「暇過ぎるぅうう!!」
やって来た休日。
他の面々は事前に予定を立てていた事もあってかいなくなってしまっていた。
今は食事を終えたビスタが1人椅子に座って考え込んでいる状況である。
「……うーん」
いつもはそれなりに賑やかな場所だが、今は世界が1人のものになったように静かだった。
「───ぬおおおお、誰か帰ってきてくんねーかなぁ!!」
暇つぶしに椅子を積み上げてみたり、机の上で寝転んでみたり、奇声を発してみたりするが、1人とは中々寂しいものである。
「……待てよ?ここは1つ浸ってみるか」
ここで思考を切り替えたビスタは格好つけて椅子に座り、頬杖をつく。
そして目を閉じて。
「───♪」
小さな声で歌い始めた。
○○○○○
「───何やってんだおめーは」
歌い終えた後ビスタが目を開けると、向かいには休日の装いのクリスタがいた。
「あ、ご、ごめんね!上手だったからつい……」
「ま、良いけどよ。楽しかったか?」
「うん!」
「そりゃ良かった」
「……今のってどういう曲なの?」
「簡単に言えば恋の曲だな」
「恋の曲!?」
「!?」
そう言うとクリスタは目を輝かせた。
突然の事にビスタは肩を震わせる。
「ねぇビスタ、良ければさっきの曲、もう1回聞かせてくれない?」
「お、おう……」
見たことがない程クリスタが楽しみにするものだから驚きつつも、ビスタは目を閉じて息を吸い込む。
「───♪」
クリスタは歌うビスタを見つめる。
「(ビスタのこんな顔、初めて見たな)」
歌っている時のビスタの顔はいつもの様に百面相よろしく表情筋が暴れ散らかしている時に比べれば静かで、変化に乏しかった。
『───Hello!どこにいるの?なにしてるの?』
その声は小さいながらも通るもので、いつものふざけた声に比べてとても優しく、柔らかかった。
『僕の気持ち知りもせずに』
歌っている曲は爽やかながら10代の少年の片想いするような、甘酸っぱさも感じるものだった。
『Hello!いつの間にか弱気になってく』
食堂の丁度良い気温とも相まって聴き心地が良い、とクリスタは思った。
『血液型=Bの君を好きになっちゃった僕の負けだ』
歌い終わったビスタが目を開けると、向かいに座っていたはずのクリスタはいなくなっていた。
「───ん?どこ行った?」
「ビスタ」
面食らっているビスタの横から声が聞こえる。
「うお!?」
驚きながら咄嗟に視線を動かすと、いつの間にか移動していたクリスタがいた。
「ごめんね、ちゃんと聞きたいなって思って」
「そりゃ嬉しい話だな。こういうのも悪くねーだろ?」
「うん。いつもと違う人みたい」
「おめーもどうよ?歌ってみねーか?」
「えっ、私も?」
突然の提案にクリスタは目を丸くする。
「綺麗な声してっからどうかと思ってな」
「そ、そうかな?」
「気が乗らねぇならまた考えといてくれよ」
「ううん、せっかく誘ってくれたんだもん。じゃあちょっとだけ……」
○○○○○
「───ど、どうかな?」
「おう、すげー良かったぜ」
「えへへ……」
「俺と同じ音程で歌うとおめーにゃ低いからよ。基準になる音をそのまま上げたんだが……歌いやすかったみてーだな」
「うん、楽しかったよ。ビスタも教えるの凄く上手だったし」
「そりゃ重畳。いつか皆の前で歌ってやれよ。大喜びするぜ」
「えっ!?いや、まだちゃんと覚えられてないし、練習もしてないし……」
「なんだよ、せっかく良いもん見れると思ったのによ」
ビスタは口を尖らせた。
クリスタの歌をまた聴きたいと思ったからだ。
「でも楽しかったよ。なんだか新しい自分を見つけたみたい」
「お、そりゃ良かった」
それはそれとしてクリスタ自身が楽しかったなら、それが1番だと喜んだ。
「それにしても恋の曲かぁ……ビスタってそういうの興味無いと思ってたよ」
「そうか?」
「うん。他の子達からそういう話は聞くけど……ビスタからは聞いた事なかったから」
「まー興味無いわけじゃねぇよ。俺だって雷落ちるみてーな恋してーしな」
「あ、そうなんだ。何か意外だな」
「そうかぁ?」
「うん。多分だけどビスタって特定の誰かっていうより、皆の事が好きでしょ?」
ビスタは頷いた。
実際104期の面々は面白い者ばかりで、ビスタは退屈せず楽しく過ごせているからだ。
「だから誰か1人を凄く好きになるっていうのが、あんまり想像できないかな……あっ!でも、もしそういう人ができたら勿論応援するからね!」
「お、おう……なんでおめーが楽しそうにしてんだ?」
少し興奮した様子の女神の眩さには、ビスタもたじろぐばかりだった。
「そ、そういやおめーは?そういう話はねーのか?」
「えっ?」
「ほら、おめー程良い奴だとそういう話の1つや2つ……」
「うーん……憧れはあるんだけど───」
○○○○○
「なぁユミル、おめーがクリスタに近づく男撃退してるって話、あれマジだったんだな」
夕食時。
ビスタは遠い目をして言った。
「信じてなかったのかよ」
「んな事ねぇけどよ、今日クリスタと話してて100%マジだって分かった」
「クリスタはあの通り良い子ちゃんだからな。馬鹿どもは簡単に引っかかるんだよ」
「……まるで本当は良い子ちゃんじゃないみてーな言い方だな?」
「さぁな?」
ビスタはそれ以上詮索する事はしなかった。
そういう事は特に気にしない性分だからだ。