父が死んだ時の事は良く覚えていない、しかしそれは父の死から今日までの記憶が無いと言う意味では無くある程度の所からは覚えている。それが覚えていたくない記憶だとしても。
父が死んで生活は一変した、父は家族に内緒であちこちから借金しており保険金や遺産よりも借金の方が多い事が分かり相続放棄する事になった。
住み慣れた家を手放す事になったが色々あって手続きに1年近い時間を要した。その間家に住める事になっても生活には金が掛かる。
しかし貯金など無く私が必死にバイトをして生活費を稼いで祖父の家に住める様になるまで命を繋ごうとした。
年齢の懸念があった為バイト先では年齢を偽って働かせて貰った。
そうして私のバイト代と父方の祖父母からの僅かな援助で何とか生活していた。
そんなある日、バイトから帰るとそこには明かりも付けず携帯を見る母の姿があった。
『………………………………何してんの?』
『タビノおかえり!!見て見てこれ!!ここに3万円振り込んだら12億円貰えるんだって!!だからね?3万円頂戴?』
母は壊れた、100人中100人が詐欺だと分かる誘いに引っ掛かり毎日喧嘩が絶えなくなった。
そんな母も幸い父を失った影響で直ぐに体を壊し満足に動けなくなりベットに寝たきりになった、金を求め続ける声は変わらなかったが動かなくなっただけマシだった。
私の背中に何かがおぶさる重みを感じた。
ある日のバイト先で
『へぇ~、じゃあ今は日渡さんが大黒柱なんだね、カッコいいじゃん!!頑張って』
『ハハ、そうですね、頑張ります』
愛想笑いでそう返すのが精一杯だった。
私の背中に別の何かがおぶさる重みを感じた。
ある日の学校で
『急に成績が下がったが大丈夫か?お父さんが亡くなって大変だと思うがお前は長女なんだから、頑張りなさい』
『はい、ありがとう御座います』
先生に笑ってそう返した。
背中にまた別の何かの重みを感じた。
(帰ったら直ぐにバイトに行って、その前に買い物を…………今日の夕飯もスーパーのお惣菜かな?今何時だっけ?いつまで続ければ…………いや、大丈夫、おじいちゃんの所に住める様になれれば少しはゆっくり出来るはず)
そう自分に言い聞かせて寝る間も惜しんで動き続けた、その甲斐もあって漸く祖父の元に住める様になった。
『タビノももうすぐ高校生か、儂らの年金だけでは5人で生活する事すら怪しい、本当に、本当に申し訳無く思うがお前には進学を諦めて働いて貰うしか…………』
『……………………え?』
重い重い何かが背中から離れない。
結局何も変わらなかった、いや、生活は変わった学校に行く時間すらバイトに充てた、学ぶ必要が無くなったから。
食事を作る量が増えた、祖父と祖母の分だ。
毎日同じ夢を見る様になった。
手放した筈の家で父が大好きだったカレーを食べている、私は嫌いだった為一緒に食べる機会どころか食卓に並ぶ機会すらあまり無かった、今にして思えばもうちょっと食べさせてやれば良かったと思う。そんな好物を食べる父に私は自分の意思とは関係無しにこう尋ねるのだ。
『私も、そっちに行っていい?』
『駄目』
父はそれだけ言うと再びカレーを口にしそこで目が覚める。
背中に背負ったそれが何か分かった、父は死んだのではなかった、背負っていた物を私に預けただけだ。
そこで目を覚ます、あるのは見慣れた木造の家では無く薄汚い牢屋敷、夢から覚めて私はこう思う。
(ああ良かった、私はソレを降ろせている、そして2度と背負う事も無い)