ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

前回は、第30節の横浜シティゲート戦を挟み、ガンプラバトル側の物語が大きく動きました。

OGD沼津は惜しくも敗戦。

そして、かつての仲間だった萩島夏樹と兵藤玲音、さらには横浜シティゲートのオーナー・権藤慶介とも直接顔を合わせることになりました。

一方、今回から再び物語の中心は浦の星女学院へ。

そして、ついに、あの「堕天使」が帰ってきます。

そう津島善子……ではなく。

堕天使ヨハネ。

ただし、今回の善子はこれまでとは少し違います。

「もう、普通の女子高生になる」

そう決めて学校へ戻ってきたものの。

果たして、本当に普通になれるのでしょうか。

そんな善子の前に現れるのが、千咲と花丸。

さらに、千咲が善子へ向ける言葉によって、物語は意外な方向へ進みます。

そして、今回は千咲と善子の「過去」にも触れます。

まだ幼かった頃。

公園で泣いていた一人の女の子。

その子に何気なく声をかけた、金髪の少女。

それが、今の2人を繋ぐ記憶でした。

さらに今回は、Aqoursの新メンバーとなった善子が、いきなり自分の個性を全開にします。

そして千咲もまたなぜか巻き込まれます。

「リトルデーモン5号」

一体、何のことなのでしょうか。

それでは第12話「ヨハネ堕天」をどうぞ。



前回の-Sailing to the Sunshine!!-

Aqoursにルビィと花丸が加わり、メンバーは5人になった。

その一方で、千咲はJGLの試合で横浜シティゲートと対戦。

試合後、横浜シティゲートの選手たちはOGDに対して侮辱的な言葉を浴びせる。

千咲は、そんな彼らの態度に怒りを覚えながらも、その場では感情を抑える。

さらに、横浜シティゲートの背後にいる権藤ホーム株式会社と権藤という男の存在を知ることになる。

そして学校では。

謎の堕天使少女が、インターネット上でひっそりと活動を始めていた。




第12話「ヨハネ堕天」

午前0時37分。

 

ホテルオハラ

 

千咲の部屋。

 

部屋の明かりは落とされている。

 

ベッドの上。

 

千咲は布団に包まりながら、スマートフォンの画面を見つめていた。

 

「…………」

 

画面はライブ配信中。

 

黒い背景。

 

蝙蝠。

 

魔法陣。

 

怪しげな光。

 

そして、その中央にいる一人の少女。

 

「感じます……」

 

千咲は瞬きをする。

 

「……」

 

『精霊結界の損壊により、魔力構造が変化していくのが……』

 

少女は目を閉じ、片手を胸元へ。

 

『世界の趨勢が天界議決により決していくのが……』

 

千咲は、誰なのか分かっている。

 

津島善子

 

いや、本人曰く「ヨハネ」

 

『果の約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!』

 

善子が片目を開く。

 

カメラを見る。

 

『全てのリトルデーモンに授ける――』

 

一拍。

 

『堕天の力を!』

 

画面の中。

 

ドンッ。

 

何かよく分からない演出。

 

コメント欄が猛烈な勢いで流れていく。

 

「……」

 

千咲は、しばらく無言だった。

 

そして。

 

「……なんか癖になりそうだよぉ」

 

自分でも少し意外なことを言った。

 

もう一度、配信を見る。

 

善子が生き生きと喋っている。

 

学校にいた時とは、明らかに違う。

 

「……楽しそうだねぇ」

 

千咲は小さく笑う。

 

そのまま配信を最後まで見てしまった。

 

時計を見る。

 

「……2時かぁ」

 

欠伸。

 

「明日、学校だよぉ……」

 

そう言いながら。

 

「まあ、いいかぁ」

 

スマートフォンを枕元へ置き。

 

千咲は布団へ潜り込んだ。

 

数秒後。

 

「……眠い」

 

そして、そのまま眠りについた。

 

◆

 

翌朝。

 

浦の星女学院。

 

屋上。

 

「千咲君、眠そう」

 

曜が笑う。

 

「眠いよぉ……」

 

千咲は屋上のベンチに座っている。

 

目が半分しか開いていない。

 

「昨日遅くまで何してたの?」

 

梨子が聞く。

 

「ちょっと動画見てたぁ」

 

「何の動画?」

 

千歌が興味津々で近寄る。

 

「秘密ぅ」

 

「えー!」

 

「秘密は秘密ぅ」

 

千咲は欠伸をする。

 

「ふぁぁ……」

 

「大丈夫?」

 

ルビィが心配そうにする。

 

「大丈夫だよぉ」

 

「全然大丈夫に見えないずら」

 

花丸も苦笑する。

 

「まあ、練習には付き合えるからぁ」

 

「じゃあ、いくよー!」

 

千歌が声をかける。

 

Aqoursの6人。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

善子。

 

そして。

 

その練習に付き合う千咲。

 

6人が動く。

 

「1、2、3、4!」

 

千咲は眺めている。

 

欠伸。

 

「……ふぁぁ」

 

「千咲君!」

 

千歌が振り返る。

 

「寝ないでよ!」

 

「寝てないよぉ」

 

「目閉じてる!」

 

「省エネぇ」

 

「それ寝てるの!」

 

みんなが笑う。

 

その時、花丸が手を上げた。

 

「マル、飲み物買ってくるずら」

 

「ボクも行くよぉ」

 

「ありがとうずら」

 

2人は屋上を出た。

 

◆

 

廊下。

 

「今日は暑いずら」

 

「うん」

 

「千咲君、昨日何時に寝たの?」

 

「2時ぐらい」

 

「何してたずら?」

 

千咲は少し考える。

 

「……ヨハネちゃんの配信」

 

花丸が。

 

「……」

 

立ち止まる。

 

「千咲君」

 

「ん?」

 

「今、なんて言ったずら?」

 

「ヨハネちゃんの配信見てたぁ」

 

花丸は頭を抱える。

 

「……やっぱり」

 

「何がぁ?」

 

「最近、善子ちゃんあんなことしてるずらよね……」

 

「うん」

 

「何で見てるずら……」

 

「なんか癖になりそうだったからぁ」

 

「……千咲君まで」

 

花丸はため息。

 

その時。

 

千咲の足が止まった。

 

「……ん?」

 

「どうしたずら?」

 

千咲は。

 

廊下の端を見る。

 

清掃用具入れ。

 

引き戸。

 

「……何かいるよぉ」

 

花丸も耳を澄ます。

 

「……?」

 

小さな音。

 

「……今、音したずら」

 

千咲が近づく。

 

「だーれだぁ!」

 

ガラッ!!

 

引き戸が開く。

 

「きゃああああああああああああ!」

 

中から。

 

誰かが転がり出てきた。

 

「…………」

 

千咲。

 

「…………」

 

花丸。

 

「…………」

 

善子。

 

善子は床にしゃがみ込んだまま。

 

しばらく固まっていた。

 

「……どうして……」

 

「ん?」

 

「どうして見つかるのよ……」

 

千咲は首を傾げる。

 

「気配がしたからぁ」

 

「何その野生動物みたいな感知能力!」

 

「知らないよぉ」

 

花丸は。

 

「善子ちゃん……」

 

「来ないで!」

 

善子が叫んだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

善子は、少しだけ顔を伏せる。

 

「……学校には来たの」

 

「うん」

 

「でも……」

 

「…………」

 

「教室に入れない」

 

花丸が近づく。

 

「どうして?」

 

「みんなが……」

 

善子は拳を握った。

 

「私のこと、バカにしてるんでしょ!」

 

「そんなことないずら!」

 

「嘘!」

 

「本当だよぉ」

 

千咲が言う。

 

「誰もバカにしてない」

 

「…………」

 

「みんな心配してたよぉ」

 

「……本当に?」

 

「うん」

 

「…………」

 

善子は黙った。

 

花丸が続ける。

 

「ルビィちゃんも」

 

「…………」

 

「毎日、善子ちゃんどうしてるかなって言ってたずら」

 

「…………」

 

千咲も。

 

「千歌先輩たちもだよぉ」

 

「…………」

 

「昨日なんて、何度も善子ちゃんの話してた」

 

善子の目が少し揺れる。

 

「…………」

 

「だから」

 

千咲は小さく笑う。

 

「戻ってきてもいいと思うよぉ」

 

善子はしばらく黙った。

 

そして。

 

「よし!」

 

突然顔を上げる。

 

「まだいける!」

 

「……?」

 

「まだやり直せるわ!」

 

善子は拳を握る。

 

「今から普通の生徒でいければ……」

 

花丸が

 

「善子ちゃん……」

 

善子は2人を見る。

 

「ズラ丸」

 

「はいずら」

 

「小原」

 

「んー?」

 

「お願いがあるの……」

 

「何ぃ?」

 

善子は少しだけ恥ずかしそうに。

 

「もし私が……その」

 

「…………」

 

「堕天使を出しそうになったら」

 

「…………」

 

「全力で止めてほしいの!」

 

花丸と千咲は顔を見合わせた。

 

「…………」

 

千咲が

 

「まあ……」

 

「…………」

 

「できる範囲でぇ」

 

「そこは全力って言いなさいよ!」

 

◆

 

こうして、善子は「普通の女子高生」を目指す生活を始めた。

 

「おはようございます」

 

「お、おはよう」

 

「今日はいい天気ですね」

 

「そうね……」

 

善子は必死だった。

 

なるべく普通。

 

なるべく目立たない。

 

なるべく「ヨハネ」を出さない。

 

千咲と花丸も善子を見守る。

 

「今のところ普通だねぇ」

 

「うん」

 

「このままいけるかな?」

 

「……たぶん」

 

ところが昼休み…

 

◆

 

「…………」

 

ルビィが申し訳なさそうに部室へ戻ってきた。

 

「どうしたの?」

 

千歌が聞く。

 

「善子ちゃんが……」

 

「何したの?」

 

曜が聞く。

 

ルビィは困った顔。

 

「えとね……」

 

「クラスの子に『趣味は何?』って聞かれて」

 

「うん」

 

「善子ちゃんが『占いです』って言って」

 

「うん……」

 

「そしたらクラスのみんなが『占って!』って」

 

花丸が

 

「……それなら、むしろチャンスずらよね?」

 

「そう思ったんだけど……」

 

ルビィは苦笑。

 

「そこから……」

 

◆

 

教室。

 

まるで小さな怪しい集会。

 

机の中央。

 

蝋燭。

 

黒い布。

 

魔法陣。

 

黒いローブ。

 

そして善子。

 

「…………」

 

千咲は教室の入口で固まっていた。

 

花丸も。

 

「マルも、まさか善子ちゃんがあんな物を持ってきてるなんて思わなかったズラ……」

 

「やっちゃったねぇ……」

 

善子は完全に入っていた。

 

「感じる……!」

 

「ここに集いし運命の輪が!」

 

クラスメイトはむしろ面白がっている。

 

「すごい!」

 

「占って!」

 

「ヨハネちゃん、何か見て!」

 

「ヨハネよ!」

 

善子が勢いよくローブを翻す。

 

「堕天の時が来たのです!」

 

「…………」

 

千咲が呆れながら、

 

「……全力で止めるって言ったよねぇ」

 

花丸も

 

「言ったずら……」

 

「全然止まってないねぇ」

 

「止められなかったずら」

 

その時。

 

「善子ちゃん!」

 

千歌たちが入ってくる。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

「…………」

 

3人。

 

「…………」

 

善子。

 

「…………」

 

千咲。

 

しばらく誰も何も言わなかった。

 

千歌がスマートフォン画面を見せる。

 

昨夜のあの配信。

 

善子が「ヨハネ」として喋っている。

 

千歌の目が輝く。

 

「これ……!」

 

曜が千歌を見つめる。

 

「千歌ちゃん?」

 

「これだよ、みんな!!」

 

梨子が不思議がる。

 

「何が?」

 

千歌が善子を指差す。

 

「津島善子ちゃん!」

 

「…………」

 

善子がやや引き気味に

 

「私?」

 

千歌は満面の笑み。

 

「私たちと一緒に、スクールアイドルやりませんか!?」

 

「――は?」

 

善子、完全停止。

 

「い、嫌よ!」

 

「なんで!?」

 

「なんで私がそんな、キラキラしたリア充の極みみたいな部活を……!」

 

千咲が善子を見る。

 

「ねぇ、ヨハネちゃん」

 

「その呼び方やめて!」

 

「スクールアイドルをやればぁ」

 

「…………」

 

「自分の衣装やコンセプトをプロデュースして」

 

「…………」

 

「堂々と『堕天使ヨハネ』としての世界観を表現しても」

 

善子の目が少しずつ変わる。

 

「誰にも笑われないよぉ」

 

「…………」

 

「それどころか」

 

「…………」

 

「周囲の目は」

 

千咲は少しだけ笑った。

 

「『あいつはブレない世界観を持った凄いスクールアイドルだ』って評価に変わるかもぉ」

 

「…………」

 

善子が少し考える。

 

「変な目で見られるどころかぁ」

 

「…………」

 

「これ以上ないほど輝いている普通の女子高生にぃ」

 

「…………」

 

「ヨハネちゃんの言う『リア充』のトップ層にぃ」

 

一拍。

 

「一気に躍り出られるチャンスだよぉ?」

 

善子。

 

「…………」

 

「リア充のトップ層……」

 

目が輝いた。

 

「…………」

 

そして。

 

「悪くない響きね……」

 

千咲が畳みかける。

 

「でしょう?」

 

善子は高笑い。

 

「くっくっく……」

 

片手を顔の前へ。

 

「いいでしょう!」

 

「……!」

 

「そこまで言うなら」

 

善子は胸を張る。

 

「仮入部という形で、この私の漆黒の魔力を少しだけ貸してあげてもよくってよ!」

 

「やったぁぁーっ!」

 

千歌が善子へ抱きつく。

 

「ヨハネちゃん加入ーっ!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「やった!」

 

「離しなさい!」

 

曜と梨子も笑っている。

 

花丸は少しだけ安心したように笑った。

 

ルビィも嬉しそう。

 

千咲はその様子を眺める。

 

「…………」

 

そして。

 

(これなら、Aqoursにとっていい刺激になるかもねぇ)

 

そう思った。

 

◆

 

数日後。

 

千歌の部室。

 

「今日は!」

 

千歌がカメラを持っている。

 

「ヨハネちゃんを中心にした動画を撮ります!」

 

「ついに!」

 

善子が嬉しそうに立ち上がる。

 

「我が力を世に知らしめる時が来たのね!」

 

「そう!」

 

6人はゴスロリ風の衣装を身につけている。

 

黒いレース。

 

リボン。

 

羽。

 

それぞれ少しずつデザインが違う。

 

「似合ってる!」

 

曜が言う。

 

「ルビィちゃん、かわいい!」

 

「ぅゅ……」

 

「花丸も似合ってるずら」

 

「ありがとずら」

 

善子は。

 

「これよ!」

 

完全にノリノリ。

 

そして部屋の隅。

 

なぜかもう1人黒い衣装を着ている。

 

「…………」

 

千咲だ。

 

「…………」

 

「……何でボクもぉ?」

 

千歌が当然のように答える。

 

「千咲君はAqoursのメンバーじゃん!」

 

「入った覚えはないよぅ」

 

「細かいことはいいの!」

 

「細かいかなぁ?」

 

「そう!」

 

千咲はため息。

 

「……じゃあ」

 

少し考えて。

 

「陽哉も着てよぉ」

 

別室から。

 

「いやだよ、誰得だよ!」

 

即答。

 

千咲が胸を張りながら

 

「ボク得ぇ」

 

「お前しか得しねえだろ!」

 

「残念」

 

千歌が笑う。

 

「じゃあ撮影始めよう!」

 

◆

 

カメラが回る。

 

千歌。

 

「はい、スタート!」

 

善子が一歩前へ。

 

「我が名は堕天使ヨハネ!」

 

決めポーズ。

 

「この世に蔓延る闇を統べる者!」

 

曜。

 

「すごい……」

 

梨子。

 

「本当に楽しそうね」

 

花丸。

 

「善子ちゃん、嬉しそうずら」

 

そして。

 

リトルデーモン紹介へ。

 

「ヨハネ様のリトルデーモン四号!」

 

ルビィが恥ずかしそうに前へ出る。

 

「黒澤ルビィです……」

 

頬を赤くしながら。

 

「可愛がってね!」

 

「かわいい!」

 

千歌が言う。

 

善子も満足そう。

 

そして、次。

 

「リトルデーモン五号!」

 

千歌が声をかける。

 

千咲が呆然と千歌を見る。

 

「…………」

 

「ボク?」

 

「そう!」

 

「まだやるのぉ?」

 

「もちろん!」

 

千咲は諦めた。

 

カメラの前へ。

 

「ヨハネ様のリトルデーモン五号」

 

少し欠伸。

 

「小原千咲だよぉ……」

 

「…………」

 

そしてにっこり。

 

「よろしくねぇ」

 

「カット!」

 

千歌が叫ぶ。

 

「完璧!」

 

善子も。

 

「フフフ……ついに我が配下が増えたわ!」

 

千咲が呆れながら

 

「配下っていうか、ただの巻き込まれだよぉ」

 

全員が笑う。

 

◆

 

その日の夜、動画は編集された。

 

Aqours

 

「堕天使ヨハネ」を前面に出した動画。

 

そしてネットへアップロード。

 

「…………」

 

再生数。

 

コメント。

 

ランキング。

 

どんどん数字が伸びていく。

 

「すごい!」

 

千歌が喜ぶ。

 

「ランキング上がってる!」

 

「本当に?」

 

曜がスマートフォンを見る。

 

「すごい!」

 

梨子も。

 

「一気に上がってる……」

 

ルビィも。

 

「ヨハネちゃん、すごい!」

 

花丸も。

 

「善子ちゃん、人気ずら!」

 

善子は。

 

「当然よ!」

 

千咲は。

 

「…………」

 

「まあ」

 

少し笑う。

 

「良かったねぇ」

 

◆

 

翌日。

 

理事長室。

 

Aqours全員。

 

そして。

 

千咲。

 

鞠莉。

 

そして。

 

ダイヤ。

 

鞠莉はスマートフォンを握って食い入るように動画を見ていた。

 

「…………」

 

動画。

 

ルビィ。

 

『ヨハネ様のリトルデーモン四号、黒澤ルビィです……』

 

「ワァオ!」

 

鞠莉が

 

「プリティーボンバーヘッド!!」

 

ルビィが恥ずかしがりながら。

 

「ぅゅ……」

 

顔が真っ赤。

 

そして千咲の番。

 

『ヨハネ様のリトルデーモン五号、小原千咲だよぉ……』

 

「いぃ……」

 

鞠莉の目が輝く。

 

「非常に良き!!」

 

「鞠莉ちゃん…?」

 

「これは永久保存版ね!!」

 

「やめてよぉ……」

 

「私の墓に入れてちょうだい!!」

 

「アホですか、あなたは!!」

 

パシン!!

 

ダイヤが鞠莉の頭をはたく。

 

「痛い!」

 

「一時的な話題性に頼るなど、スクールアイドルに対する冒涜ですわ!」

 

千歌がスマートフォンを見せな画に反論する。

 

「でも!ランキングは上がってますし!」

 

「では」

 

ダイヤがスマートフォンを取り出す。

 

「もう一度見てごらんなさい」

 

千咲が。

 

「ボクが見るの?」

 

「ええ」

 

千咲が画面を見る。

 

「…………」

 

ランキング。

 

「…………」

 

さらに確認。

 

「…………」

 

「下がってるねぇ」

 

「えっ!?」

 

千歌が慌てる。

 

曜も。

 

「本当だ!」

 

梨子も。

 

「昨日より下がってる……」

 

花丸も。

 

「珍しさで一時的に上がっただけずら……」

 

ルビィも。

 

「そんな……」

 

善子は。

 

「…………」

 

黙り込む。

 

ダイヤは静かに、しかし厳しく言う。

 

「本気で目指すのなら」

 

Aqours全員を見る。

 

「もう一度、自分たちの頭でゼロから考えることですわ」

 

「…………」

 

誰も反論できない。

 

千歌も。

 

曜も。

 

梨子も。

 

ルビィも。

 

花丸も。

 

そして。

 

善子も。

 

ただ俯いていた。

 

◆

 

その日の帰り。

 

善子は何も言わなかった。

 

千歌たちが声をかけても笑わない。

 

やがて。

 

「……もう」

 

善子は立ち止まった。

 

「私」

 

千歌が振り返る。

 

「善子ちゃん?」

 

「やめる」

 

「え?」

 

善子は目を逸らした。

 

「スクールアイドル」

 

「そんな……!」

 

千歌が近づく。

 

でも善子は。

 

「私には無理なのよ」

 

そう言って、その場を去った。

 

千咲は何も言わなかった。

 

ただ、その背中を見ていた。

 

◆

 

翌朝。

 

善子の部屋。

 

ピンポーン。

 

善子の母親が玄関へ。

 

「はい?」

 

「こんにちはぁ」

 

「あなたは……」

 

「善子ちゃんと同じクラスの小原千咲ですぅ」

 

「善子のお友達ね」

 

「はぁい」

 

「善子なら部屋にいるわ」

 

「入ってもいいですかぁ?」

 

「どうぞ」

 

千咲は家の中へ。

 

善子の部屋。

 

扉の前。

 

「ヨーハネちゃーん」

 

「…………」

 

返事なし。

 

「ヨーハネちゃん」

 

「…………」

 

「起きてるぅ?」

 

ガチャ。

 

扉が開く。

 

「ちょっと!」

 

善子が。

 

「何であんたが家の中にいるのよ!!」

 

「だってぇ」

 

「…………」

 

「部屋の前まで行かないと」

 

「…………」

 

「ヨハネちゃん逃げそうな気がして」

 

「うぐっ」

 

図星だった。

 

「……朝早く出ようとしてたでしょ」

 

「…………」

 

「どこか遠くに行くつもりだった?」

 

「…………」

 

善子は答えない。

 

千咲は部屋を見回す。

 

そこには段ボール。

 

中には堕天使グッズ。

 

黒い羽。

 

衣装。

 

アクセサリー。

 

魔法陣。

 

いろいろ。

 

ゴミ捨て場に持っていこうとしていたようだ。

 

「…………」

 

千咲が言う。

 

「ヨハネちゃん」

 

「何よ」

 

「ボクはね」

 

床へ座る。

 

「ガンプラバトルが好きなんだぁ」

 

「…………」

 

「ボク、自分が好きなものについて話してる時」

 

「…………」

 

「すごく楽しい」

 

善子は黙っている。

 

「ヨハネちゃんも」

 

千咲は段ボールを見る。

 

「ヨハネちゃんである自分が好きでしょぉ?」

 

「…………」

 

「だから」

 

一拍。

 

「そのままのヨハネちゃんがいいと思うよぉ」

 

善子の目が揺れる。

 

「生配信のヨハネちゃん」

 

「…………」

 

「生き生きしてるもん」

 

「…………」

 

「ボクは好きだよぉ」

 

善子はしばらく何も言わなかった。

 

そして。

 

「でも……」

 

◆

 

その瞬間記憶が蘇った。

 

幼稚園。

 

公園。

 

小さな善子。

 

「私、堕天使なの!」

 

男子たち。

 

「また始まった!」

 

「堕天使なんていねえよ!」

 

「変なの!」

 

笑い声。

 

「…………」

 

男子たちは去っていった。

 

一人、公園に残る。

 

善子は泣いている。

 

「うぅ……」

 

そこへ小さな影。

 

金髪の女の子。

 

「どうしたのぉ?」

 

善子は涙を拭く。

 

「みんなバカにするの!」

 

「…………」

 

「私が堕天使だって言ってるの、バカにするの!」

 

金髪の少女は少し考える。

 

「堕天使?」

 

「うん……」

 

「なんかかっこいいねぇ!」

 

善子は目を見開く。

 

「…………」

 

「バカにしないの?」

 

「バカにしないよぅ」

 

少女は笑う。

 

「だって」

 

「…………」

 

「好きなものがあるって、素敵なことだよぉ」

 

善子は泣きながらその少女を見ていた。

 

◆

 

現在。

 

善子は目の前の千咲を見る。

 

喋り方。

 

声。

 

間の取り方。

 

どこか眠そう。

 

「…………」

 

善子は口を開く。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「あんたさぁ」

 

「うん」

 

「幼稚園の時に沼津の公園で」

 

「…………」

 

「泣いてる女の子と会わなかった?」

 

「泣いてる女の子ぉ…?」

 

「男子に堕天使だって馬鹿にされて」

 

「…………」

 

「泣きじゃくってる子」

 

千咲は少し考える。

 

「…………」

 

やがて。

 

「……あ」

 

千咲の目が少し大きくなる。

 

「覚えてるよぉ」

 

千咲は笑う。

 

「だってぇ、ボクと同い年っぽいのにぃ」

 

「…………」

 

「好きなものを見つけてるんだもん」

 

「…………」

 

「かっこいいって思ったよぉ」

 

「…………」

 

数秒。

 

「……あれ」

 

「ん?」

 

「……あんたかい!!」

 

「うん…」

 

「本当にあんた!?」

 

「えぇ?」

 

「じゃあ、ずっと……!」

 

千咲は首を傾げる。

 

「ヨハネちゃんだったのぉ?」

 

「そうよ!」

 

「そうだったんだぁ」

 

千咲は嬉しそうに笑う。

 

「大きくなったねぇ」

 

「…………」

 

「美人さんになったねぇ」

 

善子の頬が赤くなる。

 

「……あんたは親戚のおばさんか?」

 

「そうかなぁ?」

 

「そうよ!」

 

善子は少しだけ笑った。

 

◆

 

千咲は手を差し出した。

 

「みんな待ってるよぉ」

 

「…………」

 

その手を見つめる善子。

 

「…………」

 

恐る恐る手を重ねる。

 

「……行く」

 

2人は家を出た。

 

マンションの前。

 

そこには。

 

Aqours。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

全員待っていた。

 

千歌が善子を見る。

 

「善子ちゃん」

 

「…………」

 

「ステージの上で」

 

「…………」

 

「自分の『大好き』を迷わずに見せることなんだよ!」

 

善子は黙っている。

 

「お客さんにどう思われるかとか」

 

「人気がどうとかじゃない!」

 

千歌は一歩近づく。

 

「自分が一番好きな姿で」

 

「一番輝いてる姿を見せることなんだよ!」

 

「…………」

 

「だから!」

 

千歌が強く言う。

 

「善子ちゃんは『堕天使』を捨てちゃダメなんだよ!」

 

善子の目が揺れる。

 

「善子ちゃん自身が」

 

「…………」

 

「ヨハネちゃんを大好きな限り!」

 

「…………」

 

善子はゆっくり顔を上げた。

 

「……私」

 

「うん!」

 

「時々、本当に変なこと言うわよ?」

 

千歌が。

 

「いいよ!」

 

「時々、怪しげな儀式とかして」

 

「…………」

 

「学校に蝋燭とか持ち込むかもよ?」

 

梨子も。

 

「そのくらい」

 

一瞬ため息。

 

「私がいくらでも我慢して突っ込んであげるわ!」

 

善子が少しだけ笑う。

 

「リトルデーモンになれって」

 

「…………」

 

「毎日しつこく言うかもしれない……」

 

花丸が。

 

「それは……」

 

少し困る。

 

「でも」

 

善子を見る。

 

「本当に嫌だったら」

 

「…………」

 

「嫌だってマルははっきり言うズラ!」

 

「…………」

 

(マルちゃん、そこは……はっきり言っちゃダメだよぅ)

 

思わず心の中で突っ込む。

 

善子は思わず少し吹き出した。

 

「……ふふ」

 

そしてもう一度Aqoursを見る。

 

「分かったわ」

 

胸元へ手。

 

「もう、ヨハネを隠さない」

 

千歌が笑う。

 

「うん!」

 

「私、津島善子で」

 

「そして」

 

善子が少しだけ誇らしそうに笑う。

 

「堕天使ヨハネよ!」

 

「やったぁぁぁ!」

 

千歌が抱きつく。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

曜が笑う。

 

梨子も。

 

ルビィも。

 

花丸も。

 

そして。

 

千咲も。

 

「よかったねぇ」

 

善子は。

 

千咲を見る。

 

「…………」

 

その一言に。

 

胸が少しだけ高鳴った。

 

◆

 

学校。

 

放課後。

 

Aqours。

 

6人。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

善子。

 

そして、その近くに。

 

千咲。

 

「じゃあ!」

 

千歌が声を上げる。

 

「今日からまた頑張ろう!」

 

「うん!」

 

6人が声を合わせる。

 

「Aqours!」

 

善子も笑っている。

 

ヨハネとして。

 

自分の好きな自分を隠さない。

 

そして、それを受け入れてくれる仲間がいる。

 

千咲はその光景を見ながら。

 

少しだけ思った。

 

「…………」

 

これでいいんだろう。

 

無理に普通になる必要なんてない。

 

自分が好きな自分を好きでいればいい。

 

千咲自身もガンプラバトルが好き。

 

それを隠したことはない。

 

だから、善子もヨハネを好きでいていい。

 

「……まあ」

 

千咲は笑う。

 

「その方が、ヨハネちゃんらしいよぉ」

 

「聞こえてるわよ、千咲!」

 

「聞こえたぁ?」

 

「聞こえるに決まってるでしょ!」

 

「そっかぁ」

 

善子は呆れながら少し笑った。

 

その笑顔は今までよりずっと自然だった。

 

◆

 

夜。

 

善子の部屋。

 

机の上。

 

スマートフォン。

 

Aqoursのグループメッセージ。

 

千歌。

 

『明日から6人で練習だね!』

 

曜。

 

『よろしく、ヨハネ!』

 

梨子。

 

『ちゃんと学校来てね』

 

ルビィ。

 

『一緒に頑張ろうね!』

 

花丸。

 

『明日は早起きずら!』

 

そして。

 

千咲。

 

『今日はよく頑張ったねぇ』

 

善子はその文字をしばらく見ていた。

 

「…………」

 

胸の奥が何となく暖かい。

 

「……何よ」

 

誰もいない。

 

「……そんなこと言われたら」

 

頬が少し赤くなる。

 

「…………」

 

スマートフォンを胸元へ。

 

「……変なの」

 

けれど、口元は笑っていた。

 

そして、まだ名前のついていない小さな気持ちが胸の奥で静かに芽を出し始めていた。

 

それが恋だと善子が気づくのはもう少し先の話。

 

◆

 

翌朝。

 

浦の星女学院。

 

屋上。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

善子。

 

6人が並ぶ。

 

千咲もいつものように少し離れたところにいる。

 

「じゃあ、行くよ!」

 

千歌が声を上げる。

 

「せーの!」

 

6人が動き出す。

 

善子はもう隠れない。

 

「ヨハネ!」

 

千咲が。

 

「はいはい」

 

善子が笑う。

 

「何よ!」

 

「今日も元気だねぇ」

 

「当然よ!」

 

千咲も少しだけ笑った。

 

こうしてAqoursは、また新しい一歩を踏み出した。

 

そして彼女たちの物語は、次の段階へ進んでいく。

 

 




次回予告


善子が正式に加わり。

Aqoursは6人になった。

そして、以前よりも、さらに賑やかになったAqoursの活動。

歌

ダンス

練習

そして、

「もっとたくさんの人にAqoursを知ってもらおう!」

千歌が提案する。

そこで始まるのがPV制作。

6人で自分たちの魅力を映像にする。

そして、千咲も相変わらずAqoursのそばにいる。

千歌に何度も勧誘され続けた結果。

「もういいよぉ……」

と、ついには自分からAqoursのサブメンバーとして活動することになる。

そんな楽しい時間。

しかし、ある日千咲は理事長室へ呼び出される。

そこには鞠莉とダイヤ。

そして

「どの道、近いうちに生徒全員に言わなきゃいけないことだから」

鞠莉が静かに告げる。

「ここで千咲にも言っておくわ」

「…………」

「沼津の高校と統合して」

「浦の星女学院は」

「廃校になるの」

「…………」

千咲は何も言えなかった。

Aqoursがようやく動き始めたばかりなのに。

その舞台となる学校がなくなる。


次回、第13話「PV作っちゃおうかぁ」

新たな問題が、Aqoursの前に立ちはだかる。

お楽しみに。



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