ビスタのやる事は、仲間を助ける事と、安全な場所へ移動させる事。
仲間と話をする為にはまず巨人を倒して静かにする必要があった。
なので今は仲間を見つけながら手当り次第に巨人を狩っている。
「───オラッ!!」
また1体、巨人を討伐した。
他の部位の肉を削ぐでもなく、うなじを一撃である。
しかしその顔は、喜びなどとは程遠いもの。
「───チッ、早ぇなぁオイ」
その理由の一部には、ガスと刃が残り僅かになったというものがあった。
「悪ぃな、ちょっと貰ってくぜ」
ビスタは慣れた様に建物から飛び降り、地面で死んでいる兵士の立体機動装置からガスと刃を補充する。
「7割位か……上等だな」
そしてすぐ屋根に移動し、今の状況を確認した。
ガスはそこそこ、刃は満タン。
今のビスタには感情を発散している時間など無いので、胸に蓄積される憤りについても、この場にいる巨人を全て殺してから考える様にしていた。
そんな時。
「っ!」
また1人、戦意を喪失した訓練兵を見つけた。
「おい、生きてっか!?」
「う、うぅ……」
屋根の上に座り込んで頭を抱えている。
「お前、ダズか?」
「ビ、ビスタ……」
よく見ると、出撃前にも同じ様になっていたダズだった。
「ガスは残ってるな!?戦わなくて良いから、とりあえずここを離れろ!」
ダズは何も答えず、項垂れていた。
口を開いたかと思えば、虫の鳴く様な声で言った。
「む、無理だ……もう……俺以外皆食われた……目の前で……」
「はぁ?おいダズ……」
「俺も死ぬ……死ぬだけなんだ……あとは、もう───」
巨人の強さを目の当たりにして絶望し、逃げる気すら失せてしまっていた。
その様子が出撃前より更に酷い理由など問うまでもない。
地獄を見てしまったからだ。
「オイ!!」
生きる事を微塵も考えていない様子のダズを見て、ビスタは怒りの表情で彼の胸ぐらを掴んだ。
「ひ、ひいっ……!!」
「まだできる事があんのに諦めてんじゃねぇ!てめぇには今、生きてる命があんだろうが!」
「っ……じゃあどうしろって言うんだよ!俺より成績が上の奴らがあっという間に全員食われたんだぞ!」
ダズは、現実を目の当たりにした。
仲間達が無惨に、容易に捕食される光景を見て、直感したのだ。
巨人には勝てないと。
自分は何もできず死ぬだけなのだと。
「だからっててめぇが生き抜けねぇなんて話はねぇんだよ!」
しかし今、ダズは生きている。
無抵抗にならない限り、生き残れる可能性はあるのだ。
「今お前が思ってる事はなんだ!ごちゃごちゃ言ってても死にたくねぇんだろ!?精一杯抗えよ!撤退命令が出るまで逃げたって良い!早くしろ!」
「は、はぁ……?お、お前、そんな事したら俺達は───」
「んな事はどうでも良い!ここで動かなかったら極刑になる前に死ぬ!けどここを切り抜けりゃ一先ず生きられる!この先だって生きる可能性はある!少なくともてめぇの命はここで簡単に捨てて良いもんじゃねぇんだよ!」
頭に血が上っていた事、溜まりに溜まった怒りをダスに発散してしまっていた事を自覚したのか、ビスタは手を離した。
「……確かに、ここを生き抜いてもまたすぐ死ぬかもしれねぇ。けどな、今ここで何もせずに死んでも同じだ、なんて微塵も思わねぇ」
そして。
「生きるってのは、そういう事じゃねぇだろ」
「!」
そう言い残して、巨人のいる方へ飛び立って行った。
「く、くそっ……偉そうに言いやがって……」
残されたダズは涙で顔を歪めながらも、震える足で立ち上がる。
「俺だって……俺だって……」
そして恐怖に支配されつつある中で、柄を握り締める。
今までのいつよりも強い力で。
「死にたくねぇんだよ……!」
そして練習を重ねた立体機動装置を駆使した動きで、生き抜く為に動き出した。
○○○○○
トロスト区内では、訓練兵達が壊滅的な被害を被っていた。
特にエレン達34班はアルミン以外全滅という絶望的なもの。
駐屯兵団を含めた一部の精鋭達の力で巨人は倒されているものの、侵攻は止まる気配が無く、他の班からも1人、また1人と食われてしまっていた。
それでも兵士達の奮闘の甲斐あって、トロスト区の住民達の避難がついに完了し、壁内では撤退命令の鐘が鳴り響いたのだった。
○○○○○
「この音は……!よし、頼むぜあいつら!」
撤退命令の鐘の音を聞いたビスタは一瞬胸を撫で下ろし、すぐに気を取り直して近くの巨人に向かって飛びかかる。
「てめーで最後だ!」
15mはあろうかというその個体。
力の差も考えれば一撃で屍に変えられる腕のなぎ払い。
ビスタは避けながらアンカーを刺す。
「フンッ!!」
そしてうなじに向かって一閃。
巨人はそのまま倒れ込み、大量の蒸気を発する。
「……うし、こんなもんか───」
後は壁の上に向かって仲間と共に逃げるだけというところ。
ビスタが一瞬休憩しようと屋根の上に着地し、息を大きく吸った時。
「───っぐ!?」
突然体が、鉄の様に重くなった。
ここに至るまで数多くの巨人を討伐しているビスタだが、人間である以上体力の限界はある。
それがついに来てしまったのだ。
「マジ、か……」
溜まった疲労がかなり堪えたのか、ついに膝をつく。
「今、かよ……」
視界も歪む。
「ヤ、ベェ……」
明らかに、限界だった。
「クソ……」
瞬間、体の力が抜けて倒れ込んでしまう。
そして予想以上に消耗していたのか、ビスタはそのまま気を失った。
○○○○○
撤退命令の鐘が鳴った時、ダズは歓喜した。
「や、やった……生き残ったぞ……!」
戦いが始まる前は絶望のドン底に叩き落とされていたものの、ビスタの言葉とジャンの叱責によって何とか出撃した。
仲間達が目の前で食い尽くされた時は自分でなくて良かったと安心すると共に、いずれは自分もそうなる事を予感して戦意を喪失していた。
しかしそれもビスタに出会うまでの話。
「もう……あんな奴らと戦うのは二度とごめんだ……!」
今のダズは、死にたくない一心で動き回っている。
「壁の上にさえ登れれば……奴らは手出しできない……もう少し……」
やっとこの地獄から解放されるのだと、安全圏に逃げる事ができるのだと、そこに希望を見出して力を振り絞っていた。
「もう少しなんだ……!」
ダズの立体機動は生きる執念故かかなり速く、止まる事は無かった。
「……は?」
ビスタが少し離れた場所で、巨人に丸呑みされる姿を見るまでは。