転生先の異能都市で、三下糸目の便利屋やってます   作:疾風迅雷やね

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作者は関西人だけど、関西弁って難しいし地域差あるから
あくまで関西弁”風”ってことにしといてくれや。堪忍やで


転生してしもたわ

「あ~~頭痛いわ……」

 

 けっして酒を飲みすぎたわけじゃない。

 とある相手を追っている中で、僕はビルの屋上から落下した。

 幸いにも下の路地裏には大量のゴミがあり、死なずに済んだけれど……。

 

「前世、思い出してもうたわ」

 

 別に役立つものじゃない。ただこの世界が前世のスマホゲーム”リミナル・ユニバース”という気づきを得ただけだ…………ま、状況を整理しよう。

 

 僕はダン──ダン・フェリクス。

 この異能都市で、便利屋をやらせてもらっている。

 金次第じゃあなんだってやるが、出来るかどうかは報酬と難易度次第。

 

 異能は【幽霊化】。

 触れたものを僕以外に認識・干渉出来なくするというもの。

 条件は片手で持てるサイズまで。ちょっとした手品程度の能力だ。

 

 前世だと──うだつの上がらないタダのサラリーマンだったような気がする。

 今、そんな事を思い出した。

 

 スマホゲーしか遊ぶ時間がなく、結果はそのまま過労死。

 

 そんな前世の僕が遊んでいたゲーム。

 それが”リミナル・ユニバース”なのである。

 

 と言っても、ダンなんてキャラはいないんだけれども。

 当然だ、スマホゲーにモブを描く隙間なんてない。

 

 なんせ僕はタダの三下糸目のドチンピラ。

 喋るとなぜか関西弁風になってしまう便利屋にすぎないんだから。

 あくまで”風”。実際はどうか知らないけど。

 

 心の声は普通なのにね。どうなってるんだろうね。

 モブなのにキャラづけなのかな。

 

 そして今、僕が追っているのは猫。

 

 タダの猫じゃない。娼館から逃げ出した猫。

 獣化者と呼ばれる、動物に変身する系統の異能使いだ。

 

『ダン、大丈夫!?』

 

 耳に入っているイヤホンから聞こえてきたのは、いつも組んでいるハッカーの声。

 あいつもたしかモブ。僕のような便利屋に仕事を持ってくる中間業者に過ぎない。

 

「ああ、大丈夫やけど。逃げられてしもうたな……」

 

 僕は路地裏から空を見る。カラスが飛んでいる。ここから猫の姿など、見えるわけもない。仕方なく、路地裏から外の街道へと飛び出す。人はまばらに歩いているが、薄暗く、霧が立ち込めていた。もっともこの街じゃあ日常茶飯時だけれども。

 

『あのまま猫のままでいたら、人間に戻れなくなるわ。どこかに落ち延びるはず』

「了解。そいつ調べるで。当てはあるんか?」

『待ってね……ええと。うん、この区域からは市民証なしで出られないだろうから、お得意さんの家にでも落ち延びると思うんだけど……』

「あの娘と特別仲良かったの誰なん?」

『ああ、たしかレイモンドって便利屋と仲良かったみたいね』

 

 レイモンド。あいつか……。

 小洒落たキャスケットを被った探偵風の僕と違って、まるでアメリカ映画に出てくる殺し屋のような男。黒髪でやや癖のある髪をした、無精髭のやつれたおっさん。

 

 なぜそれほど詳しいかと言われると、”リミナル・ユニバース”で主人公たちと紛争を巻き起こし、一章分の尺の末死亡するからだ。おかげで一区画の異能組織が滅んでしまった。大した異能でもないのだが、やけに強いのである。

 

「正直倒せる気がせぇへんな。あの娼婦が世話になってる証拠を掴んで、依頼主にそれを渡せば任務完了ってことにせぇへん?」

『妥当なところだけど、どうやるのよ』

「僕の異能を使うたる」

 

 携帯端末にレイモンドの所在地を送ってもらう。

 寂れたアパートメントの一室がどうやらそうらしい。

 

 僕はポケットからドローンを取り出した。

 手のひらサイズの極小ドローン。こいつなら【幽霊化】出来る。

 そうすれば、壁を通り抜けつつ、周りを索敵できる無敵ドローンの完成だ。

 

「操作して内部を映してみてくれへん」

『了解。本当、便利ね。アンタの異能……』

「上手く使ってるだけや~~」

 

 ドローンを飛ばしたら、後は撤退。いかに最強の殺し屋だろうと、幽霊には気付けない…………でも、そういえばあの男が娼婦を匿ったから原作の事件が起きたんだっけ。

 ま、いいや。僕は自分の仕事をするだけだし。

 

『ビンゴ! やっぱりレイモンドの部屋にいたわね。シャワーを浴びてるわ』

「あとでその動画送ってーや」

『送るわけないでしょ。コレを依頼主に渡せば、一応の言い逃れが出来るわね』

 

 なんとか依頼達成だ。”リミナル・ユニバース”の展開では、レイモンドが暴れまくるのが一章なのだが……正直原作をより良い展開にしたいとかは別に全然思わない。

 

 誰もが薄暗い過去を持ち、誰もが自分のために生きているからだ。

 強いて言うならば、自分の幸せを追求したい。

 

 そんな風に考え、ひとまず自分のアジトに戻ることにした。

 夜の街は危ない。人間がじゃない。”現象”どもが蔓延るからだ。

 

 僕のアジトは潰れた酒場を利用している。誰もいない酒場の店内を通り、奥のキッチンを改装したモニタールームにいるのは、さっきまで話していたハッカーのミライ。

 

 黒髪ショートで、派手な龍の装飾が流れたジャージをいつも着ている。

 今はヘッドフォンをして、風船ガムを膨らませながらモニターとにらめっこしていた。

 

 僕が帰ってきたことに気づいたのか、ちらりとこちらを見て椅子を回転させる。

 どうやら厄介事が舞い込んできたようで、眉を八の字にしていた。

 

「問題発生よ、ダン。クライアントはあくまで”夜猫”の回収を望んでる」

「無理やて。他の便利屋と正面衝突したくないし」

 

 大体、一章時点で最強の生物だぞ、相手は。

 

「相当ごねてるわ。脅しスレスレ」

「良くないところから依頼を受けたんか?」

「娼館自体はそこまででも。”夜猫”のお得意さんがけっこーヤバいみたい」

 

 通信ログを拝見させてもらうと……なるほど、レイモンドがこれから潰すことになる組織がこっちに圧力をかけているわけか。そのままあちらさんと殺し合ってくれよ。

 

「僕が話をつける。つなげてくれや」

「了解」

 

 ヘッドフォンを借りて、モニターの前に立つ。

 しばらくすると、いかにもデブのおっさんが出てきた。

 異能組織”イートーフ”のボス、サザレだ。

 

「よぉ、フェリクス。”夜猫”を連れてこいと言ったはずだが……」

「すまへんけど、こちらもほかの便利屋との戦闘は避けたいんや」

「わからんね。なぜおまえさほどの腕を持ちながら、トラブルを避ける」

「生き残るコツや。堪忍してちょん」

「無理だな。”夜猫”を連れてこい。おまえンとこのハッカーでもいいが」

 

 …………ふむ、前世の記憶からして。

 たしか”イートーフ”は政治家のもてなしに黒髪の娼婦が必要だったんだったかな。

 それも今夜中にでも。不可能だったら沽券に関わる、ということか。

 

「しゃあないな。サザレ。アンタはどうしても娼婦が欲しいらしい。この件、遂行してもええで。ただし報酬を引き上げさせてもらうわ」

「なんだ?」

「この件が終わったら、”夜猫”の自由を保証してもらおか。その条件なら向こうとも揉めなくなるし。ダメなんやったら、悪いけど、この話はなしや」

「…………わかった」

 

 そう言ってモニターが切れた。

 やはり今夜一晩がどうしても欲しいようだ。

 ”夜猫”も面倒な時に逃げ出したものだ。

 

「大丈夫なの?」

「問題ないわ。レイモンドに連絡できるか?」

「やってみるけど……」

 

 再びモニターが切り替わる。半裸のおっさんがモニターに映る。

 背後のベッドでは”夜猫”が全裸で眠っている。もちろん人型で、だ。

 

「レイモンドさん、アンタのところに”夜猫”が逃げているのはよぉ知っとる」

「なんだおまえ」

「話があるんや。一晩だけその娘、実家に戻してくれへん。後は好きにしてええし」

「…………保証は?」

 

 言われて、僕は送り込んだドローンが映していた映像を流してやった。

 ずいぶんとまあ、派手に遊んだようだ。

 今夜、客が取れるかも怪しいがウチのハッカーを送りつけるわけにはいかない。

 

「僕たちはいつでもアンタらをどうにか出来る。しかし便利屋同士で揉め事は避けたい。そこで出来るギリギリの提案なんや。この映像に免じて、信じてもらいたいんやけど」

「…………条件がある」

「なんや?」

「もし彼女が戻らなかったら、おまえを殺す」

「……………………………最大限善処するわ」

 

 そう言って、通信が切れた。

 危うい綱渡りだったが、なんとかなった、よな?

 前世の記憶、使えない情報ばかりかと思ったが……けっこう便利じゃないか。

 

「ふぅ……びっくりした。危うい綱渡りじゃない」

 

 ミライが思わず、僕の背中に抱きついてくる。僕がそもそも屋上から落ちずに、”夜猫”を捕まえていればこんな事にならずに済んだのだが。ま、過ぎたことは仕方ない。

 

「まだ安心でけへんで。最大限、装備を整えて今夜を明かそうや」

「別の区域に逃げてもいいけどね」

「区域間の関所はハッカーに見張られているし、夜は”現象”が湧いて危ないやん」

「それもそーだね。じゃあ私、シェルターに色々持ち込んでおくね」

「頼むで~~」

 

 僕も色々準備しておくか……と、そんな気持ちで一晩を明かす。

 翌日、予定以上の報酬と、レイモンドから短い感謝のメールが送られてきた。

 どうやら上手く行ったらしい。

 

 図らずしも、原作一章のイベントが発生しなくなってしまったような気がするけど。

 まぁ、それはそれ。人死になんて少ない方がいいに決まっているし。

 

 …………しかし誤算があった。

 その日から僕の名前が想像以上に売れてしまったのだ。

 おそらくはレイモンドの感謝でもあり、嫌がらせの一環として。

 

 ”百目”のダン、と。

 




ダン・フェリクス  この物語の主人公。三下糸目金髪青年。
          転生者であり原作”リミナル・ユニバース”の知識と
          異能【幽霊化】で賢く立ち回る。
          なぜか話すと関西弁風になる。

ミライ       ダンと組んでいるハッカー。黒髪ショートジャージ娘。
          まだ幼さが残るが、可愛らしい風貌をしている。

レイモンド     原作一章において最強格のおっさん。異能は強くない。
”夜猫”       獣化者の娼婦。原作一章のキーパーソーン
サザレ       異能組織”イートーフ”のボス。政治家ともコネがある。

疾風迅雷やね
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