時は2076年!! 文明の成長がそろそろ止まってきたこの辺りで日本に異変が訪れた!
大昔に伝わる人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、科学で説明できない不可思議な力を持つ、日本で伝承される存在(ネット調べ)……またの名を、妖怪!!
世間では絵空事としか思われていなかった妖怪が、現代に突如として現れた……いや、蘇った!
しかし日本国家は何の対策もしていなかったわけではない、妖怪の存在も想定して秘密裏に『退魔師学校』を裏で創設しており、妖怪との戦争への準備を整えていた。
そしてこれは、退魔師学校の在学生にして見習いの紅院を主軸とした……妖怪達との戦いの記録である!
*
……
「ごめんね、村上くん……こんな夜中、僕の初任務に同行してくれて」
「いいよ別に、俺だって夜は晩飯食べて風呂入る以外に暇だし」
この日、紅院は妖怪を目撃したという事例を聞いて初めての単独任務……正確には一人ではない。
彼は退魔師だが異常現象に対して臆病なところがあり、もう既に空が真っ黒な時間帯というのに無理を言って友人の村上に付き添ってもらうことになった。
村上は霊能力は何も覚えてないただの一般人、紅院は退魔師学校と掛け持ちで普通の高校にも通っており、村上はそんな紅院にとって貴重な普通の友達であった。
どうして退魔師学校の同級生などが付き添ってもらおうとしなかったのか? に関しては紅院の名誉にかけて目にさせてもらうことにする。
そして紅院は村上の方も借りながら……なんとか、いかにも妖怪が出てきそうな場所に出てきた。
「ところで紅院君は何の妖怪を封印しに来たの?」
「かまいたちだよ」
かまいたち……漢字名『鎌鼬』。
ひゅるりとつむじ風が揺れる際に、たまに軽く皮膚を切られたような感触がするという。
それは……風に揺られて人知れず人を斬る、鎌鼬の仕業であると知られている。
妖怪鎌鼬は風に揺られて各地を移動する、もし直近の目撃情報を見逃すことがあれば次なる発見に時を有してしまうだろう。
そのため一刻も早く探索を開始したいところだが、まずは紅院が妖怪の匂いを感じ取り、かまいたちを見つけることが先決である。
「……そこだな」
かまいたちの匂いは退魔師であれば一目瞭然。紅院はすかさず掌を向け、詠唱する。
「妖術……封印!」
そう言った途端、手の平から淡い光が現れて退魔師だけが使える妖術『封印』が発動された。
封印は紅院の予想通りにかまいたちの方に向かい、彼がかまいたちの位置を掴んでいた証拠を残すかのように確かにかまいたちを捉えたのを紅院は感じ取る。
封印とはかまいたちを始めとした妖怪達を完全に倒すことなく無力化させることができ、かつ取り押さえる事のできる技……紅院が最初に学んだ基本中の基本の一つでもある。
そしてこの初任務もとい『封印任務』はかまいたちの捕獲であり、かまいたちを殺せとは言っていないのでその通りに紅院は行動した。
これから紅院は捕らえたかまいたちを運び、それから報告をして家に帰って、何事もなく眠りにつく……これで問題ないはずだった。
「ククク……なるほど、あれが現代でオレ達妖怪と戦うための人間……退魔師というやつか」
「ガキでもあれだけの技が使えるのは大したものだが所詮は下の下の猿よぉ!」
紅院は気付いていない、封印した札に良くない影響が及んでいることを……。
妖怪達は生半可な退魔師の手に及ぶほど簡単な存在ではないことを……。
「なるほど、午前3時から俺に連絡入れてきたのは命の危機と」
村上はとんでもないくらいショートスリーパー向けのモーニングコールにも紅院の為なら応えてくれる。
紅院が言うには昨晩のうちに封印されていた鎌鼬の封印の札が真っ二つに斬られていたという。
可能性としては他に鎌鼬が複数個体いるか、もしくは紅院の霊力が微妙だったか……。
「後者だった場合もう一回取りに行ってもいたちごっこじゃない? 鎌鼬だけに」
「上手いこと言わないで! 封印を突破されるなんて思わなかったらどうすればいいか……」
「じゃあ封印できるくらいに妖怪の方なんとかすればいいんじゃない?」
村上が言うには、妖怪が強すぎて封印しきれないのならそもそも妖怪を封印できるレベルまで弱体化させればいいのではないか? という理屈だ。
もちろん口で言うなら簡単なことだが、妖怪を倒さずそれでいて弱体化という絶妙な加減など退魔師学校の教科書でも相当後ろの方に書いてありそうなものだろう。
しかし村上は封印という手段を取るならこれしかないと考えているので通話しながら鎌鼬を探す紅院に伝える。
「まずはいい感じの相性をつける妖怪とか式神を用意するとか」
「うっ……僕まだ式神とか契約できてないんだよね……」
「じゃあ肉体言語でよくない? 紅院くん喧嘩は強いしかくとうタイプで」
「急に暴力的になった!? というかかくとうタイプって何!?」
「そしたら峰打ちで赤ゲージまで鎌鼬を追い込んで」
「赤ゲージ!?」
「そこからまた封印の札を投げたら3回揺れると思うけどカチッて音が鳴れば封印されて……」
「もしかしなくても村上くん今ゲームしながら僕の話聞いてるよね!?」
……というわけで村上のスマホ越しのダメ出し──もとい助言を受けながら二人で近所の公園へ向かった紅院だったが、時すでに遅し。
現場では既に「かまいたち」が封印を破り去った痕跡(ビニール袋がザックリ裂かれている等)こそあったものの肝心の本体は忽然と姿を消していた。
「いるんだね、俺ももうちょっとしたら合流するから」
スピーカー越しに聞こえる村上の声、声は近いので本当にもうちょっとすれば来てくれるのだろう。
「肉体言語しか武器がないから紅院君はしばらくそれでなんとかしてよ」
「うっ……次こそは! というか本当に暴力に頼らないとダメなの!?」
紅院はポケットからメモ帳を取り出す。ページいっぱいに書き殴られているのは昨夜以降の目撃情報マップだ。
「でも安心して。妖怪の嗅覚センサーは退魔師専用アプリと連動してるから、こいつが反応した地点に行けば高確率で再会できる──」
ぬるりとした違和感、悪寒……そこに人の常識と認識を超えた存在がいる。
退魔師がこれから1日3食のように経験することになる……妖怪の敵意の匂い。
今回は違う、反応を見つけて即封印ではない……この手で、自分の力で……妖怪と戦う。
はっきりいって怖い、それでも日本の未来の為にやらなくてはならない。
「うおおおお覚悟しろ妖怪いいいい!!」
そうして村上は自転車を走らせて、三分くらいかけてダッシュして紅院の所に辿り着いたのだが……。
そこにあったのは妖怪から立ち向かって命を懸けるはずの退魔師が土下座している図だった。
「刃物持った相手に生身で立ち向かえるわけないじゃないか!!」
紅院の叫びは正に人として的を得ている物だった、刃物持った獣とかいう正にリアルでもヤバいそうな代物にパンチキックで応対できるほどの度胸なんて人間にはない。
しかし村上は一応これも想定内だったので肩を持つ。
「えーと……いるの、鎌鼬って」
「ここだ」
村上の問いかけに答えたのは紅院ではなく、聞いたことのない若い男の声。
村上はとっさに振り返り、そこには緑色の髪で鎌を持った高校生の少年のような男がいた。
村上はその鎌を持っており、まさしく妖怪鎌鼬らしさを持っている外見をしているのを見て彼が妖怪だとすぐにわかった、どうやら憑依とかそういうタイプらしい。
「よォ、お前も退魔師か?」
「いやいや一般人。……鎌鼬ってマジで鎌持ってるんだ」
「……」
鎌鼬は村上の言い回しに目を細める。
「オレ様は戦ってもねェガキを相手にするほど落ちぶれちゃいねェんだよ」
鎌鼬はあくまでも自分に歯向かってくる人間にしか興味はないといったような発言をする。
しかしそれがいけなかった、村上は自分よりも鎌鼬に負けないくらいにギラっとした目つきになり、鎌鼬に向かって言い放つ。
「ちょっと質問いいですか?」
「なんだ、こんなしょぼい依代でもその皮膚ぱっくり斬ることくらいは出来るぞ……こいつのツラ、見たことあるような……」
このまま村上の発言を聞いてはいけない気がする、しかしそれで手を出したら妖怪としてプライドが許さない者がある、そのまま話を聞くことにした。
「鎌鼬で斬った際は傷は鋭く深く、時に大量の出血を伴うが痛みは殆どないって聞いたんだけど、麻酔でも塗ってるの?」
「麻酔イ? ……あ、あ~~、この時代の薬剤師が作った痛みを消す薬みてーなやつか、認識としてはそれが近い、斬られた際にギャーギャー叫ばれても困るからな」
「そんな凶器使って斬るのに狙うのは失血死なの?」
一瞬何を言ってるのかと思ったが、鎌鼬はこの間にも苛立ちはなく冷静になっていた。
この重箱の隅を楊枝でほじくるような妖怪への難癖、恐怖感の無さ、そして炎上しているSNSのクソリプのような他人行事。
さっき退魔師が名前を言っていた、間違いない……『村上』だ、最近妖怪たちがしきりに口にしているのを聞いた。
村上には気を付けろと、だが鎌鼬は気に留めることもなかった……自分は、その程度で落ちるタマではないからだ。
鎌鼬の方もヘラヘラと見下すように対話に乗る。
「聞いたことがあるぜ? この時代の人間ってのは俺達の時代の武者がスパスパと刀で体ぶった切ってると思ってんだろ? アレ出来んのは大物中の大物が頃合いがある時だけ、辻斬りにはこっちの方が恐ろしいのよ」
「ああ……首撥ねる妖怪ではないって自認はあるんだ」
「思い出したことがある……村上! 妖怪共が質問責めされて霊気を失いヘナヘナにされたと聞くが俺はそんなヘマはしねぇ、何故なら今回、俺が気に食わないことがあればすぐにこいつを振ることが出来るんだからなあ……」
ここには紅院もいる、ただ刃物を持っているというだけではない……鎌鼬は有名な妖怪として、恐怖を感じさせる人間に絶対的なアドバンテージがあることは、村上を援護しようとしつつも近寄れない彼の姿が物語っているだろう。
鎌鼬はただ風と共に人を斬る……だけでは終わらない。
「俺に斬られた傷に治療法は存在しない……何百年経ってどんなに薬が増えようが関係なく、俺を止めたければお前が何かしらの方法で勝負して勝利するか、退治しなければならないんだなァ!」
そう、その証拠に妖怪鎌鼬を完璧に対抗する薬を作ることは不可能とされてきた。
つまり自分を封印したかと思えば封印できたと思い上がって油断し、逆に油断を突かれてズタズタに切り刻まれた退魔師達を何人も見てきたという自信……これが村上を叩き潰せる唯一の解決策と言いたいのだ、紅院だってあまりにも未熟なのでそのまま野放しにしているだけだ。
「……ふーん、つまりそういう縛りプレイでやってるから今の段階で致命傷に至っていないという訳なのか」
「何だ? 人間は脳みそある割りに危機察知の鈍さはどいつもこいつも変わらないなァ!?」
「そういう意味じゃないけど……あのさ紅院君、実際どうにかなったりしないの? なんか儀式的なアレで綺麗にホイミされるみたいなアレ」
「まあ、話だけならあるにはあるけど……」
その発言を鎌鼬は聞き逃さなかった、ちょっと一振りするだけで村上の右足、太腿近くが切れる……これは冗談にならないマジの殺生行為で紅院も焦る、伝承通り全く痛みを感じない、一瞬の出来事であった。
「面白れぇ! 俺の斬撃を攻略出来る伝送があるなら試してみろ、神頼みか、秘密の調合か、それとも祓いか!?」
「む……村上君!! 足がっ……」
「この程度工場のヒヤリハットみたいなものだから、それより早く対策を教えて」
「えっ、ああ……うん、鎌鼬の傷を治す方法、それは……まず軟膏はある?」
「うん、何かを混ぜるタイプ?」
曰く……鎌鼬は古い歴史、言い方を変えれば暦を蔑ろにした時に罰として現れるという言い伝えもある。
歴史というものに何故か縁があるのも妖怪の不思議なところ……そして本題だが、鎌鼬の傷を防ぐ方法……それは、その古い暦をそのまま素材にすること……なんと、時が過ぎたカレンダーを黒焼きにして軟膏に混ぜると綺麗に塞がるという。
それを聞いて鎌鼬は笑う、なんとも大したこともない話だろうか。
「暦を蔑ろにぃ!? そいつは面白い迷信だなぁ!! 確かにオレ達妖怪がこうして現世に蘇ったのも、人間共が『過去』というものを軽く見てたと考えちまえば当然のこと! そうしてお前の傷と共に悪意は広がっていく! くだらない迷信を信じて血を汚して死ねえ!! 村上!!」
「……っていうのは伝承の一つ!!」
だが、友人の危機に黙って見過ごすほど退魔師は薄情じゃない、村上の発言や行動に調子に乗っている間に紅院は咄嗟に動き出して村上の膝に何かをいれると……あんなに血が出ていたのがあっという間に塞がった、これには鎌鼬も驚きのあまり依代から外れて妖怪の姿となって飛び出してしまう。
「ば……バカな!? お前何しやがった! まさかマジで灰なんかまぶして軟膏に入れただけで……」
「もう一個あるよ鎌鼬の対策! テンの毛が効くと言われてるんだ!」
「紅院君テンの毛って何?」
「えーっと……簡単に言うと、まあイタチみたいな動物」
「つまりそれって」
「アレの抜け毛、ほら僕の部屋で最初封印してたから」
つまりは紅院の封印を破った後に逃げた時の毛をそのまま村上に与えたらそのまま治療になってしまった。
これがマジで効いたことには紅院も驚くところではあるが、実際村上は血が結構出たが怪我としてはもう既に完治レベルまで塞がっていた。
とんでもない治癒力であるが、村上は隙あらば難癖マン、これを見逃すことはなかった。
「それってカマイタチっていうかカマテンじゃん、イタチ科ではあるけど結局鎌持ってるだけの動物だし妖怪としてはインパクト薄くない?」
「ぐふぅ!!」
「傷が塞がらないのは確かにヤバかったけど毛で治っちゃダメじゃない? カレンダー燃やすとってのも意味不明だけど」
「それは俺関係ねえ!!」
「そもそも元を言えば人体を斬るのに鎌って難しくないです? あれって刃物だけど雑草みたいな動かないものを内側から引いて刈るものだから、普通の使い方をしなければそりゃ全然傷つけられないんですけど……なんでナイフイタチとか刀イタチとかになろうとは思わなかったんですか?」
「ぐふぁぁぁぁ!!」
隙を見せるほうが悪い、村上のマジレス&クソリプアタックによって鎌鼬の霊気が粉微塵に吹き飛んでいく……妖怪達の強さの根源は『恐怖』、恐怖と連動する霊気を妖怪を恐れない人間によって言霊を放たれた時……霊気というものは薄れていく。
そしてこの村上という男、全くと言っていいほど妖怪に対して動じない、甘かったのは鎌鼬もまた同じだった。
妖怪達は霊気を力とする、霊気がなくなってしまえば……その妖怪は人間に恐怖してもらう姿を維持できなくなってしまう。
つまりは、さっきまで誰が見てもわかる圧倒的な恐怖だった妖怪鎌鼬の姿が……まるで、可愛い系のイタチが鎌持ってるみたいなファンシーな姿に変えられてしまう程に力を失ってしまう。
「ぐうぅ……うおおおお!!」
鎌鼬はここで紅院への怒りを思い出し、最後の力を使って鎌を村上に向かって投げようとすると……もう、見ていられなかった。
紅院は、村上と鎌鼬の間に入って、攻撃を受ける態勢になるが……刃物を受け止める。
「今なら鎌もオモチャ同然だ! 封印させてもらうよ……鎌鼬!!」
「ぐおおお──ーっ!!」
こうして紅院の札にまた鎌鼬は送り込まれることになる、今度の場合はまた脱出することも出来ないだろう。
紅院は初めての単独任務で、妖怪の封印に成功した……ただし、一歩間違えば村上も危なかったことは反省点。
だが、まだ村上達は知る由もない……今回のような一件はまだ始まりに過ぎなかったこと、村上という恐れ知らずな一般人的な発言により……妖怪達が人間に対する恐怖を忘れさせないように、より警戒して立ち向かうことに、紅院が大きな陰謀に巻き込まれることに……。
このまま何事もなく日常に帰ることを夢見ながら、月明かりに照らされながら、夜が開ける前に帰る。
「村上くん……僕がさ、僕がまだ未熟だったから傷つけることになってしまって」
「別にいいよ痛くもなかったし、傷を塞いでくれたのも紅院君だし」
村上という男は本当に色々とドライだ、過去のことは振り返らないというか終わってしまえばそれでいいというか……それだけ妖怪のことはどうでもよくて、紅院のことは信頼しているというべきか。
「でも俺は紅院君のことほっとけない、俺がいなかったら紅院君はどれだけあいつに傷つけられていたと思うとこのままにしておけない」
「紅院君、退魔師って今どれだけいるの?」
「えっと……僕は退魔師ランキング970位だから……」
「そっか、あと969人も紅院君より上ってことになる人いるんだ」
「なんか……実際口に出してみると己の不甲斐なさに涙が出てきそうだよ」
「泣いてる場合じゃないよ紅院君、だったら夢は大きく成り上がる」
「え?」
「俺と紅院君でこの世の妖怪全て封印する」
紅院ではまだその規模に及ばない、村上は何の修行も受けていないただの一般人。
でも二人なら、二人が揃っていれば出来ないことなどない……友情というものはそういう認識だ。
これは妖怪という物に対して興味が薄く舌勝負だけで霊気を削いでいく村上と、まだ退魔師としては未知数の紅院が。
全ての妖怪達と戦っていく『妖怪バスター』になるまでの物語である。