ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine!!- 作:陽@曜花推し
前回は、千咲が2年前のAqoursについて鞠莉とダイヤから話を聞き、さらに陽哉との会話や当時の映像を調べたことで、2年前の果南が「緊張して歌えなかった」のではなく、別の理由で歌わなかったのではないかという結論に辿り着きました。
とはいえ、千咲自身も言っている通り、それはあくまで推測です。
そして今回は一転して、Aqoursがいよいよ東京へ向かいます。
目的はもちろん、「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」。
それぞれが東京遠征に向けて準備をする中、なぜか約3名、東京という言葉に妙な幻想を抱いてしまったメンバーが……。
そして善子も。
原作でも強烈だったあの奇抜な格好に、千咲が容赦なくツッコミを入れます。
さらに今回は、千咲の父方の従兄である神宮司日向も登場。
日本最強クラスのクラブ、アステリア東京を率いる男ですが、千咲に対しては超が付くほど過保護。
果たして東京観光なのか、親戚との遭遇なのか、それともガンプラファイター同士の再会なのか。
そして夜には、千咲にとってちょっとした試練も待っています。
さらに翌朝。
東京へ来た本来の目的とは別に、千歌が向かった場所でAqoursは一つの大きな目標を知ることになります。
それでは、第16話「東京へ」をどうぞ。
「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」から届いた招待。
千歌たちは、当然のように出場を希望した。
しかし、そのイベント名を聞いた鞠莉とダイヤの表情が変わる。
2年前。
まだ1年生だった鞠莉、果南、ダイヤもまた、スクールアイドル「Aqours」として同じ舞台に立っていたのだ。
そして本番。
鞠莉は足を怪我していた。
それでもステージへ立とうとする鞠莉を見た果南は、歌うことも踊ることもせず、ライブを失敗させた。
その後、Aqoursは解散。
鞠莉は海外へ留学することになった。
その出来事を聞いた千咲は、果南が本当に緊張して歌えなかったのか疑問を抱く。
2年前の映像を探した千咲は、ステージへ出てくる鞠莉が足をかばっていることに気づく。
鞠莉の怪我。
留学。
そして、3人がお互いを大切にしていたこと。
それらを繋ぎ合わせた千咲は、「果南はわざと歌わなかったのではないか」という仮説に辿り着いた。
その答えを確かめるため、千咲は黒澤家を訪れ、ダイヤにその推測をぶつける。
ダイヤは否定する。
しかし千咲は、その反応から自分の推測が正しいのではないかと感じ取っていた。
そして。
2年前のAqoursが果たせなかった舞台へ。
今度は、千歌たち6人のAqoursが向かうことになる。
「許可が出たよ!」
浦の星女学院の部室に、千歌の声が響いた。
「本当に?」
曜が身を乗り出し、梨子も千歌のスマートフォンを覗き込む。画面には正式な出場許可の連絡が表示されていた。
「うん! 鞠莉さんとダイヤさんがOKしてくれたって!」
千歌は嬉しそうにスマートフォンを掲げる。
「やったぁ! 東京だ!」
曜も拳を握る。
「ヨーソロー! いよいよ東京遠征だね!」
「ちょっと待って、曜ちゃんまでテンション上がりすぎじゃない?」
梨子が苦笑しながら2人を見る。
その横では、ルビィが小さく拍手をしていた。
「ルビィも……東京、楽しみです」
花丸も嬉しそうに笑う。
「東京ずら。テレビでしか見たことない場所に行けるずら」
善子は腕を組みながら、どこか得意げな表情を浮かべていた。
「フフフ……ついに来たわね。魔都東京。堕天使ヨハネがこの地に降臨し、漆黒の伝説を刻む時が……」
その騒がしいやり取りから少し離れたところで、千咲は机に頬杖をついていた。
「でぇ、ボクも行くのぉ?」
千歌が振り返る。
「もちろん!」
「えぇ……」
「だって千咲君、一緒に行ってくれるって言ったじゃん!」
「言ったっけぇ?」
「言った!」
曜も笑う。
「ほら、千咲君も一緒に行こうよ。東京でスクールアイドルのイベントがあるんだし、ガンプラの方でもいろいろ見られるかもしれないじゃん」
「……ガンプラ」
千咲の目が少しだけ輝いた。
「うん、じゃあ行くぅ。」
あまりにも分かりやすい反応に、梨子が苦笑する。
「千咲君って、本当にガンプラになると急に元気になるわね」
「好きだからねぇ」
そう言いながら、千咲はスマートフォンに東京の天気を表示する。
「服、どうしようかなぁ」
「服?」
「東京行くならぁ、おしゃれしないとねぇ」
「確かにそうだね!」
千歌が頷く。
そして翌朝。
千咲はホテルで鏡の前に立っていた。
身につけているのは、鞠莉が選んでくれたお気に入りの白いワンピース。
白を基調とした上品で可憐なデザインで、柔らかなフリルとふんわりしたシルエットが小柄な千咲によく似合っていた。長い金髪にはピンクのメッシュが入り、紫色の瞳もいつも以上にきらきらしている。
千咲は鏡の中の自分を見ながら、くるりと一回転した。
「うん。かわいい」
満足そうな顔。
「鞠莉ちゃん、センスいいなぁ」
お気に入りの服を着た千咲は、いつになく機嫌がよかった。
「東京、楽しみだなぁ」
そんな気分のまま、千咲は十千万旅館へ向かった。
◆
「こんにちはぁ」
十千万旅館の前。
千咲が声をかけると、中から千歌の姉である美渡が出てきた。
「あ、千咲君。来たんだ」
「うん。みんなまだぁ?」
「いるよ。……中に入ってみれば?」
美渡が、なぜか口元を押さえながら笑っている。
「?」
千咲は首を傾げた。
そして旅館の中へ。
「千咲君!」
千歌の声。
その瞬間、千咲の足が止まった。
「…………」
目の前に千歌が立っている。
ただしいつもの千歌ではない。
オレンジ、赤、黄色といった暖色系をふんだんに取り入れた、妙に派手な服装。
トップス。
スカート。
靴。
そしてバッグ。
それぞれが妙に存在感を主張している。
本人はというとものすごく満足そうだ。
「どう?」
千歌が胸を張った。
「東京っぽいでしょ?」
千咲は無言で見つめる。
千歌はさらに自慢げに指を一本ずつ立てた。
「ほら見て! 『東京トップス』『東京スカート』『東京シューズ』『東京バッグ』だよ!」
「…………」
千咲はゆっくり千歌の後ろへ視線を向ける。
そこには美渡がいる。
口元を押さえながらくすくす笑っている。
「…………」
千咲は全てを悟った。
「美渡さん」
「ん?」
「これ」
「うん」
「元凶?」
「さあ?」
美渡は笑いながら目を逸らした。
「いやぁ、千歌が『東京に行くんだから東京っぽい服が欲しい』って言うからさ。ちょっと協力しただけだよ」
「ちょっとどころじゃないよぉ……」
「でもいいじゃん!」
「東京だよ?」
「東京だから!」
千咲は深いため息をついた。
「何でもかんでも東京ってついてればいいもんじゃないよぅ」
「えぇー!」
千歌が抗議する。
「絶対こっちの方が都会っぽいよ!」
「ただの派手な服だけどぉ」
「ひどい!」
美渡がさらに笑い出す。
「いやぁ、やっぱり面白いねぇ」
「美渡さん、笑ってないで止めてよぉ」
「だって面白いんだもん」
そして、千歌の後ろから。
「千咲君……」
小さな声。
振り返るとルビィがいる。
「…………」
千咲はまた黙った。
髪。
服。
あちこちに大量のリボン。
そして胸元には。
「熊さん……」
小さなクマの装飾が付いている。
「ルビィちゃん……」
「うぅ……」
ルビィが恥ずかしそうに身を縮める。
「東京へ行くから……ちゃんとしたおしゃれをしようと思って……」
「うん……」
「可愛い?」
千咲は困ったように笑う。
「うん……可愛いんだけどねぇ」
「だけど?」
「この時代には合ってないかなぁ?」
「ピギィ!」
ルビィがショックを受ける。
「ご、ごめんねぇ、ルビィちゃん」
「うぅ……」
「可愛いのは本当だからぁ」
「……本当?」
「本当だよぉ」
ルビィは少しだけ安心したようだった。
だが、千咲はまだ終わっていない。
最後の一人。
「…………」
花丸が立っていた。
頭。
登山用ヘルメット。
手。
ツルハシ。
お互い、無言で見つめ合う。
「マルちゃん」
「なんずら?」
「何持ってるのぉ?」
「つるはしずら」
「見れば分かるよぉ」
花丸は真剣な顔で答えた。
「東京には渋谷という場所があるずら」
「うん」
「渋谷というのは、きっと険しい谷ずら」
「…………」
「だから」
ツルハシを掲げる。
「これで渋谷の険しい谷も大丈夫ずらか!」
千咲は。
しばらく何も言わなかった。
「マルちゃんは東京を何だと思ってるのぉ?」
「東京ずら」
「群馬じゃあるまいしぃ」
横から梨子がツッコんだ。
「いや、群馬に失礼でしょ。」
「…………」
千咲は少し考える。
「確かに群馬県民の人、ごめんねぇ。」
そして、千咲は3人を見回した。
派手な千歌。
リボンまみれのルビィ。
登山装備の花丸。
「……とにかく」
3人が千咲を見る。
「着替えてきてぇ」
「えぇー!?」
「ボク、今のみんなと一緒に歩きたくないよぉ」
「どうして!?」
「思わず110に電話しそうだよぉ」
千歌。
「私たち何も悪いことしてないよ!」
「服装が事件なんだよぉ」
「ひどすぎる!」
3人が慌てて奥へ走っていく。
その様子を見ながら、梨子がふと千咲を見る。
そして。
「……ねえ」
「なぁに?」
「千咲君」
「うん」
「完全に女の子よね……」
千咲は自分の服を見る。
「えぇ、そう?」
「そうよ」
「鞠莉ちゃんがねぇ、選んでくれたんだぁ」
「鞠莉さんが?」
「うん」
千咲は嬉しそうに笑う。
「東京行くならおしゃれしないとねぇって」
「……」
梨子が。
じっと千咲を見る。
「髪の毛もいい匂いするし」
「そう?」
「トリートメント何使ってるのよ。しかも肌綺麗だし」
「普通じゃない?」
「普通じゃないわよ」
梨子が少し前のめりになる。
「メイクもしてる?」
「うん」
「自分で?」
「自分でしたよぉ。鞠莉ちゃんに叩き込まれたからぁ」
梨子がしばらく無言になる。
「……私達より女子力あるんじゃ……」
「そうかなぁ?」
「そうよ」
そんな会話をしている間に着替え終えた千歌、ルビィ、花丸が戻ってくる。
「どう?」
今度こそ普通の服。
千咲は。
「うん」
満足そうに頷く。
「これなら一緒に歩けるよぉ」
「何その安心した顔!」
千歌が叫ぶ。
「だってさっきは事件現場だったからぁ」
「まだ言うの!?」
美渡は最後まで楽しそうに笑っていた。
◆
そして沼津駅。
「お待たせ!」
千歌が手を振る。
曜が振り返る。
「遅いよ!」
その瞬間。
千咲は。
「…………」
固まった。
曜の隣。
いや、曜の横。
そこには。
黒と紫を基調としたゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ善子が立っていた。
フリル。
幾重にも重なるスカート。
胸元の大きな黒紫系のリボン。
腰やスカートには蝙蝠の羽を思わせる装飾。
頭には黒い小さな帽子。
そして、顔まで白く塗られている。
目元は濃く。
完全に堕天使ヨハネ。
いや、もはや…
「…………」
千咲。
「…………」
曜。
「…………」
梨子。
「…………」
千歌、ルビィ、花丸。
「…………」
全員の視線が善子に集中する。
善子は堂々としていた。
「何よ、何か言いたいことでもあるの?」
「えっとぉ…」
「堕天使ヨハネは、魔都東京へ赴くのよ。これくらいの完全武装は当然でしょう?」
「東京はそんなに怖ろしい所じゃないよぅ…」
曜が千咲に
「千咲君遅いよ!」
「ごめぇん。千歌先輩とルビィちゃんとマルちゃんをまともな格好に着替えさせるのに時間がかかっちゃってぇ」
「そっちも……」
言葉が続かない。
千咲は善子を見る。
すると、少し離れたところから。
「あのお姉ちゃん、何やってるの?」
「しっ、見ちゃいけません!」
親子連れの声。
千咲。
「…………」
善子。
「…………」
千咲。
「あのセリフ」
善子。
「…………」
「リアルで初めて聞いたぁ」
「聞くな!」
善子が叫ぶ。
千歌、ルビィ、花丸は笑い出した。
「善子ちゃん、すごいね!」
「よ、善子ちゃん……」
花丸も笑う。
「マルちゃん、笑ってる場合じゃなよぉ?自分たちもさっき似たような格好してたよねぇ?」
3人。
「…………」
千咲はスマートフォンを取り出す。
「みんなのこの画像」
千歌。
「え?」
「ネットに晒してもいい?」
3人。
「すみませんでしたぁ!」
深々と頭を下げる。
千咲はスマートフォンを耳に当て…。
「とりあえずポリスメンを召喚していい?」
曜。
「ダメに決まってるでしょ!」
善子。
「私を警察に売る気!?」
曜。
「善子ちゃん、千咲君に通報されたくなかったら着替えてきてぇ!」
「なっ……!」
善子は。
悔しそうに歯を食いしばる。
「……分かったわよ!」
◆
ようやく。
善子も普通の格好へ着替えた。
一行は新幹線へ乗り込む。
やがて東京へ。
「着いたぁ!」
千歌が声を上げる。
曜も。
「東京だよ!」
花丸。
「すごいずらぁ!」
ルビィ。
「人がいっぱいです……」
善子。
「フッ……ついに魔都へ……」
梨子。
「お願いだから変なところへ行かないでね」
そして。
千咲。
「…………」
周囲を見る。
東京。
人。
人。
人。
「…………」
千咲はスマートフォンを取り出した。
「えっと」
「予約した旅館のチェックインは18時から」
時間にはまだ余裕がある。
「それまでどうしようかなぁ」
千歌。
「東京観光!」
曜。
「行こう!」
花丸。
「見たいところいっぱいずら!」
善子。
「魔界の門を探しに……」
「善子ちゃんは一人で行動しない」
「ヨハネ!!」
梨子が即座に止める。
そして、次の瞬間。
「あっ!」
千歌。
「ちょっと待って!」
「こっち!」
千歌が走り出す。
曜たちもついていく。
「えっ、ちょっと!」
梨子が呼び止めようとする。
しかし、もう遅い。
全員行ってしまった。
「…………」
千咲。
「…………」
しばらく呆然とする。
そして隣を見る。
「梨子先輩」
「何?」
「みんないないよぉ」
梨子はため息を吐いた。
「みんな、私が止める間もなくどっか行っちゃったわ……」
「えぇ……」
千咲はスマートフォンを見る。
そしてふと思いつく。
「……まあ」
「いいかぁ」
「え?」
「梨子先輩」
「うん?」
「チェックインの時間が18時からだからぁ、17時に神田明神で待ち合わせでぇ。みんなにも連絡したからぁそれまで自由行動ねぇ。」
「別にいいけど……」
「うん」
「何で?」
「何が?」
「何で自由行動にするの?」
千咲は周囲を見回した。
「ボク、ちょっとここには長くいたくないんだぁ。」
「え?」
梨子が首を傾げた。
「それはねぇ……」
「千咲!」
その声。
千咲の顔が。
「…………」
明らかに嫌そうになる。
梨子。
「え?」
千咲。
「来たぁ……」
振り返る。
そこには長身の男が立っていた。
整った顔立ち。
清潔感のある服装。
そして、満面の笑み。
「千咲!」
梨子。
「知り合い?」
千咲。
「ううん」
梨子。
「え?」
「ただのストーカー」
「え、ええ!?」
男が笑う。
「酷いな、千咲」
「この従兄のお兄ちゃんをストーカー扱いとか」
「……」
千咲。
「本当にストーカーだからねぇ」
「違うって!」
男は笑いながら、梨子を見る。
「はじめまして、お嬢さん。俺は神宮司日向。千咲の父方の従兄だね」
梨子。
「あ……桜内梨子です。千咲君と同じ学校に通ってます。」
日向は嬉しそうに頷く。
「そうかそうか。梨子ちゃんね」
「はい、よろしくよろしくお願いします」
千咲。
「日向兄ぃ」
「ん?」
「長いよぉ」
「何が?」
「話」
「いいじゃないか」
日向は。
まるで気にしていない。
「俺、IT企業を経営してるんだよ。アステリアって会社。それで、プロのガンプラファイターもやってる」
梨子。
「プロのガンプラファイター……?」
千咲。
「そうだよぉ」
日向は笑う。
「アステリア東京っていうプロクラブを運営してる。オーナー兼監督兼エースファイター。つまり、全部俺」
梨子の顔が固まる。
千咲。
「GBL-1を5連覇してる、日本最強クラブのオーナー兼エースファイターだよぉ」
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
日向。
「いやぁ、照れるなぁ」
千咲。
「照れるところじゃないよぉ」
「ところで千咲」
「ん?」
「東京に出てきて俺に会いに来たのか?」
千咲。
「違うよぉ。そんなことは、1ミクロンもないよぉ」
日向。
「ひどい!」
梨子。
「ねぇ、千咲君」
「何?」
「神宮司さんに対して当たりきつくない?」
千咲。
「愛が重いんだよぉ」
梨子。
「愛が重い?」
「どっちかというと」
千咲。
「ボク、男には興味ないしぃ。鞠莉ちゃんにしか興味ないもん!」
日向。
「小原鞠莉か……」
表情が少し変わる。
「俺の千咲を篭絡してくれやがってェ……」
梨子。
「えぇ……」
千咲。
「そういうところなんだよぉ」
日向。
「いや、だって大事な従弟だぞ?心配になるだろ。で、今日は何しに来たんだ?」
千咲は。
「TOKYO SCHOOL IDOL WORLDに参加するAqoursの付き添い」
「ほう」
「なるほどねぇ」
日向は梨子を見る。
「じゃあ、てっきり桜内さんと2人きりの旅行に来たのかと思って警戒したじゃないか」
梨子。
「え?」
日向。
「千咲、女の子と2人きりの旅行はまだ早いぞって言おうとしたんだよ」
「…………」
梨子。
「そんな二人きりの旅行なんて……って、そこを警戒してたんですか?」
日向。
「だって千咲はねぇ、まだピュアなんだよ。心配なんだよ。」
梨子。
「は、はぁ……」
心の中で。
(……確かに愛が重いわね)
と心の中で呟く。
日向は時計を見る。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
「仕事?」
「うん、経営者だからね」
そして。
千咲の肩を軽く叩く。
「今度はゆっくり遊びに来なさい」
「うん」
「それと来シーズンからリーグに参戦するんだろ?さすがに手加減はできないからなぁ」
千咲。
「元々手加減したことないじゃん」
「それもそうだな」
日向は笑いながら、その場を去っていった。
その背中を見送りながら。
梨子が呟く。
「あの人、強いんだよね」
「うん」
千咲。
「変態だけど強いよぉ。ボク、一回も勝ったことないし」
「……千咲君より強いんだ」
「そうだよぉ」
梨子は少しだけ驚いた。
◆
その後。
千咲は梨子と別れ、1人で東京を歩くことにした。
行き先はお台場。
そしてガンプラ好きにとって夢のような場所。
ガンダムベース東京。
「…………」
千咲の顔が明らかに生き生きとしている。
「すごいなぁ……」
棚を見る。
限定品。
歴代キット。
新作。
イベント限定品。
「これ持ってない……」
次。
「これもない……」
そして。
「……これ」
目が完全に覚醒する。
「探してたやつだぁ……」
気がつけば時間がどんどん過ぎていく。
その後、秋葉原へ。
またガンプラ店。
またレアキット。
「…………」
千咲は幸せだった。
東京観光なのに、やっていることはいつものガンプラ探し。
「これ、鹿児島じゃ見たことないなぁ」
結局。
袋が一つ。
二つ。
三つ。
増えていく。
「…………」
時計を見る。
「……そろそろ行かなきゃ」
千咲は神田明神へ向かった。
◆
夕方。
神田明神。
「…………」
千咲。
「……あ」
先に来ていた。
曜。
しかも。
「……なんで巫女服?」
千咲が尋ねる。
曜は。
少し照れた。
「コスプレ!」
「そっかぁ」
「…………」
千咲。
「じゃあ」
「巫女さんのままにしておくねぇ」
「ちょっと!」
そのうち。
千歌たちも集まってくる。
ようやく。
全員集合。
「よし!」
千歌。
「せっかくだからお参りしよう!」
みんなで境内へ向かう。
そして、そこで歌声が聞こえた。
「…………」
Aqours全員、足を止める。
アカペラ。
美しい歌声。
千歌はじっと聞き入った。
曜も。
梨子も。
ルビィも。
花丸も。
善子も。
そして。
千咲も。
「……綺麗」
歌が終わる。
そこには制服姿の女子が2人。
よく似ている。
姉妹だろうか。
「こんにちは」
姉の方が。
穏やかに笑う。
「はじめまして」
「私は鹿角聖良」
「こちらは妹の理亞」
「鹿角理亞」
北海道のスクールアイドル。
Saint Snow。
一通り挨拶が交わされる。
しかし千咲は相手の言葉を聞いていた。
「……」
一見友好的。
でも、その言葉の端にどこか上から見るような響きがある。
「…………」
千咲は少しだけ眉を寄せる。
だが何も言わない。
自分が口を出す話ではない。
そう思ったから。
理亞が。
「じゃあ」
と言う。
そして突然アクロバティックなジャンプ。
「……」
千咲は目で追う。
着地。
そして去っていく。
「…………」
千咲は心の中で思った。
(あれで自分たちの方が上だって威嚇してるのかなぁ?)
(スクールアイドルよりサーカス団員の方が向いてるよねぇ)
もちろん口には出さなかった。
◆
夜。
予約していた旅館。
チェックイン。
「…………」
千咲は部屋の中を見る。
「…………ん?」
荷物。
布団。
そして。
人数。
「…………」
千咲。
「一応ボク男の子なんだけどねぇ……」
梨子。
「まあ……そうよね」
曜。
「でも今さらじゃない?」
千歌。
「大丈夫だよ!」
「何が?」
「千咲君なら!」
「いや、それ答えになってないよぉ」
千咲はしばらく考える。
「……日向兄ぃに電話しようかなぁ」
だがその前に千歌が腕を掴む。
「入ろう!」
「えぇ……」
「今日はもう遅いよ!」
「でもぉ」
「大丈夫大丈夫!」
そのまま千咲は部屋へ連行された。
食事。
風呂。
そして。
寝る準備。
「それじゃ、おやすみ」
千咲が布団へ入る。
梨子。
「早いわね」
千咲。
「眠いもん」
「そっか……」
千咲は。
目を閉じた。
「…………」
数秒。
「…………」
さらに数秒。
「…………」
寝た。
千歌。
「は、速すぎるよ……」
曜。
「え?」
梨子。
「もう寝てるの?」
花丸。
「すごいずら……」
ルビィ。
「本当に……?」
善子。
「堕天……」
千咲。
「…………」
完全に熟睡。
やがて。
「……鞠莉ちゃん……」
梨子。
「ん?」
「……寂しいよぉ……」
「…………」
「ぎゅーってしてよぉ……」
部屋。
静まり返る。
千歌。
「…………」
曜。
「…………」
梨子。
「…………」
ルビィ。
「…………」
花丸。
「…………」
善子。
「…………」
梨子が。
ぽつり。
「どんだけ鞠莉さん好きなのよ……」
千歌。
「千咲君、鞠莉さんのこと大好きだもんね」
花丸。
「本当に仲良しずら」
その横で善子は何も言わない。
胸の奥がなぜかざわざわする。
「…………」
自分でも分からない。
「何なのよ……」
小さく呟く。
けれど、答えはまだ分からなかった。
◆
翌朝。
「…………」
太陽。
朝。
「…………」
千咲。
「…………」
目を開ける。
「……んぅ」
時計。
「…………」
「遅い」
「…………」
飛び起きる。
「えっ」
部屋には。
誰もいない。
「……みんな?」
すでに着替え終わっているらしい。
千咲は急いで運動着へ着替える。
「どこ行ったのぉ……」
その時。
曜が部屋へ戻ってきた。
「あ、千咲君!」
「曜先輩」
「起きたんだ」
「みんなはぁ?」
「千歌ちゃんが先に出ていったよ」
「どこへ?」
曜は少し考える。
「……たぶん、あそこ」
「どこぉ?」
「UTX」
「…………」
千咲。
「東京の?」
「うん」
「じゃあ」
「追いかけよう」
◆
UTX。
大型モニター。
その前に千歌が立っていた。
大きな画面。
スクールアイドル。
μ's。
そして。
今年のラブライブ開催の告知。
「…………」
千歌は画面を見つめている。
そこへ。
「千歌先輩」
千歌が振り返る。
「千咲君!」
「やっぱりここだったんだねぇ」
「うん!」
曜も追いつく。
「やっぱりここにいたね」
千歌。
「ここ、私が春休みに東京に来た時μ'sの映像を見た場所なんだ。ここで私スクールアイドルやりたいって思った。」
千咲は。
黙って画面を見る。
「…………」
今年のラブライブ。
そして。
「出るよ」
千歌が言った。
「今年のラブライブ、Aqoursも絶対参加する!」
曜。
「うん!」
梨子たちも少しずつ集まってくる。
ルビィ。
「ルビィも頑張ります……!」
花丸。
「オラもやるずら!」
善子。
「フフフ……当然よ!」
梨子。
「私も、やる」
千咲はそんなみんなを見る。
「…………」
明日はTOKYO SCHOOL IDOL WORLD。
そして、その先にはラブライブ。
そして、さらに2年前。
鞠莉。
果南。
ダイヤ。
かつてのAqours。
「…………」
千咲は小さく笑った。
「じゃあ明日は、今のAqoursを見せに行こうかぁ」
千歌。
「うん!絶対、やろう!」
曜。
「全速前進!」
梨子。
「ええ」
ルビィ。
「がんばルビィ!」
花丸。
「未来ずら!」
善子。
「漆黒の翼よ、今こそ――」
「善子ちゃん!」
千歌が突っ込む。
「ヨハネよ!」
千咲は、そのやり取りを見て小さく笑った。
東京へ来た目的。
それは明日のステージ。
2年前のAqoursが果たせなかった場所。
今のAqoursがそこへ立つ。
千咲はまだ知らないそのステージで自分が感じることを。
そして過去と現在が。
もう一度交差することを。
◆
東京の空の下。
Aqoursは明日に向けてそれぞれの想いを胸に新しい一歩を踏み出そうとしていた。
その中で千咲は、ふと空を見上げる。
「……鞠莉ちゃん」
小さく呟く。
「ちゃんと見ててねぇ」
そして明日Aqoursは、東京のステージへ向かう。
次回予告
ついに「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」本番。
Aqoursは東京の大きなステージへ立つ。
千咲も関係者席からその姿を見守る。
衣装へ着替えた6人。
緊張。
期待。
興奮。
そして、いよいよAqoursの出番が近づいてくる。
しかし、千咲の胸にはどうしても消えない違和感があった。
2年前、ここでかつてのAqoursは失敗した。
果南は歌えなかった。
鞠莉は傷ついた。
そして3人は離れ離れになった。
今、同じ場所へ新しいAqoursが立とうとしている。
「…………」
千咲はステージを見つめる。
「……嫌な感じがするなぁ」
果たして千歌たちは2年前のAqoursを乗り越えることができるのか。
そして、千咲が感じているこの嫌な予感の正体とは。
次回、第17話「TOKYO SCHOOL IDOL WORLD」
お楽しみに。