ガンダムビルドファイターズ-Sailing to the Sunshine- 作:陽@曜花推し
どうも、作者です。
前回は、千咲が浦の星女学院での日常を少しずつ始める一方、黒澤ダイヤの「スクールアイドルは許しません」という強烈な拒絶と、鞠莉の部屋で見つけた一枚の写真から、ダイヤ、鞠莉、果南の3人に何か過去があることを知るお話でした。
とはいえ、千咲は千咲。
人の事情にずかずか踏み込んでいくタイプではありません。
気にはなる。でも、本人が話したくないなら聞かない。
そんな距離感を保ったまま、今回はもう一人の「おねーちゃん」との再会です。
幼い頃から知っている松浦果南。
今の果南は、千咲の記憶の中にいる少女よりもずっと大人になっていました。
そして、千歌たちが「海の声」を聴くためにダイビングへ向かうところへ、何故か千咲まで巻き込まれることに。
果たして千咲には、本当に海の声が聞こえるのでしょうか。
それでは、第5話です。
あらすじ
休日の朝。
鞠莉は用事があり、朝からホテルを出ていた。
一人で時間を持て余した千咲は、久しぶりに淡島を散歩することにする。
その途中、千咲は松浦家が営むダイビングショップを見つける。
そこで目にしたのは、幼い頃の記憶よりもずっと大人びた果南の姿だった。
そこへ千歌、曜、梨子の3人がやって来る。
思わず物陰に隠れる千咲だったが、あっさり果南に見つかってしまい、
「ちさ……ハグだよ」
久しぶりの再会を喜ぶ果南に抱きしめられる。
千歌と曜は、果南と千咲が知り合いだったことに驚く。
やがて3人が海へ潜る目的が「海の声を聴く」ためだと知った千咲も、果南に連れられて船へ。
沖へ出て、千歌、曜、梨子が海へ潜っている間、船上では千咲と果南の久しぶりの会話が始まる。
千咲には、聞きたいことが一つあった。
しかし、それを口にすることはできなかった。
休日の朝。
千咲はホテルオハラの部屋で、ベッドの上に寝転がっていた。
「……暇だよぉ」
時計を見る。
まだ午前9時にもなっていない。
早い。
休日の朝としては、あまりにも早い。
鞠莉はというと、朝から用事があるらしく、すでにホテルを出ていた。
「お出かけ?」
「イエース。ちょっと用事があるのデース」
「ふぅん」
「千咲はどうするの?」
「寝てる」
「また?」
「休みだもん」
「でもずっと寝ていたらもったいないデース」
「じゃあ、起きたら考えるよぉ」
そう言っていたのだが。
結果。
千咲は起きてしまった。
しかも、妙に目が冴えている。
「……困ったなぁ」
二度寝しようとしても眠れない。
本でも読もうかと思ったが、今日はなんとなく気分ではない。
ガンプラのデザインを進めるのも悪くない。
ただ、せっかくの休日だ。
「……ちょっと歩こうかなぁ」
千咲は着替える。
制服ではない。
動きやすい私服。
髪も軽く整えただけ。
財布とスマートフォンだけ持って、ホテルを出た。
◆
淡島を歩く。
休日ということもあり、普段より人が多いように感じる。
観光客らしい人。
家族連れ。
子供たち。
千咲はそんな人たちを横目に見ながら、ゆっくり歩いていた。
「……」
海を見れば、キラキラと水面が光っている。
風が気持ちいい。
「こういうのも悪くないなぁ」
千咲は小さく笑った。
学校が始まってまだ数日。
人間関係も、授業も、何もかもがまだ始まったばかりだ。
だからこそ、こうして一人で歩く時間は少し落ち着く。
そんなことを考えながら歩いていると。
ふと。
見覚えのある看板が目に入った。
「……あ」
ダイビングショップ。
昔、何度か来たことがある。
もちろん、子供の頃の記憶だ。
その頃よりも建物は少し綺麗になっているように見える。
そして店先に、一人の少女がいた。
いや。
もう少女という言い方は少し違うかもしれない。
長い手足。
健康的に焼けた肌。
すっきりした顔立ち。
昔の記憶に残っているより、ずっと大人っぽくなっていた。
「……果南ちゃん」
松浦果南。
千咲にとって、幼い頃からの「おねーちゃん」の一人。
鞠莉やダイヤと一緒に、いつも自分を可愛がってくれていた存在。
「大きくなったなぁ……」
千咲は思わず立ち止まった。
記憶の中にある果南は、もっと小さかった。
一緒に遊んで。
一緒に笑って。
時々、乱暴なくらいに頭を撫でられて。
いつの間にか、自分よりずっと背が高くなっている。
そんなことを考えていた、その時だった。
「すみませーん!」
聞き覚えのある声がする。
「え?」
千咲が振り返る。
そこにいたのは、
「千歌ちゃん」
「曜ちゃん」
「……梨子ちゃん」
高海千歌、渡辺曜、桜内梨子の3人だった。
3人は何やら荷物を持って、ダイビングショップへ向かってくる。
「果南ちゃん、こんにちは!」
「こんにちは」
「今日よろしくお願いします」
梨子が丁寧に頭を下げる。
千咲は少し離れたところから見ていた。
何だろう。
今日は何かするらしい。
そう思った瞬間。
千歌が店先で何やら話し始める。
曜も隣で頷いている。
梨子は少し緊張しているようだった。
「あれ……」
千咲は目を細める。
そして。
何となく。
とても何となく。
隠れた。
「……」
木の陰へ。
別に悪いことをしているわけではない。
ただ。
なんとなく。
「……見つからないよねぇ」
しゃがみ込む。
木の陰からそっと様子を窺う。
果南は店の前で千歌たちと話している。
「今日は3人で潜るんだ?」
「うん!」
千歌が答える。
「梨子ちゃんがどうしても海の声を聴きたいって」
「海の声?」
果南が少し不思議そうに聞き返す。
「うん。私も曜ちゃんも付き添い!」
「なるほどね」
「……」
千咲はますます気になった。
海の声。
何だそれ。
「まあ……いいか」
そう思って立ち去ろうとした。
その時。
「……あれ?」
果南がこちらを見た。
「……」
千咲は止まった。
「……」
果南と目が合う。
「……」
千咲はゆっくり木の後ろへ戻る。
「……見なかったことにしてくれないかなぁ」
「いや、見えてるって」
曜が笑う。
「千咲ちゃんじゃん!」
千歌が気付く。
「あー……」
千咲は観念して木の陰から出てきた。
「おはよぉ」
果南は目を丸くした。
「……ちさ?」
その声は、どこか懐かしそうだった。
「うん」
「ちさだ……」
果南の顔が一気に明るくなる。
「久しぶりじゃん」
千咲は少し笑う。
「久しぶりだねぇ」
「何年ぶり?」
「……たぶん、5年くらい?」
「そっか」
果南は千咲へ歩いてくる。
そして。
「ちさ……ハグだよ」
「え?」
ぐいっ。
「うわぁ……」
ぎゅっ。
千咲の身体が、果南にすっぽりと抱きしめられる。
「果南ちゃん、ちょっとぉ……」
「久しぶりだから」
「人目あるよぉ……」
「気にしない気にしない」
「……」
千歌と曜と梨子は、完全に固まっていた。
「……え?」
千歌がぽかんと口を開ける。
「果南ちゃんって千咲君と知り合いなの!?」
「うん」
果南は千咲を抱えたまま答える。
「子供の頃からのね」
「子供の頃から!?」
「そう」
曜も驚いている。
「え、じゃあ千咲ちゃんって果南ちゃんと幼馴染ってこと?」
「幼馴染……というかぁ」
千咲は果南の腕の中から顔だけ出す。
「おねーちゃんみたいな感じだったんだよぉ」
「へえぇ……」
千歌の目が輝く。
「じゃあ、すっごく昔から仲良しなんだ!」
「そういうこと」
果南がようやく千咲を離す。
「いやぁ、びっくりした。まさかこんなところで会うなんて」
「ボクもびっくりしたよぉ」
「どうしてここに?」
「散歩」
「一人で?」
「うん」
「そうなんだ」
果南は少し考える。
そして。
「じゃあ、ちさも来る?」
「どこに?」
「海」
「……」
嫌な予感がした。
千咲がちらりと千歌たちを見る。
千歌。
曜。
梨子。
そして、ダイビング用の装備。
「……」
「千咲くん」
梨子が言う。
「私たち、ちょっと海に潜るんです」
「うん」
「その……海の声を聴きたくて」
「海の声?」
千咲は首を傾げる。
梨子は少し照れたように笑った。
「変だと思いますよね」
「うーん」
千咲は少し考える。
「まあ……変ではないけど、ボクにはよく分からないかなぁ」
「でしょうね……」
「海って音するじゃん」
「え?」
「波とかぁ」
「あ……」
梨子が少し困ったように笑う。
「そういうことじゃなくて……」
「もっと別の何か?」
「うん」
千咲はしばらく梨子を見る。
「……よく分かんないやぁ」
曜が笑う。
「まあまあ、千咲ちゃん。実際に潜ってみたら分かるかもよ?」
「ボクは潜らないよぉ」
「えー」
「泳ぐのは好きだけどぉ」
「じゃあ大丈夫じゃん」
「ダメだよぉ」
「えー!」
千歌が残念そうにする。
千咲は一歩下がる。
「じゃあ、ボクは帰るねぇ」
「ちさ」
「なぁに?」
「行くよ」
「どこに?」
「船」
「……」
嫌な予感。
「いやぁ、ボクは――」
「大丈夫。船に乗るだけだから」
「……」
「海、見たいでしょ?」
「……まあ」
「じゃあ行こう」
「ちょっとぉ」
果南に腕を掴まれる。
「いやいやいや」
「大丈夫だって」
「ボク、休日はのんびりする予定だったんだけどぉ」
「もう始まってるよ」
「……」
千咲は諦めた。
「……分かったよぉ」
「よし」
こうして。
千咲は、本人の意思とは少し関係なく。
船へ連れて行かれることになった。
◆
港。
船へ乗り込む。
千歌、曜、梨子はそれぞれ準備をしている。
千咲は船の端に座って、海を眺めていた。
「……結構揺れるねぇ」
「慣れるよ」
果南が言う。
「最初はちょっと気持ち悪いかもだけど」
「もう少し優しく言ってぇ」
「大丈夫大丈夫」
「……」
エンジンがかかる。
船が動き出す。
港が少しずつ遠くなる。
淡島も。
沼津の景色も。
「……」
千咲は海を見る。
普段、陸から見るのとは少し違う。
風が直接顔へ当たる。
潮の匂い。
水面の音。
エンジンの振動。
「……悪くないねぇ」
「でしょ?」
果南が笑う。
「ちさ、昔も海好きだったもんね」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「覚えてないなぁ」
「私たちが覚えてるからいいの」
「ふぅん」
船は沖へ進んでいく。
しばらくして。
果南がエンジンを落とした。
「着いたよ」
「……」
千咲が周囲を見る。
海だけ。
陸地が少し遠い。
「本当にここまで来るんだ」
「まあね」
千歌たちが準備する。
千咲は少し離れて見ていた。
「気を付けてねぇ」
「うん!」
千歌が笑う。
「行ってきます!」
曜もサムズアップ。
「千咲ちゃん、お留守番よろしく!」
「うん」
梨子は少し緊張した様子でマスクを装着する。
果南が最後に確認する。
「3人とも、無理しないでね」
「はーい!」
3人は海へ入っていった。
ちゃぷん。
静かな音。
やがて3人の姿が水面から消えていく。
「……」
千咲と果南だけが船に残った。
◆
しばらく。
何もすることがない。
千咲は船の端に座って海を眺める。
果南はその隣で、3人が潜った方向を見ている。
「……静かだねぇ」
「うん」
「海の上って、もっと騒がしいと思ってた」
「そう?」
「エンジン止めると、結構静か」
「でしょ」
2人とも海を見る。
しばらく無言。
それでも、気まずくはなかった。
幼い頃から知っている。
それだけで、何かがある。
千咲がぽつりと口を開く。
「果南ちゃん」
「ん?」
「……元気だった?」
「うん」
果南は笑う。
「元気だったよ」
「そっか」
「ちさは?」
「まあまあ」
「相変わらず?」
「相変わらず」
果南が笑った。
「じゃあ安心した」
「何でぇ?」
「ちさは変わってないから」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
千咲は少し笑う。
「果南ちゃんの方が変わったよぉ」
「そう?」
「大人っぽくなった」
「そりゃそうでしょ」
果南は自分の腕を見る。
「ちさが小さいままなんじゃない?」
「それは言わないでよぉ」
「ごめんごめん」
「……」
「でも、本当に久しぶりだね」
「うん」
千咲は海を見る。
聞きたい。
少しだけ。
昨日の写真。
ダイヤ。
鞠莉。
果南。
スクールアイドル。
どうして。
何があったのか。
何でダイヤは、スクールアイドルを嫌がっているのか。
果南も、鞠莉も。
そして。
3人で何をやっていたのか。
聞けばいい。
簡単なことだ。
「……」
でも。
言えなかった。
◆
果南が横を見る。
「どうしたの?」
「え?」
「さっきから何か考えてるでしょ」
「……」
千咲は少し黙った。
「別にぃ」
「そう?」
「うん」
「ふーん」
果南はそれ以上聞かなかった。
「まあ、ちさが話したくなったら話せばいいよ」
「……」
その言葉に、千咲は少しだけ驚いた。
「果南ちゃん」
「ん?」
「……優しいねぇ」
「昔からでしょ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
果南が笑う。
「それに」
「?」
「昔から、ちさは無理に聞かれたくないことってあったじゃん」
「……」
「だから、私も無理に聞かない」
千咲は少しだけ目を細めた。
やっぱり。
この人は、おねーちゃんだ。
昔から何も変わっていない。
「……ありがと」
「どういたしまして」
その会話だけで、千咲の胸の中にあった何かが少し軽くなった。
「ところでさ」
「なぁに?」
「鞠莉は?」
「ホテル」
「そっか」
「朝から用事で出てるよぉ」
「なるほどね」
果南は少し海を見る。
「じゃあ、今はホテルで一人?」
「うん」
「じゃあ今度遊びに行こうかな」
「鞠莉、喜ぶと思うよぉ」
「やっぱり…今はまだやめとこうかな。」
少し間が空く。
千咲はまた海を見る。
写真のことは。
まだ聞かない。
今は。
それでいい。
◆
その時。
海面が少し動いた。
「……」
果南が顔を上げる。
「そろそろかな」
「何が?」
「3人」
「分かるの?」
「なんとなく」
果南が笑う。
少しすると。
「ぷはっ!」
千歌が水面に顔を出した。
「はぁーっ!」
続いて曜。
梨子も浮かび上がる。
3人とも、それぞれ息を整えている。
「おかえりぃ」
千咲が声をかける。
「ただいま!」
千歌が笑う。
「どうだったの?」
「……」
梨子がマスクを外す。
その顔は。
少しだけ驚いていた。
「聞こえました」
「何が?」
「海の声」
千咲は首を傾げる。
「……どういう音?」
「音じゃなくて」
梨子は海を見る。
「もっと……こう……」
言葉にしようとして。
やめる。
「うまく説明できないんですけど」
「ふぅん」
千咲にはやっぱり分からない。
「ボクには普通の海にしか見えないよぉ」
「聞いてみて」
「どうやって?」
梨子が笑う。
「耳を澄ませて」
「……」
「千咲君も」
「……」
千咲は海を見る。
そして言われた通り。
静かに。
耳を澄ませる。
風。
波。
船が揺れる音。
遠くの鳥。
水が船体に当たる音。
「……」
最初は何も分からない。
ただの海だ。
そう思った。
でも。
しばらくすると。
ほんの少し。
本当にほんの少しだけ。
「……ん?」
「どう?」
梨子が聞く。
千咲は目を細める。
「なんか……」
「うん」
「……聞こえたような気がする」
梨子の顔が明るくなる。
「本当?」
「うん」
「何が聞こえた?」
「……分かんない」
「え?」
「なんか……」
千咲は困ったように笑う。
「声っていうより……」
少し考える。
「遠くで、誰かが話してるみたいな感じ?」
梨子が頷く。
「それです」
「これがぁ?」
「たぶん」
「……」
千咲はまた耳を澄ませる。
今度は。
少しだけ。
海の中にある何かが聞こえるような気がした。
「……面白いねぇ」
「でしょう?」
「うん」
千歌も笑う。
「ね? 海ってすごいでしょ!」
「千歌ちゃんは何でそんなに自信満々なのぉ?」
「だって私、海の町の子だから!」
曜も笑う。
「それ関係ある?」
「あるよ!」
そんなやり取りをしながら。
船は再び港へ戻り始めた。
◆
ダイビングショップへ戻る。
器材を片付ける。
千歌と曜は今日の海について話し続けていた。
梨子もどこか満足そうだった。
「今日はありがとうございました」
「またいつでもおいで」
果南が笑う。
「うん!」
「ありがとうございました!」
「ありがと!」
3人がそれぞれ挨拶する。
千咲も頭を下げる。
「ありがとねぇ」
「ちさもね」
「何が?」
「遊びに来てくれて」
「別にぃ」
「また来てよ」
「考えとくよぉ」
「絶対来ないやつの言い方じゃん」
「そんなことないよぉ」
千咲は笑う。
千歌たちと一緒に、店を出る。
少し歩いたところで。
千歌が振り返った。
「じゃあねー!」
「またねー!」
曜も手を振る。
梨子も小さく手を振る。
千咲も手を振り返した。
「ばいばーい」
3人が去っていく。
その背中を少し眺めてから。
千咲はホテルへ戻ることにした。
◆
ホテルオハラ。
夕方。
千咲がエントランスへ入ると、ホテルスタッフが近づいてきた。
「お帰りなさいませ、千咲様」
「ただいまぁ」
「実は、千咲様へ伝言がございます」
「伝言?」
スタッフが一枚の紙を差し出した。
「こちらです」
千咲は受け取る。
紙を見る。
そこには、短くこう書かれていた。
『至急OGLに来られたし。』
「……」
千咲が固まる。
「……OGL?」
ホテルスタッフは頷く。
「はい。先ほど届きました」
千咲はもう一度、紙を見る。
「……何だろう」
今日の予定は何もない。
だからこそ、不安になる。
OGL。
OHARA GUNPLA LAB。
自分のガンプラ、ヴァルキリーガンダムを開発している場所。
「……」
千咲は紙を折る。
「まぁ……行くしかないよねぇ」
スタッフが申し訳なさそうに言う。
「なお、小原家からも移動手段を用意するとのことです」
「……そんなに急ぎなのぉ?」
「どうやら」
千咲は空を見上げる。
さっきまで海を見ていた。
海の声が聞こえるとか。
聞こえないとか。
そんな話をしていた。
なのに。
帰ってきたら。
今度はOGLからの呼び出し。
「……休日なのに忙しいなぁ」
思わず、ため息。
「せっかく今日はゆっくりできると思ったのにぃ」
スタッフが少し笑う。
「千咲様は人気者ですね」
「人気者っていうか……使われてるだけな気がするよぉ」
そう言いながらも。
千咲の目は少しだけ輝いていた。
OGLからの呼び出し。
それはつまり。
何か面白いものがあるかもしれない。
「……新しいガンプラかなぁ」
そう思った瞬間。
眠そうだった顔が少しだけ変わる。
「だったら、行こうかな」
千咲は荷物を持ち直す。
そして。
ホテルを出ようとした。
その時だった。
「……」
ふと。
今日聞いた「海の声」を思い出す。
「……なんか、面白かったなぁ」
海。
果南。
千歌。
曜。
梨子。
そして。
頭の中の片隅には。
あの写真。
ダイヤ。
鞠莉。
果南。
3人の笑顔。
「……」
千咲は少しだけ立ち止まる。
「……そのうち、聞けるかなぁ」
何を。
とは言わなかった。
誰に。
とも言わなかった。
ただ。
いつか。
話してくれる日が来るかもしれない。
そう思って。
千咲はホテルの外へ歩き出した。
そして、その先で待っているものが何なのか。
この時の千咲は。
まだ、何も知らなかった。
◆
夜。
船着き場へ到着した千咲。すでに小原家が手配していた車が待っていた。
千咲は深いため息をついた。
「休日って何だろうねぇ……」
車へ乗り込む。
窓の外を眺める。
ホテルが遠ざかっていく。
これから向かうOGL。
そこで待っているのは。
新しいガンプラか。
新しい開発か。
それとも。
別の何かか。
千咲は知らない。
そこには。
かつて全日本ガンプラ選手権で、一度も撃墜することができなかった、あの男が待っていることを。
そして、その隣には。
彼を支えてきた2人のファイターも。
次回予告
休日だというのに、ホテルへ戻ってきた千咲を待っていたのは、OGLからの突然の呼び出し。
「至急OGLに来られたし。」
臨時で用意された船と車を乗り継ぎ、向かった先は伊豆の国市にあるOGLの施設。
そこで千咲を待っていたのは――
かつて全日本ガンプラ選手権で何度挑んでも、一度も撃墜することができなかった天敵。
新堂陽哉。
そして、そのチームメイトである志木城隆利、神代恵里菜。
3人を前に、監督兼リーダーの羽嶋恭一が告げる。
「この3人が、2030-2031シーズンの追加メンバーだ」
「……えぇ?」
千咲の新しいプロ生活が。
ここから本格的に始まる。
次回、
第6話「千咲、天敵と再会する」
お楽しみに。
今回は、千咲と果南の久しぶりの再会を描きました。
果南にとって千咲は、昔から知っている年下の男の子。
そして千咲にとって果南は、鞠莉やダイヤと同じく「おねーちゃん」。
だからこそ、久しぶりに会った瞬間に説明なんていらない。
「ちさ……ハグだよ。」
これだけで十分なんですよね。
また、千咲は前回見つけた写真について果南へ問いかけることをしませんでした。
これは千咲が鈍いからではなく、むしろ逆です。
何かがある。
それは分かっている。
でも、その人が自分から話してくれるまでは聞かない。
千咲自身も、人に勝手に踏み込まれることを嫌う部分がありますから、そこは大切にしています。
そして今回、千咲自身も初めて「海の声」を少しだけ感じました。
果たしてあれは本当に海の声だったのか。
それとも、そう思っただけなのか。
その答えをあえて断定するつもりはありません。
人によって感じ方が違うからこそ、海の声というものが面白いのだと思います。
そして最後。
とうとうOGLから呼び出しがかかりました。
ここから先は、浦女でのスクールアイドルの物語だけではなく、千咲自身の「ガンプラバトル」の物語も大きく動き始めます。
そして何より。
旧作主人公のリサイクル枠、新堂陽哉、志木城隆利、神代恵里菜。
彼が今作では、千咲にとってどんな存在になるのか。
千咲が何度挑んでも撃墜できなかった相手との再会を、次回はじっくり描いていきます。
それでは、また次回。