ご注意ください。
〔1〕
有栖ちゃんからの宣戦布告からおよそ1週間が経った。あれからボクは清隆くんグループの皆と朝はトレーニング(有栖ちゃんは運動できないのでボクと一緒にコーチ役)し、終わった後はボク特製の料理を振る舞い、皆の胃袋を掴んでいる。
「清隆くんのご飯、食べててとってもポカポカするなぁ」
「清隆くんのご飯からしか得られないモノがある…」
『うんうん』
「何も変なことしてないよ…?」
彼女達をボクの部屋に入れている関係か、段々と皆の私物が増えていっている。気付けばボクの部屋は可愛らしい小物やクッションが場所を占めるようになっているのだった。
「今日こんなのがあったから、清隆くんの部屋に置くねー」
「えっ?うん」
『似合うなぁ…』
昼は皆で集まって学食に行くのが定番になっている。そこで色々おしゃべりするのが思いの外楽しい。しかし———
「今日は清隆くんにどんな服着せる?」
「昨日はガーリーな感じでしたから、今日はゴスロリとかどうでしょう?」
『良いね!』
「ボクの意思は…?」
大抵はボクの女装の話題が多い。もちろん皆もオシャレするのだが、何故か全員ボクに女装させることに情熱を割いてるらしく、夕方はケヤキモールで1日に何回も女装させられるのだった。
『きゃー!可愛いー!』
「はぁ…」
もうボクは諦めた。皆が喜ぶのなら良いか、という精神にあり、もはや悟りの境地に至っている。
「あれって噂の綾小路くんよね…?」
「可愛い…女の子みたい…」
「噂だともうファンクラブまであるみたいよ」
「嘘!?教えて教えて!」
ギャラリーの声の中で気になる発言が聞こえた気がしたが…それどころでは無い。ちなみに女装用の服は何故か皆が払ってくれるので、なんだか申し訳無い気持ちになるが「私達が買ってあげたいの!」と言われるため、何も言わないことにした。
「ふふっ、清隆くんはやっぱり強いですね」
「有栖ちゃんもすごいよ…気を抜いたら負けてしまいそう」
夜は有栖ちゃんと様々なジャンルで勝負をしている。有栖ちゃんとだけでなく、最近は帆波ちゃんや桔梗ちゃんとも何かしらのかたちで遊んでいる。特にチェスには帆波ちゃんと桔梗ちゃんも興味を示したのか、4人で指し合っていることもある。これがボクの…ボク達の日常。こんな日々が一生続けば良い、そう思っていたが、そんなことは無いということだけは頭の奥底で理解していた。
更に数日が経ち、授業中の教室の喧騒もすっかり日常になってしまっていた。さすがにこの状況はマズい、そう思ったボクは準備時間中に桔梗ちゃんと洋介くん(彼から名前で呼んで欲しいと言われた)に声をかけることにした。
「桔梗ちゃん、洋介くん、ちょっと良いかな?」
「清隆くん?」
「どうかしたかな?」
ボクは他の生徒も聞こえるような声量で相談をする。また、アイコンタクトで2人にボクに賛同してほしい、と伝える。
「これはボクの持論なんだけどさ…このまま授業中に騒いでいたら
「どういうことかな、清隆くん?」
「あそこにある監視カメラ、何のためにあるのかな?」
「本当だ!なんで気づかなかったんだろう…」
「それに先生も何故注意しないんだろうね?当たり前のことだから注意しなくてもできて当然、と思われているんじゃないかな?素行不良は減点対象なんじゃないかな?」
「確かに…清隆くんの意見に賛成だよっ!」
ボクだけでなく、桔梗ちゃんと洋介くんの賛同、これがあることで他の生徒にも抑止力となって意味が生まれるのだ。
「皆も聞いていたと思うけど…これ以上授業中に騒いでいたらPP支給量は減っていくと思う…そもそも茶柱先生は『毎月10万PP支給する』なんて一言も言ってないからね」
『……』
「ボク達のことを信じて、とまでは言わない。けれど、自分たちの行動がどんな結果をもたらすのか、それだけはしっかり考えてほしいな」
『分かったよ!綾小路くん!』
とりあえず、大幅な被害が発生することは防げただろうか。この言葉に賛同した生徒は多かったが、一部の生徒は不満を抱いているのか、文句を言ってきた…。
「所詮ただの憶測だろ?証拠が無いんじゃ何の証明にもなんねぇよ」
「そうだそうだ!」
「可愛いからって何でも許される訳じゃねーんだぞ!」
「これで何も無かったらボクの考えすぎ、ということで謝るよ。その代わり、何かあったら…地獄を見るのはそっちだからね?」
一応釘を刺すが、恐らく無意味だろう…。現に次の授業後も彼らは騒いでいたのだから。
〔2〕
翌日。例の3人組(特に池くんと山内くん)から謎の熱気が溢れていた。
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
「いやぁ、授業が楽しみ過ぎて目が冴えちゃってさぁ」
「なはは!この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ!」
「水泳と言えば、女の子!」
「女の子と言えば!」
「「スク水だよなー!」」
あ…アホだ…。というか気持ちわる…。
「酷い話ね」
ボクの隣の席である堀北さんも彼らにドン引きしているようだ。実はボクはそれなりに堀北さんと交流できており、多少言葉を交わす関係にある。何故か堀北さんは、ボクを見るたびに顔を逸らしているが。
「いくらなんでもキモいね…」
「きよ…綾小路くんは行かないわよね?」
「不愉快極まりないから行かないよ…」
「それなら良いわ。あんなのに関わっていたら貴方が腐るわよ」
「彼らを菌類扱い…?」
そして、水泳の授業になる。ボクは洋介くんの隣のロッカーで着替えることに。服を脱いで水着に着替えるが…。
「清隆くんの体って、なんというか無駄が無いって感じだよね」
「そうかな?ボクは筋肉がある方が羨ましいけど…」
「なんかスベスベしてそうだし…触っても良いかい?」
「やめて?」
男に触られる趣味は無い!という訳で先にプールに到着する。池くんや山内くんが色々騒いでいるが、ボクの予想通りなら———
「
まぁ、大半の女子生徒は見学するよね…。明らかな軽蔑の視線が池くんと山内くんに向けられているのを確認できた。その刹那———
「きーよたーかくんっ!」
「たうわっ!」
突然、スク水状態の桔梗ちゃんに抱きしめられた。柔らかいものが伝わると同時に肌を触られる感覚に襲われる。
「すごーい、清隆くんの体スベスベ〜」
「ちょっ、やめっ…」
「心地良いなぁ〜」
ボクは為すすべ無く桔梗ちゃんに肌をまさぐられる。変な気分になってしまう…。
「やめて…桔梗ちゃん…」
『はうっ!?』
ボクがやめるよう懇願すると、何故か皆が悶絶してしまった。
「よし、授業をはじめ…なんだ、この状況は?」
「ボクにも分かりません…」
体育教師が来たが、ボクにも状況は分かっていないのである。しばらくすると、全員復活した。
「見学者は15人か、随分と多いな…まぁいいだろう。早速だが、準備体操をしたら泳いでもらうぞ」
「あの先生、俺あんまり泳げないんですけど…」
「俺が担当するからには、必ず夏までに泳げるようにしてやる。安心しろ」
「いえ、別に無理して泳げるようにならなくてもいいですよ。どうせ、海になんかいかないんだし」
「そうはいかん。今は苦手でも構わんが克服はさせる。泳げるようになっておけば必ず後で役に立つ。必ず、な」
必ず…ねぇ。海に関わる何かがあるんだろうなぁ…。その後、50m泳ぎをやった後に「5000PPを賭けた水泳対決」を体育教師の下で行うこととなった。
「女子は人数が少ないから6人を2組に分けて1番タイムが速かった奴を優勝にする。男子はタイムが速かった上位5人で決勝をやるぞ」
という訳で女子のレースが始まる。桔梗ちゃんや堀北さんも凄かったが、水泳部に所属している
「頑張ろうね、清隆くん」
「うん、頑張ろう」
女子からの黄色い歓声が聞こえてきた。ボクを応援する声や、洋介くんを応援する声が聞こえる。そしてレースが始まると、ボクは少しギアを上げる。本気ではないものの、少しずつ加速していく。50mを泳ぎ切り、水面から顔を上げる。どうやらボクが1位らしい。
「流石だな綾小路!24秒ジャストだ!」
『おぉー!』
良い感じに調整できた。洋介くんは約2秒遅れでゴールしており「流石だね清隆くん!」と自分のことのように喜んでいた。
「ふふっ、なかなか面白いショーだったね。だが、本番はここからさ。諸君、仲良く見ていたまえ。真の実力者が泳げばどうなるのかを!」
そう言った高円寺くんはハイスピードで泳ぎ切り、体育教師も「23秒22…だと…?」と震えていた。…これは負けられないな。
「高円寺くん、ボクと勝負しない?」
「フェミニンボーイとかい?確かに、君は私の次に速かったからねぇ。退屈はしなさそうだ」
己のプライドを賭けた勝負。決勝戦にてボクと高円寺くんは戦うことになる。決勝戦では洋介くんや須藤くんもいるが、ボクには関係無い。これはボクと高円寺くんの勝負だ。レースが始まり、ボクは最初から80%の力を解放する。高円寺くんはこの状態のボクにも容易に対応できるようだ…ならば、90%!ここまで来ると高円寺くんもかなり本気を出してきた。このボクを維持すれば、僅差で勝てそうだ。そして、ボクと高円寺くんがほぼ同時にゴールする。周りから大きな歓声が起こると同時に、体育教師は絶句していた。
「…あ、綾小路、22秒22…こ、高円寺、22秒32…」
コンマ10秒差。ボクもかなり本気を出した。高円寺くんは身体能力においてボクに比肩し得る実力を有しているらしい…。
「…この私と対等に戦い合える相手がいると思わなかったよ」
「ボクも驚きだよ。全力で戦わないと、ボクは勝てなかっただろうね」
「退屈な学校生活になると思ったが、久しぶりに楽しくなってきたよ。次は必ずリベンジさせてもらう。覚悟しておくことだね、フェミニンボーイ」
ボクと高円寺くんの初勝負はボクの勝ちで終わった。しかし、有栖ちゃんといい高円寺くんといい、勝負好きな人が多いな、この学校は…。
〔3〕
ある日のこと。ボクと桔梗ちゃんはとある人物に相談を受けることになっていた。
「櫛田さん…綾小路くん…今日は、ありがとうございます」
「わざわざありがとうね」
「大丈夫だよ!」
「それで、一体何があったの?
「実は…誰かに尾けられているような気がして…」
「…それって、つまり…」
「はい…ストーカー…だと思います…」
「うわぁ…」
ストーカー。即ち、悪質な人間にずーっと尾けられているということ。
「佐倉さんと長谷部さんはソイツをどうしたい?警察に突き出す?あるいは穏便に済ませる?」
「できることならストーカーをやめさせたい、かな」
「…どうして尾けているのかな、って思いまして…」
「2人共可愛いから、きっとストーカーは諦めないと思うんだよね…」
「「かわっ!?」」
「もう…清隆くんまた女の子口説いてる…」
桔梗ちゃんは何を言っているんだろうか?
「この手の人間は悪質なことが多い。だから懲らしめるべきだとは思うんだ」
「と言っても…どうやって?」
「ボクに任せて」
そう言って、ボクはある連絡先に電話する。3コールしない内に繋がった。
『何か用か?綾小路』
「お久しぶりです、堀北会長。本日は訳あって電話させていただきました」
『手短に頼む』
そう、堀北会長だ。あの日にPPを貰ったときに連絡先が入っていたため、どこかで利用しようと考えていたのである。
「同級生がストーカー被害に苦しめられており、解決のために協力していただけないか、と思いまして」
『今から橘を向かわせる。状況解決に関わるお前の行動を、生徒会長として法と校則に触れない範囲で許可する』
「ありがとうございます」
ボクが感謝を告げたタイミングで会長は電話を切った。
「生徒会長の連絡先を持っているんですか…?」
「まぁ、偶然知り合ってね」
「綾小路くんって面白いね」
「そうかな?」
それから5分もしない内に橘先輩が現れ、佐倉さんと長谷部さんを抱きしめて「大変でしたね…!」と慰めていた。
「橘先輩、わざわざありがとうございます」
「勇気ある行動に感謝します、綾小路くん」
「それで、ボクが考えた作戦なのですが———」
ボクは作戦を提示する。この作戦には全員の協力が必要であり、かなりリスキーな作戦だが…。
「私は…綾小路くんを信じます」
「綾小路くんなら解決出来るって、信じてるから」
「2人共…ありがとう…」
こうして、作戦決行となった。やることはまず、佐倉さんと長谷部さんを2人だけで行動させる。それにより、ストーカーを釣る。次に2人が逃げ場の無い場所に移動することでストーカーを表舞台に引っ張り上げる———
「あ、あのときのカメラ屋さん!」
「や、山内くん!?」
どうやらストーカーの正体は佐倉さんのカメラを売っていた家電量販店の店員と、なんと同級生の山内くんだったようだ…。ボクと桔梗ちゃん、橘先輩は警備員を呼ぶと同時に、証拠映像を撮影する。
「し…雫ちゃんが悪いんだ…俺をこんなに誘惑するから…」
「長谷部の巨乳…長谷部のおっぱい…」
酷いものだ。流石にこのまま彼らを野放しにする訳にいかない。ボクは警備員がすぐに到着することを桔梗ちゃんから確認し、2人に被害が及ばないために立ち塞がる。
「ストーカーのクズ共。それ以上はボクが許さないよ」
「「あぁ!?」」
「君達がやっていることは犯罪だ。大人しく刑務所で反省するんだね」
「「てめぇなんか怖くねぇ!野郎ぶっ殺してやらぁ!」」
2人がかりとは言え、素人がボクに勝てるとでも?ボクは的確に急所を叩き、行動不能に持っていく。そんなタイミングで警備員が現れ、クズ共は連行されていった。
「ふぅ…佐倉さん、長谷部さん、大丈夫かい?」
「「ありがとう、清隆くん!」」
2人はそう言って、ボクを抱きしめる。恐怖に震えていたのか、涙声になっていた。
「大丈夫だよ、愛里ちゃん、波瑠加ちゃん…もう変なのはいなくなったからね…」
「はい…はい…!」
「ありがとう…本当に…!」
その後、家電量販店の店員は解雇かつ刑務所行きに。山内くんはと言うと———
「山内 春樹はストーカー行為により、退学処分の上、少年院行きとなった」
次の日のホームルームにて、茶柱先生からそんな無常な宣告がされたのだった。
「山内さいてー」
「何がしたかったのよ」
「クズすぎるでしょ」
「清隆くん、この写真見てください!」
「愛里が撮ってくれたのよ」
「凄いね!」
一方、愛里ちゃんと波瑠加ちゃんはボクたちのグループの一員となっており、親交を深めることになった。これからも、彼女達を守る。絶対に。
初手、山内退学。
記録は4月第4週(小テスト前)でした。
全国の山内ファンの皆様、お許しください!