大好きな君を殺すまでの手のひら英雄譚   作:美空 雪

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楽しんでいただければ幸いです


元ゲーム配信者、レベルアップする
1新メンバー的にはブラックスタート


第四層への探索届を出した翌日、俺とミアはおなじみの、メトロ・ダイナーにいた。

 

昼時を過ぎた店内は閑散としており、厨房の低い駆動音だけが響いている。

 

「――はい、というわけでこれが現在の我がチャンネルの収支表(仮)です」

 

ミアがノートパソコンの画面をパチンと叩き、俺の前に差し出してきた。画面に並んでいるのは、昨日の配信のスパチャ額、広告収入の予測値、魔石の買取価格、そして次回の探索で予想される必要経費の数々だ。

 

「昨日は同接百人を突破しましたし、登録者も増えてます。魔石を傷付けずに回収してくれたのが良かったです。けど、軽量短剣の代金、まだ半分も回収できていません」

 

「わかってる。あれは必要経費だ」

 

運ばれてきたドリアにスプーンを入れながら、俺は小さく息を吐いた。

手に入れた 軽量短剣 の感触は悪くない。だが、以前タダで使わせてもらった疾風の短剣はやっぱり良かったなぁ。懐に衝撃もないし。

 

「それに、問題はそれだけじゃないんですよ」

 

ミアはポテトを一本口に放り込み、真面目な顔で指を一本立てた。

 

「第四層からは魔物の強さも連携も別物になります。今は実質的にレオさん一人が前衛で戦って、私が後ろからサポート……結局その他全部やってますけど……ぶっちゃけ、私のキャパがそろそろ限界です」

 

「……配信のコメントを拾いながら、索敵と指示だもんな。そろそろいい加減、後衛がいないとヤバいよな」

 

「そう! カメラドローンを回しながら『レオさん右!』とか言いつつ、コメントの『てえてえ』に突っ込むの、結構大変なんですよ。その上、もしレオさんが大怪我でもしたら、今の私たちにはまともな回復手段がありません」

 

ミアの指摘は、ぐうの音も出ないほど正論だった。

第三層までは、俺の『ゼロクロ』仕込みの回避勘でなんとかなっていた。だが、現実の肉体はゲームと違って有限だ。かすり傷ならともかく、深い一撃をもらえばそこで配信も探索者人生も終わる。

何より、これ以上ミアにマルチタスクの負担をかけ続ければ、いつか指示の遅れが命取りになる。

 

前衛の負担を減らす後衛職、あるいは傷を癒やすヒーラー。

次の配信までに最低でも、もう一人は頭数が欲しい。

 

「他で急募をかけるか、それともギルドの仲介を使うか……。でも、仲介料を払う余裕なんて今の収支じゃ……」

 

「ワッフルでーす」

「あ、こっちです」

 

会話を遮るように、メープルシロップと生クリームとチョコがたっぷりかかったワッフルが2枚、ミアの前に置かれた。

甘い香りが漂う中、俺が今後の資金繰りに焦りを抱えながらスマホを開いた、その時だった。

画面の上部に、一通のダイレクトメッセージの通知が表示される。

 

「……ん? ミア、DMきてた。さっきの配信の感想か?」

「え、DMなんか来るんですか?てかスマホ変わってません!?なんですそれ。案件ですか?」

 

「矢継ぎ早だなおい……」

 

ワッフルの一切れをフォークで口に放り込みながら身を乗り出してきたミアに、俺は画面を見せた。

 

『初めまして。私ジョアンナ・リードと申します。さっきの配信で、レオさんが次の層のメンバー不足で悩んでるのかなって思って居ても立ってもいられず連絡しちゃいました!実は私も参加者に選ばれたんです!憧れのレオさんとミアさんと是非一緒に潜りたいです!』

 

文面をじっと見つめていたミアが、急に眉間にシワを寄せて「うーん……」と唸り声をあげた。

 

「……何だよ、渡りに船だろコレ」

「レオさん、これ美人局では?」

 

「……結構言うね……」

 

初対面の、しかもわざわざ助け舟を出そうとしてくれた相手に対して凄まじい偏見だった。

 

「配信を見て、憧れて、タイミングよく参加者に選ばれただなんて、中々媚びてますよ」

 

ミアは口についた生クリームを拭っているが、ちっとも様になっていない。

「……でもさ、怪しかろうが何だろうが、俺たちの現状、背に腹は代えられないのも事実だろ? 実際、次の第四層、二人だけで潜るの無理だ。もしこの人が本当に戦力になるなら、話だけでも聞く価値はあるんじゃないか?」

 

俺が現実的な話、と苦言を呈すると、ミアはまたも首を捻った。

 

「そうですね。美人局ならそれはそれで良いと思います。腹に何か抱えている相手と関わると、人間的に成長しますしね。それなら良いんじゃないですかね」

 

「なんでそんな攻撃的なの……」

「私が返事します」

 

ミアが俺の端末を奪おうと、細い指先でギリギリと掴んできた。見た目からは想像できないほど強い力だ。

コイツ、なんで急にこんな強引になってんだ?

「お前だと変なメッセージ送るだろ。俺が打つ」

 

ミアは俺が引かないのを見て、ため息を吐きつつやっと端末を離した。

 

「仕方ないですね。女同士で一人の男を取り合う構図、あるいは怪しい女スパイとの化かし合い……この方向性でバズらせましょう」

 

「女スパイってドラマの見過ぎだろ……」

 

喋るのは苦手だが、テキストの打ち込みなら慣れている。俺は画面に、ビジネスメールのテンプレートのような、至って真面目で無難な了承の文章を連ねていった。

 

『是非お話しさせて下さい。お話の日程に希望はありますか?』

 

***

――そして数日後。第四層への挑戦を控えた俺とミアは、国営ギルドの併設ショップに来ていた。

 

「レオさん、配信用バッテリーは2個で足ります? 洞窟型階層は光量が足りなくてカメラの補正機能がフル稼働するから、今までより消費が激しいんですよ」

 

「行ったことあるのか?」

「洞窟探索したことありますよ」

 

「なるほど、じゃあ予備でもう1個足しといてくれ。あと、こっちの洞窟用ライトとロープも。それから……」

 

俺は予算と相談しながらアイテムをカゴに入れていく。

洞窟用LED高輝度ライトに、耐荷重200キロの特殊繊維ロープ。下級回復薬を2本と、擦り傷を防ぐための少し厚手の防刃インナー。そしてドローン用の大容量バッテリー。

「うう、本当に初期投資がかさみますね……。4層はリターンも大きいですけど危ないですし、準備も怠れません」

「せっかく4層に入れるのに世知辛いよなあ」

 

俺は手元のギルド資料をペラリとめくった。大きな洞窟の写真が貼り付けられており、縦に矢印が書かれている。

写真の下に続く文章は分かりやすく簡潔だ。

 

『写真のように命取りになる傾斜が多数存在します』

ほぼ崖じゃんこれ。どうなってんだ。

 

「資料、間違ってたりしないかチェックしてるんですか?」

「ああ。間違いないみたいだがな。……はぁ」

 

カゴの中身を計算しながら二人仲良く溜息をついた。

それにしても、と俺は自分の腰に手を当てる。貸与品を失ってから購入した『軽量短剣』の感触を確かめた。

 

***

買い出しを終えた俺たちは、そのまま数日前にDMで待ち合わせを取り付けたファミリーレストランへと向かった。

 

「あのさ、レオさん」

 

自動ドアから離れた建物の陰で、ミアが不自然に声を潜めて、俺の袖を引いた。

 

「ん? なんだ」

 

「驚かないで聞いてほしいんですけど……実は私、さっき『参加者』に選ばれちゃいました」

 

「……は?都合良すぎない?」

 

俺は思わず足を止めた。

ミアは周囲をそっと見回してから、自分の目の前の何もない空間を指さす。本人にしか見えない半透明のシステムウインドウを示す仕草だ。

 

「本当びっくりですよ。さっきショップを出た時、急に脳内にピロンって通知が届いて……。なんか、裏方としてダンジョンに関わっていた功績が認められた、みたいなこと書いてありました。職業は『ヒーラー』。魔法適正があったみたいで、運営からの支給品で、この初心者用の回復杖を貰ったんです」

 

ミアがリュックの隙間から、木製の短い杖を少しだけ覗かせてみせた。先端に小さな魔力結晶が埋め込まれた、ギルドのカタログでもよく見る代物だ。

 

「マジか……。じゃあ、ミアも戦うのか?」

 

「まさか! 私は回復役ですよ。軽傷を塞いだり、出血を抑えたり、痛みを和らげる程度です。骨折とか内臓損傷みたいな重傷は無理みたいですけど。でも、これで私たちのパーティーの致命的な弱点だった『回復手段の不足』はクリアです!」

 

「……そうだな。ありがたい」

 

驚きより、安堵の方が大きかった。

少なくとも、怪我をした瞬間に詰むという状況からは抜け出せる。

 

「ちょっと早くついたな」

「ですねぇ」

 

待ち合わせのダイナーには1時間も早くついてしまった。俺たちは店内に入る前、人通りのない路地裏へと回る。周囲に誰もいないのを確認してから、俺は袖を捲り上げた。

 

「なぁ、せっかくだし、その回復魔法の実験をしてみないか?」

 

「良いですね。やりましょう!」

 

腕には、前日の訓練で作った拳大の打撲痕があった。

「結構大きいですね。痛いですか?」

「押すと痛い」

「なるほど……」

 

ミアは周囲を気にしながら杖を構え、小さく呟いた

 

「ヒール」

 

ミアの呪文に合わせるように、俺の腕が淡い光に包まれる。

 

「長いな」

「完了すると光が収まるらしいので、まだです」

 

1分ほど光が放たれ続け、それが完全に収まった時、腕の打撲痕は綺麗さっぱり消え去っていた。

打撲があった場所を少し強めに押しても、全く痛みを感じない。

 

「おお。すごいな」

「凄いですけど、現状だと1日2回までが限界ですね」

「分かるのか?」

「はい。システムウインドウに表示されてます。スマホのメモアプリに数値を書き写したので、これ見てください」

ミアが差し出してきた画面には、テキストでメモされた、彼女のステータスが並んでいた。

 

【名前】ミア・リン

【種族】人間

【性別】女

【年齢】19

【クラス】ヒーラー

【レベル】1

 

━━━━━━━━━━━━━━━

■基本能力

━━━━━━━━━━━━━━━

 

HP(体力)55

MP(魔力)180

SP(スタミナ)45

STR(筋力)20

AGI(敏捷)40

WIS(精神)220

 

(19歳、か……)

改めて彼女の年齢を目にしながら、俺は自分のステータスと数値を比較してみる。

 

「俺の方がSTRは多いな」

「……前衛アタッカーのレオさんが、後衛ヒーラーの私と筋力を競ってどうするんですか?」

 

「いやつい……」

 

その通りだ。今すぐダンジョンの底にでも潜りたい気分になった。

 

「今の魔法でMPが70削れて、残りが110になりました。なので1日に使えるヒールはやっぱり2回ってとこですね」

 

「……ああ、めちゃくちゃ助かるよ」




女スパイのドラマ実は見たことないです。
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