───時は経ち、104期訓練兵団の解散式の夜。
「終わっちまったな。訓練兵」
「うん。あっという間だったね」
「結局命令は使わず終いだしなぁ、どうするかな」
「ユミルはまだ3回残ってるんだっけ?」
「まーな。クリスタは……2回だっけか?」
「うん。前に使ったの。ユミルもいたでしょ?」
「あぁ、あれか。多分聞こえてねぇぞ?」
「……えっ!?」
ユミルとクリスタが視線を向けるのは、コニーやサシャと飯の取り合いをしている1人の男。
「立体機動じゃ負けてるがなぁ、生身じゃ俺のもんだぜ!」
「クソっ、俺達より背高いからって調子乗りやがって……」
「ビスタ、食べ物の恨みは恐ろしいんですよ……!」
そういう競技かの様に互いの食事をロックオンし、相手に隙ができた瞬間に奪い取るというハイエナじみた行動に熱を持っている3人。
「いただき!」
「隙ありです!」
コニーとサシャの同時攻撃は巧みに、ビスタの皿の上のものを掻っ攫っていく。
直後キエエエエエ、とビスタの奇声が響き渡る。
「ったく、気楽なもんだぜ」
それを見ながら鼻で笑うジャン。
「まぁコニーもサシャも10番以内に入ってるから、楽しくなるのはしょうがないだろ」
「あいつらはな。問題はビスタだよ」
「あぁ……あいつはずっとあんな感じだろ?」
「これから駐屯兵団か調査兵団に行くってのに、馬鹿な奴だぜ」
「でもオレは、ビスタが死ぬとこって想像できないんだよな。ほら、雪山の中でも生き残ってただろ?」
「まーな……」
「ジャンだって本当は心配してるんじゃないのか?」
「ねぇよ!」
○○○○○
「くそー……野生児共め……」
結果として根こそぎ食事を持っていかれたビスタは、しょげながら椅子に座った。
「だ、大丈夫?ビスタ」
「大丈夫に見えるか?全部いかれちまったんだぞ?」
「わ、私ので良かったらあげるよ?」
「マジか!?じゃあ───」
ビスタがクリスタの食事を皿ごと頂こうとした時。
「オイ」
とんでもない圧を感じた。
「……悪いクリスタ、ユミル様に殺されんのはマジ勘弁だ。今の忘れてくれ」
そう言ってビスタはクリスタと距離を取った。
「そ、そっか……!」
クリスタは少し悲しげな笑顔になった。
その直後、ユミルはビスタに蹴りを入れた。
「オイ何してんだよてめぇ!さっさと貰ってやれよ!」
あまりの切り替えにビスタも目が飛び出る。
「止めたのおめーだろ!」
「クリスタが悲しんでんだろ!」
彼女を悲しませない事。
それはユミルにとっての最優先事項だった。
いかにビスタがふざけた事をしようともクリスタが笑うのであれば飲み込むのである。
「なぁクリスター、やっば飯貰っても良いか?」
「……うん!好きなだけ食べて!」
クリスタは嬉しそうに自分の皿を差し出す。
「サンキュ……ん?」
ビスタはそれを受け取った後、すぐに違和感を感じた。
食事に手をつけた様子が無いからだ。
「なぁクリスタ」
「何?」
「おめー食ってねーだろ?」
「うん。ビスタが欲しがるかと思って取っておいたの」
「!?」
即答。
なんでもなく言うクリスタ。
「待て待て待て。さすがに食えよ!なぁユミル!」
「そうだぞクリスタ。生きるためのエネルギーをだな」
さすがに焦る2人。
ビスタとてそんな優しさにつけ込む様な事をする人間ではないのだ。
「よし、俺は4分の1くらい貰うからよ、残りはちゃんと食うんだぞ」
「う、うん……」
ここでビスタのファインプレーが光った。
「(よくやったビスタ!)」
変に遠慮すると逆に悲しそうな笑顔を向けてくる事を知っているユミルは内心ホッとする。
ビスタに関しては単純に食欲に負けただけである。
「でも、もっと食べたかったら言ってね」
「お、おう」
ビスタは天を仰ぎ、ユミルに視線を送って助けを求める。
ユミルは頭を抱えながら首を横に振った。
「(良い奴過ぎるのも考えもんだぜこりゃあよ……)」
クリスタが夕食を口に入れてくれた事で2人は胸を撫で下ろす。
ユミルとビスタ、2人とも考える事は違おうともクリスタに頭を痛めているのは同じだった。
「クリスタ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
ユミルは立ち上がってクリスタの手を引いて歩き出したと思えば、少し離れたところにいたミーナ達にクリスタを任せて帰ってきた。
「ちょっと外出るぞ」
「待て待て、飯は?」
「いいから来い」
「……わーったよ」
○○○○○
「───なぁビスタ、お前結局調査兵団に行くのか?」
座りながら結局持ってきた飯をかき込むビスタ。
それを見下ろしながらユミルは言った。
「ん?そりゃあな。駐屯兵団との2択だぜ?じゃあ面白そうな方行くだろ」
ユミルにとっては分かっていた反応ながらも、それがどういう事が理解しているが故に数秒黙った。
「……じゃあ長い付き合いになりそうだな」
「おっ、おめーも来んのか?」
「あぁ、多分な」
「多分?」
「多分、クリスタは調査兵団に行く」
「あぁ、そういう……さすがクリスタ。皆の為にってか?」
「違ぇよ。あいつは……」
大きくため息を吐いた。
次の言葉を言おうとして何とか止めている様だった。
「なんでもねぇ。とにかく、早死になんてふざけた事すんなよ」
「そりゃおめーらも───」
「命令だ」
ユミルの目に宿る意思を多少なりとも感じ取った事で、ビスタのふざけていた様な笑顔は消える。
「……分かったよ。ユミル様の命令とあらばな」
「私だけじゃねぇ。クリスタの命令でもあるんだよ。前に言われただろ」
「前?」
「……やっぱり聞いてなかったんだな」
戻った後ビスタは、命令を覚えていなかった事を知ったクリスタに少し怒られてしまった。
そして。
「好奇心で巨人に食べられたりするのは禁止!命令だからね!」
「わーったよ……あと1つ聞いていいか?」
「なに?」
「丸呑みはセーフか?」
「ダ、ダメだよ!絶対!」
そう改めて命令されるのだった。
クリスタが調査兵団に入る事に関しては、何も触れなかった。
「なんも言わねぇんだな」
「あいつが決めたんだろ?じゃあ何も言う事ねーよ」
「……そうかよ」