ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

第9話では、Aqoursのファーストライブが無事に成功しました。

大雨。

開始時刻の勘違い。

停電。

発電機の運搬。

そして、最初はまばらだった観客が、次々と体育館へ集まってくるという、かなり慌ただしいファーストライブでした。

それでも最後には体育館は満員となり、千歌、曜、梨子の3人は「輝きたい」という想いを叫びました。

そして今回。

ライブから2日後。

いよいよスクールアイドル部が正式に承認され、Aqoursが正式な部活動としてスタートします。

その一方で、前回のライブを見て、スクールアイドルへの憧れを強めていたルビィ。

そして、そんなルビィのことを一番近くで見ている花丸。

今回の中心になるのは、この2人です。

ルビィは、姉であるダイヤのことを気にして、自分の「やりたい」という気持ちをなかなか口にできない。

一方の花丸は、ルビィを応援したいという気持ちの裏に、自分自身もスクールアイドルに憧れているという想いを隠していました。

そんな2人の気持ちに千咲が少しだけ関わっていくことになります。

千咲自身は、いつも通り深く考えずに行動しているつもりなのですが。

時々、本人が思っている以上に核心を突くことを言ってしまいます。

今回は、そんな千咲の何気ない一言が、花丸の心を少しだけ動かすことになります。

それでは、第10話「ふたりのキモチ」をどうぞ。




前回の-Sailing to the Sunshine!!-

ついにAqoursのファーストライブの日がやってきた。

しかし当日は雨。

さらに千歌はライブの時間を勘違いし、予定より早くステージを始めてしまう。

観客もほとんど集まらない。

そんな中、突然の雷によって停電まで発生し、ライブは中断。

千咲と陽哉は発電機を運ぶダイヤと遭遇し、復旧作業を手伝う。

そして。

少しずつ体育館へ人が集まり始める。

気が付けば、会場は満員。

Aqoursは「ダイスキだったらダイジョウブ!」を披露し、自分たちが本当に輝きたいのだという気持ちを確かなものにした。




第10話「ふたりのキモチ」

 

 

月曜日。

 

ファーストライブから2日後。

 

朝。

 

浦の星女学院。

 

まだ登校して間もない時間だというのに。

 

「千歌先輩、こっちだよぉ」

 

「分かってる!」

 

「本当に?」

 

「分かってるってば!」

 

千歌に腕を引っ張られるようにして、千咲は廊下を歩いていた。

 

その後ろには曜と梨子もいる。

 

「千咲くんまで呼び出されたんだね」

 

梨子が言う。

 

「うん」

 

千咲は眠そうに答えた。

 

「なんで呼ばれたのかは、まだ聞いてないけどぉ」

 

「たぶん、昨日のライブのことじゃない?」

 

曜が笑う。

 

「それに、スクールアイドル部の申請」

 

「ああ……」

 

千咲は思い出した。

 

そういえば、昨日までのAqoursには、まだ正式な部活としての承認が下りていなかった。

 

体育館を満員にしてファーストライブを成功させる。

 

その条件を達成したのだから、今日はその答えを聞く日なのだろう。

 

「まあ」

 

千咲は欠伸をする。

 

「承認されるんじゃないかなぁ」

 

「絶対されるよ!」

 

千歌が勢いよく答えた。

 

「昨日あれだけ頑張ったんだから!」

 

「だね」

 

曜も頷く。

 

梨子も微笑む。

 

「じゃあ、行こう」

 

4人は理事長室の前へ到着した。

 

千歌がノックする。

 

「はい、どうぞー♪」

 

聞き慣れた声。

 

「失礼します!」

 

扉を開ける。

 

そこには。

 

「Good morning!」

 

小原鞠莉。

 

そして。

 

その隣に。

 

「…………」

 

腕を組んだ黒澤ダイヤ。

 

鞠莉は笑顔。

 

対してダイヤは、何とも言えない難しい顔をしていた。

 

千咲は。

 

「あー」

 

とだけ言った。

 

「ダイヤちゃんもいるんだぁ」

 

「ええ、いますわ」

 

ダイヤは少し苦笑する。

 

千歌たちが前へ出る。

 

鞠莉は机の上に置かれた書類を手に取った。

 

「それでは」

 

一度。

 

千歌たちを見る。

 

「スクールアイドル部、設立申請書……」

 

そして。

 

巨大なハンコを取り出す。

 

「…………」

 

千咲が固まった。

 

「…………」

 

曜も。

 

「…………」

 

梨子も。

 

千歌だけは。

 

「それ……何?」

 

巨大。

 

とにかく巨大。

 

普通の書類に押すとは思えないほど大きなハンコだった。

 

鞠莉は満面の笑み。

 

そして。

 

「しょーにん!!」

 

ドンッ!!

 

「…………」

 

書類に巨大な赤い印が押された。

 

「…………」

 

千咲はハンコを見る。

 

書類を見る。

 

もう一度。

 

ハンコを見る。

 

「……こんなデカいハンコ、初めて見たよぉ」

 

「でしょう?」

 

鞠莉が得意げに胸を張る。

 

「Officially approved!」

 

千歌が。

 

「やったぁぁぁぁ!」

 

大喜び。

 

曜も。

 

「やった!」

 

梨子も笑う。

 

「これで正式に部活だね」

 

ダイヤは横で難しい顔をしている。

 

けれど、止めるつもりはないようだった。

 

千咲は、その横顔を見る。

 

何か思うところはあるのだろう。

 

けれど、今は何も言わない。

 

それもダイヤなりの答えなのだろう。

 

「これで」

 

千歌が胸を張る。

 

「私たち、正式なスクールアイドル部!」

 

「Aqoursだね」

 

曜が笑う。

 

梨子も頷く。

 

「ここからが本番」

 

鞠莉が笑顔で言う。

 

「頑張りなさい、Aqours♪」

 

「はい!」

 

3人の声が響いた。

 

◆

 

そして、さっそく部室が用意されることになった。

 

「部室だぁ!」

 

千歌が喜ぶ。

 

「どんな部屋かな?」

 

「楽しみだね」

 

曜も笑う。

 

梨子も。

 

「ちゃんと使える部屋だといいけど……」

 

4人で廊下を歩き、割り当てられた部屋の前までやって来る。

 

千歌が扉を開けた。

 

ガチャッ。

 

「…………」

 

3人が止まる。

 

千咲も。

 

「…………」

 

部屋の中には。

 

机。

 

椅子。

 

ダンボール。

 

古い資料。

 

何かの衣装。

 

そして大量の本。

 

「…………何これ」

 

千歌が固まる。

 

「部室……だよね?」

 

曜が聞く。

 

「たぶん……」

 

梨子も困惑している。

 

千咲は無言のまま、部屋の奥へ入っていく。

 

壁際にはホワイトボード。

 

そこには、途中まで書かれた歌詞のようなものや、何かのメモが残っている。

 

さらに棚を見ると、図書室の貸出シールが貼られた本が大量に並んでいた。

 

「…………」

 

千咲は、一冊の本を手に取る。

 

古い。

 

けれど、どこか見覚えがある。

 

部屋の雰囲気。

 

ホワイトボードに残された文字。

 

そして、この大量の本。

 

千咲は、ふと気づいた。

 

(……これ)

 

(鞠莉ちゃん達がスクールアイドルをやってた頃に使ってた部屋だなぁ)

 

千咲は、そう思ったものの口には出さなかった。

 

(まあ……)

 

(聞いたら色々面倒そうだし)

 

(今はいいかぁ)

 

そのまま本を棚から取り出していく。

 

「千咲くん、何してるの?」

 

千歌が聞く。

 

「本、返した方がいいんじゃないかなぁ」

 

「あ、そうだね!」

 

曜が頷く。

 

「図書室のシール貼ってあるし」

 

「じゃあ、まずは本から片付けよう」

 

梨子も動き出す。

 

こうして、正式に部活動が始まった初日からAqoursの部室は、まず片付けから始まることになった。

 

「……千咲くん、これお願い!」

 

「はいはい」

 

千咲は本の山を抱える。

 

「……結構あるなぁ」

 

「ごめんね」

 

梨子が謝る。

 

「いいよぉ」

 

「ありがとう!」

 

「どうせ暇だしぃ」

 

そう言いながら。

 

千咲は大量の本を抱えて、図書室へ向かうのだった。

 

◆

 

図書室。

 

「……多い」

 

千咲が本を置く。

 

司書の先生が苦笑している。

 

「昔から借りっぱなしだったものもありますね」

 

「やっぱり?」

 

「はい」

 

千咲は何となく部室のことを思い出す。

 

鞠莉。

 

果南。

 

ダイヤ。

 

昔。

 

この3人があの部屋を使っていた。

 

今、千歌たちが同じ部屋を使っている。

 

何とも不思議な話だった。

 

その時。

 

「……あ」

 

千咲が気づいた。

 

図書室の隅。

 

そこにルビィと花丸がいた。

 

「ルビィちゃん」

 

「あっ」

 

ルビィが振り返る。

 

「千咲君!」

 

花丸も。

 

「千咲君、こんにちはずら」

 

「何してるのぉ?」

 

「本を返しに来たの」

 

ルビィが答える。

 

「なるほどぉ」

 

そこへ千歌たちも追いついてきた。

 

「ルビィちゃん!」

 

千歌が明るく声をかける。

 

「花丸ちゃんも!」

 

「千歌さん……」

 

花丸が少し驚く。

 

「ねえ!」

 

千歌は2人の前へ。

 

「2人もAqoursに入らない?」

 

「えっ?」

 

ルビィが目を丸くする。

 

花丸も。

 

「オラも……?」

 

「うん!」

 

曜も笑う。

 

「昨日のライブ見てくれたでしょ?」

 

梨子も頷く。

 

「一緒にやったら楽しいと思う」

 

ルビィは嬉しそう。

 

けれど、花丸は少し困った顔をしていた。

 

「……オラは」

 

言葉が止まる。

 

千咲はその顔を見る。

 

何か引っかかる。

 

「マルちゃん?」

 

「…………」

 

「どうしたのぉ?」

 

花丸は笑う。

 

「いや……その……」

 

そして。

 

「オラは、いいずら」

 

その言葉が千咲には少しだけ気になった。

 

「そっかぁ」

 

千咲はすぐには追及しなかった。

 

けれど千歌が、

 

「じゃあ、ルビィちゃんだけでも!」

 

「えっ……」

 

ルビィが困る。

 

すると。

 

「ねえ」

 

千咲が間に入った。

 

「いきなり入部じゃなくて」

 

千歌を見る。

 

「体験入部はどうですかぁ?」

 

「体験入部?」

 

「うん」

 

千咲は2人を見る。

 

「とりあえず、一緒にやってみればいいんじゃない?」

 

「……」

 

花丸が考える。

 

ルビィは。

 

少し嬉しそう。

 

「それなら……」

 

千歌も頷いた。

 

「いいね!」

 

曜も。

 

「じゃあ、2人とも体験入部!」

 

梨子も笑う。

 

「無理だったら、やめてもいいし」

 

千咲が言う。

 

「やってみないと分からないこともあるからねぇ」

 

ルビィは。

 

「うん!」

 

花丸は。

 

「……分かったずら」

 

こうして、2人の体験入部が決まった。

 

◆

 

放課後。

 

Aqoursの練習。

 

走る。

 

踊る。

 

歌う。

 

ルビィは楽しそうだった。

 

花丸は必死だった。

 

でも、その顔にはどこか複雑なものがある。

 

千咲はそれを見逃さなかった。

 

「……」

 

練習の合間。

 

花丸が息を切らして座っている。

 

ルビィは笑っている。

 

「楽しいね!」

 

「うん……」

 

花丸は答える。

 

でも、心から楽しんでいるようには見えなかった。

 

千咲は少し離れた場所から見ていた。

 

「…………」

 

◆

 

その翌日。

 

千咲は沼津へ出かけていた。

 

目的は釣りの本の最新号。

 

「今月号……」

 

本屋へ入る。

 

いつものように釣り雑誌のコーナーへ向かう。

 

「……あった」

 

一冊。

 

手に取る。

 

ページをめくる。

 

新しい仕掛け。

 

新しい釣り場の情報。

 

千咲は満足そうだった。

 

その時、少し離れた場所。

 

雑誌コーナー。

 

誰かが立ち読みしている。

 

「…………」

 

千咲はなんとなく見覚えがある。

 

「……マルちゃん?」

 

国木田花丸。

 

スクールアイドル雑誌を読んでいる。

 

千咲は少し驚いた。

 

そっと近づく。

 

「何読んでるのぉ?」

 

「ひゃっ!?」

 

花丸が飛び上がった。

 

「千咲君!?」

 

「びっくりしたぁ?」

 

「びっくりしたずら!」

 

花丸は慌てて雑誌を見る。

 

千咲もページを見る。

 

そこには星空凛。

 

μ'sの衣装。

 

ファッションショーの時の写真。

 

ステージで笑っている凛。

 

花丸はそのページから目を離せない。

 

千咲は何も言わずただ見ていた。

 

花丸は慌てて雑誌を棚へ戻す。

 

「じゃあ……」

 

そのまま店を出ようとする。

 

「マルちゃん」

 

花丸の足が止まる。

 

「何?」

 

千咲は。

 

手にした釣りの本を持ったまま。

 

ゆっくり言う。

 

「好きなことはねぇ」

 

花丸は振り返らない。

 

「我慢したら、後で後悔するかもよぉ」

 

「…………」

 

花丸の肩が少しだけ動いた。

 

「…………」

 

千咲は続けない。

 

答えを求めることもしない。

 

ただ、その言葉だけ残す。

 

しばらくして花丸が小さく、

 

「……オラは大丈夫ズラ」

 

それだけ言って店を出ていった。

 

千咲はその背中を見る。

 

「…………」

 

そして。

 

「大丈夫じゃなさそうだけどなぁ」

 

小さく呟いた。

 

◆

 

次の日、淡島。

 

Aqoursの練習。

 

千歌、曜、梨子、ルビィ。

 

そして、花丸。

 

5人が一緒に動いている。

 

ただ、今日の練習を終える頃、千咲はホテルへ戻るため淡島行きの連絡船に乗るため船着き場にいた。

 

「…………」

 

千咲は乗船。

 

すると。

 

「…………あら」

 

後から誰かが乗ってきた。

 

「……ダイヤちゃん?」

 

しかし。

 

ダイヤは。

 

千咲に気づいていない。

 

何か考え込んでいる。

 

「…………」

 

千咲は不思議に思う。

 

「何しに淡島に行くんだろぉ?」

 

船が出る。

 

千咲は少し離れたところからダイヤの様子を見る。

 

ダイヤはずっと黙っていた。

 

淡島へ到着。

 

先にダイヤが降りる。

 

千咲は少し間を置いてこっそり降りた。

 

「……何してるんだろうねぇ」

 

気になった。

 

だから後をつける。

 

◆

 

淡島神社への道。

 

ダイヤは階段を上っていく。

 

千咲は少し離れた場所からついていく。

 

「…………」

 

やがて階段途中のベンチ。

 

ダイヤが座る。

 

そして、しばらくして別の人影。

 

「ダイヤさん」

 

「……花丸さん」

 

千咲は木の陰から見ていた。

 

どうやら、2人は話をするらしい。

 

「ルビィちゃんのことです」

 

花丸が言う。

 

「……」

 

ダイヤは黙っている。

 

「ルビィちゃん、本当にスクールアイドルをやりたいって思ってるずら」

 

「…………」

 

「前のライブを見て」

 

花丸は続ける。

 

「ずっと楽しそうだった」

 

ダイヤは少しだけ目を伏せる。

 

「ですが……」

 

花丸が言葉を選ぶ。

 

「ルビィちゃんは、ダイヤさんが嫌がるんじゃないかって」

 

「…………」

 

「だから、自分から言えないんだと思うずら」

 

ダイヤは静かに息を吐いた。

 

「私は……」

 

しばらく言葉が出ない。

 

「私には」

 

ダイヤはゆっくりと。

 

「昔のことがありますわ」

 

花丸は黙って聞く。

 

「ですが」

 

ダイヤは顔を上げる。

 

「妹が、自分自身の意志でやりたいと言うのなら」

 

少しだけ柔らかい表情。

 

「私は、それを止めるつもりはありません」

 

花丸の顔が明るくなる。

 

「本当ですか?」

 

「ええ」

 

「ありがとうございますずら!」

 

花丸は深く頭を下げる。

 

「これで……ルビィちゃんも」

 

ダイヤは。

 

「ただし」

 

花丸が止まる。

 

「中途半端な気持ちなら認めませんわ」

 

「分かってるずら」

 

「本当にやりたいのなら」

 

「はい」

 

「自分の口で、私に言うことです」

 

花丸は頷いた。

 

「分かったずら」

 

ダイヤは立ち上がる。

 

「では」

 

そう言って階段を下りていく。

 

千咲は隠れたまま。

 

「…………」

 

小さく笑った。

 

「ダイヤちゃんらしいなぁ」

 

そして、花丸を見る。

 

すると花丸も立ち上がっていた。

 

そのままルビィとは違う方向へ歩き出す。

 

「…………」

 

千咲はすっと前へ出た。

 

「マルちゃん」

 

「…………!」

 

花丸が驚く。

 

「千咲君!?」

 

「どこ行くのぉ?」

 

「……帰るずら」

 

「ルビィちゃんと一緒じゃないの?」

 

「…………」

 

花丸は少し黙って。

 

「ルビィちゃんは」

 

笑う。

 

「自分でやりたいことを見つけたから」

 

「うん」

 

「オラの役目は」

 

少し下を向く。

 

「もう終わりずら」

 

千咲は黙って花丸を見る。

 

「そう思ってるの?」

 

「…………」

 

花丸は答えない。

 

そこへ。

 

「花丸ちゃん!」

 

声。

 

2人が振り返る。

 

ルビィが走ってくる。

 

「……ルビィちゃん」

 

「いた!」

 

ルビィは花丸の前へ来る。

 

「探したんだよ!」

 

「どうして?」

 

「だって」

 

ルビィは。

 

花丸の手を取る。

 

「花丸ちゃんも、一緒にやりたいんだと思ったから」

 

「…………」

 

花丸は目を見開く。

 

「オラは……」

 

「本当は好きなんでしょう?」

 

「…………」

 

「スクールアイドル」

 

花丸の目が揺れる。

 

「……でも」

 

「でも?」

 

「オラなんかが」

 

「なんかって言わないで」

 

ルビィが言った。

 

強い声だった。

 

花丸が驚く。

 

「花丸ちゃんは、本を読むのが好きで」

 

「…………」

 

「歌うのも好きで」

 

「…………」

 

「アイドルを見るのも好きで」

 

「…………」

 

「ずっと一緒にいてくれた」

 

ルビィの目に涙。

 

「だから」

 

「……ルビィちゃん」

 

「一緒にやりたいの」

 

花丸は。

 

言葉が出ない。

 

そして。

 

「オラは……」

 

少しだけ泣きそうになる。

 

「オラは、運動も苦手だし」

 

「うん」

 

「人前に出るのも苦手だし」

 

「うん」

 

「アイドルなんて……」

 

そこで。

 

千咲が口を開いた。

 

「そんなことないよぉ」

 

花丸が千咲を見る。

 

「……え?」

 

千咲は、いつもの少し眠そうな顔。

 

でも、声は優しかった。

 

「マルちゃんは可愛いよぉ」

 

「…………」

 

「喋り方……いいと思うよぉ」

 

「…………」

 

「『ずら』って、マルちゃんしか使わないし」

 

花丸は少し戸惑う。

 

「でも……」

 

千咲は続けた。

 

「それも全部含めて」

 

一歩近づく。

 

「マルちゃんの個性だし」

 

花丸の目から涙が一滴。

 

「全部含めて」

 

千咲は笑う。

 

「全部含めて可愛いよぉ」

 

「…………」

 

花丸は顔を伏せた。

 

肩が震える。

 

「……ずるいずら」

 

千咲が首を傾げる。

 

「そう?」

 

「そんなこと言われたら……」

 

花丸は涙を拭う。

 

「断れないずら……」

 

ルビィが。

 

「じゃあ……!」

 

花丸を見る。

 

「一緒にやってくれる?」

 

花丸はしばらく黙って。

 

やがて、ゆっくり頷いた。

 

「……うん」

 

「本当!?」

 

「うん」

 

花丸は笑った。

 

「オラも」

 

ルビィと手を繋ぐ。

 

「Aqoursで……一緒にやりたいずら」

 

「花丸ちゃん!」

 

ルビィが抱きつく。

 

「わっ!」

 

花丸が笑う。

 

その様子を千咲は少し離れたところから見ていた。

 

「……よかったねぇ」

 

花丸は涙を拭きながら。

 

「千咲君」

 

「ん?」

 

「ありがとうずら」

 

「どういたしましてぇ」

 

「でも……」

 

花丸が少し笑う。

 

「千咲君って、たまにすごくいいこと言うずら」

 

「たまに?」

 

「たまに」

 

「そうなんだぁ」

 

千咲は苦笑した。

 

◆

 

少しして。

 

淡島の別の場所。

 

ダイヤは1人で歩いていた。

 

さっきの花丸との会話を思い出す。

 

ルビィ。

 

そして。

 

Aqours。

 

ダイヤは。

 

小さく息を吐いた。

 

「……ルビィ」

 

きっとこれから色々とある。

 

それでも妹が決めたのなら。

 

止めるつもりはない。

 

そして、淡島神社の階段を下りながら。

 

ふと、ダイヤは後ろを見る。

 

「…………?」

 

誰もいない。

 

「……気のせいですわね」

 

そのまま歩いていった。

 

木の陰では千咲が小さく笑っていた。

 

「バレなくてよかったぁ」

 

◆

 

その夜。

 

千咲がホテルへ戻ると鞠莉が待っていた。

 

「おかえり、ちさ」

 

「ただいまぁ」

 

「今日はどうだった?」

 

「いろいろあったよぉ」

 

「Aqours?」

 

「うん」

 

千咲はソファへ座る。

 

「ルビィちゃんとマルちゃんが入ることになった」

 

鞠莉の目が輝く。

 

「Really?」

 

「うん」

 

「嬉しいわね」

 

「うん」

 

千咲は。

 

少し考える。

 

「やっぱり、マルちゃんもやりたかったみたい」

 

「……そう」

 

鞠莉は微笑んだ。

 

「それなら、よかった」

 

千咲はその顔を見る。

 

「鞠莉ちゃんも」

 

「何?」

 

「昔、ああいう顔してたのかなぁ」

 

「…………」

 

一瞬だけ鞠莉の笑顔が止まる。

 

千咲は気づいた。

 

けれど、それ以上は聞かなかった。

 

「……眠い」

 

「フフッ」

 

鞠莉が笑う。

 

「じゃあ、もう寝ましょう」

 

「うん」

 

千咲は立ち上がる。

 

その背中を見ながら鞠莉は静かに笑っていた。

 

◆

 

翌日。

 

浦の星女学院。

 

Aqoursの部室。

 

千歌、曜、梨子。

 

そして、新しく加わることになった。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

5人が揃った。

 

「Aqours、5人!」

 

千歌が嬉しそうに叫ぶ。

 

「これからもっと頑張ろう!」

 

「うん!」

 

曜。

 

「もちろん!」

 

梨子。

 

「頑張ります!」

 

ルビィ。

 

「オラも」

 

花丸。

 

その端で千咲が椅子に座っている。

 

「……また人数増えたねぇ」

 

「千咲くんもよろしくね!」

 

千歌が笑う。

 

「なんでぇ」

 

「もう準メンバーだから!」

 

「まだ言ってるぅ」

 

みんなが笑う。

 

こうしてAqoursは3人から5人へ。新しい一歩を踏み出した。

 

そして先には、まだたくさんの出会いが待っている。

 

 

 




次回予告


春

JGLは終盤戦へ。

そして…

第30節。

舞台は横浜。

対戦カードは。

横浜シティゲート vs OHARA GUNPLA DEVELOPMENT沼津

OGD沼津は、この試合、特殊な事情を抱えていた。

JGLには、1人のファイターが2試合以上連続して出場することができないというルールがある。

そして今回は。

すでに2試合連続で出場している選手が多いため。

OGDが出せるのは。

羽嶋恭一。

そして。

徳重和也。

この2人だけ。

つまり。

3人で戦うシティゲートに対して。

OGDは。

2人で戦わなければならない。

「2対3?」

千咲は。

モニターを見つめる。

相手は。

萩島夏樹、兵藤玲音ら3人


対するOGDは、白いダリルバルデ、ゼルクガンダム。

圧倒的な数的不利。

そして。

シティゲート側には。

かつてOGDに所属していた2人。

陽哉は。

ステージを見つめる。

「別に自分のガンプラがコピーされるのは構わねぇけどよ」

拳を握る。

「何つーか……気に入らねぇな」

そして。

「萩島の野郎……全日本で俺に負けたのを根に持ってんのか?」

試合開始。

果たして、2人で3人を相手にすることはできるのか。

そして試合終了後。

勝敗以上に千咲の感情を大きく揺さぶる出来事が起こる。

普段は温厚な千咲。

何を言われても。

大抵は。

「まあ、いいかぁ」

で済ませる。

しかし、この2人だけは違った。

次回、第11話「怒れる瞳」

お楽しみに。




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