械劫都市のライオット   作:K+#ガソ林

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第五話 地下街のカレー

 ここ、械劫都市ユグノーにはいくつか地区がある。

 玄関街、ユグノー・エントランス。

 頭脳街、ユグノー・ヘッド。

 産業街、ユグノー・レッグ。

 中央区、ユグノー・セントラル。

 管理者区域。

 そして、ここ…地下街、地下娯楽園だ。

 

「……家に帰れるの、いつ頃かな。」

 

 始まりは突然だった。

 職場で働いてたら、突如として警報が鳴って…俺たちはシェルターへ向かって逃げることになった。

 地下街、地下娯楽園へと。

 地下街のシェルターへ向かう途中、大騒ぎだった。

ヘファイストスの信奉者達だ。

 あいつらは、ついに念願叶ったと騒いでいた。

 …自分で自分たちの首を絞めていることに気づいていないのか?

 豊かな暮らしには、毎日の仕事が必要なんだ。なのに、その仕事を止めてどうする?

 心臓がサボタージュしたら、人体なんてあっという間だ。

 俺たちは顔を屈めて通り過ぎるしかなかった。

 

───

 

 人混みの中で、見知った顔を見つけた。

 

「…あれ。」

 

 あいつは…ライオット。

 この襲撃の3日前に、ヘファイストスのメカスーツを壊した映像が広まっていた。

 あいつはヘファイストスの敵のはずだ。

 …だからといって、何かお願いできるような関係でもないが。

 

「おーい。」

 

 この一言で反応がなければ、諦めて帰ることにしていた。

 

「…。」

 

 あいつは振り返った。

 

「おぉ、ヨノマル。…お前、大変だったろ。元気そうじゃねぇか。」

 

「へっ、ライオット。少し話を聞いていけよ。…お連れさんもそれでいいか?」

 

「…構わない。」

 

───

 

「行きつけのカレー屋だ。マスター、いつものよろしく。」

 

「お前、どこでもカレー食べるのな。」

 

「ここは喫茶店だよ。」

 

「私はパンケーキを頼む。」

 

「じゃ、俺はカレーで。」

 

 どかっと座り込む。眠らない不夜の都市でも、観葉植物が生命の息吹を咲かせる。

 

「何か楽しい話はあるか?」

 

「お前ら、管理者区域の話は知っているか?」

 

「…。何かあったのか。」

 

「あそこに謎のメカスーツが襲来していた。名前をシルバー・キマイラとレッグド・キマイラ…。そいつを退けたのが、このメカスーツだ。」

 

「退けた…。」

 

 ルドメイからささやかに驚愕の色を感じとる。やはり、ルドメイはあの2人について知識があるらしい。

 

───

 

『シルバー・キマイラ…。対象を殲滅する。』

 

『レッグド・キマイラ…。同じく。』

 

「…逃げるぞ。」

 

───

 

 あの時に一目散に退避を選択したのは、一体どういう了見なのだろう。結果的に正しい判断だったとは思うが…。

 

(今考えても仕方ねぇか。)

 

「ユグノー評議会議長の息子、ユリウス・テクノが駆るサン・シェードだ。」

 

 サン・シェードは青を基調としたシンプルな飛行型メカスーツだ。

 特徴は二つ。

 一つ、翼兼ビット兵器の2000枚の白い板、これが敵からのエネルギーを吸収し、放出して返すことができること。

 二つ、手元から発生するレーザーブレード。凝集させたエネルギーを刃とし、振動させて切るという俄かには信じ難い性能で、これで実際に格闘機であるシルバー・キマイラの装甲を断ち切っている。

 砲撃機レッグド・キマイラの射撃も意に返さず、近づいて切り裂き、機体を破壊した。

 

「…。俺が知ってるのはこんなもんだ。どうだい、2人とも。お気に召したか?」

 

「カレー食う肴にはなった。」

 

「苦いコーヒーのアテにはな。」

 

「…お前ら、これからどうするんだ?」

 

 ヨノマルは2人との距離の差を感じ取っていた。

 結局自分は非日常に生きる彼らとは、世界が違う。

 ここで別れたら、永遠に会えないかもしれない。

 しかし、付いていく気にはなれない。

 

「俺たちは…どうするんだ?ル…。…お嬢様。」

 

「ぶほっ…!げほっ…げほっ。がほっ。げほっ。」

 

「…他に呼び名がねーじゃねーかよ。」

 

「がほっ…コーヒーが気道に詰まったぞ。殺す気か。…私たちはこれから、少しこの娯楽園に留まるつもりだ。」

 

「…。そうか。それじゃ、俺はここで別れることにするよ。マスター、お勘定。」

 

「あいよ。」

 

「ヨノマル。」

 

「…なんだ?」

 

 ライオットに見つめられると、少し見透かされているような、そんな小さな焦りが生まれる…。衝動は一刻も速く、身体をこの場から逃がそうとする。

 

「俺たちの分も払っといてくれ。」

 

 …………。

 買いかぶり、だったか。

 

「自分で払え。」

 

 …自分は、化け物と会話していたわけではなかった。

 ヨノマルは早足で喫茶店から歩き去った。

 

───

 

「あいつ、自分から吹っかけてきたんだから、奢るくらい男見せろよな。」

 

「乗ったのはお前だろう、ライオット。」

 

「ぐうの音も出ねぇ。」

 

「これをやる。」

 

 取っていた宿に戻った2人。ライオットはバルムンクをルドメイから受け取った。

 

「…バルムンク。」

 

「私のスーツケースに修理させたものだ。バルムンク・ドミナントは使えないが、乱暴に使っても長持ちするはずだ。」

 

 スーツケースから生えた鋭い腕がガッツポーズを取っている。

 

「ルドメイ、そのケースはなんなんだ?メカスーツなのか?」

 

「答えられん。ライオット、このケースについては基本的にないものと扱ってくれ。情報を漏らすのもダメだ。」

 

「…なるほどな。」

 

 扱いが難しいものらしい。

 

「ここからの動きになるが、各地を移動し、セキュリティの援護を行う。引き続きラジカル・カラミティを狙うことになる。」

 

「すると、明日には上に出るか?」

 

「そうなるな。」

 

───

 

 翌日、チェックアウトを終え、宿の外に出た2人。

 しかし、メカスーツを着た集団に囲まれていた。

 

「…お前ら、何のつもりだ?」

 

「詳しくは話せないけれど…お嬢ちゃんのスーツケース、といえばわかるかな?」

 

「…奴らの手のものか。」

 

「奴ら、ね。まぁいい。とりあえず、場所を移動しようか。」

 

 リーダー格らしい女のメカスーツ使いは兵隊たるメカスーツ集団を自在に操って隊列を組み直す。

 

「開けた場所、そこなら暴れても問題はない。」

 

「……。どうする、ルドメイ。」

 

 罠が仕込まれている可能性は重々にある。

 

「……奥の手は、ある。ここでは人の目に付きすぎるし、大暴れしてセキュリティにさらに敵視されたら、ラジカル・カラミティどころではない。」

 

───

 

 リーダー格の女が着るメカスーツ【シェイクスピア】と彼女に付き従う様々なメカスーツ達。

 その様はまるで、ここが玉座の間であると錯覚を起こさせる。

 

「自己紹介を、私はユグノー警備保障の総合責任者、ミラ=ルイス…。この地下娯楽園におけるVIPの警護を任されています。」

 

「流れの傭兵、ライオットのシノ。」

 

「…ルドメイと呼べ。」

 

「できることならば、戦闘は避けたい。そのスーツケースを渡してもらえれば…何もせずに返そう。」

 

「悪いが、そういうわけにもいかなくてな。」

 

(………。)

 

───

 

 チェックアウトする前に2人は示し合わせていた。

「外で何者かが張っている。メカスーツからして、ユグノー警備保障だろう。」

 

「…狙いはわかるのか?」

 

「これだろうな。」

 

 スーツケースをぽんと叩く。

 

「仕方がない。」

 

 ルドメイは今まで着ていたメカスーツ…【イモータル】をスーツケースにし、スーツケースにしていた謎のメカスーツを身に纏った。

 外観から入れ替わりを判別することはほぼできない。

 

「そのスーツケースのメカスーツ、着れるのか。着ない理由があると思っていた。」

 

「まだ故障しているようなものだ。本調子には程遠い…。ただ、お前が私を守ることは無くなるだろう。このスーツの防御力は、間違いなくこの都市で1番だ。」

 

「…で、作戦は。」

 

「ほどほどに抵抗し、スーツケースを持たさせる。」

 

「ラジャー。」

 

───

 

「襲ってくるんだ。本気は出させてもらうぜ…。」

 

 ライオットはやる気満々だ。

 

「目標、スーツケース…。各員、行動開始!」

 

 騎士女王の号令が飛んだ!

 

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