「絶対に諦めないんだから!」
いつもの食卓。
父と母とそして父の弟子数名がずらっと並んだ夕食の時間である。
シームは香ばしく焼けた豚肉の塊にフォークを突き刺して高らかに宣言をした。
「行儀が悪いわよ、シーム」
いつもの朗らかな表情を崩さず母は言いつつも、父がテーブルに落としたパンを拾い上げて軽く払っている。
「……お父さんは反対だ」
母が拾いあげたパンを受け取り、父はきっぱりと言い放った。
シームが何を言ってもその一点張りだ。
「どうして? ちゃんとお父さんに勝ったでしょ!? お父さんに勝てるような人がいたらすぐにでも結婚を認めるって言ってたのお父さんじゃない!?」
「いや、それは、そう、だが、……魔法は反則だろう?」
「道具を使っていいって言ったの、お父さんでしょ?」
「……ま、魔導師というのは、そういう正々堂々を受け入れない輩が多いし、それに……あの若造は……、魔導師のくせに拳を使うとか、なんか、こう、違うだろ? と思わざるをえない、というか……」
「それはお父さんの感想でしょ!」
シームが強く言うと、父はぐっと呻き声を上げて押し黙った。
「いや、でもお嬢! 魔導師ってのはペテン師も多いんですよ」
「そうっす、効果のないお守りも結構いい値段で売りつけたりするんす!」
「イーライはそんな卑劣な真似しないわよ!」
「でも魔導師ってのは、遠くから魔法放ってくるからずるいっていうか……」
「だからそれはあんたたちの感想でしょ!?」
シームの怒鳴り声に、全員が口を閉じた。
和やかだった夕食の場が、急に葬式会場のようになってしまった。が、シームは気にせずに続けた。
「とにかく、私はイーライを追うわ! 絶対にゲットしてみせるんだから! 止めても無駄よ!」
力一杯宣言して、塊肉にかぶりついた。
暗についてくるなと言われたが、諦めるつもりなんてない。
あんな理想の人に出会える奇跡なんてそうそうないのだ。
その理想が女の子であったとしても。
ぞくっと、背筋に寒気が走りイーライはガラス玉を手にしたまま身をすくめた。
「イーライ、どうしたの?」
金具に石をはめ込んでいたウォルスが、手を止めてイーライの顔を覗き込んでくる。
心配そうなその顔を、「いいから作業しろ」と押しのけて、引き続き手の中のガラス玉に魔力を流し込む作業を再開した。
「……もうちょっと抑え気味にしろ、ガラス、割れるぞ」
「わかってる。っくそ、魔力、安定しねえ!」
「一点集中」
オルセンに指摘されて、指ぐらいの太さの魔力の出口を、無理やり押さえつけて髪の毛ぐらいの細さに絞った。
「うう、暴れる、魔力……」
「よしよし、それでいい。そのままキープ」
「ういいい、体の中で魔力が暴れてる~」
「まだ口に出せるだけ余裕だな。どんどん魔力込めてけ」
針金に魔力を流し込みながら、オルセンは床に高く積まれたガラス玉を示した。
今日中に全部終わらせる、と宣言し、朝からずっと作業を繰り返しているが、そろそろ昼食の時間だというのに半分も終わってない。
「慣れりゃ、早くなる」
「こないだは魔力で作った造花づくりで、今日は……なんだっけ?」
「魔よけの
「……そっか」
それならいいや、とイーライは口を閉じって大人しく魔力をこめる作業を続けた。
いわゆる路銀稼ぎの内職である。
魔族退治が生業であるはずなのに、魔族を倒したところで報酬はない。そのため村も豊かとはいえない。
だからこうやって、ちょっとだけ魔力をこめたそれっぽいものを作って契約している雑貨屋に卸す。そうしないと宿すら泊まれない。
「貧乏って……つらいよな」
「しょうがないだろ、魔力しかないんだから」
珍しく弱音じみたことを呟くオルセンに、イーライは励ましの意味で言ってやった。
言ってから全然励ましになっていないことを気づいて、こっそりため息をもらしたのであった。