〔1〕
ボクが高度育成高等学校に入学した翌日。ボクは桔梗ちゃんグループ(グループ名は何故か「清隆くんグループ」になっていたが)のやり取りを見ていた。
ボク『おはよー』
桔梗ちゃん『おっはよー!』
みーちゃん『おはようございます』
心ちゃん『おはよう』
桔梗ちゃん『皆早起きだね!』
みーちゃん『初日から遅刻する訳にいかないので…』
心ちゃん『清隆くん5時に起きてるじゃん!』
ボク『日課のトレーニングを済ませてたんだ』
桔梗ちゃん『トレーニングかぁ…』
みーちゃん『運動は苦手です…』
ボク『良ければ明日からボクと一緒にしない?』
心ちゃん『それはアリかも…』
ボク『代わりと言ってはなんだけど、ボクが朝ご飯を作るよ』
みーちゃん『清隆くん特製のご飯!?』
心ちゃん『俄然やる気出てきた…!』
桔梗ちゃん『清隆くんのご飯…売り出せば儲かるかもね』
ボク『なんで???』
ありきたりなやり取りではあるが、この状況が楽しくて仕方がない。あの場所に居た頃では考えられない程である。そうだ。これは「楽しい」という感情だ。この感覚は「楽しい」以外の何物でも無いだろう。ボクはやっと「楽しい」ということを理解できたのだ。この日常を守るためにも、ボクは邁進していかなければ…。
「清隆くんおはよう!」
「「おはよう」」
「おはよう、桔梗ちゃん、みーちゃん、心ちゃん」
寮のエレベーターで桔梗ちゃん達と合流したボクは、挨拶を交わし、談笑する。
「とりあえずポイントは節約しながら頑張ろうね」
「授業態度とかもしっかりしないと…」
「高校生としてしっかりしていれば問題無いと思うよ?」
「確かに…」
学校に向かう道中で「Aクラスから行ってみようよ!」という桔梗ちゃんからの提案により、Aクラスの教室から順番に行くことになった(みーちゃんと心ちゃんは恥ずかしがり屋なので先にDクラスの教室に行った)。Aクラスの人間はとにかくしっかりしていそうだ、という印象を受けた。
「おはようございます!皆さん初めまして!私はDクラスの櫛田 桔梗です!」
「同じくDクラスの綾小路 清隆です。よろしくお願いします」
『可愛いの暴力!?』
何の話されていらっしゃいますの?変な反応をしなかったのは2人。片方はスキンヘッドの強面な男子生徒。もう片方は杖をついている可憐な女子生徒だ。固まっているほとんどのAクラス生徒を他所に、その2人が歓迎してくる。最初は男子生徒が挨拶する。
「同じ新入生同士、よろしく頼む。俺は
「よろしく、葛城くん」
「よろしくね!」
葛城くんからは顔を見ただけでは想像できない、優しそうな印象を受けた。次に女子生徒が挨拶する。
「お2人とも、よろしくお願いします。私は
「よろしく、有栖ちゃん」
「よろしくね!有栖ちゃん!」
有栖ちゃんが度々ボクに視線を向けていたのは何故だろうか…?有栖ちゃんからはイタズラっ子な印象を受けた…。その後、硬直から解き放たれたAクラスの生徒たちから迫られた。桔梗ちゃんパワーもあってか、気づいたらAクラスの生徒約30人と連絡先を交換していた。恐るべし、桔梗ちゃんパワー…。そんなことを思いながらBクラスの教室に行くこととなった。Bクラスの人間はわちゃわちゃしながらも、規範意識はしっかりしていそう、という印象を受けた。
「おはようございます!皆さん初めまして!私はDクラスの櫛田 桔梗です!」
「同じくDクラスの綾小路 清隆です。よろしくお願い———」
『うわぁ!?可愛い爆弾だぁ!?』
「しま…す…?」
何を言ってますの?何故か桔梗ちゃんではなく、ボクの方を見て驚愕しているBクラスの生徒たち。そのとき「にゃはっ」という女子生徒の声が聞こえた刹那———
「かわいいぃぃぃ!」
「もごっ!?」
「清隆くん!?」
何か柔らかいモノが顔に当たる。それが先程の女子生徒の胸であることを理解したのは遅くなかった。途端に顔に熱がこみ上がるのと同時に「もっと包まれていたい」という不思議な感情が湧いた。この感情は一体…?
「ちょ、清隆くん窒息しちゃう!離れてあげて!」
「えへへ…可愛いなぁ…」
「もごもごご…」
ボクは女子生徒の肩があるであろう場所を軽く叩いて、そろそろ離してほしいという意思表示を示す。
「あっ、ごめんね!可愛くて、つい…」
「可愛ければ何でも良いの…?」
「ボクって一体何なんだ…」
「あっ、私は
「あっ、うん…よろしく…帆波ちゃん」
「よろしくね、帆波ちゃん」
帆波ちゃん…か。この不思議な感情を紐解くには、彼女の協力無しでは達成できそうに無いな。その後、先のAクラスよろしく、Bクラスの生徒約30人とも連絡先を交換できた。
「ふふっ、清隆くんさまさまだねっ!」
「ボクは何もしていないよ?」
「謙遜しちゃってこのこの〜」
桔梗ちゃんはボクの頬を指でつっつく。桔梗ちゃんはボクをからかうのが好きらしい…。同じ要領でCクラスにも突入しようとしたが…。
『……』
「あぁー…」
「難しそう…だね」
Cクラスの生徒たちは「不良軍団」と呼ぶに相応しいぐらいには荒れていた。このクラスに突入するのは難しそうだ…。
「教室に行こうか…」
「そうだね」
こうして、約60人の連絡先と共に「とある収穫」を得られたのだった。
〔2〕
Dクラスでの初めての授業はなんと言っていいか…酷いものであった。私語や携帯弄り、居眠り等が普通に行われていた。それを教師は無視していた———何かを書いていたようには見えた———ため、これからが怖いものである。それに、A〜Cクラスの様子を見ていたのもある。それを踏まえると…何か仕組まれているような気がしてならない。桔梗ちゃんたちはボクが先に警鐘を鳴らしていたのもあってか、真面目に授業に取り組んでいる。この状態が長期化したら、ボクが直接彼らに釘を刺すことも考えないといけないだろうか…?
そんなことを思っていると、昼休みを告げるチャイムが鳴る。それからすぐに「清隆くんグループチャット」に連絡が来る。元々4人だったグループに有栖ちゃん、帆波ちゃん、
「皆おつかれー!」
「お疲れ様です」
Aクラスの有栖ちゃんとBクラスの帆波ちゃんたちが既に学食に来ていた。これからメニューを注文するようで、ボク達を待っていたようだ。
「遅れてごめんね。早速注文を…って無料?」
「そうなんです」
「『山菜定食』っていう無料のメニューがあるんだよねー」
無料…か。まるでポイントが枯渇した人間を救済するかのような…。というよりも、まるでポイントが無くなると言わんばかりの存在だな…。
「何らかの理由で、支給されるポイントが無くなる可能性がある…?」
「…えっ?」
「…ほう。清隆くんも気づきましたか」
どうやら有栖ちゃんは何かに気づいているようで、まるでボクに答え合わせをさせようと画策しているようだ…。
「一旦ご飯を食べてからボクの推論を聞いてもらおうかな」
「そうですね」
「…えっ、なになに?」
「どういうこと…?」
桔梗ちゃんや帆波ちゃん達はボクと有栖ちゃんの言葉の意味が分からず、置いてけぼりになっていた。ボクはハンバーグ定食を注文し、食べる。んまー!
『可愛いなぁ…』
ハンバーグは初めて食べたけど、こんなに美味しいものだとは!これからも食べに行こうっと。
「それでまぁ、ボクの推論になるんだけどね、桔梗ちゃんはA〜Dクラスの人達の特徴を覚えてる?」
「えっと…AとBは落ち着いてて、Cが不良集団、Dは…まぁ、学級崩壊?」
『えぇ…』
「…まぁ、そうだね。ボクもそう感じた。普通ならクラスの雰囲気がたった数日でこんなに差が出るとは思えない」
「確かに…」
「そうですね」
「その上で無料だとか、10万ポイントが保証されてないだとか、無数の監視カメラだとか…それを踏まえると、『何かしらの基準で、ポイントはクラス単位で変動する恐れがある』…そう言えるんじゃないかな?」
『えっ…』
『成る程…』
「…ふふふっ!私も同じ結論です、清隆くん!」
帆波ちゃん達は一切気づいていなかったのか驚愕しており、桔梗ちゃん達は今までの推論を補強する今回の内容に納得していた。一方、有栖ちゃんは「自分と同じ結論に辿り着いたことに歓喜」していた。
「付け加えるとしたら、その基準は『高校生として当たり前のことができているか』でしょうね」
「そうだね…そうでなければ、私語や居眠り等でわざわざ注意しない理由は無いはずだからね…」
『確かに…』
そんなことを話していると、突然校内放送が流れる。
『本日、午後5時より、第1体育館の方にて部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は第1体育館の方に集合してください。繰り返します、本日———』
「部活動かぁ…皆は興味あったりする?」
「私はあんまりかなぁ…」
「私もー」
「清隆くんはどうなんですか?」
「行くだけ行ってみようかなぁ、って思っているよ」
「まぁ、部活動で何かしらの加点になりそうですからね」
「確かに…」
こうして、ボク達は部活動説明会に行くこととなったのだった。
〔3〕
「…迷ってしまった」
放課後になり、部活動説明会に行こうとしていたが、諸事情があってボクは桔梗ちゃんたちと別れて行動していた。それは上級生の教室を見ることであった。先程の推論が正しいのかを確認したかったというのもあるが、それ以上に上級生とパイプを繋げられたら他の人間よりも優位に立てると判断したためである。その結果、2年生の
次に3年生の教室に来たのだが、ボクの推論が正しいことを証明するかの如く、DクラスやCクラスの席が少なく、活力が無いこと、Aクラスはフルメンバーであり、活力に満ち溢れていること等、それが示す答えは、Aに行けば行くほど優れた人物が———
「そこで何をしている」
「ほわっ!?」
そんなことを考えていると、突然上級生である黒髪の男子生徒とお団子髪の女子生徒が1人ずつ現れる。特に男子生徒の方からは強者の風格を感じ取れた…。
「えぇっと…校内見学を…」
「校内見学でわざわざ上級生の教室に行くのか?」
誤魔化しても無意味っぽそうだなぁ…。
「まぁ、簡単に言えば答え合わせをしようと思いまして」
「答え合わせ?」
「Sシステム…もとい、この学校は『平等』と『実力主義』が大好きなようですね。毎月10万PPが振り込まれる訳ではないこと、Aクラスから順番に
「ほう…」
「成る程…」
上級生に逆らっても意味は無い。そう思い、ボクは全てを白状した。
「お前、名前は?」
「1年Dクラスの綾小路 清隆です」
「Dクラス…」
「まさかこんな逸材がいたとはな…学生証を貸せ、綾小路」
「はい」
男の方の先輩はボクの学生証を手に取ると、ピピッという電子音が鳴った。学生証を返してもらうと、そこには『堀北 学から100万PPが振り込まれました』という記録と共に『1,086,823PP』という表示が出てきた。
「ほりきた…まなぶ先輩…?このPPは一体…?」
「お前に対する先行投資と思ってくれて良い」
「じゃあ私も」
「あっ…」
女の方の先輩もボクの学生証に対して振り込みをしたらしく、そこには『橘 茜から10万PPが振り込まれした』という記録と共に『1,186,823PP』という表示が出てきた。
「たちばな…あかね先輩まで…」
「会長が認めた子ですから」
「堀北先輩は生徒会長なのですね」
「あぁ。俺たちは部活動説明会のため、これで失礼する」
「ありがとうございました」
ボクは思わぬ臨時収入を得られたと共に、この『先行投資』のおかげで『PPの重要性』を理解できたのだった。そうでなければ、このPPを譲渡する理由が無いためである。
その後、部活動説明会ではバスケ部や水泳部、茶道部といった様々な部活が存在していたが、最後の生徒会の紹介での堀北会長の印象は強かった。その上で、少し遠い場所にいた堀北さんの存在が気になった———恐らく兄妹なのだろう。
「最後の堀北会長、清隆くんの方を見ていませんでした?」
「言われてみればそうだったねー」
「あぁー…実はさっき会長と橘先輩に会ってね…」
「そうなんだ」
そんな会話をしていると、有栖ちゃんに耳元で囁かれる。
「あとで私の部屋に来てください。部屋番号は———」
何故ボクだけ部屋に呼び出されたのだろう…?少し違和感を抱きながらも、ボクたちは解散した。お茶菓子を買った後に、有栖ちゃんの部屋のインターホンを鳴らす。「どうぞ」という声の後、開錠した音が鳴る。
「ようこそ、清隆くん。特に何も無い部屋ですが…」
「大丈夫だよ。とりあえずこれを」
「おや、ありがとうございます」
紅茶をよく飲むと言っていたので、紅茶に合うお茶菓子を買ってきた。有栖ちゃんの部屋は特例なのか、バリアフリー設計になっていた。その上で、女の子らしい装飾と、テーブルの上にはチェス盤と駒たちが置いてあった。有栖ちゃんが座った後に、ボクは対面に座ることにした。
「さて清隆くん…8年と70日ぶりですね」
「…どういうこと?」
有栖ちゃんは何を言っているのだろうか?ボクと有栖ちゃんに面識は無かったはず———今日が初対面のはず———だけど。
「ホワイトルーム」
「…っ!」
何故…それを…!
「あの箱庭の最高傑作…偽りの天才を葬るのは、私にこそ相応しい」
「…君に、ボクを葬れるのかい?有栖ちゃん」
どうやら有栖ちゃんはボクを倒すことに情熱を割いてるらしい…そうすればボクは知ることはできるのか?敗北という二文字を。
「まぁ、普段はお友達のままでいたいと思ってますし、たまに私と勝負してくれたら良いというだけです。今回はチェスを指しましょう」
「…有栖ちゃんにメリットがあるとは思えないけど」
「清隆くんと同じ時間を過ごす、という報酬が待ってますから」
「…そう」
その後、チェスで有栖ちゃんをフルボッコにしたボクは「清隆くんは
坂柳と一之瀬のフラグが早めに回収されました。
普段は友達、裏では…?