大好きな君を殺すまでの手のひら英雄譚   作:美空 雪

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楽しんでいただければ幸いです


再会

第一層での初陣を終えた俺たちは、そのまま第二層、第三層へ進みながら連携を調整していた。

 

ジョアンナが撃つ時は、俺が射線を空ける。

俺が敵を引きつける時は、ジョアンナが無理に狙わない。

ミアは二人の位置を見ながら、必要な時だけ短く指示を飛ばす。

 

最初は互いの動きを邪魔していた三人の戦い方も、何度か戦ううちに少しずつ噛み合ってきた。

 

「レオ、右へ」

 

ジョアンナの声に合わせて一歩退く。

俺の正面が空いた瞬間、『風刃』がリザードソルジャーの膝を切り裂いた。

 

体勢を崩した敵へ、今度は俺が踏み込む。

大振りの槍をかわし、胸元へ短剣を突き刺した。

 

『今の連携よかったな』

『最初よりだいぶマシになった』

 

「……やっとパーティーっぽくなってきたな」

「まだレオは一人で突っ込みそうになるけれどね」

「気をつけます……」

 

ジョアンナが小さく笑う。

 

「よし、第三層も問題なしです!」

 

ミアが攻略実績データを送信した直後、俺の端末に通知が届いた。

 

————

【重要】第四階層入場申請・承認のお知らせ

 

レオナルド・フォスター様

貴殿と同行者二名の第四階層・入場申請が承認されました。

————

 

「――よし」

 

次はいよいよ、環境そのものが変わる第四層だ。

第四層へ続くゲートを潜った瞬間、空気が変わった。

 

目の前に広がっていたのは、ごつごつした岩肌が剥き出しになった巨大な洞窟だ。

天井は高く、発光苔が辺りを仄青く照らしている。足元は湿り、落ちる水滴の音が何重にも反響していた。

 

「うわ……一気に雰囲気変わりましたね」

 

ミアがカメラドローンを浮かべる。

 

『ついに四階層か!』

『ガチの洞窟じゃん』

 

時折、金色に輝く岩肌が見える。

 

『あれ黄鉄鉱じゃね』

「高いの?」

『いや別に』

 

高いなら取って帰ろうと思ったのに。

 

背後から金属鎧の擦れる音が聞こえ、四人組の探索者パーティーが歩いてきた。

 

大剣を背負った男を先頭に、軽装の斥候、そして魔法職らしい男女。

装備には細かな傷が多く、見るからに場慣れしている。

 

「ん? 三人で潜ってんのか。しかもメイジとヒーラー……って、お前」

 

先頭の男が俺の顔とカメラドローンを見比べ、目を見開いた。

 

「まさか『ゼロクロ』のレオか?」

「多分そのレオです」

 

男は一瞬ぽかんとしたあと、俺の肩をバンバン叩いて大口を開けて笑った。

 

「マジかよ! 俺、お前の回避動画何度も見たんだよ!」

「ちょ、痛い痛い」

 

「ガイル、いきなり距離詰めすぎ」

隣の魔法職の女性が男を小突いた。少しだけ頬を膨らませている。

 

「困ってるじゃない」

「悪い悪い。いや、まさかこんなとこで会うとは思わなくてな。俺はガイル。こっちがアルとレイだ」

ガイルは自分の胸を叩いて、魔法使いの男女を指で指した。アルとレイは慣れた仕草で頭を下げた。ガイルから凄まじい兄貴感が漂っている。

 

「じゃあ、ガイルさんが長男……?」

「いや、近所のガキ大将だった奴」

「ほほう」

 

ジョアンナがしきりに顎を摩り頷いた。

 

「ところで、そのゼロクロって何なのかしら」

「ゲームよ。やってないの?立ち居振る舞いが結構様になっているからやってるものだと思ったのに」

レイはジョアンナの姿を頭からつま先まで見て首を傾げた。

 

「魔物の動きが妙に似てるから、オススメよ」

「そうなのね。少し触ってみようかしら」

そんな話をしていると、ガイルの視線が俺の腰へ落ちた。

 

「しかし、お前、その短剣で四層まで来たのか?」

「機材の初期投資もかさんで、これが精一杯で……」

 

「なるほどなあ」

 

ガイルは腕を組み、俺たち三人を順番に見る。

それから、少しだけ眉を寄せて唸り、うんと頷いた。

 

「……なあ。俺らもこの先に用があるし、途中まで一緒に行くか?」

「え?」

「いや、なんつーか」

 

ガイルが頭を掻く。

 

「三層まで来てるなら、別に初心者扱いする気はねえんだけどさ。四層って足場も悪いし、上からも来るし、最初だけちょっと勝手が違うんだよ」

 

アルも俺たちの装備を見て、静かに頷いた。

「同じ方向なら、人数が多い方が安全だ」

 

ガイルはポリポリと頭を書いて目を逸らし、ボソボソと言葉を紡いだ。

「そうそう。俺も昔見てたランカーに、会ったその日に死なれたら寝覚め悪いし」

 

「動画よく見てたもんね!」

ガイルが苦笑する。

 

そのやり取りに、肩に入っていた力が少し抜けた。

「……じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます。正直、ちょっと心強いです」

スキップしだしそうなガイルと握手を交わした。

 

「おう。堅苦しいのなしな。道中暇だから、適当に喋りながら行こうぜ」

 

こうして俺たちは、しばらくガイルたちと一緒に四層を進むことになった。

 

「しかし本当に洞窟だな」

「だろ? 最初はテンション上がるんだけど、そのうち全部同じ壁に見えてくるぞ」

「それ嫌だな……」

 

ガイルが笑いながらライトを床へ向ける。

 

「ちなみにそこ、滑るから気をつけろよ」

見ると、湿った岩肌の一角だけが周囲より黒く、妙に光っていた。

 

「あ、ほんとだ。見た目だけじゃ分かりにくいですね……」

ミアがドローンを寄せる。

 

「こういうの、戦ってる時に踏むと普通に転ぶんだよな」

「ガイルは前に派手に転んだ」

 

アルがガイルを指差して淡々と言った。

「おい、それ今言う必要ある?」

「地味に命取りだったりする」

 

「大事ですね」

「ミアちゃんまで!」

 

『草』

『俺も尻餅ついたことある』

 

自然と笑いが起きる。

 

歩きながら、ガイルたちは目についたものを「あれは避けた方がいい」「あっちは袋小路だった気がする」と気軽に教えてくれた。

 

落ちている荷物には不用意に触れないこと。

音が反響するから、近くに何がいるか分かりにくいこと。

時々、天井から魔物が降ってくること。

 

たしか、ゼロクロでも落ちてる荷物がミミックだったりするんだよな。アレに5回は殺された。

 

「まあ、結局一番大事なのは無理しないことだな」

『命だいじに。幸せに長生きしてくれー』

話しながらも洞窟自体にも慣れてきた。

 

「ランカーなら大丈夫だろうけどな」

「本当あのゲーム引き際とか判断ミスに厳しいですからね……」

「それな」

 

その直後だった。

 

「――十時の方向、上」

 

アルの短い声。

 

見上げると、鍾乳石の隙間から数匹の洞窟百足が這い出してきた。

 

俺が短剣に手をかけると、ガイルも大剣を抜きながら言う。

 

「レオたちは後ろの二匹頼めるか?」

「了解!」

 

前へ飛び出したガイルが一匹の進路を塞ぎ、その横を抜けようとした個体をアルが牽制する。

 

俺も一匹の注意を引きつけた。

 

「ジョアンナ!」

「見えてるわ」

 

俺が横へ跳んだ瞬間、『風刃』が百足の胴を裂いた。

残った一匹へ踏み込もうとして――少し手前で止まる。

 

真正面から追わず、ジョアンナが狙える位置を残す。

放たれた魔法が百足を撃ち落とし、最後は俺が短剣で止めを刺した。

 

「お、いいじゃん」

 

ガイルがこちらを見て笑う。

 

「ちゃんと三人で動けてるな」

「さっきまでレオが前に出がちで結構苦労したんですけどね」

ミアが胸を張って答えるものだから、少し笑えてきた。

 

「分かるぞ。動ける奴ほど前行きたくなるんだよな」

「ガイルも昔それで何回か死にかけたわよ」

 

「お前ら今日、俺の株下げに来てない?」

 

『それでも潜り続けるんだよな』

 

そんな調子で話しながら、さらに洞窟を進む。

 

しばらくして、アルがふと足を止めた。

 

「天井にいるな——」

発光苔の影から、巨大な蜘蛛――ケイブスパイダーが姿を現す。

 

「来たな」

 

ガイルが大剣を抜き、前へ出る。

 

重い一撃が蜘蛛の外殻を叩き割った。

だが、大剣を振り切った直後、蜘蛛が素早く側面へ回る。

 

あそこ、ゼロクロなら反撃をもらうタイミングだな。

 

俺がそう思った瞬間、ガイルは大剣から片手を離し、腰の鞘から短剣を抜いた。

 

短い刺突が蜘蛛の目を貫く。

 

怯んだところへ大剣の二撃目が落ち、蜘蛛は光の粒子になって消えた。

 

「うおー、さすが」

ミアの素直な拍手にガイルはまた頭を掻いて明後日の方を見た。

 

「やめろやめろ。照れるだろ」

俺は蜘蛛より、ガイルの手元を見ていた。

 

鈍い青光りの刀身。

見間違えるはずがない。

 

「……それ、疾風の短剣ですか?」




無くした大事なものが見つかったけど他人の物になってたってあんまり無いことだと思います。
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