕元にはスマートフォン。

 

しかし。

 

今日はそれほど触らず。

 

ただ天井を眺めている。

 

「……体育館を満員かぁ」

 

昼間のことを思い出す。

 

スクールアイドル。

 

ファーストライブ。

 

そして。

 

鞠莉。

 

「鞠莉ちゃん、ちゃんと考えてるんだなぁ」

 

千咲は小さく笑った。

 

あの人は適当に見えて。

 

実はかなり人を見ている。

 

千歌たちにあの条件を出したのも。

 

ただ意地悪をしているわけではない。

 

きっと。

 

「やれると思ってるんだろうねぇ」

 

千咲は布団をかぶる。

 

「……まあ」

 

目を閉じる。

 

「ボクも、ちょっとくらい応援してあげようかなぁ」

 

そう呟いて。

 

欠伸。

 

「……眠い」

 

数分後。

 

千咲は眠りについた。

 

◆

 

同じ頃。

 

OGL。

 

ヴァルキリーガンダムの試作パーツが、ひとつずつ組み上げられていた。

 

頭部。

 

胸部。

 

肩部。

 

脚部。

 

まだフレームだけの部分も多い。

 

しかし、ただの設計図だったものが少しずつ実物になろうとしている。

 

別室では、デスティニーガンダムインフィニティの設計データも更新されていた。

 

陽哉が求めるもの。

 

千咲が考えたもの。

 

OGLが形にするもの。

 

それぞれがひとつになっていく。

 

まだ戦いには出られない。

 

まだ完成していない。

 

それでも。

 

これもまた。

 

最初の一歩だった。

 

スクールアイドルも。

 

ガンプラバトルも。

 

まだ始まったばかり。

 

だからこそ、これから先どんな姿になるのかは、まだ誰にも分からない。

 

ただひとつ分かっているのは、小さな一歩でも踏み出さなければ、何も始まらないということだった。

 

そして翌日。

 

千歌たちは、そのための新しい一歩を踏み出すことになる。

 

千咲もまた。

 

望んだわけではないのに。

 

その一歩に付き合うことになるのだった。

 

 

 

 




次回予告


スクールアイドル部の承認条件。

それは、体育館を満員にしてファーストライブを成功させること。

その条件をクリアするため、翌日から千歌、曜、梨子の3人は練習だけではなく、宣伝活動にも力を入れ始める。

向かった先は、沼津駅。

3人でビラを配りながら、少しでも多くの人に自分たちの存在を知ってもらおうと奮闘する。

そんな3人の姿を、偶然見つける千咲。

そして、一緒にいたのは黒澤ルビィと国木田花丸。

3人が頑張って宣伝している姿を見ていた千咲だったが。

ふと、とても重要なことに気づいてしまう。

「千歌先輩」

「ん?」

「アイドル名はぁ?」

「…………」

「あ……」

「決めてなかった」

肝心のスクールアイドルグループ名が、まだ決まっていなかった。

当然ながら、そこから放課後の練習は、急遽「グループ名を決める会」へと変わっていく。

しかし、候補は出ても決まらない。

何か違う。

これも違う。

もっといい名前はないか。

そんな中。

千咲が何気なく視線を向けた、その先に。

明らかに怪しい人物がいた。

マスク。

サングラス。

そして砂浜にしゃがみ込んで、何かを書いている。

「…………」

千咲は目を細める。

「ダイヤちゃん……?」

顔を隠しているつもりでも。

千咲には一瞬で分かった。

そして、砂浜に残された文字。

それは、3人の未来を変えることになる、ある名前だった。

次回、第8話「Aqours」

お楽しみに。




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