妖怪バスター村上 〜御三家侵攻編〜   作:黒影時空

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第9話「退魔師にも妖怪にもいろいろある」

「雷獣とのリベンジマッチ……ですか」

 

 白沢の突拍子もない提案に、村上はいつものように呆れた視線を向けた。

 

「 紅院君のトラウマって『雷獣に負けたこと』よりも、『守るべき人間、不良相手にマウンテンゴリラみたいな物理的暴力を振るってしまった自分への自己嫌悪』ですよ。雷獣と再戦させたところで、暴力という選択肢は自己嫌悪が加速するだけじゃないですか」

 

「ふふ、わかっていませんね村上さん。彼が物理に頼ってしまうのは、肝心の『霊力』が不足しているからに他なりません。十分な霊力さえ引き出せれば、彼は正しき退魔師として霊術で妖怪を打ち倒せるはず……彼の思いも尊重するにしても、鍛えられた肉体を縛るのはあまりにも惜しい。」

 

 白沢は扇子を優雅に広げ、目を細めた。

 

「しかし、現状の彼の霊力では現状我々が見る限り酒呑組のサポートを施しても素の力は雀の涙、高ランク妖怪の相手は不可能……。そこで鍵となるのが、残された最後の『旧・御三家』の出処なのです」

 

「あー……。退魔師学校にあるっていう『山本五郎左衛門』、酒呑童子がサーバー冷やすのに使ってた『源浜岸雪右衛門』に続く、最後の一個ですか」

 

「左様。その最後の御三家に秘められた大いなる妖力と霊的磁場を利用すれば、紅院の奥底に眠る霊力を強制的に限界突破させることができるやもしれません。……もっとも、それがどこにあるかは我々も現在調査中なのですがね、まあ出来れば他の連中より先に見つけたいところで……」

 

「結局見つかってないんじゃないですか……というか結局御三家に頼るしかないんですね、俺も紅院君も……」

 

 村上が身も蓋もないマジレスを交えて苦笑いを浮かべていたちょうどその頃——。

 

 ——

 

 一方、村上と白沢がそんな話し合いをしている裏で、紅院は絶体絶命のピンチ(?)に陥っていた。

 

「ヒャッハー!! あの霊気を奪う論破人間の村上がいない今がチャンスだ!!」

 

「退魔師の小僧! 今日こそ貴様を力技で圧殺し、我ら武闘派妖怪の恐ろしさを骨の髄まで刻み込んでくれるわ!!」

 

 誰も知らない夕暮れの河川敷。バイト帰りの紅院を取り囲んでいたのは、筋肉隆々の巨体を誇る牛鬼や、大木のような腕を持つ狒々など、いかにもランクが高そうで物理攻撃特化型の武闘派妖怪たちであった。彼らは、言葉で精神をへし折ってくる村上がいないこの瞬間を狙い、純粋な『力技による抹殺計画』を実行に移したのだ。

 

「ひぃっ……! どうしよう、今日はバイトもやってて霊符のストックが三枚しかないのに……!」

 

 紅院はリュックを抱きしめ、涙目で後ずさる。

 

「死ねぇぇッ!!」

 

 巨大な棍棒を振り上げた牛鬼が、紅院の頭上めがけて渾身の一撃を振り下ろした。

 轟音とともに、河川敷のコンクリートが粉々に砕け散る。土煙が舞い上がり、妖怪たちは勝利の雄叫びを上げようとした。

 

 しかし。

 

「……やめてくれないかな、もう!!」

 

 土煙の中から現れたのは、無傷の紅院だった。

 否、ただ無傷なだけではない。彼の細腕は、振り下ろされた数百キロの棍棒を『片手で』ガッチリと受け止めていたのだ。

 

「……は?」

 

 牛鬼が間抜けな声を漏らした瞬間、紅院の身体がバネのように弾けた。

 幼少期から人里離れた山奥でやらされてきたマウンテンゴリラじみた地獄の鍛錬。それが生存本能によって無意識に引き出された結果——紅院の足が、牛鬼の巨体をボールのように蹴り飛ばした。

 

「グベァッ!?」

 

 数十メートル先まで吹っ飛び、河川敷の土手にめり込む牛鬼。

 

「なっ、なんだあの物理的パワーは!? 霊力が低いただの人間じゃないのか!?」

 

「ええい、怯むな! 数で押し潰せ!!」

 

 焦った妖怪たちが一斉に飛びかかるが、それは大いなる間違いであった。

 

「 僕だって……退魔師なのに、こんなやり方で……妖怪と戦えたところでどうにもならないいのに……ッ!!」

 

 紅院は怖くて半泣きになりながらも、反射的に狒々の豪腕を背負い投げでアスファルトに叩きつけ、背後から襲いかかってきた妖怪の顔面に美しいフォームの裏拳をめり込ませていく。

 霊術の詠唱も、印を結ぶ暇もない。ただ純粋な『暴力』の連鎖。

 ものの三分後。そこには、全身打撲で泡を吹いて転がる武闘派妖怪たちの山と、「また手を出してしまった……」と頭を抱えてしゃがみ込む紅院の姿があった。

 

 妖怪たちの渾身の『力技による抹殺計画』は、紅院の常軌を逸した『圧倒的な力業』によって、いとも容易く物理的に突破されてしまったのである。

 

 そうして落ち込んでいたところに一つの影が。

 

「あらん?迷える子羊がこんなところに」

 

 その姿を見て満身創痍でも食い下がろうとした妖怪達も血の気が引いて一目散に逃げ出す。

 

「ゲッ!!インキュバスだ!!」

 

「店長?」

 

「何か悩みがあるなら相談に乗るわよン、今のアタシはにゃんにゃんパラダイスの店長、貴方の味方なんだから。」

 

 ——

 

 場面は戻り、白沢と村上。

 

「……というわけで、彼をこれ以上『物理の鬼』にしないためにも、早く霊力を引き出してあげる必要があるのです」

 

「さっきスマホに紅院君から『またやっちゃった……』って泣き顔のスタンプが送られてきましたけど、そういうことですか」

 

 村上はため息をつき、頭を掻いた。

 

「で、その最後の旧・御三家とやらを見つけるにはどうすればいいんですか? 俺も早くこの状況をどうにかして、平穏な高校生活に戻りたいんですけど……」

 

「ところで彼は今どこに?」

 

「バイト先の店長に相談乗ってもらってるんだって、見る?」

 

 村上がスマホ画面を見せてくれた先で、白択さえも冷や汗をかいていた。

 ランクで言えば自分の方が上だが相手が相手なので当然だろう。

 

「こ、こいつは……何故インキュバスがいるところに」

 

「俺も猫カフェで働いてるはずだったんだけど……」

 

 ——

 

「いや……まさか退魔師が妖怪に慰めてもらうなんてなぁ」

 

「いいのよ、今のあなたもアタシもそんな立場は関係ないから」

 

 喫茶店、夜の雰囲気が似合う雰囲気の中で注文のケーキと紅茶を楽しむ。

「それであなたが悩んでいるのはどんなことかしらん?」

 

「ぼ、僕は……昔から怖いこととか苦手で……だからこそ皆を守るために退魔師になったんですけど……いつもいつも大妖怪たちを退治しようとすると、無意識に手を出すことを想定しちゃって……さっきなんか、大妖怪と対峙してるはずなのに気づいたらそいつを持ち上げて投げてたり……僕は一体どうすれば……!」

 

「あら、可愛い悩みねぇん♪」

 

インキュバスは妖艶に微笑むと、紅院の肩をポンと叩いた。

 

「いいじゃないの、それで。自分の持ち味を活かすのも立派な戦い方よ」

 

「で、でも……僕は妖怪を祓うのが仕事なんです……暴力で解決しても、何も解決しないですし……」

 

「まあ確かにそうだけど、自分の意志や理性だけじゃ抑え切れない時もあるでしょう?」

 

「うぐっ……」

 

的確な指摘に紅院が口をつむぐ、実際その通りだ。

皆が皆ここにいるインキュバスや白択のように話が通じる相手ではない、これから先に高ランクの妖怪を対峙する時、自分はちゃんとしているのだろうか。

村上は自分が全ての妖怪を封印することを期待している、その力がなければどうするのか。

 

「……でも、アタシもちょっと気持ちは分かるわ」

 

「店長もですか?」

 

「ええ、もう何年も前かしら妹と喧嘩してねぇ……貴方なら妹がどんな存在か覚えがあるでしょう?」

 

「サキュバス……」

 

この世で別次元の存在の人外と聞いて、およそ誰もがイメージできる存在。

それがサキュバス。

 

インキュバスとサキュバスは双子の兄妹、彼らは人間を餌としているが少々勝手が異なる。

全年齢的な例えをすると、夢の中に侵入して『ときめき』を手に入れる。

インキュバスは女の、サキュバスは男のときめきが栄養。

男女ともに『ときめき』を得ることが生きている上で幸せになる為、それは悪いことではない。

けれども欲求不満になった人間にとって夢魔が見せてくれる理想の偶像この世で最高の救いで、そして求め続けるほど依存性がある。

しかしその日々もある時終わりを告げる。

 

簡単なことだ、双子が揃って同じ手段でときめきを手に入れる事に飽きてしまったという。

そこでインキュバスは考えた。

 

「自分からレディ達のときめきを作ってみるのも……面白いんじゃないのかしら?」

 

そうしてインキュバスはメイド喫茶『にゃんにゃんパラダイス』と巡り合い、カワイイを作り出す女たちを参考にしていくうちに前店長とも親しくなり、新しい店長になるまでになったとか。

 

「じゃあ店長さんがそんな風になったのも……」

 

「そっ♪ 妹と違って、アタシは作ることを選んだのよン♪」

 

「……」

「プリンくん、悩むことは恥じゃないわ」

 

「……え?」

 

「ただ、解決方法を間違えちゃダメよン♪ 貴方が暴力を使わない道を探したいなら、まず貴方自身の『好き』と『嫌い』をハッキリさせるべきね」

 

「好きと嫌い……」

 

言われた単語に思考する紅院、脳裏を過ぎる光景は紅院家の家の地下室。薄暗くてひんやりした空気に包まれた部屋。

懐かしい記憶で言えば退魔師を辞めたいと言えば親がよくそこに閉じ込めることもあった、それを思えば紅院はもう考えるまでもなかった。

 

「暴力は……嫌いです。だって、痛いし……怖いから」

 

「ええ、それで良いわン♪ 好きじゃないことをするくらいなら、好きなことを探したほうがずっと楽なんだから」

 

「……あの」

 

「何?」

 

「店長さんの……好きなものは?」

 

一瞬だけインキュバスが言葉を詰まらせて、少し驚いた表情を見せた後にすぐニヤリと笑ってみせる。

 

「アタシの好き……かぁ」

 

目を細めて静かに言った。

 

「今で言うならこの仕事、夢で見るよりもあの子達は鮮明にアタシにときめきを与えてくれる……それから貴方もよプリンくん」

 

「え?」

 

「今のアタシは純粋にこの仕事を楽しんでる。可愛い猫達やお客様にときめきを届けることもね……何よりも大事なのは『自分のやりたいこと』を形にして叶えることなのよん♡」

 

「……ありがとうございます、全ての妖怪が貴方みたいな人だったら良かったのに」

 

——

 

夜になって帰路につく村上と紅院。

 

「……ってことがあって、バイトの店長さんに色々聞いてもらって」

 

「あぁ〜」

 

紅院は自宅まで帰り着くまでに店長さんと色々話したことについて話してくれていた。

今思うに、本当に感謝するのは僕の方だろう。

少なくともこうやって一人で悩むことなく進める、村上さんは本当にすごいんだと思わずにはいられなくて。

 

「店長さんのおかげでさ。やっぱりさ、周りはみんな『退魔師なんだから妖怪と霊術で戦えよ』とか『なんで素手でリンゴ砕けるんだよ』とか言ってくるけど……それでも、村上君みたいに傍にいてくれる人がいるだけで、何があっても進める気がする」

 

「そっか、俺の方もさ……今日はかくかくしかじか」

 

「えっ!?酒吞組が雷獣と僕をリベンジマッチ!?」

 

「だな、今日はもう遅いから明日らしい。とりあえずは飯でも食ってから作戦でも練るか」

 

「うん……」

 

 村上の家に行くと酒呑童子が相変わらずベッドを占領して寝ており、完全に起きる気配がない。

 

「あの酒吞さん、いつまでも人のベッド占領しないで……俺、どうやって寝ようか」

村上が起こそうとするが、やはりビクともしない。

 こうなった時の酒呑はどこまでも寝続けるのかそれとも起こしてくれるのを待っているのか、あるいは添い寝してほしいのか……。

 何にしても起こしてみるが、ここで紅院も白沢が気になっていたのと同じところに気付く

 

「あれ、そういえば村上くんって親はいないの?」

 

「親自体はいるけど巻き込まれたくないからね、今は一旦一人暮らし」

 

「高校生が一人暮らしって……僕が言えたことじゃないけどどうやって暮らしてるの?」

 

「まあ色々とね……それよりこいつをさっさと起こすか」

 

「ん、んん……村上、もう何時になった?」

 

「夜中の20時、そろそろ山に帰ってもらわないと俺が寝れないんですけど」

 

「それはごめん……それでなんで退魔師まで連れてるの?お泊り会?」

 

「え?いや、そんなわけじゃ……」

 

「まあ今日は遅いし実際泊まらせる気だったから」

 

「村上くん!?」

 

「じゃあ私も一緒に泊まる!!」

 

 酒呑童子がこんなことを言い出したのでこの小さなアパートの中でまさかこんな形で川の形に沿って雑魚寝、左にだらしない鬼の王、右にだらしない退魔師。

 真ん中に村上。

 

「明日は休日だから徹夜上等ではあるんだけど、これから紅院君をどうするかって話で……」

 

「旧・御三家の力を頼るのは僕も怖いなぁ……それに雷獣はあれから見てないけど今でも僕が倒せる相手かどうか……」

 

「え?雷獣?そいつだったらもう別の奴が倒したぞ?」

 

「えっ」

 

 酒呑童子は……確かにそう言った、あのきっかけになった妖怪は……もういない。

 

「えっ……倒された……!? あの雷獣が!?」

 

狭いワンルームの真ん中で、布団を引っ張り合った格好のまま紅院が素狂ったような声を上げた。

隣でせんべいをポリポリと齧っていた酒呑童子は、面倒くさそうに缶チューハイのプルタブをカシャリと開ける。

 

「そうだぞ。数日前に大江山の近くで暴れていたようだが、気づいた時には黒コゲ……というか、妖気を根こそぎ吸い上げられて干からびていたらしい。酒呑組の巡回が見つけた時には、ただの毛玉になっていたな」

 

「毛玉……。あんなに強くて、僕が霊符ありったけ使っても傷ひとつ付かなかった高ランク妖怪が……?」

 

ショックを受ける紅院の横で、村上は電気代の請求書をバインダーに挟みながら、心底どうでもよさそうに呟いた。

 

「へー。じゃあ紅院君のリベンジマッチとやらは無効試合で終了ですね。わざわざ怪我するリスクを冒して戦わずに済んだんだから、万々歳じゃないの?」

 

「村上君! 理由はそうかもしれないけど、そういう問題じゃないよ!? フラグぶっ壊れたのもあるえど誰が、どうやってあの雷獣を倒したの!?」

 

「それを語るには、まず今の妖怪界の勢力図を教えてやらねばならんか……」

 

酒呑童子はくわえていたカルパスで村上の顔を指しながら、居丈高に胸を張った。

 

「いいか退魔師、そして村上。現代の妖怪社会には、大きく分けて四大派閥と呼ばれる巨大組織が存在する。……ひとつは、この私が率いる最強にして至高の妖怪軍団『酒呑組』だ、まあ昔馴染みの大江山四天王と白沢以外は多いだけの有象無造だが……」

 

「幹部が業務用のエアコン買いに走ったり、組のサーバーを墓で冷やそうとしたり、白沢さんに詰められて奥さんに怒られたオスライオンみたいな顔になる組織ですよね。統率力で言ったら1くらいじゃないですか?」

 

「うっ……! ふ、不可抗力だ! 組織の自由度が高いと言ってくれ!というかそれ擦らないで!!」

 

村上の一撃で早くもダメージを受けた酒呑童子はゴホンと咳払いをして誤魔化した。

 

「気を取り直して……ふたつ目は、八尺様を頭領とする『二百四拾族(にひゃくよんじゅうぞく)』。奴らは真っ向勝負を信条とする武闘派でな、なぜか現代の暴走族スタイルに傾倒している。特攻服を着てパラリラパラリラと爆音を鳴らしながら、巨大な八尺様が先頭を走る姿は圧巻だぞ」

 

「前も思ったけど八尺様って身長2メートル超えてますよね? バイクのサイズ合わなくないですか? あと暴走族って夜中に騒音撒き散らすただの迷惑集団じゃないですか。今の時代にも暴走族とかいないですよ」

 

「しょうがないだろう封印されてたんだから! そしてみっつ目……これが一番厄介かもしれん。封印前から最古参として君臨し、百年前までは表舞台でやりたい放題悪事を働いていた元祖妖怪集団『百鬼夜行』。名前くらいは聞いたことがあるだろう、率いるのはあの『ぬらりひょん』だ」

 

「ぬらりひょんって、確か勝手に人の家に上がり込んでお茶飲んで煎餅食べるだけのジジイですよね。それただの不法侵入と窃盗です。うちのアパートに来たら即座に住居侵入罪で通報して示談金請求しますよ……あ、酒呑童子入れてる時点で今更か」

 

「お前の現実的攻撃はぬらりひょんの妖怪性までその扱いか!やめろ最近はイケメン化の傾向とある」

 

酒呑童子は頭を抱えつつ、最後のひとつを指折った。

「最後は『百物語』。この組織だけは目的も正体も一切不明だ。各地に張り巡らした情報網で怪情報や都市伝説を回収しているらしいが、戦力規模すら分かっていない」

 

「ゴシップ誌の出版社か裏サイトの管理者ですかね。情報商材とか売ってそうですね、ウチの界隈にもいる一番厄介な相手です」

 

村上の身も蓋もない分類分けにより、数百年の歴史を誇る大妖怪の派閥が一瞬で「学級崩壊」「暴走族」「不法侵入ジジイ」「怪しいネット掲示板」にまで落ちぶれた。紅院は苦笑いするしかない。

 ……ただし見逃さなかった、百物語の話を聞いているときだけ村上の顔が一瞬だけ真剣な眼差しになっていたことを。

しかし、酒呑童子の表情が急に真剣なものへと変わった。

 

「……問題はここからだ。今言った四大派閥や、それ以外の弱小組織も含めて、旧・御三家を巡る奪い合いをしていたんだが……ここ最近、おかしな『現象』が起きている」

 

「おかしな現象……?」

 

「ああ。先ほどの雷獣だけじゃない。退魔師学校が『高ランク』と定めたような、強力な妖力を持つ大妖怪や危険度B〜Aクラスの怪異ばかりが、次々と何者かに討伐されているんだ」

 

紅院がゴクリと息をのむ。

 

「退魔師学校のトップ……上級退魔師、通称『十傑』の先輩たちが動いたのかな?」

 

「いや、退魔師の仕業なら誇らしげに公表するはずだ。だが白沢の話によれば退魔師学園もこの事態に困惑しているらしい。倒された妖怪たちは一様に、まるで存在そのものを吸い尽くされたかのように妖気を失い、消滅している。……まるで、高レベルの妖怪ばかりを狙って『狩り』を行っている奴がいるみたいにな」

 

「高レベルのボスだけを狙う……」

 

村上はポテチの袋を閉じながら、顎に手を当てた。

 

「ふむ……要するに『効率厨のソシャゲゲーマー』か『競合他社を片っ端から極秘裏に買収して市場を独占しようとしてる悪徳コンサルタント』みたいな動きですね」

 

「なんでお前の例えは全部世知辛いんだ」

 

「だってそうでしょう。雑魚妖怪をちまちま倒すより、高ランク妖怪を一匹倒した方が得られるエネルギーだか成果だかが大きいから狙ってるんです。目的は明確ですよ。おそらく、退魔師学校にある『山本五郎左衛門』を手に入れる前に、邪魔な高ランク妖怪という競合他社を排除しておきたいんでしょう……だって退魔師はSランクには現状敵わないってのいうのは散々聞いてきたし」

 

村上の超・現実的な分析に、酒呑童子も紅院も思わず言葉を失った。

言われてみればあまりにも辻褄が合う。無駄な戦いを避け、最高効率で妖怪界のパワーバランスを破壊しようとしている『謎の勢力』が存在するのだ。

 

「……もしそれが本当なら、酒呑さんもいつか危ないんじゃないですか? 日本三大妖怪のSランクなんですから、格好のカモですよ、というか貴方は一回人間に負けてる側の妖怪なんですから」

 

「私が狩られる側だと!? 冗談じゃない!戦国武将じゃあるまいしこの私がこの時代の人間にそう簡単に——」

 

酒呑童子が言いかけたその時だった。

ピロロン♪

静まり返った六畳一間に、能天気な通知音が響き渡った。

村上のスマホ画面に、白沢からのメッセージが表示される。

 

『村上さん、速報です。虎熊童子様より入電。「うちの幹部(口裂け女・車輪入道)が謎の影に襲われて倒された。酒呑組の知恵袋、至急情報を提供されたし」とのこと。どうやら“高ランク狩り”の魔の手は、我々酒呑組にまで伸びてきたようです』

 

「うわぁ……フラグ回収が早い……」

 

紅院が青ざめた顔でスマホを覗き込む。

村上は深々とため息を吐き、頭を抱えた。

 

「はぁ……なんで俺が妖怪の連続通り魔事件の捜査みたいなのに巻き込まれそうになってるの……」

 

「村上君が僕より妖怪に関わってるのが悪いんじゃないかな」

 

「む、村上……! お前、私を見捨てたりしないよな!? 一人にしないでくれ!!」

さっきまでの大鬼の威厳はどこへやら、酒呑童子が怯えた顔で村上の服の裾をぎゅっと掴んでくる。

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