ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

前回は、千歌、曜、梨子の3人が小原鞠莉から「体育館を満員にしてファーストライブを成功させる」という条件を提示され、スクールアイドル部の承認を目指して動き始めました。

そして放課後。

練習していた3人のもとへ、偶然千咲がやって来ることに。

幼馴染である陽哉が練習を手伝っていることが分かったり、千咲と鞠莉の関係が千歌たちに知られたりと、色々な意味で大変なことになりました。

今回は、その翌日からのお話です。

ライブを成功させるため、千歌たちは練習だけではなく宣伝活動にも力を入れ始めます。

一方、千咲はルビィちゃん、マルちゃんと一緒に沼津へ。

不登校が続いている善子のもとへノートを届けに行くことになりますが、結局本人には会えず、そのまま本屋へ寄ることに。

そして沼津駅で千歌たちと遭遇した千咲は、ある重大なことに気づきます。

そう、3人には、まだ名前がなかったのです。

放課後、千歌に連行される形で名前決めに参加する千咲。

しかし、なかなか決まらない。

そんな中、千咲だけが砂浜にいる「ある人物」に気づきます。

顔を隠しているつもりでも、千咲には誰なのかすぐに分かってしまうその人物。

そして、砂浜に残されていた文字とは――。

今回、いよいよ3人の名前が決まります。

それでは、第8話「Aqours」をどうぞ。



前回の-Sailing to the Sunshine!!-

千歌、曜、梨子の3人は、ついにスクールアイドル部を始めることになった。

しかし、理事長である鞠莉が出した条件は簡単なものではなかった。

それは、体育館を満員にしてファーストライブを成功させること。

千歌たちは練習を始めるものの、観客を集める方法はなかなか見つからない。

そんな中、千咲は三津海水浴場で練習する3人と出会い、少しずつ彼女たちの活動に関わっていくことになる。

そして千歌たちは、自分たちのスクールアイドルグループに名前を付けることになるのだった。





第8話「Aqours」

翌朝。

 

浦の星女学院。

 

「ファーストライブまで、あと少し!」

 

千歌の声が教室に響いていた。

 

「だから、今日からもっと練習しよう!」

 

「うん!」

 

曜が頷く。

 

梨子も。

 

「そうね。昨日までより、もっと合わせないと」

 

前日、小原鞠莉から提示された条件。

 

それは、体育館を満員にして、ファーストライブを成功させること。

 

スクールアイドル部を正式に認めてもらうために必要な条件だった。

 

そして、それを達成するためには、練習だけでは足りない。

 

「人に来てもらわないといけない」

 

梨子が言う。

 

「だから、今日はビラを作ろうと思う」

 

「ビラ!」

 

千歌が頷く。

 

「駅で配るんだ!」

 

「いいね!」

 

曜も笑った。

 

「少しでも多くの人に知ってもらおう」

 

3人は、それぞれ準備を始める。

 

歌の練習。

 

振り付け。

 

ビラ作り。

 

やることは多い。

 

けれど、千歌の顔には、不思議と疲れよりも楽しさが出ていた。

 

何も決まっていなかった数日前とは違う。

 

今は目標がある。

 

「絶対、満員にしようね!」

 

「うん!」

 

「もちろん!」

 

3人は拳を合わせた。

 

◆

 

一方その頃。

 

千咲は教室で、ルビィと花丸と一緒にノートをまとめていた。

 

「これ、善子ちゃんの分だよね?」

 

ルビィが確認する。

 

「そうずら」

 

花丸が頷く。

 

「最近、ずっと学校に来てないから、先生が届けてほしいって言ってたずら」

 

「なるほどぉ」

 

千咲はノートの表紙を見る。

 

「じゃあ、今日持っていこうかぁ」

 

「うん!」

 

ルビィが頷く。

 

「善子ちゃん、元気かな……」

 

「たぶん元気ずら」

 

花丸が言った。

 

「善子ちゃん、ああいう子だから」

 

「どういう子なのぉ?」

 

千咲が聞く。

 

「家にいても、何かの世界と戦ってると思うずら」

 

「なるほどぉ」

 

千咲は少し考える。

 

「じゃあ、元気だねぇ」

 

「たぶんね」

 

こうして放課後、3人は善子の家へ向かうことになった。

 

◆

 

沼津。

 

善子の家。

 

「ここだよね?」

 

ルビィが確認する。

 

「うん」

 

花丸が頷く。

 

千咲は家を見上げた。

 

「じゃあ、呼んでみようかぁ」

 

ルビィがインターホンを押す。

 

ピンポーン。

 

「……」

 

返事はない。

 

もう一度。

 

ピンポーン。

 

「善子ちゃん?」

 

ルビィが呼ぶ。

 

「学校からノート持ってきたよー!」

 

「…………」

 

静かだ。

 

「善子ちゃーん?」

 

花丸も声をかける。

 

「いるなら出てきてほしいずらー」

 

「…………」

 

やっぱり返事はない。

 

千咲は耳を澄ませる。

 

家の中から音が聞こえるわけでもない。

 

「留守かなぁ?」

 

「でも、いるような気もする」

 

ルビィが言う。

 

「善子ちゃんなら、カーテンの裏に隠れてるかもしれないずら」

 

「なんでぇ?」

 

「恥ずかしいとか」

 

「なるほどぉ」

 

千咲は頷く。

 

結局、何度呼んでも善子は出てこなかった。

 

「仕方ないねぇ」

 

千咲が言う。

 

「また今度、持ってくればいいよぉ」

 

「そうだね」

 

ルビィがノートを見る。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

3人は家を後にした。

 

善子には会えなかった。

 

◆

 

「ねえねえ」

 

ルビィが歩きながら言う。

 

「せっかく沼津まで来たんだし、本屋さん寄っていかない?」

 

「いいよぉ」

 

千咲は即答した。

 

「オラも行きたいずら」

 

花丸も嬉しそうだ。

 

こうして3人は本屋へ向かった。

 

店内。

 

たくさんの本が並んでいる。

 

「わぁ……」

 

ルビィが目を輝かせる。

 

「スクールアイドルの本、あるかな?」

 

「ルビィちゃん好きだねぇ」

 

「うん!」

 

ルビィは嬉しそうに本棚へ向かっていった。

 

千咲は反対側を見る。

 

「……釣り」

 

釣りの入門書。

 

海釣りの本。

 

堤防釣りの仕掛けの本。

 

魚の図鑑。

 

そして、沼津周辺の釣り場を紹介する本。

 

「……これいいなぁ」

 

千咲は一冊手に取った。

 

表紙を見る。

 

ページをめくる。

 

「へぇ……」

 

しばらく立ち読み。

 

そして。

 

「こっちも……」

 

別の本を手に取る。

 

その頃。

 

「見つけた!」

 

ルビィの声がした。

 

「μ'sの本!」

 

「μ's?」

 

千咲が振り返る。

 

「うん!」

 

ルビィは嬉しそうに一冊の本を抱えている。

 

「スクールアイドルのこと、もっと知りたいから」

 

「なるほどぉ」

 

千咲も少し覗いてみる。

 

写真。

 

ライブ。

 

衣装。

 

そしてμ'sについての記事。

 

千咲は、以前ダイヤから延々と聞かされた話を思い出した。

 

「……これ、ダイヤちゃん好きそうだねぇ」

 

「そうだね……」

 

ルビィも苦笑する。

 

その時。

 

「千咲君ー!」

 

花丸の声が聞こえた。

 

「こっちずら!」

 

「ん?」

 

千咲とルビィが声の方向へ向かう。

 

そして。

 

「…………」

 

千咲は無言になった。

 

「…………」

 

ルビィも。

 

花丸の前には。

 

大量の本。

 

小説。

 

文学作品。

 

歴史書。

 

図鑑。

 

漫画。

 

雑誌。

 

とにかく大量。

 

さらに。

 

その本は一冊の台車に積まれている。

 

「……マルちゃん」

 

「何ずら?」

 

「これ全部買うの?」

 

「もちろんずら!」

 

花丸は笑顔だった。

 

千咲は本の山を見る。

 

「……持てなかったら手伝うよぉ」

 

「ありがとうずら!」

 

「いやぁ……」

 

千咲は台車を見る。

 

「これ、持てないっていうより、そもそも台車が必要な量だと思うけどぉ」

 

「台車があれば問題ないずら!」

 

「まあ……そうだねぇ」

 

ルビィが笑う。

 

「花丸ちゃん、本当に本が好きなんだね」

 

「本はいいずら」

 

花丸は幸せそうに本を見る。

 

「新しい世界を知ることができるから」

 

「なるほどぉ」

 

千咲も納得する。

 

「じゃあ、ボクも新しい釣り場を知れる本買おうかなぁ」

 

「結局そこなんだね」

 

ルビィが笑った。

 

「うん」

 

千咲は即答した。

 

◆

 

本屋を出る。

 

花丸は台車を押し。

 

ルビィは買った本を大事そうに抱えている。

 

千咲は釣りの本を一冊。

 

「じゃあ、沼津駅からバスに乗って帰ろうか」

 

ルビィが言う。

 

「うん」

 

駅へ向かう3人。

 

やがて、駅前が見えてくる。

 

すると。

 

「お願いします!」

 

「ぜひ来てください!」

 

「スクールアイドルのファーストライブです!」

 

元気な声が聞こえてきた。

 

「……あれ?」

 

ルビィが顔を上げる。

 

「この声……」

 

千咲も。

 

「千歌先輩たちだねぇ」

 

駅前。

 

そこには、千歌、曜、梨子がいた。

 

大量のビラを手に。

 

通行人へ声をかけている。

 

「お願いします!」

 

「よかったら見に来てください!」

 

「初めてのライブなんです!」

 

千歌は一生懸命だ。

 

曜も。

 

梨子も。

 

「頑張ってるね」

 

ルビィが言う。

 

「うん」

 

花丸も。

 

「ビラ配りずら」

 

3人が近づいていく。

 

「千歌さん!」

 

ルビィが声をかける。

 

「あっ!」

 

千歌が振り返った。

 

「ルビィちゃん!」

 

「こんにちは」

 

曜も笑う。

 

「千咲くんたちも来てたんだ」

 

「本屋に行ってたのぉ」

 

千咲が答える。

 

「善子ちゃんにノート届けに行った帰り」

 

「そうなんだ!」

 

千歌は笑う。

 

「今、宣伝してるところ!」

 

「ライブの?」

 

ルビィが聞く。

 

「そう!」

 

千歌はビラを渡した。

 

「私たちのファーストライブ!」

 

ルビィは嬉しそうに見る。

 

「スクールアイドルのライブ……」

 

「うん!」

 

「見に行きたい……」

 

ルビィの顔が明るくなる。

 

花丸もビラを見る。

 

「体育館でやるずら?」

 

「そう!」

 

千歌が頷く。

 

「絶対成功させるの!」

 

千咲もビラを見る。

 

日時。

 

場所。

 

ライブの内容。

 

そして。

 

「…………」

 

千咲は首を傾げる。

 

「千歌先輩」

 

「ん?」

 

「グループ名はぁ?」

 

「…………」

 

千歌が止まった。

 

曜も。

 

「あ」

 

梨子も。

 

「……そういえば」

 

千咲はビラを指差した。

 

「ここ、何も書いてないよぉ」

 

「…………」

 

千歌が固まる。

 

数秒。

 

「……あ」

 

千歌が呟く。

 

「決めてなかった」

 

「え?」

 

ルビィが目を丸くする。

 

「決めてないの?」

 

「うん……」

 

曜が頭を抱える。

 

「完全に忘れてた」

 

梨子も苦笑した。

 

「ライブのことばっかり考えてて……」

 

花丸がビラを見る。

 

「確かに、名前がないずら」

 

千咲が頷く。

 

「じゃあ、決めないとねぇ」

 

千歌の顔が急に明るくなった。

 

「じゃあ、今日決めよう!」

 

「え?」

 

千咲が嫌な予感を覚える。

 

「放課後、一緒に練習するよね?」

 

「うん」

 

千歌が笑顔になる。

 

「その時、千咲くんにも考えてもらおう!」

 

「……ボクもぉ?」

 

「もちろん!」

 

「なんでぇ……」

 

「いいじゃん!」

 

曜も笑う。

 

梨子も。

 

「千咲くんの意見、聞いてみたいし」

 

「ボク、名前考えるの苦手だよぉ」

 

「それでもいい!」

 

千歌が笑う。

 

「とにかく、今日決めよう!」

 

千咲はため息。

 

「……分かったよぉ」

 

また巻き込まれることになった。

 

◆

 

放課後。

 

三津海水浴場。

 

「それじゃあ!」

 

千歌が砂浜に座る。

 

曜と梨子も隣に座る。

 

そして。

 

「……なんでボクもいるのぉ」

 

千咲。

 

昨日に続いて、また海岸へ連れてこられていた。

 

「名前決めるから!」

 

「はいはい」

 

千咲は砂浜へ座る。

 

「じゃあ、まず私!」

 

曜が手を挙げる。

 

「制服少女隊!」

 

「…………」

 

千歌が考える。

 

「どう?」

 

「……ちょっと硬くない?」

 

梨子も。

 

「なんだか軍隊みたい……」

 

「えー!」

 

曜が落ち込む。

 

千咲がぼそっと。

 

「制服ってところは分かりやすいけどねぇ」

 

「そこじゃないよぉ!」

 

「ごめんねぇ」

 

次。

 

千歌が手を上げる。

 

「じゃあ、私!」

 

「どうぞ」

 

「浦の星スクールガール!」

 

「…………」

 

曜が考える。

 

「そのまますぎない?」

 

梨子も。

 

「ちょっと長いかな」

 

「そんなぁ!」

 

千歌が砂浜に倒れ込む。

 

「じゃあ、梨子ちゃん!」

 

梨子が少し悩む。

 

「……スリーマーメイド」

 

「おお!」

 

千歌が顔を上げる。

 

「海!」

 

曜も。

 

「内浦っぽい!」

 

梨子が少し嬉しそうにする。

 

しかし。

 

「でも……」

 

千咲が言った。

 

「なんか観光地のショーみたい」

 

「千咲くん!」

 

梨子が反応する。

 

「ごめんねぇ」

 

「もう!」

 

「いや、でもマーメイドはいいと思うよぉ」

 

「じゃあ採用?」

 

「うーん」

 

千咲は首を傾げる。

 

「何か足りないかなぁ」

 

「むー……」

 

また考え直す。

 

その後も。

 

「沼津ガールズ」

 

「内浦スターズ」

 

「マリンガールズ」

 

「駿河乙女」

 

「浦女生」

 

色々な案が出た。

 

しかし。

 

どれも決まらない。

 

「うーん……」

 

千歌が頭を抱える。

 

「全然決まらない!」

 

曜も。

 

「難しいね」

 

梨子も。

 

「名前って、こんなに難しいんだ……」

 

千咲は横で砂をいじっている。

 

「そりゃ、ずっと使う名前だしねぇ」

 

「じゃあ!」

 

千歌が突然千咲を見る。

 

「千咲くん!」

 

「ん?」

 

「何か考えて!」

 

「ボクぅ?」

 

「そう!」

 

「なんでぇ?」

 

「4人目の意見!」

 

「ボク、メンバーじゃないよぉ」

 

「今はいいから!」

 

千咲は困った。

 

「えー……」

 

「お願い!」

 

「うーん……」

 

しばらく考える。

 

そして。

 

「じゃあ……」

 

千咲が何かを口にする。

 

「○○○○」

 

その瞬間。

 

画面ならピー音が入るような名前だった。

 

「…………」

 

千歌。

 

「…………」

 

曜。

 

「…………」

 

梨子。

 

千歌が叫ぶ。

 

「いや、それ絶対訴えられるやつだよね!!」

 

「やっぱりダメかぁ」

 

千咲は平然。

 

曜は笑いをこらえられない。

 

「千咲君、それはダメだよ!」

 

「冗談だよぉ」

 

「冗談でも危ない!」

 

梨子も笑っている。

 

「それが候補になったら、本当に大変なことになるから!」

 

「じゃあ却下だねぇ」

 

千咲はあっさり。

 

「決定」

 

「決めるの早い!」

 

千歌が突っ込む。

 

◆

 

結局名前は決まらない。

 

「……どうしよう」

 

千歌が砂浜に寝転ぶ。

 

曜も考え込む。

 

梨子は候補を書いた紙を見る。

 

千咲は海を見る。

 

夕暮れの海。

 

穏やかな波。

 

風。

 

そして。

 

ふと。

 

「…………」

 

千咲の目が。

 

遠くへ向いた。

 

そこに誰かがいる。

 

海岸の少し離れた場所。

 

マスク。

 

サングラス。

 

帽子。

 

顔を完全に隠している。

 

その人物はしゃがみ込んで。

 

砂浜に何かを書いていた。

 

「…………」

 

千咲は目を細めた。

 

「……あれ?」

 

誰だろう。

 

普通なら。

 

ただの不審者にしか見えない。

 

けれど千咲には分かった。

 

あの立ち方。

 

あの雰囲気。

 

あの髪。

 

マスク越しでも分かる。

 

「…………」

 

千咲は小さく呟く。

 

「ダイヤちゃん……」

 

千歌たちは、まだ気づいていない。

 

千咲だけが気づいていた。

 

そしてその人物も千咲の視線に気づいた。

 

「…………!」

 

肩が動く。

 

顔が千咲の方へ向く。

 

千咲は軽く手を振った。

 

「ダイヤちゃん」

 

次の瞬間、その人物は立ち上がった。

 

そして逃げた。

 

「…………」

 

千咲は目を瞬かせる。

 

「逃げたぁ」

 

「え?」

 

千歌が顔を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「今、あそこに誰かいたんだけどぉ」

 

千咲は砂浜を指差す。

 

千歌たちも、初めてそちらを見る。

 

しかし、もう誰もいない。

 

「誰?」

 

曜が聞く。

 

「さあ」

 

千咲は答える。

 

「分かんない」

 

千咲は走っていった方向を見る。

 

「でも……」

 

「何?」

 

梨子が聞く。

 

「なんか、砂に書いてたみたい」

 

「砂に?」

 

千歌が立ち上がる。

 

「見に行ってみよう!」

 

「え?」

 

千咲が振り返る。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

3人ともついてくる。

 

「何を書いたんだろう?」

 

「分からないけど」

 

千咲が歩く。

 

「確認してみよぉ」

 

◆

 

砂浜。

 

さっきまで、あの人物がいた場所。

 

千咲が足を止める。

 

「……ここ」

 

千歌たちも近づく。

 

「何も……」

 

曜が言いかけて。

 

止まった。

 

「……あれ?」

 

砂に文字がある。

 

大きく、はっきりとアルファベットで。

 

「Aqours」

 

「…………」

 

4人が黙った。

 

千歌がしゃがみ込む。

 

「えー……」

 

文字を見つめる。

 

「きゅー……」

 

「……あうあーず?」

 

曜も読む。

 

「Aqours……」

 

千咲は文字を見ている。

 

「……あくあって読むんじゃない?」

 

梨子も考える。

 

「Aqua……水?」

 

曜が言った。

 

「水ってこと?」

 

千咲が頷く。

 

「たぶん。Aquaをもとにした感じかなぁ」

 

千歌はその文字から目を離さなかった。

 

「Aqours……」

 

もう一度。

 

「Aqours……」

 

そして。

 

「これいい!!」

 

曜が振り返る。

 

「え?」

 

千歌は立ち上がった。

 

「いいよ! これ!」

 

「でも……」

 

梨子が砂浜を見る。

 

「誰が書いたのか分からないのに」

 

「だからいいの!!」

 

千歌は笑った。

 

「誰が書いたか分からない!」

 

「うん」

 

「でも、ここにある!」

 

千歌は砂浜の文字を指す。

 

「私たちが名前を決めようとしてたところに、こんな名前が現れたんだよ!」

 

曜が笑う。

 

「確かに」

 

「だから!」

 

千歌が胸を張った。

 

「運命だよ!!」

 

梨子は少し考えて。

 

ふっと笑った。

 

「……そうかも」

 

曜も。

 

「うん」

 

千咲は砂浜の文字を見ていた。

 

「Aqours……」

 

その響きを口の中で確かめる。

 

水。

 

海。

 

内浦。

 

そして。

 

3人の始まり。

 

「……いい名前だねぇ」

 

千咲が言う。

 

千歌が嬉しそうに振り返る。

 

「でしょ?」

 

「うん」

 

「じゃあ!」

 

千歌が手を上げた。

 

「私たちは今日から!」

 

曜が続く。

 

「Aqours!」

 

梨子も。

 

「Aqours」

 

3人の声が重なった。

 

千咲は少し離れて、その光景を見ていた。

 

まだ、何も成し遂げていない。

 

まだ、誰にも知られていない。

 

まだ、たった3人。

 

だけど、名前が決まった。

 

それだけで、何かが始まったようなそんな感じがした。

 

「……ファーストライブ」

 

千咲が呟く。

 

「これなら、少し楽しみかもねぇ」

 

「本当!?」

 

千歌が笑う。

 

「うん」

 

千咲も笑った。

 

「ボクも見てみたいよぉ」

 

「絶対来て!」

 

「うん」

 

「約束だからね!」

 

「はいはい」

 

千咲は頷く。

 

夕暮れの海に。

 

「Aqours」の文字。

 

そして3人の笑い声。

 

その光景はこれから始まる長い物語の最初の一ページだった。

 

◆

 

帰り道。

 

千咲は1人で歩いていた。

 

海岸からの風が髪を揺らす。

 

「Aqours……」

 

その名前をもう一度口にする。

 

すると、ふと思い出した。

 

あの人物。

 

砂浜に文字を書いていた誰か。

 

「……ダイヤちゃん」

 

千咲だけは知っている。

 

あれは間違いなくダイヤだった。

 

なぜ顔を隠していたのか。

 

なぜ砂浜にあの名前を書いたのか。

 

どうして逃げたのか。

 

分からない。

 

けれど、千咲はあえて追いかけなかった。

 

きっと、本人には本人なりの理由がある。

 

「まあ……」

 

千咲は小さく笑う。

 

「ダイヤちゃんだしねぇ」

 

その一言で、何となく納得してしまう。

 

そして。

 

「ボクも明日はOGLかぁ」

 

ガンプラのことを思い出す。

 

ヴァルキリーガンダム

 

インフィニティ

 

Aqours

 

スクールアイドル

 

ガンプラバトル

 

最近の千咲の周りには次から次へと新しいものが増えていく。

 

「……忙しいなぁ」

 

でも、不思議と嫌ではなかった。

 

◆

 

その頃。

 

小原邸。

 

「ただいまぁ」

 

「おかえりなさい、ちさ」

 

鞠莉が出迎える。

 

「今日は遅かったわね?」

 

「スクールアイドルの名前決めてたからぁ」

 

「Oh!」

 

鞠莉が嬉しそうな顔になる。

 

「もう決まったの?」

 

「うん」

 

千咲は靴を脱ぎながら答える。

 

「Aqours」

 

「Aqours……」

 

鞠莉がその名前を繰り返す。

 

「Nice name」

 

「でしょぉ?」

 

「誰が考えたの?」

 

「砂浜に書いてあった」

 

「……?」

 

鞠莉が不思議そうに首を傾げる。

 

「砂浜に?」

 

「うん」

 

「誰が書いたの?」

 

「分からないことになってる」

 

「ことになってる?」

 

「うん」

 

千咲は意味深に笑う。

 

鞠莉は首を傾げる。

 

「まあ、いいわ」

 

そして。

 

「ちさも手伝ったの?」

 

「少しだけ」

 

「どうだった?」

 

「楽しかったよぉ」

 

千咲が答える。

 

「だから、ライブも見に行こうかなって」

 

「もちろん♪」

 

鞠莉は嬉しそうに微笑む。

 

「あなたもちゃんと応援してあげなさい」

 

「うん」

 

千咲は頷く。

 

「……でも」

 

「何?」

 

「明日はヴァルキリーの方も見ないと」

 

「フフッ」

 

鞠莉は笑う。

 

「忙しいわね、ちさ」

 

「そうだねぇ」

 

千咲は大きく欠伸をした。

 

「眠い」

 

「じゃあ、今日はもう寝なさい」

 

「うん」

 

千咲は部屋へ向かった。

 

その背中を見送りながら。

 

鞠莉は小さく笑った。

 

◆

 

翌日からAqoursという名前とともに、千歌たちの活動はいよいよ本格的に動き始める。

 

練習。

 

宣伝。

 

そしてファーストライブ。

 

体育館を満員にするという条件。

 

3人にとって最初の大きな壁。

 

千咲にとって初めて見るスクールアイドルのライブ。

 

果たして、体育館にはどれだけの人が集まるのか。

 

Aqoursの最初の一歩は、もう止まらない。

 

 

 




次回予告

ついに名前が決まった。

その名は「Aqours」

砂浜に残された、誰が書いたのか分からない文字。

千咲だけは、その文字を残した人物が誰なのか知っていた。

しかし、あえて、そのことを口にすることはしなかった。

そして、いよいよ迎えるファーストライブ。

浦の星女学院の体育館。

ステージに立つのは。

千歌

曜

梨子

3人にとって人生で初めてのスクールアイドルライブ。

そして、千咲にとっても初めて観客として見るスクールアイドルのステージ。

果たして体育館は満員になるのか。

3人の歌は届くのか。

そして、鞠莉から提示された条件を、Aqoursは達成できるのか。

次回、第9話「ファーストライブ」

いよいよ、Aqoursが最初のステージへ。

お楽しみに。




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