ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!-   作:陽@曜花推し

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どうも、作者です。

前回、千歌たちAqoursのもとに東京で開催されるスクールアイドルイベント「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」から招待メールが届きました。

もちろん千歌たちは出場する気満々。

そして今回は、その出場を巡って鞠莉とダイヤが話し合うところから始まります。

一見すると、ただの東京遠征。

しかし、このイベントには、2年前に鞠莉、果南、ダイヤの3人がスクールアイドルとして立っていたという過去がありました。

そう、かつてのAqoursも、「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」に招待されていたのです。

そして、あのステージで、果南は歌わなかった。

それをきっかけに、Aqoursは解散。

鞠莉は海外へ留学。

ダイヤはスクールアイドルそのものを拒絶するようになった。

千咲にとっては、これまで断片的にしか知らなかった出来事です。

だからこそ、今回は「2年前に何があったのか」を千咲が少しずつ知っていく回になります。

そして最後。

千咲は、ある違和感に気づきます。

果南が、緊張して歌えなかった?

本当に?

果南ちゃんが?

いつも自分の手を引いて、迷うことなく前へ走っていた、あの果南が?

千咲が出す答えは、あくまで推測。

けれど、それなら、今まで聞いていたすべての話に辻褄が合う。

それでは、第15話「ボクの知らない2年前」をどうぞ。




前回の-Sailing to the Sunshine!!-

「夢で夜空を照らしたい」のPVが大きな反響を呼び、Aqoursのスクールアイドルランキングは一気に上昇した。

そんな中、千咲と陽哉はOGLへ呼び出される。

長い開発期間を経て、ついに完成した2機。

ZGMF-X540S ヴァルキリーガンダム。

そして、ZGMF-X42S/∞ デスティニーガンダムインフィニティ。

2人は完成した愛機の起動テストを行うことになる。

しかし千咲が選んだのは、誰もクリアしたことのない難易度MAXのGクエストだった。

大量の量産型MS。

そして最後に待ち受ける、三代目メイジン・カワグチのアメイジングレッドウォーリア。

千咲はクリムゾン・アヴァランチを、陽哉はシャイニングバーストシステムを発動。

最後はインフィニティブレイクによってレッドウォーリアを撃破し、見事ミッションをクリアする。

しかし、その代償として千咲は完全に力尽きてしまった。

そして翌朝。

千歌のスマートフォンに、一通の招待メールが届く。

「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」

Aqoursに、新たな舞台への招待が届いたのだった。



第15話「ボクの知らない2年前」

 

「……TOKYO SCHOOL IDOL WORLD、か」

 

その日の午後。

 

理事長室にPCの画面には、先ほど届いた招待メールが表示されていた。

 

千咲はソファに座りながら、その画面をぼんやり眺めている。

 

向かい側には鞠莉。

 

そして、その隣にはダイヤが座っていた。

 

3人ともいつものような明るい空気ではない。

 

特にメールに書かれたイベント名を見た瞬間から、鞠莉とダイヤの表情は少しだけ変わっていた。

 

「……」

 

千咲は、そんな2人を交互に見る。

 

「……何かあるのぉ?」

 

「え?」

 

鞠莉が顔を上げる。

 

千咲は首を傾げた。

 

「このメール見てからぁ、鞠莉ちゃんもダイヤちゃんも静かだからぁ」

 

「……」

 

ダイヤが小さく息を吐く。

 

「千咲さん」

 

「うん?」

 

「このイベントには……少しばかり、思うところがあるのです」

 

「思うところ?」

 

「ええ」

 

鞠莉が少しだけ苦笑する。

 

「実は…このイベント、私たちも昔、出たことがあるのよ」

 

千咲の目が。

 

少しだけ開く。

 

「……昔?」

 

「2年前」

 

「……」

 

「私たちが1年生だった頃」

 

鞠莉は。

 

モニターの文字を見つめる。

 

「私と、果南と、ダイヤ」

 

その名前が出た瞬間。

 

千咲の表情が変わった。

 

「……3人で?」

 

「そう」

 

鞠莉が頷く。

 

「スクールアイドルをやってたの」

 

「……」

 

そして、鞠莉が静かに告げる。

 

「あの時のグループ名は」

 

「Aqours」

 

千咲は何も言わなかった。

 

ただ、その名前だけを頭の中で繰り返した。

 

Aqours。

 

千咲が今知っているAqours。

 

千歌。

 

曜。

 

梨子。

 

ルビィ。

 

花丸。

 

善子。

 

そして。

 

過去のAqours。

 

鞠莉。

 

果南。

 

ダイヤ。

 

同じ名前。

 

「……そっかぁ」

 

ようやく出た言葉はそれだけだった。

 

ダイヤが静かに続ける。

 

「私たち3人も、あの頃はスクールアイドルとして活動していました」

 

「そして」

 

鞠莉が画面を見る。

 

「TOKYO SCHOOL IDOL WORLDに招待されたの」

 

「……」

 

千咲は少し前のめりになる。

 

「その時はぁ?」

 

「出たよ」

 

鞠莉の声が少しだけ低くなった。

 

「東京へ行った」

 

「ステージに立った」

 

「でも……」

 

そこで言葉が止まる。

 

ダイヤが鞠莉を見る。

 

そして、鞠莉がゆっくり口を開く。

 

「本番で」

 

「果南が歌わなかったの」

 

「……え?」

 

千咲が聞き返す。

 

「歌わなかった?」

 

「ええ」

 

ダイヤが答える。

 

「一曲目が始まっても、果南さんは何もせずその場に立ったままでした。」

 

千咲は。

 

しばらく黙った。

 

「……それで?」

 

「ライブは棄権になった」

 

鞠莉が続ける。

 

「その後私たちは…終わったの。Aqoursを解散した。」

 

「…………」

 

千咲は視線を落とした。

 

「果南ちゃんが?」

 

「そう」

 

ダイヤが答える。

 

「解散を告げたのは果南さんです。」

 

「……」

 

千咲の頭の中に。

 

内浦で何度も会った果南の姿が浮かぶ。

 

海。

 

砂浜。

 

笑顔。

 

手を引っ張られたこと。

 

魚の話。

 

ダイビングショップ。

 

そして。

 

あの。

 

いつも迷いなく前へ進む背中。

 

「そのあと」

 

鞠莉が言った。

 

「私は留学したの」

 

「……」

 

「そして3人のAqoursはそこで終わった。」

 

千咲は小さく呟いた。

 

「……どうして?」

 

「どうしてって?」

 

「何でぇ、鞠莉ちゃんは留学したの?」

 

「……」

 

鞠莉が。

 

少しだけ笑う。

 

「私の未来のため、ね」

 

「未来?」

 

「そう、海外で学ぶ機会を両親が用意してくれていたの。でも…」

 

「鞠莉ちゃんは行きたくなかったんでしょぉ?」

 

鞠莉の目が少しだけ揺れる。

 

「……そうね。私はあの2人と一緒にいたかった。Aqoursを続けたかった。それでも、結局、私は留学した。」

 

「……」

 

ダイヤは何も言わなかった。

 

千咲は2人の表情を交互に見る。

 

「それで今のAqoursがまた同じイベントにぃ?」

 

「そうですわ」

 

ダイヤが答える。

 

「ですが、私は正直に申し上げますと…」

 

少し眉を寄せる。

 

「心配なのです」

 

「……何が?」

 

「2年前と同じことになるのではないかと」

 

「…………」

 

千咲は黙った。

 

ダイヤの声は強くない。

 

けれど、その言葉には明確な危機感があった。

 

「千歌さんたちはまだ経験も浅い。今回のイベントも2年前と同じ舞台、同じ場所、同じように期待されて。」

 

「……」

 

「同じように失敗してしまったら。」

 

鞠莉は。

 

ダイヤの横顔を見た。

 

「ダイヤあの子たちが心配なのね?」

 

「……当然ですわ」

 

ダイヤは即答した。

 

「大切な後輩ですもの」

 

千咲はその会話をただ聞いていた。

 

そして、ふと胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。

 

果南が緊張して歌えなかった?

 

「……」

 

あの果南が?

 

◆

 

話が終わり、千咲はホテルへ戻った。

 

けれど、なかなか落ち着かなかった。

 

ベッドに横になる。

 

天井を見る。

 

「…………」

 

果南

 

2年前

 

東京

 

ステージ

 

歌えない

 

棒立ち

 

棄権

 

「…………」

 

千咲は目を閉じる。

 

「……変だなぁ」

 

頭の中に別の果南がいる。

 

昔から自分の手を引っ張る。

 

「ちさ、早く!」

 

「ほら!」

 

「行こうよ!」

 

いつだって果南は前へ進んでいた。

 

自分が立ち止まれば手を引いた。

 

自分が迷えば先に走った。

 

自分が怖がれば笑った。

 

そんな果南が、東京のステージで緊張して何もできなくなった?

 

「…………」

 

千咲はゆっくり起き上がる。

 

「……あるのかなぁ」

 

もちろん緊張することはある。

 

人間なのだから何があってもおかしくない。

 

けれど…

 

「……」

 

胸の中に残る違和感。

 

その正体が分からない。

 

◆

 

その夜。

 

千咲の部屋。

 

窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

ベッドの上。

 

千咲はスマートフォンを持っている。

 

画面には電話番号。

 

「…………」

 

少しだけ迷って発信。

 

数コール。

 

『もしもし?』

 

「陽哉さん?」

 

『千咲?』

 

「うん」

 

『どうした?こんな時間に』

 

「聞きたいことあるんだけどぉ」

 

『何だよ』

 

千咲はしばらく黙る。

 

「2年前の果南ちゃんのこと」

 

電話の向こうの陽哉の声が少し変わる。

 

『……果南?』

 

「うん」

 

『何かあったのか?』

 

「今日ねぇ、鞠莉ちゃんとダイヤちゃんから昔のAqoursの話を聞いたの。」

 

『……ああ』

 

「2年前のTOKYO SCHOOL IDOL WORLDで果南ちゃんが歌わなかったって。」

 

『…………』

 

「ねぇ」

 

千咲は。

 

ベッドに寝転びながら。

 

天井を見る。

 

「果南ちゃんってそんなに緊張する人だったっけ?」

 

長い沈黙。

 

『……いや』

 

陽哉の答えは。

 

すぐだった。

 

『俺の知ってる果南ならあそこで何もできなくなるってちょっと信じられねぇな』

 

「だよねぇ」

 

『あいつ、緊張してもたぶん無理やりやるだろ』

 

「うん」

 

『というか果南が歌うとか踊るとか以前に。あいつ、周りが困ってたら自分が動くタイプじゃん』

 

「うん」

 

『だから本当に緊張だけだったのか?』

 

「……」

 

千咲が。

 

黙る。

 

『……千咲』

 

「なにぃ?」

 

『お前、何か引っかかってるんだろ』

 

「……ちょっとねぇ」

 

『だったら調べてみればいいんじゃねぇか?』

 

「調べる?」

 

『その時の映像とか今の時代なら残ってるだろ』

 

「……」

 

千咲は一瞬目を瞬かせた。

 

「そっかぁ」

 

『じゃあ、俺はそろそろ寝るぞ』

 

「うん」

 

『明日も学校だし』

 

「おやすみぃ」

 

『おやすみ』

 

通話終了。

 

千咲は画面を見つめる。

 

「…………」

 

そして動画投稿サイトを開いた。

 

検索欄。

 

『TOKYO SCHOOL IDOL WORLD 2年前 Aqours』

 

「…………」

 

検索。

 

大量の動画。

 

過去映像。

 

切り抜き。

 

ファンが撮影した映像。

 

そして。

 

「……あ」

 

千咲の指が。

 

止まる。

 

動画タイトル。

 

『Aqours TOKYO SCHOOL IDOL WORLD 2年前』

 

「…………」

 

クリック。

 

◆

 

映像が少し古い。

 

けれど、画質は十分。

 

ステージ。

 

観客。

 

照明。

 

そして。

 

3人。

 

「……」

 

千咲は。

 

黙って画面を見る。

 

鞠莉。

 

果南。

 

ダイヤ。

 

3人のAqours。

 

今のAqoursとは人数も雰囲気も全然違う。

 

それでも確かにAqoursだった。

 

「…………」

 

やがてステージへ3人が出てくる。

 

千咲は何気なく画面を見る。

 

そして止まった。

 

「……ん?」

 

鞠莉が歩く。

 

その足元。

 

「……」

 

一瞬また見る。

 

巻き戻す。

 

もう一度。

 

再生。

 

鞠莉が舞台へ上がる。

 

だが。

 

「…………」

 

鞠莉はほんの少し片足をかばっていた。

 

「…………」

 

千咲の目が細くなる。

 

「鞠莉ちゃん……」

 

そのまま動画を見る。

 

そしてライブ開始。

 

ダイヤ。

 

歌う。

 

鞠莉。

 

歌う。

 

そして。

 

果南。

 

「…………」

 

歌わない。

 

踊らない。

 

ただ立っている。

 

確かに歌っていない。

 

そこだけ見れば鞠莉とダイヤから聞いた話の通りだった。

 

けれど、千咲はそこから別のところを見始めた。

 

◆

 

映像の中。

 

3人はすごく近い。

 

少なくとも千咲にはそう見えた。

 

目を合わせる。

 

笑う。

 

互いを気遣う。

 

ステージ前。

 

鞠莉が何かを話している。

 

ダイヤがそれに答える。

 

果南が2人を見ている。

 

「…………」

 

仲が悪いようにはまったく見えない。

 

むしろ。

 

「……仲良しじゃん」

 

千咲が小さく呟く。

 

だから分からない。

 

なぜこの3人がこの後バラバラになったのか。

 

「……鞠莉ちゃんは留学」

 

「果南ちゃんが解散を告げる」

 

「ダイヤちゃんはスクールアイドルを嫌うようになる」

 

それだけ聞けば何か大きな喧嘩があったようにも思える。

 

でも映像を見る限りそんな感じではない。

 

そしてもう一度鞠莉の足を見る。

 

「…………」

 

「怪我」

 

千咲は呟く。

 

そこでもう一つ昔鞠莉の母から聞いた話が頭に浮かぶ。

 

――なかなか留学の話にOKを出してくれなかった。

 

――3年生になる頃には浦女に戻れるのに。

 

――あの子は昔から頑固だから。

 

「…………」

 

千咲の中で点と点が少しずつ繋がっていく。

 

「鞠莉ちゃん怪我してた。でも、出ようとした。」

 

「たぶん出たかった。Aqoursを続けたかった。」

 

そこへ果南。

 

「歌わない」

 

「棄権」

 

そしてその後鞠莉は留学。

 

Aqoursは解散。

 

「…………」

 

千咲は黙ったまま動画を停止した。

 

◆

 

「……もしかして」

 

言葉が自然に出てくる。

 

「果南ちゃん」

 

「歌えなかったんじゃなくて」

 

「…………」

 

「歌わなかった?」

 

もちろん確証はない。

 

ただの推測けれど。

 

そう考えると妙に辻褄が合う。

 

鞠莉が怪我していた。

 

それでも無理してステージに立った。

 

鞠莉には留学の話があった。

 

それでも、Aqoursを続けたかった。

 

なら果南が、鞠莉のために「失敗」を作ったとしたら?

 

歌わない。

 

踊らない。

 

棄権。

 

そして、Aqoursを終わらせる。

 

「…………」

 

千咲は、背もたれにゆっくり体を預ける。

 

「でも」

 

「そんなこと」

 

「普通はしないよねぇ」

 

だから、普通じゃなかったのだとしたらすべてが一本に繋がる。

 

「果南ちゃん」

 

「鞠莉ちゃん」

 

「ダイヤちゃん」

 

3人とも相手のことが大切だったから。

 

大切だったからこそ、誰かを守ろうとして誰かを傷つけた。

 

「…………」

 

千咲は目を閉じた。

 

「……確かめたいなぁ」

 

◆

 

翌日。

 

黒澤家。

 

千咲は門の前に立っていた。

 

「…………」

 

一度、深呼吸。

 

「……行こぉ」

 

インターホン。

 

ピンポーン。

 

しばらくして。

 

「はい」

 

扉が開く。

 

「……千咲さん?」

 

ダイヤだった。

 

「どうしましたの?」

 

「ダイヤちゃん突然ごめんねぇ」

 

「構いませんが……」

 

ダイヤは。

 

少し驚いたようにしながら。

 

「どうぞ」

 

千咲を中へ通す。

 

「ご家族は?」

 

「両親は出ていますわ。ルビィも用事で外です。」

 

「そっかぁ」

 

千咲は玄関を上がる。

 

しばらく廊下を歩く。

 

そして客間。

 

2人で向かい合って座る。

 

「それで何か相談があるのですか?」

 

「うん」

 

少し間が空く。

 

「2年前の果南ちゃんさぁ」

 

ダイヤの表情が変わる。

 

「……はい」

 

「歌えなかったんじゃなくてぇ」

 

一呼吸。

 

「わざと歌わなかったんじゃないのぉ?」

 

「……!」

 

ダイヤの目がわずかに見開かれる。

 

「……いったい何を根拠に」

 

千咲はスマートフォンを取り出す。

 

「動画を見つけてねぇ。2年前のTOKYO SCHOOL IDOL WORLDの。見てみたんだぁ。」

 

ダイヤは黙っている。

 

「それでね」

 

「気づいたことがあるんだよぉ」

 

「何ですの?」

 

千咲はスマートフォンの画面をそっと閉じた。

 

「鞠莉ちゃんさぁ、足を怪我してたでしょ」

 

「…………」

 

「ステージに出てくるときちょっと足をかばって歩いてた。」

 

「…………」

 

「ボクねぇ最初は気づかなかったんだ。でも何回か見返したら分かった。」

 

ダイヤは何も言わない。

 

「鞠莉ちゃんのことだからぁ、無理してでも踊ろうとしたんだよねぇ」

 

「…………」

 

「でもぉ、そのまま踊ったら怪我が酷くなって大惨事だよねぇ。」

 

ダイヤの指が膝の上でほんの少しだけ動く。

 

「果南ちゃんのことだからぁ、鞠莉ちゃんのことを想って止めたんだけどぉ。鞠莉ちゃん、頑固なところあるからぁ、そのまま出場を強行したんだよねぇ?」

 

「…………」

 

千咲はゆっくり言葉を続けた。

 

「果南ちゃんはわざと歌わずに棄権に持ち込んだんだよねぇ」

 

「…………」

 

部屋が静まり返る。

 

時計の音だけ聞こえる。

 

ダイヤは答えなかった。

 

「それに」

 

千咲は、もう一つ口にする。

 

「鞠莉ちゃんには留学の話が出てたよねぇ。」

 

「…………」

 

「果南ちゃん大好きな鞠莉ちゃんのことだもん。歌えなかった果南ちゃんを心配してぇ、留学の話を断ってたんだよねぇ」

 

ダイヤの表情がほんの少しだけ揺れる。

 

千咲は続けた。

 

「伯母ちゃん言ってたよぉ。鞠莉ちゃんがなかなか留学の話にOK出さないってぇ。3年生になるころには浦女に戻れるのにねぇって。」

 

「…………」

 

「でも、果南ちゃんもダイヤちゃんも鞠莉ちゃん大好きだからぁ。鞠莉ちゃんの将来を守るためにAqoursを解散したんだよねぇ。」

 

ダイヤの顔が完全に固まる。

 

それでも何も言わない。

 

千咲はしばらくダイヤを見る。

 

そして静かに…

 

「……違う?」

 

「……」

 

「ダイヤちゃん?」

 

やがてダイヤが小さく口を開く。

 

「それは……」

 

一瞬言葉が止まる。

 

「千咲さん……」

 

ダイヤは視線を落とした。

 

「それはあなたの推測に過ぎません」

 

「うん」

 

あっさり頷く。

 

「そうだねぇ」

 

「…………」

 

千咲は立ち上がる。

 

「とりあえずボクはここでお暇するねぇ。」

 

「え……」

 

「ごめんねぇ変な話して。」

 

ダイヤ。

 

「千咲さん……」

 

千咲は玄関へ向かう。

 

靴を履く。

 

そして振り返る。

 

「じゃあねぇ」

 

「……ええ」

 

「また学校でねぇ」

 

「はい」

 

千咲はそのまま黒澤家を後にした。

 

◆

 

門を出て、しばらく歩く。

 

「…………」

 

千咲は誰もいない道で小さく呟く。

 

「……やっぱりそうなんだぁ」

 

確信した。

 

ダイヤは否定していない。

 

そして、肯定もしない。

 

でも、千咲にはそれで十分だった。

 

「…………」

 

けれど、千咲はすぐに考えを止めた。

 

「まあ今はいいかぁ」

 

何かを暴くことが目的ではない。

 

昔のことを無理やり掘り返す必要もない。

 

それはダイヤたちが自分たちで話すべきこと。

 

千咲は空を見上げた。

 

「……待つしかないよねぇ」

 

その時海から風が吹く。

 

髪が揺れる。

 

金色の髪。

 

その中のピンクのメッシュも。

 

風になびいた。

 

千咲はそれを押さえながら歩き出す。

 

◆

 

その頃黒澤家。

 

ダイヤは、玄関の閉じた扉を見つめていた。

 

「…………」

 

千咲の言葉一つ一つが頭の中に残っている。

 

「果南は」

 

「わざと歌わなかった?」

 

「鞠莉の怪我」

 

「留学」

 

「Aqoursの解散」

 

「…………」

 

ダイヤは深く息を吐いた。

 

そして誰もいない玄関で小さく呟く。

 

「まったく…あの子は。勘がいいですわね……」

 

――2年前。

 

誰にも言えなかった3人だけの秘密。

 

その秘密は今少しずつ2年の時を越えて動き始めていた。

 

 




次回予告


ついに「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」への出場許可が下りたAqours。

東京へ向かうことになった千歌たちは期待に胸を膨らませながら。

十千万旅館へ集合する。

そして、そこに現れた千歌、ルビィ、花丸の姿を見て千咲は言葉を失う。

「…………」

「千歌先輩」

「うん?」

「……着替えてきてぇ」

東京へ行くために、なぜか全力で「東京」を意識した格好をする千歌。

大量のリボンで着飾るルビィ。

そして、もはや東京観光ではなく登山に行くような格好をしている花丸。

果たして、Aqoursは無事に東京へ辿り着けるのか。

次回、 第16話「東京へ」

お楽しみに。





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