その男、自由につき   作:フェンネル

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初陣0

その時のビスタの顔は、いつもと変わらないものだった。

強いて言えばいつもより表情が薄いというところか。

1歩も動く事はしないものの、見方によっては冷たいとまで言われそうな目 は一点に向けられていた。

 

「───でけぇな、オイ」

 

壁の向こうからこちらを覗く、超大型巨人に。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

超大型巨人出現時の作戦に移る為、ウォールローゼ内の駐屯兵団本部へ向かったビスタ。

 

「───やっべ、遅かったか」

 

到着した時には説明等は終わっていたらしく、駐屯兵を始めとした兵士達が持ち場に就こうとしていた。

 

「……ん?」

 

「嫌だ……嫌だ……嫌だ……」

 

のだが、一方でこれからの戦いを想像して絶望している者も大勢いた。

 

「う゛……っ、おえ”え”っ……!」

 

「大丈夫!?」

 

その光景と言ったら、地獄以外の何物でもなかった。

 

「……っ!ビスタ!」

 

「おう」

 

遅れて来たビスタに1番最初に気づいたのは、恐怖のあまり嘔吐しているダズを心配しているクリスタだった。

 

「ダズ、調子はどうよ?」

 

「ビ、ビスタ……う”っ……」

 

震えも酷く、戦える精神状態ではなさそうに見える。

 

「俺には無理だ……あんなデカい奴ら、ど、どう考えても……戦いたくない……帰りたい……」

 

しかし、それでも戦わなければならない事を分かっているからこその絶望だった。

 

「おしクリスタ、おめーは自分の班のとこ行きな」

 

「で、でも……」

 

クリスタはダズの元を離れるべきか悩んでいる様だった。

彼女の性格を考えれば当然の反応である。

 

「考えてもみろよ、班の奴らだって不安なはずだろ?だからおめーが安心させてやれ」

 

「う、うん……わかった」

 

半ば無理やりクリスタを説得し、彼女が班員と合流すべくこの場を離れた後、ビスタはゆっくりダズに近づき、その背中を叩いた。

 

「ダズ、さっき自分には無理だって言ったよな?」

 

「だ、だってそうだろ、あんな……あんな奴ら……」

 

「お前は自分をそんな弱い奴だと思ってるのか?」

 

「は、はぁ……?」

 

「お前が死ぬ気で乗り越えた訓練はそんなに温いものだったのか?」

 

そしてしゃがみ込み、混乱するダズと目を合わせる。

 

「俺達の肉体は、長い時間をかけて培った根拠のある強さを宿してる。これは嘘でもなんでもねぇ」

 

ビスタがダズの胸に拳を当てると、鍛え抜かれた感触が手に伝わった。

 

「強い相手に立ち向かえる、抗える強さだ」

 

例え10番以内に入れていなかったとしても、彼も紛れもない兵士。

その肉体が強固である事は、疑いようもない事実なのだ。

 

「お前が死にたくないと思うなら戦うしかないんだ。戦って、勝って、生き抜いて、全部思い通りになる様にすれば良い。そうするだけの力が今のお前にはあると、俺は思ってる」

 

「う、うぅ……」

 

「そいつの言ってる事は気にしなくて良いが、ここで止まるのはナシだ」

 

そんな言葉と同時に、ジャンが姿を見せた。

 

「行くぞダズ!いつまでも泣いてんじゃねぇ!」

 

そして泣いているダズを掴み、作戦を全うしようと足を進める。

 

「ようジャン。やる気十分だな?」

 

「……勘違いすんな。俺はお前やエレンみてぇな死にたがりじゃねぇ。今日生き残って、明日内地に行く為だ」

 

ジャンの目に宿る今までの彼に無かった「何か」を感じ取ったビスタは、思わず口角を上げる。

 

「憲兵の仕事、サボんじゃねーぞ?」

 

「ハッ、てめぇこそ後になってビビんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「お、マルコ大先生じゃねーか」

 

ビスタは持ち場に移動している最中、緊張した様子のマルコに出会った。

 

「ビ、ビスタ……大先生ってなんだよ」

 

その声は少し震えている。

 

「だってよぉ、おめーはこの作戦の後憲兵になるんだろ?おめー程頭の良い奴だったら先生なんて超えて大先生になるんじゃねーかと思ってな」

 

「……はは、やっぱりビスタはそうだよな……うん、やれる気がする」

 

マルコの強張っていた表情が、いつもの理知的なものに戻った。

 

「おーい大先生、そういう事言うと逆に心配になっちまうぜ?」

 

「ははっ。こっちからすると、むしろビスタの方が心配だよ」

 

肩の力が抜けたマルコを見て安心したビスタはその場を離れ、自身の行くべき場所へと移動した。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

「あり?おめーも一緒だったのか」

 

「その反応……お前、やっぱり覚えてなかっただろ」

 

班員の1人であるライナーの元へ。

 

「悪いな。けどおめーがいるんなら安心だよ」

 

「……想像はしていたが、余裕そうだな?」

 

「余裕って訳じゃねーさ」

 

ビスタは親指で戦場を指す。

 

「けど、やる事は決まってんだろ?それ以外考える事はねーよ」

 

「なるほどな、違いない」

 

2人が見据えるのは、既に壁内に侵入してしまっている巨人達。

 

「大丈夫だとは思うが、死んだりするなよ?」

 

「ばーか、教官に何回ぶっ飛ばされてきたと思ってんだよ」

 

大きさは様々。

建物よりも大きい個体が目立ってはいるが、建物の隙間には小型の巨人が潜んでいるかもしれない。

何時でも気が抜けない場所で今、2人は刃を抜いた。

 

「じゃ、行くか」

 

「あぁ、兵士の力を見せつけてやろうぜ」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

作戦開始前、訓練兵達は想像していなかった。

人類と巨人の間に、ここまで戦力差があるとは。

ああも容易く仲間達が死ぬとは。

ビスタが巨人に食われるなどとは、誰も。

 

 

 

 

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