ユグノーを守るというのは、目的の一つだ。
私自身、身を挺して守るほどのものではないと思っている。私が戦っているのは、ひとえに私自身の人生がそういった方向に向いていた、というだけのことだろう。
ではなぜ、私はあの時───取引に応じてしまったのか。
『フィリア・ルドメイを見逃せ。』
まるで、それが正しいことであるかのように。
いつのまにか届いていた、セキュリティからの電子メッセージに従ってしまったことが、不思議だった。
───
戦場。
東。フィリア・ルドメイ駆るペルセポネ、ライオットのアキレウス。
西。ユリウス・テクノのサン・シェード。ミラ・ルイスのシェイクスピア。アロー4体、ハンド1体。
両者、ゆるりと近づく。
「始めるぞ、ライオット!」
「心得た。」
ペルセポネが加速し、ユリウス陣営へ殴り込む。
後方からアキレウスが射撃援護する。
「喰らいたまえ。この情報弾を!」
エネルギーの上限もあるため、あまり無駄撃ちできないが、シェイクスピアは鏃状にしたエネルギー弾をペルセポネへ向けて打ち込む。
それを真正面から受けて崩れないペルセポネ。
「なっ───。」
ペルセポネは装着者に沿って展開されるメカスーツであり、ヘラクレスやラジカル・カラミティのような重量に裏打ちされた安定感を持たないように見える。
しかし、目の前の結果は───ペルセポネ自身の重さをよく表している。
銃弾の如く与えられるエネルギーによってのけぞらないということは、それを受け止め切れるだけの体幹能力・重量を兼ね備えているということ。
「1人目。」
アローの1人がシェイクスピアを引っ掴み、その空いたスペースにハンドの着用者が割り込む。
ペルセポネの槍脚の一撃。ダメージ許容限界を超え、ハンドは爆散しながら後方に吹き飛んだ。
「2人目。」
蹴りを放った足を戻さず、地についている方の片足でローラーを回し加速。そのままぐるりと周り、回転蹴りを放つ。
アローがシェイクスピアを庇い、これまた吹き飛ばされ破壊される。
(───天敵…!)
この時点で、シェイクスピアのハッキング弾は何度もペルセポネの装甲を穿っていた。
しかし、装甲の麻痺が起きない。黒光りするスーツには、一片のほつれすらない。
「あまり虐めてもらっては困る。」
「!」
サン・シェードによる介入だ。
レーザーブレードを済んでのところで避けるペルセポネ。
そのまま攻めるサン・シェード。ビームソードを振りかぶり、逃げるペルセポネへ攻撃を続ける。
(…。)
ペルセポネの大立ち回りを遠目から観察するライオット。状況から明らかだ。バルムンクによる射撃は───全くもって戦況に関与できていない。
ルドメイへ通信を繋ぐ。
「このまま射撃を続ける。」
射撃しろと言うのは、ルドメイが言ったことだ。地道にソリッド・レイ・エネルギーをサン・シェードへ向かって打ち続ける他ない。
「それで構わない。」
ペルセポネは槍脚をサン・シェードへ打ち込むが、寸前で避けられる。
「───マズイ。」
ライオットは焦った。
サン・シェードのレーザーブレードは間違いなく、ペルセポネへダメージを与えるだろう。
「フンッ!」
刃と装甲がぶつかる───火花散る。
「随分頑丈だ。」
足を引くペルセポネ。その槍脚には色鮮やかに偏光する焦げた傷跡が残っていた。
「…。」
「圧して切ればそこまでだろう。」
正眼の構えを取るサン・シェード。
ローラーを回転させ、特攻を仕掛ける。
「ルドメイ…!」
何度目の射撃か、ソリッド・レイがサン・シェードの特殊ビットに吸収される。
───瞬間、ペルセポネの指先から、黒い糸のようなものがサン・シェードの後方へ突き抜けた。
(何、を───。)
それは、雷だった。
後から遅れて劈くような音が鳴る。
ペルセポネの槍脚が、轟音を立ててサン・シェードの腹部を貫通したのだ。
「───あ?」
いつ、移動した?
サン・シェードのオートパイロットが働き、槍脚へレーザーブレードが振るわれる。
素早く抜いた為に焦げ目を残すのみで済む。
あらゆる銃撃が途切れ、場にはモーター音以外静寂だった。
「…見たか。」
ルドメイのか細い言葉が、この静寂を壊した。
「ユリウス・テクノは死ぬぞ。ユグノー評議会の議長が死ぬ。ここは引け。」
あまりに一瞬のことだったので、ライオット、ミラ、共に反応が遅れた。
「…戦闘行動を、中止。」
震えながら、か細い号令が伝達される。
サン・シェードとペルセポネが睨み合う。
『───止血処理、完了。当機はパイロットの安全保持のため、撤退いたします。』
「さっさと行け。」
「…ぐ、う…。」
ユリウス・テクノの呻き声を掻き消すように、サン・シェードの力場エンジンが起動。地下街の空を飛び、ユリウス・テクノは逃げ去った。
ユグノー安全保障もユリウス・テクノを見守りながら撤退する。
「…勝ったん、だよな。」
バルムンクの銃口を降ろすライオット。ルドメイの方へ駆け寄る。
「…ぐ、う…。」
「ルドメイ!」
バラバラと崩れ去るペルセポネ。
ルドメイが倒れる。抱き起こすライオット。
「…ライオット…。」
「ルドメイ、どうする。」
「…しばらく、安全な場所で休ませろ…。」
パタリと目を閉じるルドメイ。
すぐにでも治療が必要かもしれない…。しかし、誰に診せる?このユグノーでは、誰もが敵になり得る。
「チッ…。」
スーツケースへと戻ったペルセポネを引き摺りつつ、片手でルドメイを担ぎ、ライオットは歩みを進める。
「土地勘ねぇよ。畜生。」
安全な所…。
「…金はあるか。」
先程の戦闘時にミラ・ルイスから振り込まれた50万クレジット、これでVIP用のホテルに泊まれれば…。
そうと決まれば話は速い。ライオットは地下娯楽園最栄区域、【グランギニョル】へ歩みを進めた。