シームを自宅まで送り、三人で宿までの道を辿る。
「寂しいか、イーライ」
「別に」
「あんなに熱心に口説かれたことないもんな、わかるわかる」
「恋人アリの余裕かよ」
がしがしの頭を乱暴にかき回してくるオルセンの手を振り払い、厭味を吐いたつもりがどこか嫉妬混じりみたいになってしったことに気づく。途端に気まずい気持ちになってイーライは二人よりも前に出た。
「オルセン、あの子、多分追ってくる気がする」
「そうなるよな、多分」
ウォルスの言葉に、ため息交じりに応じるオルセンに、イーライも小さくため息を吐いた。
「なんか、すげーよな、シームって。なんであんなに真っ直ぐぶつかっていけるんだろう?」
「……お? 気になるか?」
「別に」
オルセンの指摘に気恥ずかしくなって、駆けだそうとしたらウォルスに手を掴まれてしまった。
「イーリ——イーライ!」
「なんだよ?」
「腕、なにこれ、……痣?」
ウォルスの視線の先は、シームが力いっぱい握っていた手首だ。見事に青あざになっていた。
力技すぎる爆弾少女の無茶苦茶さに、思わず苦笑が漏れた。
魔力を操り右手に集め、痣の上にその手をかざす。
クリーム色の光に照らされ、痣がすうっと溶けるように消えていくのを見て、魔力を掻き消した。
「出力多すぎる。ちゃんとコントロールしろ」
「過回復とかないんだから問題ねーだろ」
「練習しろって言ってんだろ、いざってときに困るのはお前なんだから」
まるで母親の小言だ。
本物の母親は随分昔に亡くなっているから、本当のそれを知らないが。
オルセンに向かって舌を出し、イーライは空を仰いだ。
「男の体って、女の体よりも魔力が扱いにくいんだよ。コントロールが数倍ムズイ」
「だから何度も反復練習しろって言ってんだ」
「わかってるって」
頭上で何かがきらっと光ったような気がしてイーライは手を伸ばした。
星のように輝くそれは容易に手の中におさまった。
「……手紙か」
「ああ、……やべえ、ファーだ……」
恐る恐る手を開けば、魔力を帯びた文字が視界に広がる。
イーライの姉からの手紙だった。
近況報告と、ちょっとした小言が並べられただけの短い内容で手紙は終わっていた。
「ちっとも情報がねえな、ファーレイの奴」
「それでも連絡が来るだけマシだろ」
「あいつも族長の自覚が足りないって、長老たちに小言言われてんのに、お前に小言言えるような立場かよ」
オルセンの苦言に似たボヤキは苦笑いで受け流す。
どっちにしろ、イーライがやらなければらないのは、姉への近況報告だ。「ちゃんと手紙は寄越すこと」と小言を書かれてしまったから。
「……ファーレイも、世界のどこかにいるから、きっとどこかで会えるよ」
「……そんなにわかりやすかったのかよ……」
ちょっとだけ久しく会えてない姉に対する感傷めいた感情に浸っていたのはウォルスにはバレバレだったようだ。
気恥ずかしくなって、魔力の文字を振り払うように消して、再びイーライは歩き出す。
「とりあえず、呪いをかけた魔族を探さないとな」
「大丈夫。ちゃんと見つかるよ」
「だといいけどな」