械劫都市のライオット   作:K+#ガソ林

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第八話 セキュリティ襲撃時のこと

「う…ここは…。」

 

「目、覚めたか。」

 

 場所は旅行者向け高級ホテルの一室。

 フィリア・ルドメイのパスを用いて借りた部屋だ。外資系なので追っ手のリスクも比較的低いと判断した。

 

「グランギニョルのサンクホテルに部屋を借りた。」

 

「…そうか…。」

 

 言い切ったきり、再び眠りにつくルドメイ。

 

「てめぇ、飯は…。いや、寝かしとくか…。」

 

 一応栄養剤サプリを飲ましておく。ナノテク技術により誤嚥下を防ぐ最新式だ。

 

「ユグノー、厄介なことになってやがるぜ。」

 

 ライオットは再び、テレビの方へ向き直る。

 そこにはユグノーの現在が報道されていた…。

 

───

 

 テロ組織『ヘファイストス』。ラジカル・カラミティによる襲撃予定日当日。セキュリティ本部では厳戒態勢が敷かれていた。

 7万人程度のセキュリティの人員のうち、5万人を動員し、各地の警護、捜査、巡回を行わせている。

 

「ラルムガント長官。お話が…。」

 

「聞こう。」

 

 ハルファス・ラルムガント。

 セキュリティの指揮を取る最高長官にして、かつてはヘラクレスを駆り、数々のテロリストを撃退した英雄。

 

「ライオットとラジカル・カラミティの件についての調査ですが、進展がありました。資料の方を提出いたします。」

 

「これは…。」

 

「破壊されたテクノアカデミック総合商社の地下施設で、損傷軽微のメモリデータを発見し、修復する事に成功しました。」

 

 そのメモリデータに書いてある内容は多岐にわたっていた。

 一つ、ヘファイストスへ協力するパトロンがこのユグノーにいること。

 二つ、ラジカル・カラミティとライオットの戦闘は起こるべくして起こったということ。

 三つ、謎のメカスーツ…ペルセポネをヘファイストス幹部が求めているということ。

 

「ライオットもしくはその関係者に対して談合のような行為があり、本日より3日前の戦闘は必然的に起こるようになっていたようです。」

 

「ますます奇妙な話だ。このペルセポネというのは?」

 

「データと外観のみが残っている以外、わかりません。見た目はメカスーツブランド、ルドメイの『イモータル』といくつか類似点があります。」

 

「秘蔵…。」

 

 ハルファス・ラルムガントは資料を置いた。

 

「…管理者区域のルドメイが隠していることだ。我々に関与する権限はない。それよりも、ユグノー安全保障などの民間組織とも連絡を取り、いつでも住民の避難が行えるよう万全を期し、行動せよ。ライオットの件も置いておけ。」

 

「ハッ。」

 

───

 

 ヨノマルが働くユグノー・エントランス、ソノザキフーズでも、その異常ははっきりとわかった。

 ガシャガシャと金属が擦れ合うような轟音が響く。

 

「…なんだ、あれ。」

 

 外へ出て、すぐ目につくのはユグノー・セントラルの空だ。

 青空のコロニーの天空が灰色で埋まっている。

 あれは…あれはメカスーツだ。

 セキュリティが駆けつけ、惚ける皆々に避難を呼びかけた。

 

「ひ、避難を。みなさん。荷物は最小限で、自分の身を守ってください。」

 

───

 

『我々はヘファイストスである。』

 

 首領の声が拡声される。

 

『私はヘファイストス、リーダー…グレゴリー・ガブリエル。』

 

 ユグノー・セントラルの部隊は、炎の中倒れ伏していた。

 

『我々は素晴らしい協力者を得た。』

 

 クラブの装甲は無惨に破壊され、

 

『洗脳を受けた君たち民衆を、解放する同士を。』

 

 いくつかのアローは銃を懐に抱えたまま、胴体を分断されている。

 

『ユグノーの支配者達よ。これが貴様らの成した結果だ。貴様らが許容した破壊だ。』

 

 本来戦闘向きではないハンドでは尚更だ。この地獄に耐えられない。

 

『次は貴様らだ。』

 

 無人機。

 格闘機シルバー・キマイラ。

 砲撃機レッグド・キマイラ。

 総計して六千。

 加えて、ラジカル・カラミティ22機。

 蹂躙を受ける中、セキュリティのエース、ディランが乗るヘラクレスを支柱に人々は抗戦を続けていた。

 空を覆う灰色の物量はヘラクレスの弓であるヒートボルトガンによって打ち砕かれる。

 これは着弾後組成変化により重量を増す質量弾であり、装甲に楔のように打ち込むことでどのような相手にでも有効である。

 

「…ディラン、お前はそろそろ、ラジカル・カラミティのところへ向かえ。」

 

「クレスタさん。理由は?」

 

 クラブ乗りのベテラン達が前へ出る。ヒートボルトの撃ち漏らしを棍棒にて叩き割っていく。

 

「無人機の方はいくら倒したって無駄だ。有人であることがわかっているラジカル・カラミティを狙った方がダメージを与えられる。」

 

「そういうことなら、従えません。奴らの目的はセキュリティの戦力を削ぐことと考えられます。であれば、単独行動や悪戯に戦力を消費するやり方は悪手です。」

 

「無人機程度なら俺たちでやれるってんだよ。」

 

 ヒートボルトガン自体はセキュリティであれば誰でも配布される。数量に限りがあるため、ベテラン優先ではあるが。

 ここにいるのは、そのベテラン達だ。ヘラクレスの射撃がなくとも、クラブ乗り達の射撃で灰色の波を打ち壊していく。

 

「そして、お前も無人機程度にやられるやつじゃない。」

 

「…わかりました。ご武運を。」

 

 ラジカル・カラミティはセキュリティ本部、長官庁を襲撃している。

 現在防衛設備を起動して追っ払っているが、ダメージを与えることができていない。物量が絶えれば、そのまま敗北することとなる。

 

───

 

「こちらディラン、ヘラクレスⅠ。到着しました。」

 

『ヘラクレスⅠ。情報の同期を行う。』

 

「了解。」

 

 脳みそへ今までの経緯と戦闘データ、また、現在の状況までが立体的にダウンロードされる。

 メカスーツ『ヘラクレス』の頭部デバイスにより可能となる三次元認識機能だ。オペレートがある限り、パイロットは360°視界を確保しつつ、情報を共有しながら戦うことができる。

 当然にして負荷が大きい。ディランがセキュリティのエースと呼ばれるのは、この負荷を容易に受け入れているが為だ。

 

「ぬッ───。」

 

 庁舎を囲むラジカル・カラミティは4体。

 複数のエネルギー弾と実弾が織り交ぜられ、網のようにラジカル・カラミティを襲う。

 ラジカル・カラミティ搭載のAIにより予知した演算未来は───必中。

 ディランのヒートボルトがラジカル・カラミティのバックパックに直撃する。

 ラジカル・カラミティはゆっくりと降下せざるを得ない。苦し紛れの砲撃があたりを焼土へと変える。

 

 毎日の手入れが施された庭園も、数々の人々が座ったベンチも、働く人々の靴の汚れが刻まれた道も───全てが消える。

 

「ヘラクレス、味な真似を。───認証省略。コードホワイト。」

 

 当の本人はと言えば、全く罪の意識など覚えてなさそうだ。

 まぁ、そうだろうな。

 

「壊してしまったものは、仕方がないものな。」

 

「何をぐちぐちと───。」

 

 白く染まったラジカル・カラミティ。紫のラジカル・カラミティもヘラクレスへ向けエネルギー弾を飛ばす。

 

 通算して3本の弾丸だ。

 はじめに、ヘラクレスは前進した。エネルギー大剣マルミアドワーズを振りかぶる。

 しかし、バックパックユニットを失ったと言えど、格闘モードへ入ったラジカル・カラミティは常人では勝てない。

 ヘラクレスとてAIの補助が入った高速の動きだが、それでも避けれないわけではない。

 拳を叩き込む。

 のけぞるヘラクレスに、3本の弾丸も直撃する───。

 

(まるで手応えがないな。)

 

 ヘラクレスの装甲は重厚だ。

 だとしても、ここまでの攻撃を受ければ撃墜は免れないだろう。

 念の為追撃を仕掛ける白いラジカル・カラミティだが、仲間の悲鳴が通信回線へ入る。

 

『ぐああああああッ!!』

 

 ラジカル・カラミティのAIが空中から援護射撃をしていた三人の悲鳴の要因をカメラ映像として見せる。

 ヘラクレスは、三発ヒートボルトを撃ち込んでいた。

 その弾丸は、エネルギー弾と同じ弾道を辿り───焼け焦げながら前進。

 エネルギー射出孔へと着弾したのだ。

 吹き飛んだ三体の仲間は、砲こそ失ったが無事。それぞれ白く変色、格闘戦仕様へと転換する。

 

「ヘラクレスゥゥゥ!!」

 

 4体の意識が、ヘラクレスへ集まる。

 瞬間。ヒートボルトが身体中に突き刺さる。

 ヘラクレスからのものではない。

 防衛設備のものでもない。

 庁舎の窓から、セキュリティの生身の人間達が打った弾丸だ。

 

「───扱いやすくて助かるよ。」

 

 煙が晴れる。

 ヘラクレスは損傷している。

 左腕で胴体を庇った為、パワーアシストが効かなくなっている。

 

「君たちは目先のことに集中しすぎる。」

 

 ヒートボルトは深く突き刺さり、ラジカル・カラミティを地面へと押し潰している。

 

「僕たちの勝利だ。」

 

 アラート。

 

『ヘラクレスⅠ、警戒しろ。増援も送る。』

 

 庁舎内部からクラブもいくつか現れ、ヘラクレスをカバーするように囲もうとする。

 しかし───そのクラブ達はヘラクレスの目の前で、突如として天から放たれた大地を破る砲撃によって消失した。

 当然ながら、庁舎も巻き込んだ一撃だ。庁舎の壁は砲撃に6秒ほど耐えたが崩れ、それをきっかけに倒壊した。クレーターは半径200mにも及ぶ。

 

「…?」

 

 風圧で吹き飛ばされながら、ディランは放心していた。

 セキュリティ庁舎は当然、並のシェルターを上回る最高の防御性能を持っている。

 それが、壊された。

 

「ディラン。」

 

 目の前に現れた二つの脅威。

 

「私は銀色の獅子。そして、彼は翼足の蛇王。」

 

「ごめんね。君の戦いは素敵だったよ。」

 

「嘲るようなことを言うな、翼足。…セキュリティは負けねばならない。敬意を払おう。」

 

「銀色、それこそ彼をおちょくっている。彼の前で談笑している我々自体が、そもそもだけど。」

 

 銀色の獅子、翼足の蛇王。

 それぞれ、シルバー・キマイラ、レッグド・キマイラの上位機体だ。

 

「お前達───。」

 

 【ヘファイストスは、素晴らしい協力者を得た。】

 

「お前達が、その協力者か…!」

 

 戦闘態勢を取るヘラクレスだったが、銀色の獅子が接近する。

 機体は薄く翠緑の光を纏っている。マルミアドワーズを振るったが、効かない。エネルギーが分散されダメージになっていない…!?

 

「さよならだ。」

 

 手刀で頑丈な装甲を易々と切り裂き、頭部、腕部、胸部、脚部と爆散させる。

 ヘラクレスの安全機能を逆手に取った破壊行為だ。

 

「またね。」

 

 ヘラクレス全損。インナースーツのみで取り残されたディラン。

 仕事は終えたと去っていく二つの機影。

 セキュリティは、エースを打倒され壊滅した。

 

「…なんだ…。」

 

 ユグノーを。

 壊してどうする。

 

「なんでだよ。」

 

 明日があったのに。

 それは、望まれた明日ではなかったかもしれない。

 だけど、それでも、こんな…。

 破壊と死と別離を、望むものか。

 

「ふざけるな…。」

 

 項垂れるディランを、セキュリティの生き残りのメカスーツ部隊が迎えに来る。

 

「ディラン・シールドの生存を確認。安全な場所へ移動します。」

 

「…すまない。」

 

「ディランさん。あなたが気に病むことなど、一つもない。」

 

 クラブの背中に乗せられる。

 

「セキュリティは、1人で戦っているわけではないのですから。」

 

 未だセキュリティはヘファイストスへの抵抗を続けているが、戦線は徐々に後退している。

 死者・行方不明者数は総勢で1万を超え、管理者区域への攻撃が始まった為現在も増え続ける状況だ。

 ヘファイストスは声明を出し、ユグノーの権力層を一掃し、目的である【民衆の自由】を達成するまで攻撃を続ける意思を示している…。

 

───

 

「…お、やっと起きたか。」

 

「…すまない、寝ていたようだ。どれくらい経った?」

 

「ちょうど戦闘から半日くらいだな。それで、どうする?大将。」

 

「大将…柄じゃない。ルドメイでいい。…ここはグランギニョルだったな。ならば、問題ないか。」

 

「ああ。」

 

「…今後の予定を話す前に…何故、私がラジカル・カラミティを破壊しているか、話させてくれ。」

 

「いいのか?」

 

「お前を信頼してのことだ。」

 

 世界はまた一つ、その時を進める───。

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