トロスト区にて。
撤退命令の鐘が鳴り響いた時、多くの兵士が急いで安全圏たる壁の上まで退避した。
しかし、それが出来なかった者達がいた。
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ジャン達を初めとする104期訓練兵達は、窮地に立たされていた。
駐屯兵団本部に巨人が群がっているせいで、戦意喪失したガス補給部隊が籠城し、無くなりつつあるガスの補給が出来なくなってしまっていたのだ。
「おいおい、ここに来てそりゃねぇだろ……」
ジャンは頭を抱えた。
「やるしかねぇだろ!ここでいたずらに逃げ続けてもガスを使い果たすだけだ!機動力を失えば本当に終わりだぞ!」
状況の悪さを理解しつつも、どうすべきかを叫ぶコニー。
その言い分は間違ってはいなかった。
「珍しく頭を使ったなコニー……だが今の俺達の兵力でそれができると思うか?」
この時、前衛の先輩兵士達は全滅していた。
加えて本部のガス補給室には3〜4m級が入っているとと思しき状況。
「はぁ……つまんねぇ人生だった……こんな事ならいっそ言っておけば……」
誰から見ても、絶望的な状況である。
「や、やりましょうよ皆さん!ほら!立って!私が先陣を引き受けますから!」
サシャが声をかけるも、肯定的な反応を見せる者は0に等しい。
「ア、アルミン、一緒に皆を……」
アルミンも、生気を失った顔で下を向いていた。
その一方で。
「ライナー……どうする?」
「まだだ……やるなら集まってからだ」
絶望した表情ではない者もいる。
「だめだよ……どう考えても……」
しかしそれはほんの一部であり、大多数は目に希望を宿してはいなかった。
「僕らはこの街から出られず全滅だ……死を覚悟してなかった訳じゃない……でも……」
出撃前はビスタに軽口を叩いていたマルコも。
「一体、何のために死ぬんだ……」
誰も喋らない。
風の吹く音だけがその場を支配している。
「アニ!」
そんな時、ミカサがその場に到着した。
「なんとなく状況は分かってる。その上で私情を挟んで申し訳ないけど……エレンの班を見かけなかった……?」
「私は見てないけど、壁を登れた班も……」
「そういや、あっちに同じ班のアルミンがいたぞ」
ミカサは離れた所で蹲っているアルミンの元へ駆け出した。
「アルミン!ケガは無い?大丈夫なの?」
アルミンは俯いたまま無言で頷く。
ミカサは安堵すると共に、アルミンと同じ班である筈なのに姿の見えないエレンを探す。
「エレンはどこ───」
アルミンが顔を上げた時に涙を流していた事から、ミカサはただならぬ空気を感じ取った。
「僕達……訓練兵……34班───」
アルミンは役立たずな自分を心の底から憎みながら、残酷な事実を告げた。
「トーマス・ワグナー、
ナック・ディアス、
ミリウス・ゼルムスキー、
ミーナ・カロライナ、
エレン・イェーガー、
以上5名は自分の使命を全うし……壮絶な戦士を遂げました……!」
訓練兵達はざわつき始める。
これから全員生き残る為には、巨人をどうにかしなくてはならない。
その巨人とまともにぶつかるという事がどういう事か、34班が証明した様なものだからだ。
「落ち着いて。今は感傷的になってる場合じゃない」
しかしミカサの様子はいつもと変わらず冷静だった。
それについてはアルミン以外の誰も、何も思わなかった。
「マルコ。本部に群がる巨人を排除すればガスの補給ができてみんなは壁を登れる。違わない?」
「あ、あぁ、そうだ……し、しかしいくらお前がいても、あれだけの数は……」
「できる」
ミカサは皆に注目しろとでも言う様に片方のブレードを掲げた。
そして。
「私は、強い……あなた達より強い……すごく強い!ので、私は……あそこにいる巨人共を蹴散らせることができる……例えば、1人でも」
そんな事を言い出した。
突然のことに周りは戸惑う。
「あなた達は腕が立たないばかりか、臆病で腰抜けだ……とても残念だ……ここで指をくわえたりしてればいい……くわえて見てろ」
言い終えたかと思えば、ミカサは振り返って今にも1人で本部へ突っ込もうとする様子を見せる。
周りからはあの数の巨人を1人で相手取る事は不可能だと言われるが。
「できなければ死ぬだけ……でも勝てば生きる。戦わなければ、生き残れない……」
そんな事は意に介さず、飛び出していった。
誰もやろうとしなかった1歩目を、簡単に踏み出したミカサ。
他の兵士達が彼女の背を見て尚足を動かさない中。
「残念なのはお前の言語力だ……あれで発破かけたつもりでいやがる……」
1人、1歩を踏み出した者がいた。
「てめぇのせいだぞ……エレン……」
最初について行ったのは、ジャンだった。
「オイ!俺達は仲間に1人で戦わせろと学んだか!?お前ら!本当に腰抜けになっちまうぞ!」
「そいつは心外だな」
ジャンの叫びに対し、上等とでも言う様に走り出すライナーと、それについて行くベルトルトとアニ。
「はぁー……」
大きくため息を吐いた後に、腹を括って飛び出したマルコ。
「や、やい腰抜けー、弱虫ー、ア、アホー……」
動かずにいる者達を挑発しているつもりなのか、語気の弱いサシャ。
少し遅れてコニーとアルミン。
先に動き出したのはこのメンバーだった。
「くそおおおっ!」
続いて飛び出したのはダズ。
「お、おいダズ!?」
あのダズが、と驚く訓練兵達。
「うるせぇ!このまま何もせず死ぬなんてごめんなんだよ!」
とはいえ彼の顔は勇敢な兵士などではなく、生にしがみつく人間そのものだった。
「ちくしょう……ビスタのせいだ……!」
ビスタが丸呑みにされる光景を目にしたダズは、死にたくないとより強く思った。
同時に生き抜く為には抗わなければならない事も学んだ。
小さく変化しつつあるものの、覚悟など決めている筈もない。
「生きる……絶対生き残ってやる……!」
それでも必死になるのだ。
生きる為に、自分のやりたい事の為に。