「オルァアアアア!!」
不意打ちだというのに叫びながらビスタはドロップキックを繰り出す。
キースはそれを背を向けて避ける。
するとどうだ。
「い!?」
キースではなく、彼の正面にいる兵士にキックが当たりそうになる。
その兵士は小柄なこともあってか、キースの身体で完全に隠れてしまっていたので、ビスタにしてみれば完全に想定外だった。
「悪い!避け───!」
ビスタが叫ぶも、その人物は避けることはしなかった。
「……マジ?」
それどころかビスタの足を掴んで、ドロップキックを止めてしまった。
「いっで!!」
足を掴まれているという事もあり、ビスタは頭から床に落ちる。
「おおおおお……!?」
「オイ、随分な挨拶だな」
「わ、悪い!まさかもう1人いるとは思わなくて───」
お返しとでも言わんばかりにその人物の鋭い蹴りが飛んでくる。
「リヴァイ」
が、ある人物の一声で寸止めとなった。
「エルヴィン。俺は挨拶を返そうとしただけだが?」
「歯を蹴飛ばすのを挨拶とは言わないぞ」
ビスタは直感する。
「(あ、危ねぇえええ!)」
あのまま蹴られていたら、歯が飛ばされてしまっていた事を。
歯が無くなるとどうなるか。
まともに食事ができなくなるのだ。
「(それだけはマジ勘弁!)」
そんな事は絶対に嫌なビスタにとって、リヴァイと呼ばれた男の蹴りを止めたこのエルヴィンという男はこの時恩人となった。
それはそれとして。
「えっと……リヴァイさん?すんませんでした!」
中々の無礼を働いたとして、まずはリヴァイに頭を下げた。
「エルヴィンさん?もありがとうございます」
そしてエルヴィンに精一杯丁寧な言葉で礼を述べた。
「君は……」
そして思い出す。
名乗っていたかった事を。
「ビスタです。よろしくお願いします」
頭を下げて自己紹介する。
その直後。
「いでででで!?」
「上官に蹴りを繰り出すとは何事だ!」
ビスタはキースに頭を掴まれて連れていかれてしまった。
残されたのはエルヴィンとリヴァイ。
「まず謝るべきは教官にだったか」
「おいエルヴィン。お前はあれを助けて良かったと思うのか?」
「どういう意味だ?」
「あのふざけた野郎がこの先戦う中で生きられるとは俺には思えん。無理にでも矯正しねぇと、仲間も危険に晒すだろう」
「私も同意見だ。が、不思議な性格でもある。案外しぶとく生き残るかもしれない」
リヴァイが思い浮かべるは先程の謝罪。
リヴァイの暴力に対して恐れを抱いたからではなく、ただ純粋な気持ちの吐露。
それに関してはリヴァイも珍しいタイプだと思った。
「お前の意見を肯定するつもりはさらさらねぇが……あいつが巨人と戦う事になったらどうなるか、見てみてぇもんだ」
○○○○○
「教官って元々調査兵団だったりします?」
執務室にて反省文を書かされながらビスタは問うた。
「答える理由は無い」
「なんとなくですけど教官は薔薇のとこも馬のとこも似合わない気がするんですよね」
「駐屯兵団と憲兵団だ馬鹿者」
「というか教官位強かったら───」
少し、空気が重くなった。
「……すみません。ふざけが過ぎました」
ビスタは話す事をやめた。
キースの雰囲気は威圧的なものだったがその中に少しだけ、これ以上話すことを辞めろと哀願している気持ちを感じたからだ。
○○○○○
罰を終えてこれから寝室に戻ろうかというところ。
「よう、いいツラだな」
「おお、ユミルじゃねーか。寝なくていいのか?夜更かしは肌に悪いらしーぜ?」
「んな事気にしてねぇよ。からかってやろうと思って様子見に来ただけだよ」
「相変わらずいい性格してるぜおめーはよ。つーか見つかったら怒られるんじゃねーのか?大丈夫かよ」
「私はあいつみたいに良い子じゃないからな。好きにさせてもらってるぜ。それに見つからねぇように動いてるに決まってんだろ」
「おー流石ユミル様。……しっかしあの教官強過ぎるぜ。拳骨1発たんこぶ3段だぞ?」
「はははっ、色男になったな!」
「おめーな……」
そんなやり取りがあった。
○○○○○
男子たちが集う寝室に戻ってきたビスタ。
「なぁ、大丈夫か?」
最初に出迎えてくれたエレンは同情したように言われる。
「ま、まぁなんとかな。そういやエレン、おめー明日大丈夫かよ?」
「あぁ……皆からも助言は貰えなかったけど、絶対こなして見せる」
「助言を貰えなかった?薄情な話だな」
「いや……ぶら下がるのにコツがいるとは思えないって……ていうか、ビスタだって明日が勝負だろ?」
「まーな。ただ俺はおめー程兵士になりたいって訳じゃねーし、無理なら無理で良いさ」
そう言うと、エレンは驚愕の表情を見せた。
「へ、兵士になりたい訳じゃないって……ならどうやって壁の外に出るんだよ?」
「そうなんだよ。そこが問題でな。なんとか立体機動装置だけでも貰えねぇもんかね」
ビスタの様子は一般的な兵士と比べて随分呑気に見えるものだった。
巨人と戦うにしては気を抜き過ぎているというか、どこか楽観的な雰囲気。
「何言ってんだよ。立体機動装置があっても、兵士になって訓練しなきゃ巨人の餌になって終わりだろ?そうなったらお前の夢だって……」
「エレン。言ってなかったけどな、俺結構しぶといんだよ。中々死なねぇんだこれが」
「は、はぁ?しぶといったって……相手が巨人じゃ話が違うだろ」
「あー……確かにな」
「随分盛り上がってるな。どうしたんだ?」
ここで1人の男が話しかけてきた。
「お前は確か……ビスタだったか?俺はライナー・ブラウンだ。よろしくな」
「おう、よろしくなライナー……つー事は、横のおめーはベルトルトか?」
「なんだ、知ってたのか?」
「姿勢制御上手ぇんだろ?コツを聞こうと思ってたからよ」
「あぁ、そういう事か。だがすまない。エレンにも言ったが、期待できるような助言はできそうにないんだ」
その日、ビスタは不貞寝した。