「……。」
深々と外套を被る。
【ライオット】シノは管理者区域の外縁にてラジカル・カラミティを待ち構えていた。
厳戒態勢が敷かれているが、近くにフィリア・ルドメイがいる為お目溢しされている。
「心配そうだな。…執事。」
「ぅおい。…笑ったらどうすんだよ。」
笑い声が漏れた。
「…んッ。執事、聞け。」
「なんなりと。」
「そろそろ来るぞ。」
指を刺した方向の空。…あの機体は…。
「…形が違うな。」
「…奴らは…。」
警備隊の銃撃を交わしながら降り立った二つの機体。片方は獅子、もう片方は蛇を模している。
『シルバー・キマイラ…。対象を殲滅する。』
『レッグド・キマイラ…。同じく。』
「…逃げるぞ。」
「わかった。」
幸いに警備隊がこの二機を相手している。問題なく退避できた。
───
「ここは引き払う。」
スーツケースを引きずり、地下通路へと足を運ぶルドメイ。
「何か持っていくものは?」
「特にない。各地に隠して置いている。」
「了解した。…どこへ向かう気だ?」
「エントランスだ。」
───
管理者区域とユグノー・エントランスは134kmほど距離が離れている。
オートパイロットバイクでも2時間はかかる計算だ。
「…まずいッ!」
【 solid ray activate ... OK 】
【 "Balmung" startup 】
飛来物を棍棒剣で叩き落とす。
なんとか弾くことができたが、棍棒剣の刀身が焼けつき、エネルギー排出孔がイカれてしまった。
「…高濃縮エネルギー弾…。」
「ルドメイ、下がれ…。メカスーツは着てるんだろ。戦えるなら戦え。」
ルドメイが着用しているのはルドメイブランドの【イモータル】。純粋な高防御力、子供から大人になった後もずっと着用できるフレキシブル差がウリだ。
薄暗い照明の光が敵の姿を露わにする───。
「…ラジカル・カラミティ…?」
その姿はまさしく、ラジカル・カラミティ。
しかし、なぜこの地下通路に。
「お前達はセキュリティ本部を襲うか、管理者区域に陽動をかけるかっていう話だろうが。なんでここにいる。」
「……私たちの優先目標には…入っている…。フィリア・ルドメイ。お前がな。」
「…。」
脂汗が垂れる。
「そのスーツケース…やはり持ってきていたか。」
「ゴタゴタ言ってんじゃねぇよ。おい、ルドメイ───一対一交換なら上等なんだろ?」
翠緑の光がバチバチと地面を焼き焦がす。
「ラジカル・カラミティ…いただくぜ。」
「…認証省略。コードホワイト。実行する───!」
ラジカル・カラミティの装甲が白く染まる。
ときに、メカスーツによる超高速行動は基本AI頼りの動きとなる。
単純に人間の反応速度ではロスが多すぎるからだ。AIならいくらの短時間でも反応し、体を動かすことができる。
ライオットの反応・伝達速度は常人のそれを大きく凌駕する───。
「───!」
剣城と拳がかち合う───事はない。寸前にて拳を引き…正確に隙間へと、空いた頭へ叩き込む。
メカスーツ『アキレウス』は大きく吹き飛んだ。
(…まさか…。)
今の動きには大きく違和感があった。
というのも、遊びがあった。腕を引き絞る動き、僅かに揺れた軌道。そして、体重を意識した一撃───。外装が勝手に動いている感じではない。中身が主となって動いている。
「ライオット。」
「ラジカル・カラミティの本領とは───人機一体。機械による脳の人工操作が可能とする、超高速の意識だ。」
「…聞こえてはいまいか。」
今もラジカル・カラミティのパイロット、マーブルにはゆっくりとした世界が目に映っている。
普段ならば透明な大気の動きでさえ、微細に感じ取れるほどの。
「取らせて貰うぞ、フィリア・ルドメイ。そのケースの中身をな。」
イモータルへと手をかける。
───そして、確かに腕を振り抜いたはずだった。
「…。」
視界が、揺らいだ。何かに押されたようだ。フィリアの持つスーツケースから、脚が伸びていた。
槍のような脚が。
ラジカル・カラミティを確かに貫通し、押し出していた。
「───。」
【 Code approval. "Balmung dominant" 】
「───だりゃあああああああッ!!!」
背後から迫る大振りを躱す。しかし、バルムンク・ドミナントにより発生した膨大なエネルギーの波はラジカル・カラミティの装甲を大きく溶かす。
近づく事は難しい。一旦ここを離れるのが良いだろう。マーブルは撤退を決めた。
「…状況不利と判断、撤退する。」
「逃すかよ…!」
「!?」
アキレウスの全てのエネルギーを用いて、最大限加速するライオット。
地下通路即ち閉所、ラジカル・カラミティは本来の三次元的移動能力を発揮できない。
ローラーの回転で火花が舞った。
「───ブッ壊れろォッ!!!」
振り抜いた一撃は、ラジカル・カラミティを砕いた。
粉々に崩れる機体。
そして、制御を失ったラジカル・カラミティは爆発した。
「……。」
重症を負い、倒れ伏すマーブル。
この状況で逃走する事は不可能だ。
「…ルドメイ、こいつ、どうする。」
ルドメイはラジカル・カラミティのジェネレーターを拾って、スーツケースの中に入れた。
「…捨てておけ。私たちはユグノー・ヘッドに用事がある。」
「…いいのかよ。」
「ヘファイストスはセキュリティに勝てない。今回の襲撃も失敗だ。ここで殺したところで無駄な殺傷になる。」
「………クク…。」
ライオット達がその場を去ろうとすると、マーブルは1人でに話し出した。
「何も知らないようだな。───セキュリティ本部が壊滅した。それが今日起こった事実だ。」
「……ずいぶんとお花畑な話だな。」
「私がここで待ち構えていた理由、本当にわからなかったのか?」
「……。」
ルドメイのスーツケース。
謎の存在だが、まさか金や着替えなんて事はないだろう。強いて予想するならば、強大なメカスーツ。
隠匿せねばならないほどの…。
「なら、こいつは殺しておくか。」
ライオットはバルムンクの引き金を引いた。
大きなエネルギーが生身の人間に直撃し、地下通路に衝撃が響く。
すぐさま振り返り、バイクへ誇った。
「ライオット、余計な事はするな。」
「ヘファイストスが勝ったなら、強い奴を生かしておくのは自分の首を絞めるだけだぞ。」
「それは…その通りだが。」
「それで、ユグノー・エントランスに向かうのか?」
もし、ヘファイストスが勝利しているのならば、ユグノーの何処にも平和な場所はない。ラジカル・カラミティの高速移動能力ならば、何処でも戦場になる。
寧ろ閉所であるこの地下通路の方が戦いやすい分比較的有利だ。
「…目標は変更する。地下娯楽園へ向かう。」
「管理者区域へは戻らないのか?」
「セキュリティ本部が制圧されたならば、次に戦場となるのは管理者区域…。地下娯楽園は後回しにするハズだ。」
───
ドアバルブを回し、扉を開く。
埃っぽい空間へ出た。
少し進み、路地裏を出ると…そこには不夜の歓楽街があった。
「…地下娯楽園。」
「ユグノーセントラルと競い合う、ユグノーの二つ目の心臓だ。」
人混みの中、ルドメイがジュースを買って手渡す。
「梅蜜サイダーという。うまいぞ。」
「やれやれ。…うまいなこれ。」
「とりあえず、何処か休めるところを探そう。」
無法者2人、無法の街を歩む。