妖怪バスター村上 〜御三家侵攻編〜   作:黒影時空

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第11話「インキュバスとサキュバス」

 

「それに……例の『高ランク狩り』の事も気になる。」

 

 村上は鋭い目つきで続けた。

 

「あの雷獣や、酒呑組の幹部を襲った謎の存在。高レベルの妖怪ばかりを効率よく狩り、妖気を吸収して消滅させている……。もしこの『高ランク狩り』の背後に『百物語』が絡んでいるとしたら? もしくは『百物語』が収集した膨大な情報を利用して、最高効率で旧・御三家を狙う第三の黒幕を育成しているとしたらどうする?」

 

「そ、それは……」

 

「だからこそ、俺たちは指を咥えて待っているわけにはいかないんだよ、紅院君以外の退魔師のことは俺は知らないけどとてもペース的に間に合わない気がしてならないんだ」

 

 村上はバインダーを固く握りしめた。

 

「敵が情報を武器にするなら、こちら側も独自の『情報網』と『友好的なネットワーク』を構築するしかないんだ。会社で言えば、悪徳投資ファンドによる敵対的買収を防ぐための『持ち合い株』や『ホワイトナイト(友好的買収者)』の確保です。それが、俺の考える『紅院軍』の本当の役割だよ」

 

「持ち合い株……ホワイトナイト……なんか、僕に分かる日本語喋ってくれない?」

 

 紅院は難しいビジネス用語に目を白黒させながらも、村上がどれほど深く、そして真剣に自分たちの『平穏』を守ろうとしているかを理解した、ただし高校生の使う会話じゃない、人間の思考にちょっと追いつけなくなってきた。

 村上は悪意こそないが口こそ悪く、身も蓋もない言い方ばかりするが、常に最悪のシナリオを想定し、紅院が傷つかないように、そして自分たちの日常が壊されないように先手を打とうとしてくれているのだ。

 

「村上君……。君ってやっぱり、すごく頼りになるよ」

 

「買い被らないでよ。俺はただ、自分の平穏な高校生活を脅かす奴らを法と論理とネットワークで社会的に潰したいだけだよ」

 

「言い方は全然ヒーローっぽくないよ!村上くんの将来が不安になってきちゃった!!」

 

 紅院は苦笑しながらも、強く頷いた。

 

「分かったよ。友達はいないけど……僕たちなりに、人間も妖怪も関係なく『信頼できる仲間』を集めていこう! それが僕たちの『紅院軍』だね!」

 

「ええ。まずは第一歩として、天狐さんにはネット上の怪情報のモニタリング(エゴサ)を担当してもらいます。インキュバス店長には接客業で培った人脈から街の情報収集を」

 

「任せなさ〜い♪ アタシの店の女の子たちや常連さんのネットワーク、舐めないでちょうだいねん」

 

「私も頑張ります! パソコンの打ち方から勉強しますね!」

 

 こうして、退魔師学校も酒呑組も関知しない、超・現実主義的な第三勢力『紅院軍』がひっそりと産声を上げた。

 

 ……しかし、インキュバスは指を一本立てて村上を見る。

 

「……ただし、アタシもメイド喫茶の店長という立場もあるオトナとして、Aランク妖怪として……タダで坊や達の手を貸すほどお人好しにはなれないわ」

 

「ええ、俺達も一方的に利用できるほど甘くないとは思っているから……そっちの条件も呑まないといけない」

 

 インキュバスは紅院軍が本当に他の妖怪達と対等に戦えるのか、陣取り合戦に参加できるのか……それを年長者として見極める立場にあるらしい。

 

「アタシの妹……プリンちゃんには話したわね?」

 

「サキュバスのことですね、確かお互いに人間の『ときめき』を餌にしているけど、途中で喧嘩して離れ離れになってかくかくしかじか」

 

「紅院君説明めんどうになったね……はあつまり、お互いに新しい味を欲しくなって模索したと、インキュバスさんはそのやり方でよかったの?」

 

「仮に貴方が毎日ラーメンしか食べれないとしたら、自作してみたくなるじゃない?」

 

「なるほど……」

 

「村上君が納得してる……!?」

 

 ということでインキュバスが手を貸す条件というのが、サキュバスも一緒に紅院軍に率いられるほどの度量と実力があるのかを判断したいという。

 村上は断らなかった、サキュバスを加えること以上に人間界に適応して現状は協力してくれるインキュバスが釣り針から離れることのリスクはあまりにも大きいからだ。

 

「ところでサキュバスの場所と特徴はわかりますか?まあ大方男好きとかそういうのだとは僕もイメージできますけど」

 

「ええ、それで言えば貴方達二人で会いに行った方がいいわね、貴方達の噂は妖怪各地にも広まっているからご丁寧に貴方達カップルに温泉旅館の招待券をアタシに送ってくるレベルよ」

 

「サキュバスさん喧嘩したわりにはお兄さんにそういうことしてくるんだ……」

 

 ということで、村上と紅院は二人きりでサキュバスのところに向かわなくてならない。

 しかし紅院はインキュバスの言い回しに一瞬引っかかるような感覚がした。

 

(……今、カップルっていった?サキュバスは僕が女の子と思ってる?まあメイド喫茶で働いてるってなると普通はそうなるけど……)

 

 

 ……そして一方、別のところにいるサキュバスはというと。

 

「最近は男女からときめきを得るのも飽きてきたけど……こういうのも味があっていいわね」

 

 

「やっぱり今の時代は男同士の付き合いよね!!」

 

 サキュバスは新時代で別方向の絡みに染まっていた。

 

 ——

 

 そして準備ができて、数日後……湯煙たなびく情緒あふれる温泉街。

 

「うわぁ……! すごいね村上君、本当に立派な高級温泉旅館だよ!」

 

 老舗旅館『幻夢の湯』の豪奢な門構えを見上げ、紅院は目を輝かせていた。幼少期から山奥で過酷な退魔修行ばかりさせられていた彼にとって、こうした「温泉旅行」など生まれて初めての経験だった。

 しかし、その隣に立つ村上の表情は、まるで事故現場の現場検証に訪れた鑑識官のように冷ややかだった。

 

「はしゃぐのは早すぎるよ、紅院君。タダより高いものはないんだ。招待券を送りつけてきた相手が店長さんが言うには『男同士の絡みに狂ったサキュバス』である以上、これは慰安旅行ではなく、高度な情報戦でありトラップ満載の罠地獄だと考えるべきだ」

 

「言い方がいちいち物騒だよ村上君! 温泉に来たんだからもう少しリラックスしようよ……まあ確かにちょっと怖いけど!!僕これからどうなるの!?」

 

サキュバスの狙いは明確だ。インキュバス店長の話によれば、彼女は現代の『男同士の友情やイチャつき(いわゆるBL)』から発せられる尊いときめきエネルギーを栄養源にしている。つまり、俺たちがこの旅行中に『うっかりハプニングで急接近する瞬間』を物陰からカメラや妖術で覗き見し、萌え豚のように豚飯を貪るのが奴の目的という。

  

「地の文を用いた表現が酷すぎるよ!? 妖怪とはいえ一応女の子でしょ!?」

 

「酒呑さんや天狐だって女の子だよ。入館する前に防犯意識を高めておかないと、俺たちのプライバシーと尊厳が性癖の犠牲になる」

 

「ああうん……もしかしなくても僕達これまで変な妖怪しか見てないような」

 

(おいクソガキ、オレのこと忘れてるどころか酒呑様と一緒にバカにしてねえか)

 

 紅院の中でキレてる鎌鼬はともかく、村上は鞄から小型の金属探知機と盗撮カメラ発見器を取り出すと、ピピッと電源を入れた。

 

「ちょっと待って、なんでそんなもの学校の鞄に入れてるの!?」

 

「うちの実家が昔『盗聴器発見業者』を騙る詐欺師に引っかかりそうになった時に買い揃えたんだよ。おかげでこの手の光学レンズの反射には敏感なんだ。行くよ、紅院君。サキュバスを仕留め(紅院軍にスカウトし)にいく」

 

「仕留めるって言っちゃったよもう」

 

 紅院はハァと溜め息をつきながら、村上の後を追って旅館の暖簾をくぐった。

 

 

 仲居に案内されて到着した最高級客室。

 部屋に入った瞬間、紅院は「あ……」と声を詰まらせた。

 広々とした畳の部屋の中央には、二枚の布団が隙間なくピッタリと敷かれていたのだ。枕も二つ、仲良く並んでいる。さらにテーブルの上には『夫婦・カップル限定! 甘美な特製イチゴ酒』と書かれた瓶がぽつんと置かれていた。

 

「……ねえ、村上君。サキュバスさん、僕のこと絶対に女の子だと思ってるよね? あるいは男子二人って知っててあえてやってるのかな……?」

 

「両方かな。狙いが透け透けすぎて反吐が出るよ」

 

「えっそこまで言う?」

 

「紅院君、創作的な職業してるから忘れかけてると思うけどナマモノで同性を愛に結びつけられるのって俺じゃなくても普通に不快に思うからね?」

 

 村上は一瞬の躊躇もなく、二つの布団のうち片方を持ち上げると、部屋の端っこまでズリズリと引っ張っていった。壁にピッタリとくっつけ、元あった場所から5メートル以上のソーシャルディスタンスを確保する。

 

「よし。これで睡眠時の不要な接触事故(うっかり寝返りで抱きつく等の少女漫画展開)のリスクはゼロになったかな」

 

「素早い手際で夢もチボウもない空間作らないで!?メタ的に仕留めにかかるのは分かるけど僕じゃなかったら泣くよ?」

 

「さらにこの『夫婦限定イチゴ酒』だけど……」

 

 村上は瓶を手に取り、成分表示ラベルをじっと凝視した。

 

「微量の自白剤あるいは微弱な媚薬系妖気が感知される。要するに『酒の勢いで本音を言い合って急接近しちゃいなよ』という安易な演出だ。未成年への飲酒提供および薬物混入のダブルコンボで営業停止ものだよ。証拠として保管しておこう、酒呑さんに呑まれないようにしないと……」

 

 村上はイチゴ酒をジップロックに密封して鞄に放り込んだ。

 

(物陰から水晶玉で部屋を覗いていたサキュバス)

 

(な、何なのあいつ……!? なんで布団引き剥がしてイチゴ酒を証拠保全してんのよ!? 普通は『あれ〜布団が近いね……』とか照れ笑いして気まずい空気から尊い空間が生まれるんでしょ!? ガチのガサ入れに来た警察じゃないんだから!!)

 

 隠れ潜むサキュバスのツッコミも虚しく、第一の仕掛けは完璧に無効化された。

 

(……でも、ああいう強引で無表情なのも唆るぜこれは!)

 

 ただし腐女子は最強、メンタルはやりたい放題。

 

 ◆

 

「ふぅ……色々あったけど、温泉といえばやっぱりお風呂だよね!」

 

 夕方、二人は大浴場へと向かった。

 広々とした露天風呂には誰もいない。サキュバスの仕掛けによって、他のお客が近寄らないよう『貸切状態』の妖術がかけられていた。

 湯船につかった紅院は、「極楽極楽……」と気持ちよさそうに息を吐く。濡れた髪が額に落ち、中性的な顔立ちも手伝って、湯気の中に幻想的な光景が広がっていた。

 

(露天風呂の岩陰に隠れているサキュバス)

 

(ふふふ……来たわね! 貸切の露天風呂、湯煙、二人きり! ここで第二のトラップ……『足が滑ってドジっ子転倒からの押し倒しシチュエーション』を発生させるわ! 床には密かにヌメリが出る妖術を仕込んである……さあ、滑りなさい退魔師!!)

 

(というか体こ〜れどH!!これもうどっちが攻めかわかんねえな!!) 

 

 紅院が「そろそろ上がろうかな」と湯船から立ち上がり、濡れた石畳に足を踏み出した瞬間——!

 

「あっ……!? つるっ!?」

 

 妖術のぬめりに足をすくわれ、紅院の体が大きく体勢を崩した。

 行き先には、ちょうど体を洗うために椅子に座っていた村上がいる!

 このままいけば、濡れた紅院が村上に覆いかぶさる格好で脱衣所の床に二人で崩れ落ちる、王道のハプニング展開——!!

 そして紅院は隙だらけなのでそれがすぐに訪れようとしている。

  

(来たぁぁぁぁ!! てぇてぇハプニング発生ーーーッ!!)」

 

 しかし。

 

「甘いな……」

 

 村上は超人的な反応速度(実家で怪しい訪問販売員にドアを挟まれそうになった時に鍛えた危機管理能力)で、即座に手元にあった洗面器を盾のように突き出した!

 

 ガシッ!!

 

「ぶふぇっ!?」

 

 倒れ込んできた紅院の顔面に、村上の洗面器がジャストフィットで命中。紅院の体は押し返され、見事な受け身を取って床に転がった。

 

「ぎえええ 村上君、普通は受け止めてくれるところで洗面器ガードする!?」

 

「体重50〜60キロの人間が突っ込んできたら骨折や挫傷のリスクがある。物理的な回避行動をとるのは当然だ、それにほら……紅院君これくらいならなんとかなると思ったし」

 

「村上くん僕のことなんだと思ってるの?」

 

 村上は立ち上がると、紅院が滑った床の表面を冷ややかな目で見下ろした。

 

「それにしても……この石畳のヌメリは異常だね。温泉成分による温泉藻の発生か、あるいは清掃業者の怠慢……いや、意図的な油分の塗布だ」

 

 村上はあれから気に入った伊達眼鏡(防水仕様)をクイッと押し上げ、岩陰に向かって朗々と声を張り上げた。

 

「出てきなさい、サキュバスさん。施設管理者としての安全配慮義務違反、および過失傷害の未遂で警察と保健所に通報することも出来るよ」

 

「なんかその……すみませんサキュバスさん、村上くんってこういう人だから……」

 

「……っ!?」

 

 岩陰から、バサバサッと蝙蝠の翼を羽ばたかせて一人の少女が飛び出してきた。

 露出度の高い小悪魔風の衣装に、ツインテール。見た目以外は間違いなくインキュバス店長の双子の妹、サキュバスである。

 彼女は顔を真っ赤にして、村上を指さした。

 

「な、なんなのよアンタはぁぁぁぁッ!!」

  

「……出た、これがサキュバス……店長さんの」

 

 紅院が顔を摩りながら立ち上がる。

 

「出たねじゃないわよ! なによ今のガード!? 目の前にあんな可愛い顔した男の子(?)が全裸で倒れ込んできたら、普通は抱きとめて『大丈夫か……?』って耳元で囁いて、二人で顔を赤らめるのが暗黙の了解でしょうが!! なんで洗面器で顔面ブロックしてんのよ! 萌え殺す気!? 萌えを殺す方の殺す気!?」

 

「暗黙の了解? 冗談じゃない」

 

 村上は腰にタオルを巻きながら、至って真面目な顔で論破を開始した。

 

「第一に、不意の転倒事故において相手を無理に受け止めようとすれば二次災害を招くのが防災の基本です。第二に、俺たちはただの友人であり、そこに性的なニュアンスや『萌え』を持ち込まれる筋合いはありません。第三に……人のプライバシーである入浴シーンを覗き見し、自分の勝手な性癖のダシにする行為は、明確な盗撮および公衆浴場法違反、ならびに精神的ハラスメントです」

 

「ハッ、ハラスメントぉぉ!?」

 

「そうです。あなたがやっていることは『男女の恋愛が見たいから』という理由で街のカップルを尾行して盗撮写真を撮っている迷惑系ユーチューバーと何ら変わりません。妖怪だから許されると思っていますか? 現代のコンプライアンス意識を舐めないでいただきたい」

 

「うぐっ……! め、迷惑系ユーチューバー扱い……!?」

 

 サキュバスは胸を押さえて後ずさった。

 大妖怪の妹であり、人間の精気やときめきを吸う恐ろしい夢魔であるはずの彼女が、ただの高校生のマジレスによってボロクソに論破されている。

 

「う、うるさいわね! 私はサキュバスよ!? 人間にときめきと幻想を与えるのが仕事なの! 最近の人間はドロドロした恋愛ばっかりで純粋な『尊さ』が足りないのよ! だからこうして、最高に尊いシチュエーションを自家発電しようとして……ッ!」

 

「自家発電なら自分の頭の中の二次創作だけでやってください。実在の人間を巻き込むな、あと最後に俺も紅院もそちらの用語で言うノンケです」

 

「ぐはっ……! 正論が突き刺さる……っ!」

 

「ねえ村上くんノンケってなに?」

 

「紅院君は一生知らなくてもいい用語だよ……それでも聞きたいなら店長に話して」

 

 サキュバスが膝をつき、露天風呂の床に手をついた。

 紅院は呆然としながらも、少し哀れみを含んだ目でサキュバスを見つめた。

 

「村上君……相変わらず容赦ないね。でもサキュバスさん、僕たちを襲って精気を吸い尽くそうとしたわけじゃなくて、単に……『尊い光景が見たかっただけ』なんだね……ときめきを餌にして生きていく為に、模索して……」

 

「ええ。害悪のベクトルが暴力ではなく『重度の萌え豚』というだけの話だよ」

 

「萌え豚言うな!!」

 

「まあなんというか、人間としてはいい迷惑だったよなぁ……ということで」

 

 サキュバスが涙目になって叫ぶ。

 村上は溜め息をつき、バインダー……は持っていないので、脱衣所から持ってきた濡れていないタオルで汗を拭いながら言った。

 

「……まあいいでしょう。サキュバスさん、お兄さんのインキュバス店長から伝言を預かっています」

 

「お、お兄ちゃんから……?」

 

「ええ。『いつまでも他人の恋愛を覗き見して自滅してないで、ちゃんと社会に適応しなさい、ちゃんといい餌を用意してあげるから』とのことです。それと……俺たち『紅院軍』への参加要請です」

 

「くいんぐん……? なによそれ」

 

「簡単に言えば、人間と妖怪の共存を目指し、過激派妖怪や現代の詐欺・情報戦に対抗するための第三勢力です。あなたには我が軍の『情報収集およびメンタル撹乱担当』として加入してもらいたい」

 

 サキュバスは呆れ顔で村上を見た。

 

「なんで私がそんな怪しい組織に入らなきゃいけないのよ! 私はお兄ちゃんみたいにお仕事じゃなくて一人で自由気ままに萌えを補給したいの!趣味がいいの!」

 

「断るなら構いませんが」

 

 村上はスマホを取り出し、画面をサキュバスに見せた。

 

「今回の『旅館敷地内への不法侵入』『温泉への油分塗布による営業妨害』『未成年に対する媚薬混入未遂』の件、警察と酒呑組の白沢さんに通報します。白沢さんなら、知恵の全てを存分に活用して大江山の地下労役場に強制送還するでしょうね。あそこは厳つい鬼のオッサンしかいませんよ、男たまんねえだろ?」

 

「ひええっ!? 白沢はダメ! あの人怒るとマジでエグい説教してくるから嫌ぁぁぁっ!!」

 

(僕は時々村上くんが怖い……)

 

「なら選択肢は一つです。紅院軍に入りなさい」

 

 村上はメガネをクイッと光らせ、追い打ちをかけるように「悪魔の囁き(現実的メリット)」を口にした。

 

「……それに、紅院軍に入れば、これから嫌でも様々な妖怪や退魔師、人間たちのドロドロした複雑な人間関係や絆のドラマを特等席で観察できますよ? 当然、合法的にね」

 

「……っ!?」

 

 サキュバスの目がキラーンと輝いた。

 

「特等席……!? 妖怪と退魔師の葛藤……! 友情と裏切り……! 尊いドラマがリアルタイムで見放題ってこと!?」

「盗撮や捏造をしないという規約を守るなら、現場での観察くらいは許可します」

 

「は……入る! 入るわ紅院軍!! お兄ちゃんにも『私もしっかり社会進出決めたから!』って自慢できるし!」

 

 あっさりと落ちた。

 サキュバスは涙を拭い、ガシッと村上の手を(ビジネスライクに)握りしめた。

 

「決まりね! 私の名前はサキュバス……じゃなくて人間界では『サキ』って名乗ってるわ! これからよろしくね、総帥さん!」

 

「総帥は俺じゃなくてそっちのゴリラ退魔師……失礼、紅院君で……あっ」

 

「ゴリラ退魔師?へぇ〜僕のことそんなふうに紹介するんだ、ちょっとこっちに来て」

 

 紅院が湯船の中から村上を引きずり込んでその後の事はサキュバスも口をきゅっとつむんだ。

 やりすぎた。

 

 こうして、二人の温泉旅行(という名のガサ入れ)は、見事に『サキュバスのスカウト成功』という形で幕を閉じたのだった。

 帰った後には紅院の右手は血で染まり、村上はとても慰安してきたとは思えないくらいパンパンになっていた。

 

「なんか最近紅院くん暴力をためらわなくなってきたよねいいことだよ俺は死にそうだけど」

 

「僕だってあまりこういうことに慣れたくないよ、でも村上くんが調子乗ってるのが悪いんだからね……」

 

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