「───例えば3回巨人に食われてくるってのはどうだ?」
帰り道サシャを3人で運ぶ中でユミルは言った。
あまりの言葉にクリスタの身体が跳ねる。
「上等だよ。目の前で食われてやっから回数数えとけよ」
「……バーカ、冗談だよ」
「ダ、ダメだよビスタ!」
ビスタが本当にそうしそうなものだから、ユミルは言葉を引っ込めた。
クリスタも慌てている。
「そんな事しようとしたら私、お願い使ってやめさせるからね!」
なんとも優しい言葉を吐くクリスタだが、それが心からの本音なのかユミルは考えていた。
とはいえ。
「(「いいこと」しようとしてるこいつの事だ。私の無茶な命令止める以外の目的で使わねぇんだろうな)」
それだけは間違いないだろう。
そんな事を思う一方で。
「クリスタ……オメーって奴はやっぱこいつとは違うな……」
ビスタは心の中でクリスタに対して拍手していた。
「なんか言ったかビスタ君?」
「いえ何も。クリスタが良い奴だなと思っただけですよ」
「そ、そんなことないよ……」
この時ユミルは思った。
「(良い奴、ねぇ)」
頼んでもないのにサシャを共に運ぶビスタも大概お人好しだと。
こんな馬鹿らしい命令にしっかり従おうとしている性格は、また別の形で利用できると。
「───うし、この辺までで良いだろ」
「うん、手伝ってくれてありがとう」
「おー、こんくらい気にすんな」
「それより大丈夫なの?早く帰らないとビスタも怒られちゃうと思うけど……」
思い浮かぶのは化け物じみた目つきのあの教官の怒号。
「やっべ、じゃあな!オメーらちゃんと寝ろよ!」
これ以上面倒事はごめんだと、ビスタが踵を返して走ろうとした時。
「ビスタ!」
クリスタが呼び止める。
「また明日!」
その言葉にビスタは。
「おう!」
クリスタには笑顔で。
「また明日な?ビスタ君」
「なーんかテメーに言われると良い未来見えねぇな」
ユミルには舌を出して返答した。
○○○○○
翌日。
ビスタは訳あって頭から地面に激突し、重傷を負っていた。
簡単に言えば立体機動の姿勢制御訓練で失敗したのだ。
今は頭に包帯を巻いて食事を楽しんでいた。
「だ、大丈夫?ビスタ」
向かいに座っているクリスタは当然心配する。
「おう、血が多く出てるだけで深くはねーからよ」
「ほ、本当?」
「強がったりすんなよ。もう十分恥ずかしいんだから」
しかし、ユミルからは煽られる。
「あ”ぁ!?」
基礎の基礎で失敗するという、言葉を選ばなければ論外な状況。
だというのに他の同期達が特に驚かなかったのには理由があった。
「それにしても……まさかもう1人いたなんてな」
「な。俺だって驚いてるぜ」
そう。
ビスタの前にもう1人、盛大に失敗した者がいたのだ。
「ちょっと話聞いてくるわ」
ビスタは軽やかな足取りでもう1人の失敗組、エレン・イェーガーに声をかけた。
今は呆然とした顔で2人の幼馴染と座っている。
昨晩エレンは、他の同期達の前で「巨人を皆殺しにする」と息巻いていた。
だというのに初歩の訓練で大ゴケしているという目も当てられない現状。
大口を叩いていたこともあり、周りと比べて悪い意味で目立ってしまっていた。
「よう、ここ座って良いか?」
「あ、君は……」
最初に反応したのは金髪の少年、アルミン・アルレルト。
「なぁ、エレンっていったっけか?」
「お、おう……お前はたしか……」
「俺はビスタ。突然なんだがよ、お前も姿勢制御失敗したんだって?」
「!」
エレンは頭を抱えた。
「……あぁ、そうだ」
「随分落ち込んでんだな?」
「当たり前だろ!このままじゃ奴らを根絶やしにできない!戦えないんだぞ!」
「根絶やし……」
ここで言う「奴ら」というのは何か、などと聞くまでもない。
もちろん巨人である。
それはそれとしてビスタは、エレンの巨人に対する並々ならぬ殺意を感じ取った。
「それがお前の生きる理由って事か?」
「あぁ!奴らを1匹残らず駆逐するまでは絶対に死なねぇ!」
紛うことなく本気の目だった。
そこから感じるエレンの精神力に、ビスタはある種尊敬の念を抱いた。
「頑張れよ。応援してるぜ」
「……お、おう!」
先日ジャンにバカにされたこともあってか、エレンは肯定的な反応に少し驚いていた。
「な、なぁビスタ、お前にも夢とかあるのか?」
エレンは褒められっぱなしが気恥ずかしいのか、急ぐようにそう言った。
それに対してビスタはしっかりと頷いた。
「おう。俺にも生きる目的はあるぜ」
「それってどんな事なんだ?」
「この壁の外に出て、世界中を見る事だな」
「!」
エレンはアルミンと共に目を見開く。
幼い頃、2人も同じような夢を抱えていたからだ。
「そ、それで……外の世界で何をしたいの?何かを見つけたい……とか?」
驚きのあまり、アルミンは割り込む。
聞かずにはいられなかったのだ。
「や、そんなかっけぇ夢はねぇな。俺は───」
○○○○○
ビスタが席に戻った時、悲劇は起きた。
机にあったはずのビスタの食事が綺麗さっぱり食べ尽くされていたのだ。
「あー!?ユミルてめー俺の飯食いやがったな!」
「違ぇよ!サシャが勝手に食ったんだよ!」
それを聞いてビスタはサシャを血眼になって探そうとする。
「ご、ごめんねビスタ。止めたんだけど」
「気にすんなクリスタ。おめーは悪くねーよ」
申し訳なさそうにするクリスタに対しては、優しい目を向けていた。
「おい、私も止めたんだが?」
「マジ?」
「マジ」
ビスタはユミルの目を見る。
彼女の目は疑われて心外とでも言うようなものだった。
「悪い」
ビスタはすぐに冷静になり、頭を下げた。
「なんだよ、随分素直だな」
「そりゃ素直にもなるだろ。普通に俺が悪かったじゃねーか」
「……変な奴」
「さてと……」
ビスタは手の骨を鳴らしながら辺りを歩いてサシャを探す。
何となくエレン達がいた方に目を向けると、エレンが座っていた席に主犯のサシャが座っていた。
今はエレンのもう1人の幼馴染であるミカサのパンをロックオンしている。
「サシャアアアア!!」
そんな中に突っ込む、銃声と勘違いする様な怒号。
「ほああああああ!?」
サシャは小動物の様に悲鳴をあげた。
ビスタの声が響き渡ると、同期達も何事かと目を向けた。
「人の飯盗りやがって!覚悟できてんだろうなぁ!?」
ビスタはサシャを追いかけ回す。
サシャは思った。
捕まったら死ぬ、と。
涙目で逃げ回っていた。
元はと言えばサシャが悪いので自業自得である。
「おい貴様ら、何を騒いで───」
あまりにドタバタ音を立てるものだから、教官ことキースが様子を見に来た。
「教官!こいつが俺の飯を盗みました!懲罰房にぶち込んでください!」
その時サシャはすでにビスタに捕まって引きずり回されていた。
「…………」
中々な絵面という事もあり、ビスタはキースから拳骨を食らった。
「おぼ!?」
目玉が飛び出るかのような衝撃。
ビスタは頭ごと床にめり込んでしまった。
助かったと思ったサシャがそろそろと逃げようとした時。
「ブラウス。今すぐ事態を解決しなければ貴様を3日間食事抜きにする」
「へぁ!?」
キースからとんでもない爆弾が落とされた。
「み、3日間……3日……死ぬ……終わり……」
膝から崩れ落ちるサシャ。
「あんのやろおおお!!」
同時に、ビスタの頭が床から抜け出した。
辺りを見回す目つきは血走っていた。
「ビ、ビスタ。えっと、私……」
1番近くでそれを見た事で怯えた様子のサシャだが、この時ビスタの頭は別のことでいっぱいだった。
「あぁ!?おめーはもう良い!あの教官ぶっ飛ばしてやる!」
キースに一杯食わせるため、ビスタは叫びながら出ていった。
「か、解決ですか!?これでご飯抜きじゃ無くなったんですか!?」
そこには1人、不安になるサシャだけが残されていた。