「満足かい?」
何が?
「これが、君が望んだ結末だ。
僕は全ての能力を封印されて、ここで一人、生き続ける。
世界を存続させるためだけに、生かし続けられる。
もう、世界を見ることもできない。誰かに話しかけることもできない。
この先ずっと、この真っ白い、何もない、無界の光景を眺め続けるんだ」
どうだろうな。
満足かどうかって言われても、わからん。
俺の目的は、お前をどうこうする事じゃなかった。
ただ、シルフィとロキシーとエリスと、幸せに暮らしたかっただけだ。
仕事に行って金を稼いで、帰って来て家族みんなでご飯を食べて、夜になったら寝室でしっぽりと子作りをする。
普通の……そう、普通の生活だな。
俺の考えうる限り、最大限に幸せな普通だ。
「君の幸せは、僕の不幸せだ」
そっか。
じゃあ、満足だよ。
お前は今、最高に不幸そうだしな。
お前がそうなったってことは、きっと俺は幸せなんだろう。
「そうか……そうかい……憎らしいな」
ヒトガミの表情はわからない。
だが、声音は憎いというものではない。
ただ悲しみに包まれていた。
泣きそうな声で、ヒトガミは言った。
「僕は君が、嫌いだよ」
そうか、俺はお前が、そんなに嫌いじゃなかったんだと思うよ。
ヒトガミが嫌そうな顔をした気がした。
「何を言ってるんだ……?」
「俺もよくわからないけど、今、こうして穏やかな気持ちでいられるのは、お前のおかげという気もする。お前という明確な敵がいなければ、俺はここまで満足できなかったと思う」
明確な敵、明確な目標が出来たからこそ、死ぬまで動けた。
その結果、今の俺があるのだ。
「……そんな事を言っても、手をゆるめたりはしないよ」
「ああ……いや、うん。そういうつもりで言ったのではないんだが……」
なんだろうな。
別にヒトガミに言いたいことがあるわけではないのだ。
嫌っていないというだけで、特別に好きというわけでもないのだ。
もちろん、お礼を言いたいわけでもない。
「……」
「……」
だから、それっきり、会話が途絶えてしまう。
「……もしも」
なんだ?
「……もしも、手をゆるめると言ったら君はどうする?」
「どうもしないさ」
なにせ俺は死んだんだからな。
「そうか……そうかい。……なら、少し手をゆるめよう」
「まあ、好きにしたらいいさ。
俺が言う事じゃないかもしれないけど……」
なんとなく、その肩に、手をぽんと置く。
「これから、頑張れよ」
怒るかな……。
と思ったが、ヒトガミはため息のようなものをついて、肩を落とした。
「もしも、次に会う機会があれば仲良くいこうじゃないか。ルーデウス・グレイラット」
「お前が改心していたらな、ヒトガミ。
じゃあな」
最後に一言。
段々と意識が薄れてゆく中、俺はヒトガミの横を通りすぎて歩き始めた。
振り返る事なく、ただ真っ直ぐに――。
最期にヒトガミは、「またね」と呟いた。
※ヒトガミ視点
過去に、行こう。
幸い、ルーデウスを真似て少しずつ協力者を増やしてきた。
運命を歪ませれば、オルステッドに勘付かれる可能性があるが、今までとは異なる干渉だ。
ルーデウスも死んだ。
おそらく邪魔はされないはずだ。
過去転移魔術を完成させ、ルーデウスを呼び出した瞬間に戻るのだ。
そして、ルーデウス・グレイラットを味方につける。
そうだ、そうすれば良いのだ。
結局のところ、オルステッドがぼくに勝てる要因はルーデウス・グレイラットだ。
ならば、ルーデウス・グレイラットをぼくの味方にすればいい。
ルーデウスはぼくを嫌いではないと言った。
つまり、とんでもないお人好しだ。
ザノバ・シーローンやクリフ・グリモルのような親友でなくとも構わない。ただ友人である。それだけでいいはずだ。
待っていろ、ルーデウス・グレイラット。
ぼくの手で、君を幸せにしてやろう。
「君の幸せは、僕の“幸せ”だ」