「全軍、戦闘配置!」 AIトラック「百鬼夜行・おもてなし」の装甲が重々しい駆動音を立てて展開し、コンテナ上部から無数の霊波砲塔がせり上がった。だが、太平洋上の濃霧の中から現れたその異形たちの姿に、妖怪学園のトップであるドラゴンすら息を呑んだ。そこに立ち塞がっていたのは、あまりにもおぞましい海外の魑魅魍魎たちであった。 狂気的な笑みを切り刻んだ真っ白な顔で、血塗られたナイフを構えて奇声を上げる白き殺人鬼『ジェフ・ザ・キラー』。無機質な黒いスーツに身を包み、顔のない頭部からおぞましい無数の黒い触手を伸ばす異形の怪人『スレンダーマン』。不気味なシェフの姿をし、ゲーム画面のノイズと共に狂気的な文字列と悪意を振り撒く『ミスター・ミックス』。そして、人間の精神を不可逆的に破壊するおぞましい狂気的な笑顔を貼り付けた狂犬『スマイルドッグ』。 いずれもインターネットの暗部で世界中の人々に恐怖を撒き散らしてきた、Creepypastaの代表格たる野放しの不条理怪異たちである。彼らは「百鬼夜行・おもてなし」の車体を包囲し、現実空間の物理法則を捻じ曲げるようなデジタル・ノイズと狂気の威圧感を解き放っていた。 「う、うわあぁっ!? なんだあいつら……! 雰囲気が日本の妖怪と全然違うぞ! 殺意の塊じゃねえか!何十人くらい殺してそうだぞ!」「スレンダーマンはキルスコアでいえば相当なものとして知られてるくらいだからね、だから俺も警戒してたけど……」 ドラゴンが車内で短足をガタガタと震わせながら叫ぶ。八尺様も帽子の庇を低く抑え、冷や汗を流しながら呟いた。 「おいおい……マジで会話が成立しそうな雰囲気が一ミリもねえな。村上、奴らにいつもの言霊は通用するのか?」 村上は刀の位置を指先で冷ややかに正すと、バインダーをパタンと閉じた。 「文字通りに効かないかと、日本語が通じない以上何を話しても意味がないよ、多国入り混じりだから何語が通用するかも怪しいし…」 「じゃあどうすんだよ!? お前の最大の武器である『身も蓋もないマジレス論破』が使えねえんだぞ!? 説教して戦意喪失させられないなら、手詰まりじゃねえか!」 ドラゴンが絶叫する。だが、村上は微動だにせず、腰に差した妖刀『正大』の柄に静かに手を置いた。その瞳には動揺どころか、冷酷なまでの事務的ロジックが宿っていた。 「勘違いしないでください、ドラゴンさん。言葉による説得やコンプライアンスの指導は、あくまで『対話が可能な相手』に対するコストパフォーマンスの高い解決手段に過ぎません。言語コミュニケーションが不可能な害獣やサイバー攻撃に対して行うべきは、議論ではなく——適切なセキュリティソリューションの物理的行使(武力鎮圧)……俺だって、それくらい想定していたよ、紅院君のそばにいながらね、特にあれくらい倒せないと旧・御三家なんか超えられない!」 村上は胸ポケットからライセンス管理端末を取り出すと、冷徹な声で全軍へ命じた。 「白沢さん、全妖怪へ貸与した『山本五郎左衛門・分散型霊力ダイヤモンドコア』の制限(リミッター)を解除。これより、高火力・高純度霊力による全自動武力排除を開始します」 「了解いたしました! 全員、分散型霊力ダイヤ、フルドライブ!」 白沢が叫ぶと同時に、トラックに乗った千を超える妖怪たちの胸元や装備に埋め込まれた『霊力ダイヤモンド』が一斉に眩い超高純度の霊光を放ち始めた!かつて悪の権化・山本五郎左衛門の遺骨から抽出され、現代技術によってクリーンに標準化された無尽蔵のエネルギーが、妖怪たちの全身を満たしていく。 「“Go to Sleep !!”」 真っ先に襲いかかってきたのは、血塗られたナイフを振りかざした『ジェフ・ザ・キラー』だった。不気味な英語の奇声を上げながらAIトラックのフロントガラスへ飛びかかってくる!だが、村上は言葉の壁など一瞬たりとも気に留めず、正大の柄に霊力を注ぎ込むと、無言のままAIトラックのアーム操作パネルを叩いた。 「言語が通じなくても、運動エネルギーの法則は世界共通です」 ガガァンッ!!「ギャフッ!?」 トラックの側面から高速射出された高密度霊力ダイヤモンドコーティングの油圧バンパーが、ジェフ・ザ・キラーの鼻柱へ完璧なタイミングでフルスイングで叩き込まれた!解剖学的に最も衝撃の伝わりやすい角度で殴打された白き殺人鬼は、悲鳴を上げながら遥か彼方の太平洋へと弾き飛ばされていった。 「うおっ……身も蓋もねえ物理攻撃!!」 ドラゴンが目を見開く中、今度は不気味な笑顔を浮かべた狂犬『スマイルドッグ』が、見る者に悪夢と精神崩壊を引き起こす恐怖の画像呪波を振り撒きながら迫る! 「ポッポッポ……そんな不細工な面の犬、見せられても困るんだよ!」 八尺様が分散型ダイヤで強化された巨大な手で、スマイルドッグの頭上から「モザイク・画像圧縮フィルター」の霊圧を叩きつけた!村上のAIトラックが即座に解像度を極限まで低下させ、画像処理を施したことで、精神を破壊するはずの呪いの画像は、単なる「ピンボケした画質の悪い犬のドット絵」へと成り下がる。「あんたはスレンダーマンと戦えよ!!」「うるせえな!今どき個性ぴったり勝負とか時代遅れなんだよ!」 「キャーン!?」恐怖の概念を剥奪されたスマイルドッグは、ただの野良犬のように八尺様のデコピン一発で海面へと叩き落とされた。 「次はゲームの悪意……『ミスター・ミックス』か!」 画面のノイズと共に、難解な文字列と解読不能なタイピング課題を突きつけ、トラックの制御システムをオーバーフローさせようとするミスター・ミックス。だが、白沢はバインダーを繰りながら、AIトラックの超高速並列処理サーバーを直接霊力ダイヤでオーバークロックさせた。 「一秒間に数億回の処理を行う現代の物流AIに対して、1990年代レベルのレトロゲーム型入力負荷攻撃など、単なる無能なDDOS攻撃に過ぎません、クリア不可バグを利用した怪異?解析も対策済?なら、ゲームそのものを落としましょう」 パツンッ!!AIトラックのファイアウォールがミスター・ミックスの悪意入力を0.001秒で完璧に完走・処理し返し、逆流した超高負荷データによってミスター・ミックスのグラフィックデータ自体が木っ端みじんに処理落ち・クラッシュして消滅した。 「な、なんて手際だ……! 言葉が通じねえなら、各々の個性で相手の攻撃ロジックの脆弱性を技術と火力で力任せに潰してやがる……!」 ドラゴンが戦慄する中、最後に残った『スレンダーマン』が巨大化し、黒い触手を無数に伸ばしながら車体全体を押し潰そうと迫る。ノイズが響き渡り、空間そのものが歪んでいく。だが、村上は妖刀『正大』を静かに抜き放った。刀身に輝くのは、山本五郎左衛門の分散型ダイヤモンドから供給される、圧倒的かつクリーンな神威の輝きである。 「スレンダーマン。君の不気味な高身長も、無顔の恐怖も、曖昧な設定によって設定がブレ続けたパブリックドメインゆえの『耐久性の脆弱さ』を隠すための演出に過ぎない」 村上は一切の容赦なく、超高密度に凝縮された霊力斬撃を水平に振り抜いた。 「ライセンス不明の違法ノイズコンテンツ……ここ正大の力で物理的に差し押さえる」 ズバァァァンッッ!!!一閃。高純度エネルギーの光刃が夜の海を切り裂き、スレンダーマンの巨大な体と無数の触手を、ノイズごと一瞬で両断・消滅させた!静寂が戻る。太平洋の濃霧は吹き飛び、海外の魑魅魍魎たちは一頭も残らず、村上の圧倒的なロジックとダイヤモンドの物理火力によって太平洋の海底へと強制沈没させられていた。 「……カカカ! 言葉が通じぬならダイヤモンドの拳で語るか! 容赦というものが一切ないのう、村上!」 ぬらりひょんがキセルを煙らせながら大笑いする。ドラゴンも半目になりながら呆然と呟いた。 「言葉でマジレスできないからって、技術と火力で身も蓋もない現実(物理)を叩き込むのは無謀だろ……海外の怪異がかわいそうになってきたわ……」「問題ありません。適切なコストと火力で障害(ボトルネック)を排除しただけで……いや、というか皆、俺が来るまで各々そうやって日本を恐怖に陥れてたって忘れてない?皆どれだけ俺に染まってるの……?」 村上は血の付いていない『正大』を鞘に納めると、バインダーのページを淡々とめくった。「これで太平洋上の航路の安全は確保された……AIトラック『おもてなし』、進路を維持し、最高速度でインド本土へ向かう」 『了解。目標:インド本土。これより時速300キロで海上爆走を開始します』 電子音声と共に、金属脚を躍動させたAIトラックが夜の海を突き進む。破道閻魔と「件」が待ち受ける神話の原点・インドへ向け、身も蓋もない暴走企業「大江山ホールディングス」の進撃は止まらない。 しかしここで一旦、外の様子を確認しようとした時だった。 まだ一人……いや、一匹?Creepypastaだろうか、未知の凄まじいオーラを放つ、青いハリネズミのような未知の怪物が、トラックの目の前を遮っている。 このまま押し出そうともしたが、何故か逆に押し返そうな気もしてくる。「I AM GOD」「む、村上……なんかさっきよりやばいのが見えてくるぞ」「旧・御三家に匹敵……いや、それ以上の霊力、いわば海外版旧・御三家といったところか?」「感心してる場合じゃねえだろ!どうすんだよアレ……さっきのやつも通用するか?」「いえ、通用するとか以前に……まだ破道閻魔を控えているのに余計な消耗は……」 妖怪たちが一斉に話しているなかで、村上は冷静にその怪物の目を見ていた。 顔は恐ろしい、瞳は真っ赤で目は黒く染まり、青いハリネズミというなんとなく見た覚えがあるような気の所為すぎるシルエット……それが自分たちの顔を確認している、何かを判別するように。 村上は気付いた。「あいつ日本語通じますよ、俺達の会話を唇の動きで追ってます」「何!?じゃああいつには言霊が効くのか!?」「念の為アプローチだけで」 かくしてトラック越しに村上とその存在の会話が始まる。「日本語通じるようなのでこのまま話します、出来れば日本語で話して欲しいのですが」 村上がそう言うと、青いハリネズミはその言葉を聞き逃さず……しっかりと口を開いた。「日本語……?これでいいのか?オレとしては普段通り話しているのだが……オレは時空語と呼んでいるが」 通じた、まさかのコンタクト成立。 クリーピーパスタと人間の会話が始まろうとしている。「我々はこれからインドに向かう予定なのですが何の為にここに?」「……ああすまない、敵意とかはない、異様な乗り物だったのでな……オレの知り合いが乗っていないか?首が外れて、キツネみたいな頭で、バカみたいなやつで……」「いえ、残念ながら覚えはないです」「そうか、変な話に付き合わせて悪かったな……インドか、そんなものに乗って行くということはそんなに大事なことか?」「ええ……会いに行くんです、友達に」「そうか、それは悪いことをした……大事な友達か?」「はい、これを逃したらもう会えるかも分からない、俺の人生に彩りを与えてくれて、彼が居たから人というものをもう少し信じてみたい、そんな風に感じていました」「それは……確かに大事な友達だな、オレにも覚えが……いや、分からない」「貴方はどうしてその人を探しているんですか」「どうして?……ああ、そうだ、確かにオレはなんで探しているんだ?そもそもオレはそいつと会った事も無いじゃないか……ん?なのにどうしてオレはそいつのことを知っている?大事な人だったのか?それさえも判断できない……」 その存在は悩んでいる、思い詰めているようにも見えるが関心が薄いようにも見える……適当言っているのか、それとも本当に大事なものを忘れてしまったのか、それを部外者である村上達が判断するには材料も少ない。 ただし、その人に関わらない方がいい……下手に元気付けるようなことを言っても騙すことになってしまう。「気をつけたほうがいい、お前がどこの誰かはわならないがこの世界はあまりにもめちゃくちゃになっている、日本人か?誰も気づいてなかったが……世界はだいぶおかしくなってしまったぞ」 それだけ言うと、騒ぎをなるべく起こさないように青い謎の生命体は姿を消していく。 あれは一体何者なのか……?Creepypastaとしても何か未知の力が感じた、まるで別世界から来たような……しかし、今は彼にかまっている場合ではない、インドに向かわなくては……マイクを切って、再びエンジンを起動して世界を超える。 空を見て世界大陸を見渡して一気に見渡そうとしたが……そこにあったのは、人間の常識を超えたものだった。 日本以外の全ての国が、村上の知っているものとははるかに違うものであった。 アメリカ合衆国で少し前にスーパーロボットが開発中という噂は聴いたことがあるのでまだ分かる。 ドラゴンだ、村上の手前にいるようなシロイルカみたいな名前だけドラゴンなものではない、本物の赤いドラゴンや様々な飛竜がファンタジー世界のような火山や孤島で飛んでいる、世界地図を見ても見覚えのない大陸があるのだ。 既存の国もどことなく異変が起きている……日本は2026年辺りから全く海外に目を向けてなかったが……一体、この場所で何があった? まさかこれも、紅甲飴教皇院破道閻魔の……?「おいおいおいおい!! なんだあのアメリカ大陸のあたりで飛んでる真っ赤な巨大龍は!? 首が三つあるぞ!? 俺の『ドラゴン』っていうポジション、完全に上位互換に食われてるじゃねえか!!やべぇ!あんなのが日本に上陸したら俺どうなるの!?水族館行き!?」 トラックの窓から外を覗き込んだドラゴンが、短い腕をバタバタと振らせながら悲鳴を上げた。太平洋の先に広がっていたのは、村上たちが知る学校の地理の教科書とは似ても似つかない、狂った万華鏡のような世界だった。ある大陸では神話級の巨大怪獣と超科学のスーパーロボットが市街地で日常的に殴り合い、またある海域では地図に存在しない浮遊島から未知の魔法陣が空へ投射されている。 日本という島国を一歩踏み出した途端、そこは人類の常識も、日本の伝統的な怪異の文脈すらも遥かに置き去りにした「世界規模の現実崩壊(バグ)」の坩堝と化していた。 「白沢さん、全世界の衛星画像および位置情報のログを再検証してください」 村上は眼鏡のブリッジをカチリと押し上げ、一切の動揺を見せずにバインダーをめくった。 「これは単なる局所的な天変地異や怪異の発生ではありません。世界地図と実際の地理的・生態系データの不一致……言うなれば、世界規模での『現実のパッチ適用失敗』、あるいは複数の異なる世界線が強引に統合(マージ)された痕跡……全部が全部、紅院君や過去の閻魔の仕業ではないだろうね」 「な、なるほど……! ですが村上様、なぜ今まで我々日本の妖怪も、人間たちの現代社会も、これほどの異常事態に一切気づくことができなかったのでしょうか? 2026年以降も、海外との渡航や通信は普通に行われていたはずですが……」 白沢が青ざめた顔でタブレットを操作する。村上は冷ややかに鼻で笑った。 「これは俺の考察になるけど、『件(くだん)』による認知上書きシステムは、今に始まったことではない。奴らは日本国内の全ネットワークおよび霊脈に対し、強固な『ジオブロッキング(地域限定アクセス制限)』をかけていた」 「じ、ジオブロッキング……!?」 「ええ。日本人および日本の妖怪に対して『海外はごく普通の現実的な国々である』という偽の観測データ(ファントム・ログ)を返し続けていた。江戸幕府の鎖国政策も、近代の国境概念も、すべては奴らが『日本の霊的リソースをローカルサーバーに閉じ込め、効率よく管理・回収するための仕様(フィルター)』に過ぎなかったということです。外の世界は最初から、とっくに異常事態が起きていた……俺が生まれる前の日本も地獄みたいな環境だったと聞くよ」 「ハハハ! 幕府の鎖国すら閻魔どものシステム制限だったとはのう! 徳川の将軍様一族も浮かばれんわい!」 ぬらりひょんがキセルから紫煙をくゆらせ、腹を抱えて大笑いする。八尺様も呆れ果てたように白い帽子の庇を直した。 「身も蓋もないな……おれらが『日本の妖怪』としてありがたがられてたのも、単に狭い鳥籠の中に閉じ込められてただけってわけか?あんたら人間も含め」 「ええ。ですが、フィルターが破れた以上、もはや隠蔽は不可能です。……目的地が見えてきましたよ」 「百鬼夜行・おもてなし」の複眼カメラが、雲海を抜けた先に広がる巨大な亜大陸を捉えた。 南アジア——神話と混迷の大地、インド。だが、そこに広がっていた景色もまた、村上たちの想像を絶するものだった。古代の神殿を模した超高層ビル群が立ち並び、聖なる大河ガンジスは金色の霊力を湛えて脈打っている。空には数千の腕を持つ神々や異形の聖獣たちの幻影がホログラムのように揺らめき、サイバーパンクと古代神話が異常な高密度で融合した、圧倒的な霊的オーラが大地全体を包み込んでいた……妖怪がこの日はじめて、グローバルになった瞬間である。 ガガガァンッ! AIトラックが凄まじい水しぶきを上げ、アラビア海からインド本土の聖地沿岸へと上陸を果たす。その瞬間、轟音と共に周囲の空間が歪み、現地の霊的防衛システム——無数の腕に光の法具を携えた、エキゾチックな異形のアスラ(修羅)たちがトラックを包囲した。 『止まれ、東洋の異物よ! ここは聖なる起源(オリジン)の霊域! 許可なき異国の怪異の立ち入りは許されぬ!』 雷鳴のような厳かな神話音声が全方位から響き渡る。いよいよ威厳がなくなったドラゴンですら「ひえっ! 今度は本物の神様系だぞ! マジで怒られる!」と身を縮こまらせた。だが、村上はトラックのハッチを静かに開けると、スーツの襟を正し、ビジネスバッグから厚みのあるプレゼン資料の一束と、眩い光を放つ透明な結晶を取り出した。