ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

前回は、Aqoursにルビィと花丸が加わり、5人になったところで終わりました。

今回は、久しぶりに物語の舞台をガンプラバトルへ戻します。

時期は4月下旬。

JGLは終盤戦へ入り、いよいよ第30節。

今回の対戦カードは、

横浜シティゲート vs OHARA GUNPLA DEVELOPMENT沼津

です。

ただし、OGD側には厳しい事情があります。

JGLには、1人のファイターが2試合以上連続して出場できないというルールがあるため、この試合では恭一と和也の2人しか出場できません。

対する横浜シティゲートは3人。

つまり、2対3。

しかも相手には、かつてOGDに所属していた萩島夏樹と兵藤玲音がいる。

陽哉にとっては、自分のかつての機体を模倣したガンプラを使う相手との戦い。

そして千咲にとっては、OGDを後半戦の低迷へ追い込んだ中心人物との対面です。

普段は、良くも悪くもマイペース。

多少嫌なことを言われても「まあ、いいかぁ」で流すことの多い千咲ですが。

今回ばかりは。

そうはいきません。

では、第11話「怒れる瞳」をどうぞ。



前回の-Sailing to the Sunshine!!-

ファーストライブを成功させたAqoursは、正式にスクールアイドル部として活動することになった。

与えられた部室で活動を始めた千歌たちは、図書室で黒澤ルビィと国木田花丸に出会う。

アイドルが好きなのに、一歩踏み出せない花丸。

そんな花丸に、千咲は「好きなことを我慢したら、後で後悔するかもしれない」と伝える。

そして花丸は、ルビィと一緒にスクールアイドルをやりたいという気持ちを認める。

Aqoursに、新たな仲間が加わった。




第11話「怒れる瞳」

4月下旬。

 

春も終わりへ向かい、少しずつ初夏の気配が混じり始めた頃。

 

JGLのレギュラーシーズンも、いよいよ大詰めを迎えていた。

 

全38節。

 

そのうち今日行われるのは第30節。

 

残り8節。

 

つまり、ここから先の1試合1試合が、シーズン順位に大きく影響する。

 

もちろん首位争いだけではない。

 

残留争い。

 

昇格争い。

 

来季の編成。

 

チームの契約。

 

様々なものが動き始める時期だ。

 

そして現在14位。

 

OHARA GUNPLA DEVELOPMENT沼津。

 

通称、OGD。

 

今シーズンの前半戦は3位。

 

それが、冬の移籍によって主力4人が抜け、後半戦、大きく順位を落とした。

 

この状況をOGDの選手たちは誰も望んでいたわけではない。

 

だが、今日の試合もまた。

 

その影響を強く受けていた。

 

◆

 

横浜。

 

試合会場。

 

横浜シティゲートのホームスタジアム。

 

観客席には多くのファンが詰めかけている。

 

ホームチームへの声援。

 

青と黒を基調としたクラブカラー。

 

企業スポンサーの巨大な広告。

 

そして、会場の一角。

 

OGDのチームエリア。

 

「……すげえな」

 

陽哉が客席を見上げた。

 

「完全にホームだな」

 

隆利が静かに答える。

 

「まあ、横浜だからねぇ」

 

千咲は椅子に座りながら、ぼんやりと客席を見ていた。

 

その隣には恵里菜。

 

そして、少し後ろには茅島涼音。

 

鳥谷あずみ。

 

チームスタッフ。

 

出場できないメンバーも、全員会場には来ている。

 

今季からチームへ加わる新戦力たちも。

 

今日はあくまで見学だ。

 

「ちぃ」

 

恵里菜が声をかける。

 

「んー?」

 

「今日、恭一さんと和也さんだけなんだよね」

 

「うん」

 

千咲は頷いた。

 

「連戦制限だからねぇ」

 

JGLでは。

 

1人のファイターが2試合以上連続して出場することはできない。

 

つまり2試合続けて戦った選手は次の1試合を休まなければならない。

 

チーム全体でのローテーション管理が必要になる。

 

現在のOGDはその影響を強く受けていた。

 

恭一。

 

そして。

 

和也。

 

この2人しか今日の試合に出場できない。

 

「2対3」

 

隆利が呟く。

 

「数だけなら、かなりきついですね」

 

「でも」

 

陽哉が言う。

 

「2人とも強いからな」

 

千咲は。

 

フィールドの方を見る。

 

「……まあ」

 

「?」

 

「簡単ではないねぇ」

 

「だろうな」

 

◆

 

選手入場。

 

スタジアムが大きく沸く。

 

「OHARA GUNPLA DEVELOPMENT!」

 

アナウンス。

 

そして。

 

「横浜シティゲート!」

 

さらに大きな歓声。

 

千咲は相手側の選手を眺めた。

 

最初に見えたのは。

 

萩島夏樹。

 

178cmの身体。

 

表情は余裕。

 

その隣。

 

兵藤玲音。

 

さらに。

 

3人目。

 

ガンダムヘビーアームズ改(EW)を操るファイター。

 

千咲は少し目を細めた。

 

「…………」

 

陽哉がそれに気づく。

 

「気になるか?」

 

「んー」

 

千咲は。

 

夏樹が持つ機体ケースを見る。

 

「なんか、嫌な感じするねぇ」

 

その機体。

 

黒。

 

禍々しいデスティニー。

 

ZGMF-X42S/AS デスティニーガンダム アナザーシグムント。

 

千咲はそれを見たことがある。

 

陽哉のシグムント。

 

それを模倣した機体だ。

 

「別に」

 

陽哉が言う。

 

「自分のガンプラがコピーされるのは構わねぇけどよ」

 

少し目を細める。

 

「何つーか……」

 

拳を握る。

 

「気に入らねぇな」

 

「…………」

 

「萩島の野郎……」

 

陽哉の声が低くなる。

 

「全日本で俺に負けたのを根に持ってんのか?」

 

千咲は何も言わない。

 

ただ夏樹を見る。

 

◆

 

試合前。

 

各選手がバトルマシンへガンプラをセットする。

 

実況が会場に響く。

 

「それでは、第30節!」

 

「横浜シティゲート!」

 

「OHARA GUNPLA DEVELOPMENT沼津!」

 

客席から大歓声。

 

そして、システムが起動する。

 

『GUNPLA BATTLE Combatmode startup. Mode damage level set to A.』

 

千咲の目が細くなる。

 

ダメージレベルA。

 

実機へダメージが反映される。

 

つまり、本気の公式戦。

 

『Please set your gunpla.』

 

各ファイターがガンプラをセットする。

 

ダリルバルデ。

 

ゼルクガンダム。

 

デスティニーガンダム アナザーシグムント。

 

ネロシナンジュ。

 

ガンダムヘビーアームズ改(EW)。

 

『Beginning Plavsky Particle dispersal. Field 07, Yokohama Urban District.』

 

バトルマシン内部でプラフスキー粒子が散布される。

 

空間が変わる。

 

先ほどまで何もなかったフィールドが一瞬で横浜の都市へ変化した。

 

高層ビル。

 

立体交差。

 

広い幹線道路。

 

高架。

 

ビルの屋上。

 

地下駐車場への入口。

 

そして、複雑な路地。

 

都市戦。

 

視界が遮られる。

 

長距離射撃だけでは決まらない。

 

近距離戦。

 

奇襲。

 

地形利用。

 

チームワーク。

 

全てが重要になる。

 

「FIELD 07」

 

実況が続く。

 

「横浜アーバンディストリクト!」

 

「都市型戦闘ステージです!」

 

客席が沸く。

 

そして。

 

『Battle Start.』

 

◆

 

開始と同時。

 

3機の横浜シティゲートが動いた。

 

「速い!」

 

千咲が声を上げる。

 

アナザーシグムントが先行。

 

ネロシナンジュがその後ろ。

 

ヘビーアームズ改(EW)は後方。

 

役割分担が明確だ。

 

「前が2人を引きつけて」

 

隆利が分析する。

 

「後ろからヘビーアームズが撃つ」

 

「うん」

 

恵里菜も頷く。

 

「完全に3人で組んでる」

 

そして、OGD。

 

「来た!」

 

恭一のダリルバルデが飛び出した。

 

両腕の武装を展開。

 

「和也、右!」

 

「了解!」

 

ゼルクガンダムが反対側へ。

 

GNソードIIを構える。

 

2機が横並びになる。

 

だが。

 

「撃ってきた!」

 

ヘビーアームズ改(EW)。

 

大量の火力が一斉に放たれる。

 

ミサイル。

 

ガトリング。

 

ビーム。

 

「避けろ!」

 

ダリルバルデがビルの陰へ。

 

ゼルクも滑り込む。

 

爆発が街路を覆う。

 

「うわ……」

 

千咲が思わず立ち上がる。

 

「やっぱ火力すごいなぁ」

 

「だけど!」

 

陽哉が言う。

 

「2人なら、まだいける!」

 

ゼルクが飛び出す。

 

GNバスターソードII。

 

一閃。

 

ネロシナンジュがビーム・アックスで受ける。

 

「……!」

 

互いに押し合う。

 

「そこ!」

 

和也が叫ぶ。

 

ダリルバルデのビット兵器が飛ぶ。

 

多方向から挟撃。

 

しかし、アナザーシグムントが割り込む。

 

「速い!」

 

隆利が叫ぶ。

 

黒いデスティニーが2機の間へ。

 

ビームを弾き。

 

反撃。

 

恭一が後退する。

 

「和也!」

 

「分かってます!」

 

ゼルクがGNガントレットを振る。

 

だが。

 

2対3。

 

やはり。

 

人数の差が大きい。

 

「くっ!」

 

和也が舌打ちする。

 

「囲まれる!」

 

◆

 

数分後。

 

OGDは完全に包囲されていた。

 

ダリルバルデ。

 

ゼルク。

 

2機。

 

対して。

 

3機。

 

前衛。

 

中衛。

 

後衛。

 

見事な布陣だった。

 

「うわ……」

 

恵里菜が息を呑む。

 

「完全に読まれてる」

 

涼音も腕を組む。

 

「数の差だけじゃないわね」

 

「連携がかなりいい」

 

あずみが続ける。

 

千咲は黙っている。

 

その目。

 

少しずつ鋭くなっている。

 

「…………」

 

フィールドではダリルバルデが被弾。

 

「恭一さん!」

 

和也が助けに向かう。

 

しかし、そこへアナザーシグムント。

 

黒い機体が横から斬り込む。

 

「しまっ――」

 

ダリルバルデが吹き飛ぶ。

 

建物へ激突。

 

「Damage critical!」

 

システムが表示する。

 

「恭一!」

 

「まだいける!」

 

恭一はすぐに立て直す。

 

しかし、後方からネロシナンジュ。

 

ビーム・ライフル。

 

そして。

 

ヘビーアームズ。

 

一斉射撃。

 

「ぐっ……!」

 

ダリルバルデ。

 

ゼルク。

 

共に大きく損傷。

 

そして、ゼルクの右肩が吹き飛んだ。

 

「和也!」

 

「まだだ!」

 

和也が叫ぶ。

 

GNソードIIを構える。

 

そしてトランザム。

 

機体が赤く輝く。

 

「GN Buster Cannon!」

 

GNバスターソードII。

 

巨大な砲撃を放つ。

 

ヘビーアームズが回避。

 

その隙にゼルクが突進。

 

ネロシナンジュへ接近。

 

「食らえ!」

 

斬撃。

 

「……!」

 

ネロシナンジュがビーム・サーベルで受ける。

 

「惜しい!」

 

陽哉が叫ぶ。

 

だが背後からアナザーシグムント。

 

「後ろ!」

 

千咲が叫ぶ。

 

黒い刃。

 

ゼルクが被弾。

 

さらにダリルバルデ。

 

三方向から攻撃。

 

「……っ!」

 

2機が同時に崩れた。

 

◆

 

数十秒後。

 

フィールドに2機が立っていた。

 

ダリルバルデ。

 

ゼルク。

 

しかしかなり損傷している。

 

対してシティゲート側は3機とも健在。

 

「…………」

 

会場の観客も勝負の行方をほぼ理解している。

 

そして最後の攻撃。

 

3機が同時に接近。

 

ダリルバルデの盾。

 

ゼルクのソード。

 

必死に迎え撃つ。

 

だが数が違う。

 

最後までその差を覆せなかった。

 

「…………」

 

システム音。

 

『Victory. Yokohama City Gate.』

 

スタジアムが沸く。

 

「横浜シティゲート!」

 

大歓声。

 

千咲は黙ったまま画面を見ていた。

 

「…………」

 

陽哉も。

 

「…………」

 

隆利も。

 

恵里菜も。

 

誰も。

 

何も言わなかった。

 

やがてバトルマシンから恭一と和也が出てくる。

 

「お疲れ様です」

 

涼音が声をかける。

 

恭一は苦笑した。

 

「やっぱ2人じゃ厳しいな」

 

和也も。

 

「すみません」

 

「謝るな」

 

恭一が肩を叩く。

 

「今日できることはやった」

 

「でも……」

 

「勝負は勝負だ」

 

それでも。

 

千咲は。

 

2人を見る。

 

「……お疲れ様」

 

「千咲」

 

恭一が笑う。

 

「来季は頼むぞ」

 

千咲は。

 

「うん」

 

頷いた。

 

そして、その時背後から声。

 

「いやぁ」

 

「まさか、あれだけ人数差があっても負けるとは思わなかったわ」

 

振り返る。

 

萩島夏樹。

 

その隣。

 

兵藤玲音。

 

「…………」

 

陽哉の顔が険しくなる。

 

「お前……」

 

夏樹は笑う。

 

「久しぶりだな、新堂」

 

「…………」

 

「いや」

 

夏樹はアナザーシグムントを指差した。

 

「どうだった?」

 

陽哉の目が細くなる。

 

「何が?」

 

「俺のデスティニー」

 

「…………」

 

「お前のシグムントを研究して作ったんだ」

 

陽哉は黙った。

 

「似てたろ?」

 

玲音が笑う。

 

「めちゃくちゃ似てたよな」

 

千咲はその2人を見る。

 

「…………」

 

夏樹は続ける。

 

「まあ、所詮」

 

「本物を使ってるだけのお前より」

 

「俺の方が上になるけどな」

 

陽哉の拳がぎゅっと握られる。

 

「……そういうことか」

 

「ん?」

 

「お前」

 

陽哉が低い声で言う。

 

「まだ根に持ってんのか」

 

「何の話?」

 

「全日本」

 

夏樹が笑う。

 

「ああ」

 

そして。

 

「当然だろ」

 

「……」

 

「俺はお前に負けた」

 

夏樹の目が細くなる。

 

「だから」

 

「今度は俺が勝つ」

 

「来季な」

 

「…………」

 

陽哉は何も言わなかった。

 

◆

 

玲音が口を挟む。

 

「でもさぁ」

 

OGDのメンバーを見回す。

 

「OGDも大変だよな」

 

「前半戦は3位だったんだろ?」

 

「それが今14位」

 

「笑っちゃうよな」

 

「…………」

 

涼音の表情が変わる。

 

「ちょっと」

 

玲音は止まらない。

 

「主力4人に逃げられて」

 

「新しいのもまだ試合出られない」

 

「これじゃ、来年も大したことないだろ」

 

「おい」

 

恭一が前へ出ようとする。

 

千咲が手を上げた。

 

「いいよぉ」

 

「千咲?」

 

恭一が振り返る。

 

千咲は笑っていた。

 

いつもの眠そうな笑顔。

 

「言いたいことはそれだけぇ?」

 

「…………」

 

夏樹も玲音も少し意外そうにする。

 

千咲は続ける。

 

「もっと言ってもいいんだよぉ?」

 

「…………」

 

「来シーズンになったら」

 

千咲の笑顔がほんの少し変わった。

 

「もう言えなくなるんだしぃ」

 

そして。

 

「……ふふっ」

 

笑う。

 

陽哉が。

 

「千咲……」

 

その声。

 

普段とは違う。

 

「…………」

 

千咲は笑っている。

 

けれど内心完全に煮えくり返っていた。

 

OGDを見下す。

 

仲間だった人間を自分たちの都合で引き抜いて。

 

チームの後半戦をめちゃくちゃにして。

 

そのうえ、今笑いながら元いたチームを侮辱している。

 

「…………」

 

千咲は拳を握っていた。

 

爪が手のひらに食い込む。

 

「こいつら……」

 

心の中で。

 

「本当に……」

 

千咲自身、自分でも驚くほど怒っていた。

 

普段なら嫌いな人間がいても。

 

「まあ、いいかぁ」

 

そうやって流す。

 

でも今だけは流せない。

 

「…………」

 

夏樹が笑う。

 

「強がりか?」

 

「別にぃ」

 

千咲は答える。

 

「本当のこと言ってるだけぇ」

 

玲音が。

 

「へぇ?」

 

「じゃあ来季、楽しみだな」

 

「うん」

 

千咲が。

 

「楽しみだねぇ」

 

「お前、何笑ってんだよ」

 

「何でぇ?」

 

「舐めてんのか?」

 

「別に」

 

千咲は相変わらず笑顔。

 

「来季になったら」

 

「…………」

 

「ボクたちも試合に出られるからぁ」

 

「…………」

 

「その時はよろしくねぇ」

 

◆

 

その瞬間、別の声がした。

 

「おやおや」

 

3人が振り返る。

 

黒いスーツ。

 

横浜シティゲートのスタッフ。

 

そして、その中央に権藤慶介。

 

横浜シティゲートのオーナー。

 

権藤はOGDのメンバーを一通り見た。

 

「なるほど」

 

「随分と威勢がいい」

 

千咲は権藤を見る。

 

「…………」

 

「横浜シティゲートは」

 

権藤が言う。

 

「これからもっと強くなる」

 

「そして」

 

「OGDのような地方の小規模クラブには」

 

「到底追いつけない」

 

恭一が眉をひそめる。

 

「地方だから弱い、とは限らないでしょう」

 

権藤は鼻で笑った。

 

「理想論ですな」

 

「私はビジネスで考えている」

 

「勝てないものに価値はない」

 

陽哉が。

 

「……そういう考えか」

 

権藤の視線が千咲へ向く。

 

「ああ」

 

そして、その顔に少しだけ嫌な笑みが浮かんだ。

 

「おやおや」

 

「これはこれは」

 

千咲を見る。

 

「いつぞやは世話になったね、小原千咲君」

 

「…………」

 

千咲、少し首を傾げる。

 

「おじさん」

 

権藤。

 

「……何だ?」

 

千咲。

 

「誰ぇ?」

 

「…………」

 

周囲が一瞬凍った。

 

玲音。

 

「……は?」

 

夏樹。

 

「…………」

 

陽哉は思わず顔を伏せる。

 

「……おい」

 

権藤の顔。

 

真っ赤になる。

 

「こ、このガキ!!」

 

一歩前へ出る。

 

その瞬間、隣にいた秘書が慌てて腕を掴む。

 

「社長!」

 

「離せ!」

 

「ここは試合会場です!」

 

「しかし!」

 

「マスコミもいます!」

 

権藤は歯を食いしばる。

 

千咲はきょとん。

 

「……怒ってるぅ?」

 

「当たり前だろうが!」

 

権藤が叫ぶ。

 

「あなたには……!」

 

秘書がさらに引っ張る。

 

「社長! お戻りください!」

 

権藤は最後に千咲を睨む。

 

「……覚えていろ」

 

千咲は首を傾げる。

 

「何をぉ?」

 

「…………!」

 

権藤はそのまま去っていった。

 

夏樹、玲音もその後を追う。

 

◆

 

しばらく誰も喋らなかった。

 

やがて。

 

陽哉が

 

「…………お前」

 

千咲が

 

「んー?」

 

「本当に覚えてないのか?」

 

「何がぁ?」

 

「権藤」

 

「うん」

 

即答。

 

「知らない人」

 

「いや……」

 

隆利が苦笑する。

 

「向こうは明らかに千咲を知ってましたけど」

 

「そうなの?」

 

「そうだろ」

 

恵里菜も笑う。

 

「ちぃ、相変わらずだね」

 

千咲は。

 

首を傾げた。

 

「まあ」

 

少しだけ目を細める。

 

「でも」

 

「ん?」

 

千咲は、去っていった横浜シティゲートを見る。

 

「…………」

 

目つきが変わった。

 

「覚えたよぉ」

 

陽哉が聞く。

 

「何を?」

 

千咲が答える。

 

「横浜シティゲート」

 

「…………」

 

「ここは」

 

一拍。

 

「対戦相手じゃなくて」

 

「…………」

 

「敵だねぇ」

 

誰も、その言葉に反論しなかった。

 

◆

 

帰りのバス。

 

OGD一行は静かだった。

 

試合には負けた。

 

それは覆せない。

 

恭一と和也は力を尽くした。

 

でも2対3。

 

数的不利。

 

仕方のない部分もある。

 

だが、千咲の頭には別のことが残っていた。

 

夏樹。

 

玲音。

 

権藤。

 

そして、横浜シティゲート。

 

「…………」

 

窓の外。

 

横浜の街。

 

千咲はぼんやり見ている。

 

陽哉が隣に座る。

 

「なあ」

 

「んー?」

 

「怒ってるだろ」

 

「…………」

 

千咲は少し黙る。

 

「うん」

 

「珍しいな」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

陽哉が笑う。

 

「お前があんな顔するの」

 

千咲は自分の手を見る。

 

「別に」

 

「…………」

 

「ボク、普段は怒らないけどぉ」

 

「うん」

 

「仲間を馬鹿にされるのは」

 

少し言葉を区切る。

 

「嫌なんだよぉ」

 

陽哉は黙った。

 

「…………」

 

千咲は窓の外を見る。

 

「それに」

 

「うん?」

 

「ボクの方が強いって」

 

陽哉が笑った。

 

「そうだな」

 

「だから」

 

千咲は。

 

目を閉じた。

 

「来季」

 

「…………」

 

「全部返すよぉ」

 

◆

 

その夜、OGDの宿泊先。

 

千咲は部屋へ戻る。

 

ベッドに座る。

 

そして、今日の試合を思い出す。

 

恭一。

 

和也。

 

2人とも精一杯やった。

 

それでも負けた。

 

なら次は、自分たちが戦う番。

 

ヴァルキリーガンダム

 

デスティニーガンダムインフィニティ

 

ガンダムシャウラ

 

アドヴァンスド・バーザムⅡ

 

まだ完成していないものもある。

 

けれど来季自分たちは、正式にJGLで戦える。

 

「…………」

 

千咲は窓の外を見る。

 

「待っててねぇ」

 

誰に向かってでもなく呟く。

 

「横浜シティゲート」

 

そして小さく笑う。

 

「次は」

 

「ボクたちの番だからぁ」

 

◆

 

同じ頃。

 

横浜シティゲートのチームエリア。

 

権藤は秘書から資料を受け取っていた。

 

「小原千咲……」

 

写真。

 

戦績。

 

これまでの記録。

 

権藤はその名前を睨む。

 

「私を忘れているだと……?」

 

「社長」

 

秘書が言う。

 

「ここは冷静に」

 

「私は冷静だ」

 

しかし手には力が入っていた。

 

「来季」

 

権藤は小さく呟く。

 

「必ず潰す」

 

その横では夏樹と玲音が談笑している。

 

自分たちがどんな相手を敵に回したのか。

 

この時点では、まだ誰も本当の意味では理解していなかった。

 

◆

 

そして。

 

4月下旬。

 

第30節。

 

横浜シティゲートは勝利した。

 

OGD沼津は敗れた。

 

順位表に大きな変化はない。

 

だがこの試合を境に両チームの関係は大きく変わった。

 

ただのリーグ戦の対戦相手ではない。

 

互いを倒すべき相手として認識した。

 

特に。

 

小原千咲。

 

その瞳には普段にはない静かな怒りが宿っていた。

 

それは今まで誰も見ることがなかった。

 

「怒れる瞳」

 

そして来季その瞳が実際のバトルで向けられる時、横浜シティゲートは初めて気づくことになる。

 

自分たちが誰を敵に回したのかを。

 

 




次回予告



横浜シティゲートとの試合から数日。

学校ではいつものようにAqoursの練習が行われていた。

千歌

曜

梨子

ルビィ

花丸

そして、千咲。

5人の練習を手伝っているうちに、千咲と花丸は、廊下へ飲み物を買いに出ることになる。

その途中。

「…………」

何か気配がする。

清掃用具入れ。

花丸も気づいた。

「千咲君……」

「うん」

千咲は扉を見る。

そして…

「だーれだぁ!」

勢いよく引き戸を開ける。

「きゃああああああああああああ!」

中から出てきたのは、津島善子。

「…………」

千咲。

「…………」

花丸。

なぜそこにいるのか。

話を聞けば、学校へ来たのはいい。

でも、教室へ入るのが怖かった。

だから、清掃用具入れに隠れていた。

「みんな、バカにしてるんでしょ!」

しかし実際は違う。

みんな心配していた。

そして、善子は千咲と花丸へあるお願いをする。

「よし!」

「まだいける!」

「まだやり直せるわ!」

「今から普通の生徒でいければ……!」

「ズラ丸、小原、お願いがあるの……」

そして。

「もし私が……その」

一瞬言葉に詰まり。

「堕天使を出しそうになったら」

善子は真剣な顔で

「全力で止めてほしいの!」

次回、第12話「ヨハネ堕天」

千咲と花丸。

2人の前に。

ついに、ヨハネが堕天する。

お楽しみに。






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