キースドロップキック事件から時は経ち。
「なんだかんだおめーらと過ごせる様になって良かったぜ」
「結局私らはお前がなんで姿勢制御クリア出来たか分からずじまいなんだけどな」
「話すと長くなるからよぉ。出来るまでやったって事で納得してもらいてぇわ」
食事をしながらユミルとビスタは話す。
「つーかよぉ、まだサシャのこと使い走りにしてんのか?勘弁してやれよ」
「本当ならお前もなんだけどな」
「ばっか俺は回数付きとはいえなんでも命令聞くんだぜ?使い走りとどっちが良いよ?」
「なんでちょっと楽しそうなんだよ」
「刺激が好きな性分だからな。おめーらのセンスに期待してんだぜ?」
「はぁ……クリスタがいなけりゃおもしれぇことさせてんのにな」
「つっても、クリスタがいなくなりゃ面白くなくなっちまうだろ?」
ユミルは肯定も否定もせず、話を逸らす。
「お前がクリスタだけに甘いのは結構ムカつくんだよ」
「はぁ?じゃあ何か?おめーにもクリスタの時と同じ対応しろってか?」
「できんのか?」
「無理だな。多分召使いみたいになる」
「ははっ、悪くねぇな。ちょっとやってみてくれよ」
そう言われるとビスタはすぐに態度を改めた。
まず、姿勢が綺麗になった。
その直後自由奔放な様子は消え去り、畏まったものへと変貌。
ユミルの傍に立っていれば、彼女の従者と思われるであろう雰囲気になっていた。
「いかがですか?ユミル様」
ユミルに話す声も柔らかく、敬意を持ったような声。
いつものビスタと比べれば「誰だこれは」状態である。
「おし、やめろ」
「なんだよ。せっかく切り替えたのによ」
「お前演技上手いんだな。初めて知ったよ」
「演技っつーか、実際おめーを尊敬してるとこはあるんだぜ?」
「へぇ?例えばどこを?」
「優しいとこだな」
「……はぁ?」
ユミルは面食らった。
しかしビスタは心からの本音を何事もなく吐き出す。
「なんだかんだ命令を使わねぇところも、俺が教官にぶっ飛ばされてた時に様子見に来てくれたところも、おめーがどう思っていようと、俺にしてみりゃ尊敬すべき”優しさ”だよ」
ユミルはため息を吐いた。
「……変な奴だな。すぐその辺の嘘つき共に騙されるんじゃねぇか?」
「それもまた一興だな。言ったろ?刺激が好きなんだよ」
「巨人に食われるのも刺激か?」
「まーな。食われてみてーとは思うぜ」
「ダメだよ、ビスタ」
常識外れな発言をするビスタを咎めたのは遅れて合流したクリスタだった。
彼女はユミルの隣に座り、ビスタを睨む。
「ビスタが死んだら悲しむ人もいるんだから」
しかしその睨みに含まれる優しさをビスタはしっかり受け取った。
「やっぱおめーは良い奴だな。命令とあれば生き抜いてやるぜ?」
「本当?じゃあ1回分使おうかな」
これは根拠のない自信なのだ。
しかしユミルとクリスタは知っている。
このビスタという男は実際事を起こすまで何をしでかすか分からないということを。
「やめとけクリスタ。どうせ死なねぇよこいつは」
「うん、私もそう思うけど……一応ね」
「だとよビスタ。うちの女神の気持ち、無下に───」
気づけばビスタは、他の同期達と絡みに行っていた。
「あいつ、ほんと自由だな」
「ビスタは変わらないよね」
○○○○○
ビスタは3人組で固まっている内の1人、ベルトルトと肩を組みに行った。
「ようベルトルト、相変わらず落ちた雰囲気だなおめーはよ!」
「ビ、ビスタ……」
「ま、おめーがそれで良いってんなら良いけどな」
「おいビスタ、お前どうやってクリスタと仲良くなった?」
そう言ってビスタと肩を組むライナー。
「どうって……俺から何かした訳じゃねーよ。向こうから話しかけてくれただけだ」
「くっ、そんな羨ましい話が……」
「羨ましいっつったって……おめーも話しかけりゃ良いだろ。あいつ良い奴だし」
「……それは気恥ずかしいだろ」
「あのなぁ……お?」
ビスタとライナーがわちゃわちゃする傍ら、無言で食べ続ける1人の少女。
名をアニ・レオンハート。
小柄なクールビューティーである。
「なぁアニ、聞いたところによるとおめー強ぇんだって?」
「いきなり何?」
アニの表情は変わらない。
基本的に無表情なのだ。
「今度の格闘術俺とどうよ?いっちょ戦ってみねーか?」
「……別に良いけど」
「約束だぜ。負けねーからな」
アニと約束を取り付けたことで気を良くしたビスタ。
去り際、ベルトルトに言った。
「おめーが凄ぇ奴だってのはなんとなく分かるからよ、もうちょい自分のやりたいことやってみても良いんじゃねーかな?」
「……僕には、どうすればいいか分からない」
「今できなかったとしても時間はいっぱいある。おめーがやりたいって言えば、いくらでも協力する。ゆっくり、それでいてちゃんと考えな」
ビスタ自身、何も無理を強いている訳ではない。
ベルトルトの中に「何かしたい」と思う気持ちを感じたからそう言っているのだ。
だからといってベルトルトが望まない以上何も行動する気は無いので、結局はベルトルトの動き次第。
とはいえこれはベルトルトの事を気遣っている訳ではなく、単純にビスタがそうしたかっただけである。
○○○○○
「なぁ、明日の休みどうする?」
夜。
宿舎で男子達はそんな話をしていた。
「ビスタは何か予定とかあるの?」
アルミンが問う。
「なんもねぇな。休みなのも今知ったし」
「お前話聞いてなさ過ぎだろ」
ジャンが呆れる。
「おめーらは?」
「そりゃあトレーニングだな」
戦うためには鍛錬を怠らないエレン。
「ミカサと一緒にか?」
「テメェこの野郎!」
嫉妬で怒り狂うジャンはエレンに掴みかかる。
「離せよ!」
「俺だってなぁ……!」
「落ち着けジャン。せっかくの休みなのに騒ぎ疲れて寝過ぎたりしたら損だろ?」
そんなジャンを引き剥がすのはライナー。
「マルコよぉ」
ビスタはマルコに質問する。
「ジャンの野郎優秀なのにミカサ関連のメンタル弱過ぎねぇか?親友から一言言ってやってくれよ」
「こればかりはどうしようも無いかな」
「あ、マジで?」
騒がしいが、これが男子組の日常なのだ。