ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!- 作:陽@曜花推し
前回は、千歌、曜、梨子の3人が小原鞠莉から「体育館を満員にしてファーストライブを成功させる」という条件を提示され、スクールアイドル部の承認を目指して動き始めました。
そして放課後。
練習していた3人のもとへ、偶然千咲がやって来ることに。
幼馴染である陽哉が練習を手伝っていることが分かったり、千咲と鞠莉の関係が千歌たちに知られたりと、色々な意味で大変なことになりました。
今回は、その翌日からのお話です。
ライブを成功させるため、千歌たちは練習だけではなく宣伝活動にも力を入れ始めます。
一方、千咲はルビィちゃん、マルちゃんと一緒に沼津へ。
不登校が続いている善子のもとへノートを届けに行くことになりますが、結局本人には会えず、そのまま本屋へ寄ることに。
そして沼津駅で千歌たちと遭遇した千咲は、ある重大なことに気づきます。
そう、3人には、まだ名前がなかったのです。
放課後、千歌に連行される形で名前決めに参加する千咲。
しかし、なかなか決まらない。
そんな中、千咲だけが砂浜にいる「ある人物」に気づきます。
顔を隠しているつもりでも、千咲には誰なのかすぐに分かってしまうその人物。
そして、砂浜に残されていた文字とは――。
今回、いよいよ3人の名前が決まります。
それでは、第8話「Aqours」をどうぞ。
前回の-Sailing to the Sunshine!!-
千歌、曜、梨子の3人は、ついにスクールアイドル部を始めることになった。
しかし、理事長である鞠莉が出した条件は簡単なものではなかった。
それは、体育館を満員にしてファーストライブを成功させること。
千歌たちは練習を始めるものの、観客を集める方法はなかなか見つからない。
そんな中、千咲は三津海水浴場で練習する3人と出会い、少しずつ彼女たちの活動に関わっていくことになる。
そして千歌たちは、自分たちのスクールアイドルグループに名前を付けることになるのだった。
翌朝。
浦の星女学院。
「ファーストライブまで、あと少し!」
千歌の声が教室に響いていた。
「だから、今日からもっと練習しよう!」
「うん!」
曜が頷く。
梨子も。
「そうね。昨日までより、もっと合わせないと」
前日、小原鞠莉から提示された条件。
それは、体育館を満員にして、ファーストライブを成功させること。
スクールアイドル部を正式に認めてもらうために必要な条件だった。
そして、それを達成するためには、練習だけでは足りない。
「人に来てもらわないといけない」
梨子が言う。
「だから、今日はビラを作ろうと思う」
「ビラ!」
千歌が頷く。
「駅で配るんだ!」
「いいね!」
曜も笑った。
「少しでも多くの人に知ってもらおう」
3人は、それぞれ準備を始める。
歌の練習。
振り付け。
ビラ作り。
やることは多い。
けれど、千歌の顔には、不思議と疲れよりも楽しさが出ていた。
何も決まっていなかった数日前とは違う。
今は目標がある。
「絶対、満員にしようね!」
「うん!」
「もちろん!」
3人は拳を合わせた。
◆
一方その頃。
千咲は教室で、ルビィと花丸と一緒にノートをまとめていた。
「これ、善子ちゃんの分だよね?」
ルビィが確認する。
「そうずら」
花丸が頷く。
「最近、ずっと学校に来てないから、先生が届けてほしいって言ってたずら」
「なるほどぉ」
千咲はノートの表紙を見る。
「じゃあ、今日持っていこうかぁ」
「うん!」
ルビィが頷く。
「善子ちゃん、元気かな……」
「たぶん元気ずら」
花丸が言った。
「善子ちゃん、ああいう子だから」
「どういう子なのぉ?」
千咲が聞く。
「家にいても、何かの世界と戦ってると思うずら」
「なるほどぉ」
千咲は少し考える。
「じゃあ、元気だねぇ」
「たぶんね」
こうして放課後、3人は善子の家へ向かうことになった。
◆
沼津。
善子の家。
「ここだよね?」
ルビィが確認する。
「うん」
花丸が頷く。
千咲は家を見上げた。
「じゃあ、呼んでみようかぁ」
ルビィがインターホンを押す。
ピンポーン。
「……」
返事はない。
もう一度。
ピンポーン。
「善子ちゃん?」
ルビィが呼ぶ。
「学校からノート持ってきたよー!」
「…………」
静かだ。
「善子ちゃーん?」
花丸も声をかける。
「いるなら出てきてほしいずらー」
「…………」
やっぱり返事はない。
千咲は耳を澄ませる。
家の中から音が聞こえるわけでもない。
「留守かなぁ?」
「でも、いるような気もする」
ルビィが言う。
「善子ちゃんなら、カーテンの裏に隠れてるかもしれないずら」
「なんでぇ?」
「恥ずかしいとか」
「なるほどぉ」
千咲は頷く。
結局、何度呼んでも善子は出てこなかった。
「仕方ないねぇ」
千咲が言う。
「また今度、持ってくればいいよぉ」
「そうだね」
ルビィがノートを見る。
「じゃあ、帰ろうか」
3人は家を後にした。
善子には会えなかった。
◆
「ねえねえ」
ルビィが歩きながら言う。
「せっかく沼津まで来たんだし、本屋さん寄っていかない?」
「いいよぉ」
千咲は即答した。
「オラも行きたいずら」
花丸も嬉しそうだ。
こうして3人は本屋へ向かった。
店内。
たくさんの本が並んでいる。
「わぁ……」
ルビィが目を輝かせる。
「スクールアイドルの本、あるかな?」
「ルビィちゃん好きだねぇ」
「うん!」
ルビィは嬉しそうに本棚へ向かっていった。
千咲は反対側を見る。
「……釣り」
釣りの入門書。
海釣りの本。
堤防釣りの仕掛けの本。
魚の図鑑。
そして、沼津周辺の釣り場を紹介する本。
「……これいいなぁ」
千咲は一冊手に取った。
表紙を見る。
ページをめくる。
「へぇ……」
しばらく立ち読み。
そして。
「こっちも……」
別の本を手に取る。
その頃。
「見つけた!」
ルビィの声がした。
「μ'sの本!」
「μ's?」
千咲が振り返る。
「うん!」
ルビィは嬉しそうに一冊の本を抱えている。
「スクールアイドルのこと、もっと知りたいから」
「なるほどぉ」
千咲も少し覗いてみる。
写真。
ライブ。
衣装。
そしてμ'sについての記事。
千咲は、以前ダイヤから延々と聞かされた話を思い出した。
「……これ、ダイヤちゃん好きそうだねぇ」
「そうだね……」
ルビィも苦笑する。
その時。
「千咲君ー!」
花丸の声が聞こえた。
「こっちずら!」
「ん?」
千咲とルビィが声の方向へ向かう。
そして。
「…………」
千咲は無言になった。
「…………」
ルビィも。
花丸の前には。
大量の本。
小説。
文学作品。
歴史書。
図鑑。
漫画。
雑誌。
とにかく大量。
さらに。
その本は一冊の台車に積まれている。
「……マルちゃん」
「何ずら?」
「これ全部買うの?」
「もちろんずら!」
花丸は笑顔だった。
千咲は本の山を見る。
「……持てなかったら手伝うよぉ」
「ありがとうずら!」
「いやぁ……」
千咲は台車を見る。
「これ、持てないっていうより、そもそも台車が必要な量だと思うけどぉ」
「台車があれば問題ないずら!」
「まあ……そうだねぇ」
ルビィが笑う。
「花丸ちゃん、本当に本が好きなんだね」
「本はいいずら」
花丸は幸せそうに本を見る。
「新しい世界を知ることができるから」
「なるほどぉ」
千咲も納得する。
「じゃあ、ボクも新しい釣り場を知れる本買おうかなぁ」
「結局そこなんだね」
ルビィが笑った。
「うん」
千咲は即答した。
◆
本屋を出る。
花丸は台車を押し。
ルビィは買った本を大事そうに抱えている。
千咲は釣りの本を一冊。
「じゃあ、沼津駅からバスに乗って帰ろうか」
ルビィが言う。
「うん」
駅へ向かう3人。
やがて、駅前が見えてくる。
すると。
「お願いします!」
「ぜひ来てください!」
「スクールアイドルのファーストライブです!」
元気な声が聞こえてきた。
「……あれ?」
ルビィが顔を上げる。
「この声……」
千咲も。
「千歌先輩たちだねぇ」
駅前。
そこには、千歌、曜、梨子がいた。
大量のビラを手に。
通行人へ声をかけている。
「お願いします!」
「よかったら見に来てください!」
「初めてのライブなんです!」
千歌は一生懸命だ。
曜も。
梨子も。
「頑張ってるね」
ルビィが言う。
「うん」
花丸も。
「ビラ配りずら」
3人が近づいていく。
「千歌さん!」
ルビィが声をかける。
「あっ!」
千歌が振り返った。
「ルビィちゃん!」
「こんにちは」
曜も笑う。
「千咲くんたちも来てたんだ」
「本屋に行ってたのぉ」
千咲が答える。
「善子ちゃんにノート届けに行った帰り」
「そうなんだ!」
千歌は笑う。
「今、宣伝してるところ!」
「ライブの?」
ルビィが聞く。
「そう!」
千歌はビラを渡した。
「私たちのファーストライブ!」
ルビィは嬉しそうに見る。
「スクールアイドルのライブ……」
「うん!」
「見に行きたい……」
ルビィの顔が明るくなる。
花丸もビラを見る。
「体育館でやるずら?」
「そう!」
千歌が頷く。
「絶対成功させるの!」
千咲もビラを見る。
日時。
場所。
ライブの内容。
そして。
「…………」
千咲は首を傾げる。
「千歌先輩」
「ん?」
「グループ名はぁ?」
「…………」
千歌が止まった。
曜も。
「あ」
梨子も。
「……そういえば」
千咲はビラを指差した。
「ここ、何も書いてないよぉ」
「…………」
千歌が固まる。
数秒。
「……あ」
千歌が呟く。
「決めてなかった」
「え?」
ルビィが目を丸くする。
「決めてないの?」
「うん……」
曜が頭を抱える。
「完全に忘れてた」
梨子も苦笑した。
「ライブのことばっかり考えてて……」
花丸がビラを見る。
「確かに、名前がないずら」
千咲が頷く。
「じゃあ、決めないとねぇ」
千歌の顔が急に明るくなった。
「じゃあ、今日決めよう!」
「え?」
千咲が嫌な予感を覚える。
「放課後、一緒に練習するよね?」
「うん」
千歌が笑顔になる。
「その時、千咲くんにも考えてもらおう!」
「……ボクもぉ?」
「もちろん!」
「なんでぇ……」
「いいじゃん!」
曜も笑う。
梨子も。
「千咲くんの意見、聞いてみたいし」
「ボク、名前考えるの苦手だよぉ」
「それでもいい!」
千歌が笑う。
「とにかく、今日決めよう!」
千咲はため息。
「……分かったよぉ」
また巻き込まれることになった。
◆
放課後。
三津海水浴場。
「それじゃあ!」
千歌が砂浜に座る。
曜と梨子も隣に座る。
そして。
「……なんでボクもいるのぉ」
千咲。
昨日に続いて、また海岸へ連れてこられていた。
「名前決めるから!」
「はいはい」
千咲は砂浜へ座る。
「じゃあ、まず私!」
曜が手を挙げる。
「制服少女隊!」
「…………」
千歌が考える。
「どう?」
「……ちょっと硬くない?」
梨子も。
「なんだか軍隊みたい……」
「えー!」
曜が落ち込む。
千咲がぼそっと。
「制服ってところは分かりやすいけどねぇ」
「そこじゃないよぉ!」
「ごめんねぇ」
次。
千歌が手を上げる。
「じゃあ、私!」
「どうぞ」
「浦の星スクールガール!」
「…………」
曜が考える。
「そのまますぎない?」
梨子も。
「ちょっと長いかな」
「そんなぁ!」
千歌が砂浜に倒れ込む。
「じゃあ、梨子ちゃん!」
梨子が少し悩む。
「……スリーマーメイド」
「おお!」
千歌が顔を上げる。
「海!」
曜も。
「内浦っぽい!」
梨子が少し嬉しそうにする。
しかし。
「でも……」
千咲が言った。
「なんか観光地のショーみたい」
「千咲くん!」
梨子が反応する。
「ごめんねぇ」
「もう!」
「いや、でもマーメイドはいいと思うよぉ」
「じゃあ採用?」
「うーん」
千咲は首を傾げる。
「何か足りないかなぁ」
「むー……」
また考え直す。
その後も。
「沼津ガールズ」
「内浦スターズ」
「マリンガールズ」
「駿河乙女」
「浦女生」
色々な案が出た。
しかし。
どれも決まらない。
「うーん……」
千歌が頭を抱える。
「全然決まらない!」
曜も。
「難しいね」
梨子も。
「名前って、こんなに難しいんだ……」
千咲は横で砂をいじっている。
「そりゃ、ずっと使う名前だしねぇ」
「じゃあ!」
千歌が突然千咲を見る。
「千咲くん!」
「ん?」
「何か考えて!」
「ボクぅ?」
「そう!」
「なんでぇ?」
「4人目の意見!」
「ボク、メンバーじゃないよぉ」
「今はいいから!」
千咲は困った。
「えー……」
「お願い!」
「うーん……」
しばらく考える。
そして。
「じゃあ……」
千咲が何かを口にする。
「○○○○」
その瞬間。
画面ならピー音が入るような名前だった。
「…………」
千歌。
「…………」
曜。
「…………」
梨子。
千歌が叫ぶ。
「いや、それ絶対訴えられるやつだよね!!」
「やっぱりダメかぁ」
千咲は平然。
曜は笑いをこらえられない。
「千咲君、それはダメだよ!」
「冗談だよぉ」
「冗談でも危ない!」
梨子も笑っている。
「それが候補になったら、本当に大変なことになるから!」
「じゃあ却下だねぇ」
千咲はあっさり。
「決定」
「決めるの早い!」
千歌が突っ込む。
◆
結局名前は決まらない。
「……どうしよう」
千歌が砂浜に寝転ぶ。
曜も考え込む。
梨子は候補を書いた紙を見る。
千咲は海を見る。
夕暮れの海。
穏やかな波。
風。
そして。
ふと。
「…………」
千咲の目が。
遠くへ向いた。
そこに誰かがいる。
海岸の少し離れた場所。
マスク。
サングラス。
帽子。
顔を完全に隠している。
その人物はしゃがみ込んで。
砂浜に何かを書いていた。
「…………」
千咲は目を細めた。
「……あれ?」
誰だろう。
普通なら。
ただの不審者にしか見えない。
けれど千咲には分かった。
あの立ち方。
あの雰囲気。
あの髪。
マスク越しでも分かる。
「…………」
千咲は小さく呟く。
「ダイヤちゃん……」
千歌たちは、まだ気づいていない。
千咲だけが気づいていた。
そしてその人物も千咲の視線に気づいた。
「…………!」
肩が動く。
顔が千咲の方へ向く。
千咲は軽く手を振った。
「ダイヤちゃん」
次の瞬間、その人物は立ち上がった。
そして逃げた。
「…………」
千咲は目を瞬かせる。
「逃げたぁ」
「え?」
千歌が顔を上げた。
「どうしたの?」
「今、あそこに誰かいたんだけどぉ」
千咲は砂浜を指差す。
千歌たちも、初めてそちらを見る。
しかし、もう誰もいない。
「誰?」
曜が聞く。
「さあ」
千咲は答える。
「分かんない」
千咲は走っていった方向を見る。
「でも……」
「何?」
梨子が聞く。
「なんか、砂に書いてたみたい」
「砂に?」
千歌が立ち上がる。
「見に行ってみよう!」
「え?」
千咲が振り返る。
千歌。
曜。
梨子。
3人ともついてくる。
「何を書いたんだろう?」
「分からないけど」
千咲が歩く。
「確認してみよぉ」
◆
砂浜。
さっきまで、あの人物がいた場所。
千咲が足を止める。
「……ここ」
千歌たちも近づく。
「何も……」
曜が言いかけて。
止まった。
「……あれ?」
砂に文字がある。
大きく、はっきりとアルファベットで。
「Aqours」
「…………」
4人が黙った。
千歌がしゃがみ込む。
「えー……」
文字を見つめる。
「きゅー……」
「……あうあーず?」
曜も読む。
「Aqours……」
千咲は文字を見ている。
「……あくあって読むんじゃない?」
梨子も考える。
「Aqua……水?」
曜が言った。
「水ってこと?」
千咲が頷く。
「たぶん。Aquaをもとにした感じかなぁ」
千歌はその文字から目を離さなかった。
「Aqours……」
もう一度。
「Aqours……」
そして。
「これいい!!」
曜が振り返る。
「え?」
千歌は立ち上がった。
「いいよ! これ!」
「でも……」
梨子が砂浜を見る。
「誰が書いたのか分からないのに」
「だからいいの!!」
千歌は笑った。
「誰が書いたか分からない!」
「うん」
「でも、ここにある!」
千歌は砂浜の文字を指す。
「私たちが名前を決めようとしてたところに、こんな名前が現れたんだよ!」
曜が笑う。
「確かに」
「だから!」
千歌が胸を張った。
「運命だよ!!」
梨子は少し考えて。
ふっと笑った。
「……そうかも」
曜も。
「うん」
千咲は砂浜の文字を見ていた。
「Aqours……」
その響きを口の中で確かめる。
水。
海。
内浦。
そして。
3人の始まり。
「……いい名前だねぇ」
千咲が言う。
千歌が嬉しそうに振り返る。
「でしょ?」
「うん」
「じゃあ!」
千歌が手を上げた。
「私たちは今日から!」
曜が続く。
「Aqours!」
梨子も。
「Aqours」
3人の声が重なった。
千咲は少し離れて、その光景を見ていた。
まだ、何も成し遂げていない。
まだ、誰にも知られていない。
まだ、たった3人。
だけど、名前が決まった。
それだけで、何かが始まったようなそんな感じがした。
「……ファーストライブ」
千咲が呟く。
「これなら、少し楽しみかもねぇ」
「本当!?」
千歌が笑う。
「うん」
千咲も笑った。
「ボクも見てみたいよぉ」
「絶対来て!」
「うん」
「約束だからね!」
「はいはい」
千咲は頷く。
夕暮れの海に。
「Aqours」の文字。
そして3人の笑い声。
その光景はこれから始まる長い物語の最初の一ページだった。
◆
帰り道。
千咲は1人で歩いていた。
海岸からの風が髪を揺らす。
「Aqours……」
その名前をもう一度口にする。
すると、ふと思い出した。
あの人物。
砂浜に文字を書いていた誰か。
「……ダイヤちゃん」
千咲だけは知っている。
あれは間違いなくダイヤだった。
なぜ顔を隠していたのか。
なぜ砂浜にあの名前を書いたのか。
どうして逃げたのか。
分からない。
けれど、千咲はあえて追いかけなかった。
きっと、本人には本人なりの理由がある。
「まあ……」
千咲は小さく笑う。
「ダイヤちゃんだしねぇ」
その一言で、何となく納得してしまう。
そして。
「ボクも明日はOGLかぁ」
ガンプラのことを思い出す。
ヴァルキリーガンダム
インフィニティ
Aqours
スクールアイドル
ガンプラバトル
最近の千咲の周りには次から次へと新しいものが増えていく。
「……忙しいなぁ」
でも、不思議と嫌ではなかった。
◆
その頃。
小原邸。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、ちさ」
鞠莉が出迎える。
「今日は遅かったわね?」
「スクールアイドルの名前決めてたからぁ」
「Oh!」
鞠莉が嬉しそうな顔になる。
「もう決まったの?」
「うん」
千咲は靴を脱ぎながら答える。
「Aqours」
「Aqours……」
鞠莉がその名前を繰り返す。
「Nice name」
「でしょぉ?」
「誰が考えたの?」
「砂浜に書いてあった」
「……?」
鞠莉が不思議そうに首を傾げる。
「砂浜に?」
「うん」
「誰が書いたの?」
「分からないことになってる」
「ことになってる?」
「うん」
千咲は意味深に笑う。
鞠莉は首を傾げる。
「まあ、いいわ」
そして。
「ちさも手伝ったの?」
「少しだけ」
「どうだった?」
「楽しかったよぉ」
千咲が答える。
「だから、ライブも見に行こうかなって」
「もちろん♪」
鞠莉は嬉しそうに微笑む。
「あなたもちゃんと応援してあげなさい」
「うん」
千咲は頷く。
「……でも」
「何?」
「明日はヴァルキリーの方も見ないと」
「フフッ」
鞠莉は笑う。
「忙しいわね、ちさ」
「そうだねぇ」
千咲は大きく欠伸をした。
「眠い」
「じゃあ、今日はもう寝なさい」
「うん」
千咲は部屋へ向かった。
その背中を見送りながら。
鞠莉は小さく笑った。
◆
翌日からAqoursという名前とともに、千歌たちの活動はいよいよ本格的に動き始める。
練習。
宣伝。
そしてファーストライブ。
体育館を満員にするという条件。
3人にとって最初の大きな壁。
千咲にとって初めて見るスクールアイドルのライブ。
果たして、体育館にはどれだけの人が集まるのか。
Aqoursの最初の一歩は、もう止まらない。
次回予告
ついに名前が決まった。
その名は「Aqours」
砂浜に残された、誰が書いたのか分からない文字。
千咲だけは、その文字を残した人物が誰なのか知っていた。
しかし、あえて、そのことを口にすることはしなかった。
そして、いよいよ迎えるファーストライブ。
浦の星女学院の体育館。
ステージに立つのは。
千歌
曜
梨子
3人にとって人生で初めてのスクールアイドルライブ。
そして、千咲にとっても初めて観客として見るスクールアイドルのステージ。
果たして体育館は満員になるのか。
3人の歌は届くのか。
そして、鞠莉から提示された条件を、Aqoursは達成できるのか。
次回、第9話「ファーストライブ」
いよいよ、Aqoursが最初のステージへ。
お楽しみに。