「これで通れるって聞いたんだが。」
「失礼。…。」
検査機は異常なしを告げる。
「【ライオット】シノ様、お通りください。」
「世話かけたな。」
検問を抜け、ユグノー・エントランスを闊歩するライオット。入都市監視エリアは綺麗に整えられた砂場程度のものだったが、ここからは上品な街だ。枝葉の影に涼を感じながら歩く。
「…随分と自然が多いな。流石はコロニー。」
人類がメカスーツを必要としたのは、変化し続ける気温に対抗するためでもあった。
純粋な自然は今や珍しく、コロニー都市にて維持されるに留まっている。
「なぁ、兄ちゃん。」
「誰だ?」
アロハシャツを着た胡散臭い男がライオットへ話しかける。
「いかにもメカスーツを着てますって身なり、流れの傭兵だろ?今回はどんな仕事だ?」
「生憎とバカンスだ。」
「そうか。俺はヨノマル。色々案内するぜ。バカンスなのにガイドの1人もいないんじゃ大変だろ。」
「…ま、そうだな。」
ユグノー・エントランスというのは、外の世界とユグノーの玄関口であり、基本的にはここが唯一の出入り口だ。玄関街とも呼ばれる。
拡張工事を続けつつあるユグノーだが、最も古い時代からあるのがこのユグノーエントランス。
うまい飯屋も多く、自然に溢れるのが特徴。
「ってのによ。みんな玄関街に来たら中央区まで行っちまう。エントランスだっていいところはたくさんあるのにな。」
「違いないな。」
喫茶店にてカレーを貪る2人。
風鈴が風に揺れていた。
「そう言えば、アンタはセントラルに用事はあるのか?」
ユグノー・セントラル。
ユグノーの心臓だ。セキュリティ本部や企業のオフィス、また最高級のサービス店がひっきりなしにひしめいている。
地面はほとんど道路で埋まっており、人々は大歩道橋で建物間を移動する。
「今のところは。まぁ、好んで行く場所でもない。」
「…なぁ、そろそろ教えてくれてもいいだろ?何の用なんだよ。」
ヨノマルは痺れを切らしたようだ。ライオットは深く息を吐く。
「バカンスだ。」
「嘘だ。案内も無く?お前、【ライオット】だろ。メカスーツ殺しの。」
「…。耳聡いな。」
前の仕事で有名になっちまったか。
「うろうろされてたら不安なんだよ。」
「正直な奴だ。」
「…最近は物騒だっていうのによ。」
「テロリストか?」
「…そうだな。あいつらだよ。ヘファイストス…。声明をアップロードしやがった。近日中にセキュリティ本部を襲うんだそうだ。」
「…!そうか、お前俺のことヘファイストスだと思ってたんだろ?」
合点がいったように嬉しそうに話すライオット。しかしヨノマルは首を左右に振った。
「協力者かもしれないとは思ってるが、所属してるとは思ってないよ。…あいつらは盲目的で宗教の集まりみたいだから、アンタは傭兵なんてしてるんだ。そんなのクソ喰らえだろ。」
「そうだな。この際だ。ヘファイストスについて教えろよ。」
「…ユグノーを壊すことを目的にしてる奴らだ。ユグノーの上層部が市民をマインドコントロールしてるって言ってて、革命をするためにテロを起こすらしい。」
ぐいっとお冷を飲み込んだ。
「バカな奴らだろ。」
「人数は?」
「地下街に信奉者はいくらでもいるが、チンピラだよ。なかなか尻尾を見せない。」
「そうか。ヨノマル。世話になった。」
電子支払いして、ライオットは席を立った。
「しばらく大人しくしておくよ。俺の目的はバカンスだ。」
「…そうだな。それがいいよ。無事を祈る!ライオット。」
───
適当に取ったホテルにて、ヘファイストスの動画を見るライオット。
「決行は三日後か。」
セキュリティ本部で待ち構えてもいいが、乱戦の中ラジカル・カラミティを狙うのは得策ではない。
今のうちに奇襲を仕掛けるのが良いだろう。
『ライオット。』
「……そう言えば、お前の名を聞いていなかったな。」
渡されたパスキーに仕込まれた通信端末。ライオットをユグノーに入れた者は名乗る。
『ルドメイと名乗っておこう。』
「あのルドメイか。大きく出たな。」
ルドメイはメカスーツのブランドの中では最高級で、傑作機【イモータル】は今も富裕層に使われ続けている。
「ルドメイ、ラジカル・カラミティの場所は?」
『今データを焼き付ける。』
場所はユグノーの学術地域…ユグノー・ヘッド。そこの南西部にある【テクノアカデミック総合商社】地下4階。
「助かる。今日のうちに決行する。」
『流石だ。ライオット…。』
「まだ速いぜ。」
───
深夜。
辺りは消灯している。
ライオットはメカスーツを展開した。
「【ケアレス・ライダー】。」
全身を赤く塗装された装甲で覆う機体であり、足に仕込まれたローラーは舗装路限定でとてつもない加速性能を発揮する。
また、環境擬態機能も持ち合わせており、遠目からではケアレス・ライダーを認識できない。
───
暗闇のまま、ライオットはテクノアカデミック総合商社の前へ立つ。
「警備がいるな。」
腰の剣を取り出して展開する。
「始めるか。」
ライオットの剣───【パルス・スプリット】。メイスとバトンとナタを混ぜ込んで割った形状の棍棒剣であり、翠緑のエネルギーを刀身に纏っている。
「不審者確認。」
警備用の企業用クラブ4機が立ちはだかる。クラブはセキュリティが運用するヘラクレスの二番手のメカスーツであり、ヘラクレスほどの強力な攻撃力こそ持たないが、それ以外はほぼ同一と見ていい優秀な機体だ。
「戦闘コード申請…受諾確認。状況を開始。」
「囲め!」
突撃してきたライオットを囲う様に陣を組み、銃火器による射撃を行う。
軽々とすり抜けるが、ローラーを撃たれた。
「ちっ。」
転倒…しない。
ローラーをしまい、体勢を立て直し、銃火器の衝撃の中突き進み───棍棒剣にてクラブを叩き壊す。
「…うそだろ。」
防弾チョッキ。
ライオットが身に纏っているのは、超高性能であろうともそれだ。
撃たれればその分のダメージが襲う。鉄のエルボーの3倍程度を何度も喰らっている様なものだ。
何故───こいつは前進できる…?
「ぐあああああッ!!!」
叩き壊されたクラブを引っ掴み、盾に。面倒くさくなったのか前へと投げ飛ばした。その衝撃でクラブは爆発する。
「残り3体。」
「くっ…こんなやつ…。」
「落ち着け!引きながら撃つんだ!」
クラブの指揮官の頭部は投擲された棍棒剣にて破壊された。
「残り2体。」
「無手だ…無手が相手なら…!」
2体のうち1機が格闘戦を仕掛けるが、ライオットの拳に重力級のクラブの装甲が持たない。
ケアレス・ライダーの電力を大幅に使ったパンプアップの一撃だ。落雷の如く音が後から響いた。
「が…っ。」
「ひ、ひぃ…!」
最後の1人は逃げ去った。
構わない。
程度が知れた。ここを吹き飛ばし、このケアレス・ライダー最後の電力を使って建物の三階ごとラジカル・カラミティを誘拐する。
などとライオットは思っていたのだが…。
「狙いは私だな?ライオット。」
「…おお!」
棍棒剣をクラブから引き抜くライオット。
「嬉しいね。そっちから来てくれるなんてな。」
紫炎噴かし浮遊するラジカル・カラミティ。
紫の装甲と各部にゲーミングの発光体を持つゲテモノの機体。
地に生きる芋虫に対して、砲を構える。
「ラジカル・カラミティだ。よろしく頼む。」
初撃のエネルギー砲射撃。───速い!棍棒剣で防ぐが、獲物が粉々になった。
「…やられた。」
『ライオット、これを使え!』
「ルドメイ…!」
ルドメイがライオットに渡したのは、ライオットの昔の獲物───過去の仕事にて失ったメカスーツ殺しの重銃大剣【バルムンク】。
【 solid ray activate ... OK 】
【 "Balmung" startup 】
「最高のバカンスになりそうだな…。フハッ。」
笑いと共に、力が湧いてくる。背後からくる2射目を躱し、3射目の砲弾に銃口を合わせる。
翠緑のエネルギーが渦巻き、螺旋を描いて砲弾を撃ち抜いた。
「勝負と行こうか、ラジカル・カラミティ!」
バルムンクの弾丸は砲撃を粉砕し、さらに勢いを増す…!ラジカル・カラミティ、反応できず…大きく吹き飛ばされたッ!
「…。なんだ…?これは…。」
「…名前を知ってた割に、調べが甘いな?」
損傷、軽微…。しかしッ!
「バルムンクの弾丸は、相手の弾を喰らって速くなる。」
そうはならない様に…ラジカル・カラミティは設計されていた…ッ!
ラジカル・カラミティのパイロット…グレイツは怒りを滲ませながら呟いた。
「お前の協力者…ルドメイだったか?」
「…。」
「…私の…私の完璧なラジカル・カラミティを…。コケにしやがって………!!!!」
ライオットの口元が緩んだ。
ここからが本番だ。
「そのバルムンク、ぶっ壊してやるッ!!!!」
「やってみなァ!!」