ここ、械劫都市ユグノーにはいくつか地区がある。
玄関街、ユグノー・エントランス。
頭脳街、ユグノー・ヘッド。
産業街、ユグノー・レッグ。
中央区、ユグノー・セントラル。
管理者区域。
そして、ここ…地下街、地下娯楽園だ。
「……家に帰れるの、いつ頃かな。」
始まりは突然だった。
職場で働いてたら、突如として警報が鳴って…俺たちはシェルターへ向かって逃げることになった。
地下街、地下娯楽園へと。
地下街のシェルターへ向かう途中、大騒ぎだった。
ヘファイストスの信奉者達だ。
あいつらは、ついに念願叶ったと騒いでいた。
…自分で自分たちの首を絞めていることに気づいていないのか?
豊かな暮らしには、毎日の仕事が必要なんだ。なのに、その仕事を止めてどうする?
心臓がサボタージュしたら、人体なんてあっという間だ。
俺たちは顔を屈めて通り過ぎるしかなかった。
───
人混みの中で、見知った顔を見つけた。
「…あれ。」
あいつは…ライオット。
この襲撃の3日前に、ヘファイストスのメカスーツを壊した映像が広まっていた。
あいつはヘファイストスの敵のはずだ。
…だからといって、何かお願いできるような関係でもないが。
「おーい。」
この一言で反応がなければ、諦めて帰ることにしていた。
「…。」
あいつは振り返った。
「おぉ、ヨノマル。…お前、大変だったろ。元気そうじゃねぇか。」
「へっ、ライオット。少し話を聞いていけよ。…お連れさんもそれでいいか?」
「…構わない。」
───
「行きつけのカレー屋だ。マスター、いつものよろしく。」
「お前、どこでもカレー食べるのな。」
「ここは喫茶店だよ。」
「私はパンケーキを頼む。」
「じゃ、俺はカレーで。」
どかっと座り込む。眠らない不夜の都市でも、観葉植物が生命の息吹を咲かせる。
「何か楽しい話はあるか?」
「お前ら、管理者区域の話は知っているか?」
「…。何かあったのか。」
「あそこに謎のメカスーツが襲来していた。名前をシルバー・キマイラとレッグド・キマイラ…。そいつを退けたのが、このメカスーツだ。」
「退けた…。」
ルドメイからささやかに驚愕の色を感じとる。やはり、ルドメイはあの2人について知識があるらしい。
───
『シルバー・キマイラ…。対象を殲滅する。』
『レッグド・キマイラ…。同じく。』
「…逃げるぞ。」
───
あの時に一目散に退避を選択したのは、一体どういう了見なのだろう。結果的に正しい判断だったとは思うが…。
(今考えても仕方ねぇか。)
「ユグノー評議会議長の息子、ユリウス・テクノが駆るサン・シェードだ。」
サン・シェードは青を基調としたシンプルな飛行型メカスーツだ。
特徴は二つ。
一つ、翼兼ビット兵器の2000枚の白い板、これが敵からのエネルギーを吸収し、放出して返すことができること。
二つ、手元から発生するレーザーブレード。凝集させたエネルギーを刃とし、振動させて切るという俄かには信じ難い性能で、これで実際に格闘機であるシルバー・キマイラの装甲を断ち切っている。
砲撃機レッグド・キマイラの射撃も意に返さず、近づいて切り裂き、機体を破壊した。
「…。俺が知ってるのはこんなもんだ。どうだい、2人とも。お気に召したか?」
「カレー食う肴にはなった。」
「苦いコーヒーのアテにはな。」
「…お前ら、これからどうするんだ?」
ヨノマルは2人との距離の差を感じ取っていた。
結局自分は非日常に生きる彼らとは、世界が違う。
ここで別れたら、永遠に会えないかもしれない。
しかし、付いていく気にはなれない。
「俺たちは…どうするんだ?ル…。…お嬢様。」
「ぶほっ…!げほっ…げほっ。がほっ。げほっ。」
「…他に呼び名がねーじゃねーかよ。」
「がほっ…コーヒーが気道に詰まったぞ。殺す気か。…私たちはこれから、少しこの娯楽園に留まるつもりだ。」
「…。そうか。それじゃ、俺はここで別れることにするよ。マスター、お勘定。」
「あいよ。」
「ヨノマル。」
「…なんだ?」
ライオットに見つめられると、少し見透かされているような、そんな小さな焦りが生まれる…。衝動は一刻も速く、身体をこの場から逃がそうとする。
「俺たちの分も払っといてくれ。」
…………。
買いかぶり、だったか。
「自分で払え。」
…自分は、化け物と会話していたわけではなかった。
ヨノマルは早足で喫茶店から歩き去った。
───
「あいつ、自分から吹っかけてきたんだから、奢るくらい男見せろよな。」
「乗ったのはお前だろう、ライオット。」
「ぐうの音も出ねぇ。」
「これをやる。」
取っていた宿に戻った2人。ライオットはバルムンクをルドメイから受け取った。
「…バルムンク。」
「私のスーツケースに修理させたものだ。バルムンク・ドミナントは使えないが、乱暴に使っても長持ちするはずだ。」
スーツケースから生えた鋭い腕がガッツポーズを取っている。
「ルドメイ、そのケースはなんなんだ?メカスーツなのか?」
「答えられん。ライオット、このケースについては基本的にないものと扱ってくれ。情報を漏らすのもダメだ。」
「…なるほどな。」
扱いが難しいものらしい。
「ここからの動きになるが、各地を移動し、セキュリティの援護を行う。引き続きラジカル・カラミティを狙うことになる。」
「すると、明日には上に出るか?」
「そうなるな。」
───
翌日、チェックアウトを終え、宿の外に出た2人。
しかし、メカスーツを着た集団に囲まれていた。
「…お前ら、何のつもりだ?」
「詳しくは話せないけれど…お嬢ちゃんのスーツケース、といえばわかるかな?」
「…奴らの手のものか。」
「奴ら、ね。まぁいい。とりあえず、場所を移動しようか。」
リーダー格らしい女のメカスーツ使いは兵隊たるメカスーツ集団を自在に操って隊列を組み直す。
「開けた場所、そこなら暴れても問題はない。」
「……。どうする、ルドメイ。」
罠が仕込まれている可能性は重々にある。
「……奥の手は、ある。ここでは人の目に付きすぎるし、大暴れしてセキュリティにさらに敵視されたら、ラジカル・カラミティどころではない。」
───
リーダー格の女が着るメカスーツ【シェイクスピア】と彼女に付き従う様々なメカスーツ達。
その様はまるで、ここが玉座の間であると錯覚を起こさせる。
「自己紹介を、私はユグノー警備保障の総合責任者、ミラ=ルイス…。この地下娯楽園におけるVIPの警護を任されています。」
「流れの傭兵、ライオットのシノ。」
「…ルドメイと呼べ。」
「できることならば、戦闘は避けたい。そのスーツケースを渡してもらえれば…何もせずに返そう。」
「悪いが、そういうわけにもいかなくてな。」
(………。)
───
チェックアウトする前に2人は示し合わせていた。
「外で何者かが張っている。メカスーツからして、ユグノー警備保障だろう。」
「…狙いはわかるのか?」
「これだろうな。」
スーツケースをぽんと叩く。
「仕方がない。」
ルドメイは今まで着ていたメカスーツ…【イモータル】をスーツケースにし、スーツケースにしていた謎のメカスーツを身に纏った。
外観から入れ替わりを判別することはほぼできない。
「そのスーツケースのメカスーツ、着れるのか。着ない理由があると思っていた。」
「まだ故障しているようなものだ。本調子には程遠い…。ただ、お前が私を守ることは無くなるだろう。このスーツの防御力は、間違いなくこの都市で1番だ。」
「…で、作戦は。」
「ほどほどに抵抗し、スーツケースを持たさせる。」
「ラジャー。」
───
「襲ってくるんだ。本気は出させてもらうぜ…。」
ライオットはやる気満々だ。
「目標、スーツケース…。各員、行動開始!」
騎士女王の号令が飛んだ!