作中トップ10には入るけど一位には届かないみたいな主人公が好きです(告白) 作:無理やがな
評価感想なかったら悲しい。あったら次出す(乞食)
能力バトルものの世界観で、ランク制度というのはほぼ定番装備だ。
SだのAだの、なんならオメガだのEXだのを名乗る作品もある。強さを数字や記号一発で表せるから、読者にも説明しやすいし、作者的にも「とりあえずSって言っとけば強キャラに見える」という便利な記号として機能する。
で、俺が生まれた世界も、ご多分に漏れずそういうランク制度がある。
S、A、B、C、D、E。六段階。分かりやすくて結構。
この街には能力者が約四万人いる。そのうちSランクは全体の0.0何パーセントとか。数にして七人。
その七人の中で、俺、風峰蒼一は序列七位だった。
最下位である。
最下位と言っても、正直言ってS級内で大した差はない。序列というのも、実力というよりかはどれだけ能力の発展に尽くしたか、治安の維持に尽くしたかという点で判断される。
とはいえ、別に俺がS級内最強なんてわけではないんだけど
「風峰くん、今月も七位ですね」
月例の適性再測定の結果表を見ながら、担当官の里見が言った。
「数値自体は伸びてますよ。順位は変わりませんけど」
「地味に傷つく言い方っすね、それ」
「事実を言ってるだけです」
Sランクの中には、単独で戦車をひっくり返せる奴もいれば、街ひとつぶんの気象を書き換えられる奴もいる。ちなみに俺の能力は加速領域。半径五メートルの空間内で、運動速度を最大三倍にする。派手さゼロ。魔法少女的な必殺技ネームすらつけていない。
「今日から風峰くんにも輪番が回ります。第九輪番、担当区域は風峰高架下」
「俺の名前がついてる高架下で、俺が仕事するんですか。なんか露骨な伏線みたいで気になるんですけど」
「偶然ですよ」
「偶然にしては出来すぎな気もしますけど」
「そういうことにしておいてください。以前から異常事象の発生率が高い区域です。対応できる人間が限られているので、お願いします」
「了解でーす」
こうして、俺の輪番生活が始まった。特に感慨もない。
風峰高架下は、街の中でも古い区画だ。
戦後すぐに作られた高架橋の下に、乾物屋と時計修理店とコインランドリーが並んでいる。どの看板も色が褪せている。
輪番の仕事は単純だ。異常事象――能力の暴発、未登録能力者の発現、まれに野良と呼ばれる制御不能の能力者の暴走――が起きたら、初動対応をする。どんな相手だろうと、俺にはそれをこなすくらいの力はある。
…どんな相手でもは盛ったかもしれないけど
その日の異常は、時計修理店の中で起きていた。
「時間が、狂ってるんです」
通報したのは、店主の孫だという中学生くらいの少年だった。
「時計、全部バラバラの時間指してて。おじいちゃんが直そうとしたら、指が動かなくなって」
少年は途中嗚咽を挟みながらも、頑張って情報を伝えてくれていた。
「動かなくなった?」
「はい。時計の針みたいに、止まって」
店に入る。壁一面の古い時計が、それぞれ違う速さで針を進めていた。速いのも、ほとんど止まっているのもある。
店の奥、老人が椅子に座ったまま固まっていた。右手が、掛け時計の針を掴んだ姿勢のまま動かない。
「時間停止系の暴発か。珍しいな」
しかも登録リストに該当者がいない。
「少年。君の名前を教えてくれ」
「え?山田玲ですけど」
「怜くんか。いい名前だね」
突然の問いかけに、怜くんは戸惑っている
「じゃあ怜くん。一度ここから逃げて欲しいんだけど、、、できるかな?」
「え、でも、おじいちゃんが!」
こんな時でもおじいちゃんの心配をしているなんて、親御さんはよっぽど良い教育をしたのだろう。少し羨ましくも感じる
「おじいちゃんのことは、一度僕に任せて欲しいんだ。怜くんが頑張って逃げてくれれば絶対に助けられる。頑張ってくれるかな?」
少しずるい言い方をしているというのは自覚している。
「…うん」
少しの沈黙を挟んだあと、あんまりにもか細い声で返答する怜くんの様子を見て、流石に罪悪感が込み上げてきた。
気まずさを誤魔化すため、さっさと少年を外に出してから、右手を前に出す。
加速領域を展開する。半径五メートル、店の奥半分を覆う球状の空間。この中ではあらゆる運動が三倍になる。加速と停止。相反する能力だからこそ、術式を破壊できるはず。
あくまで理論上は。願望に近い理論だが。
老人の右手が、震えた。
一秒、二秒。三秒。
三秒目で、指が開いた。
「……あ」
老人が椅子からずり落ちる。駆け寄って支える。息はある。脈も正常な速さで動いている。
「大丈夫だ、ただの脱力。……にしても」
壁の時計を見上げる。全部の針が、同じ時刻でぴたりと止まっていた。
「おかしいね。止まったのは、あんたの方が先だと思うけど」
声は、店の奥、誰もいないはずの棚の陰から聞こえた。
出てきたのは、灰色のコートを着た女だった。
年齢不詳。手首から先だけ、妙に白い手袋をしている。ラスボス感の演出うまいな、と場違いなことを思った。
「野良か」
「さあね。分類なんて興味ないし」
女は落ちていた懐中時計を拾い、指先で回した。
「へえ、面白いじゃん、それ。加速領域で停止を押し流してる。教科書には載ってない使い方だ」
「あいにく、型にハマれるほど器用じゃなくてね」
「序列七位だもんね、あんた」
なんでそれを、とは聞かなかった。聞いても答える気がなさそうだったから。
「知りたかったから調べた。それだけだよ」
女は懐中時計をポケットにしまい、外に視線を向けた。
「今日はこれくらいにしとこっか。挨拶のつもりだったから」
「挨拶にしては物騒すぎる気がするけど」
「この街の時計、これから何度か止まるよ。それも全部あんたの区域で」
女はそう言って窓のほうへ歩き、外の光に溶けて消えた。
時計の針は、依然止まったままだった。
☆☆☆
少年が戻ってきて、祖父の無事を確認すると泣き出した。俺はその横で、壁の時計を見たまま動かなかった。
勝てるかどうかと聞かれると、微妙なところだ。負けることはないだろうが、倒し切るのには手がかかりそうだ。
「面倒なことになったな」
誰に言うでもなく、そうつぶやいた。
止まった時計の針は、夕方になっても動かなかった。
☆☆☆
「野良、接触あり。名乗らず。手袋、灰色のコート。懐中時計を所持――」
寮に戻って、端末に打ち込みながら、途中で指を止めた。能力の内容。年齢。所属の有無。分からないことだらけで、報告書の項目が半分近く空欄になった。空欄の多い書類は、後で絶対怒られるやつだ。
里見に画面ごと転送すると、すぐに返信が来た。
「詳細、これだけ?」
「向こうが名乗らなかったんで。分かってるのは、店の時計を全部止めたのと、俺の序列を知ってたことくらいです」
「序列を?」
「序列七位だもんね、って言われました」
少し間があって、里見からもう一件、メッセージが届いた。
「一般公開されてない情報です、それ。序列自体は公開してますが、個人と紐づけてるのは内部データだけですから」
つまり、あの女は管理局のデータにアクセスできる。あるいは、内部に情報源がいる。あんまり嬉しくない可能性だ。
缶コーヒーを開けたところで、今度は端末が鳴った。着信。登録名は氷室透。序列六位。
「珍しいな、お前から電話とか」
「報告書、読んだ」
前置きなし、挨拶なし。氷室はいつもこれだ。
「時間停止の野良。俺の管轄では出てない。だが過去ログを漁った。三年前、同じ手口の未解決案件が二件ある。両方お前の区域だ」
「同一犯か」
「断定はできない。だが、ただの偶然にしては狙いが絞られすぎてる」
「お前の意見は」
「単独で動くな」
それだけ言って、黙った。返事を待っている間が長い。こういう間の置き方をする奴だ。
「……分かった」
「明日、定例で集まる。詳細はそこで話す」
通話が切れる。
缶コーヒーを一口飲んで、壁の時計を見た。自分の部屋の時計は、ちゃんと動いていた。
それだけで、少し楽になった。
定例は、管理局本部の会議室で開かれた。
長机に並んだ椅子は七つ。今日埋まっているのは五つだけだった。
「揃わないもんですね」
「二人は現場対応中。呼べる状況じゃない」
答えたのは氷室だった。電話の声のままの態度で、机の端に座っている。
「珍しいな、揃わないの見るの」
「珍しくもない。序列一位なんてほとんど本部に顔出さない」
正面のスクリーンに、里見が資料を映した。時計修理店の写真、三年前の未解決案件の記録、そして懐中時計の拡大画像。
「まとめます。風峰くんが遭遇した野良は、時間操作系。少なくとも三件、風峰くんの担当区域に集中しています。三年前の二件は被害者が意識不明のまま。今回は軽傷で済みました」
「規模が下がってる、ってことは?」
声を上げたのは、机の一番奥にいた男だった。序列三位、名前は覚えているが呼んだことがない。
「様子見か、あるいは加減してる」
氷室が短く言う。
「加減、ね」
そういえば、そんなことも言っていた気がする。報告書には、女が最後に言った台詞もそのまま書いておいた。俺はそれを読み上げた。
「今日はこれくらいにしとこっか、挨拶のつもりだったから――そう言って消えました」
「その台詞、報告書にあった通りだな」
氷室が資料から目を上げずに言った。
「一言一句合ってるよ」
「だとすれば」
里見が言葉を継いだ。
「向こうは、風峰くんに何かを伝えるために接触した可能性があります。単なる襲撃じゃない」
「伝える、って何を?」
誰も答えなかった。
沈黙の中、序列三位の男がペン回しを止めて、こっちを見た。
「風峰、お前、恨み買うような真似したか」
「してないと思いますけど」
「思いますけど、じゃ困るんだが」
「本当に心当たりないんで」
男はふん、と鼻を鳴らして、それ以上は聞かなかった。
「とりあえず」
里見が資料を閉じる。
「風峰くんの輪番は当面継続。ただし単独対応は禁止です。次に野良の反応があった場合、氷室くんと連携してください」
「俺と、ね」
氷室が初めて、少しだけ表情を動かした。面倒くさそうな顔だった。
「嫌そうだな」
「面倒なだけだ」
それだけ言って、氷室は資料を丸めて席を立った。
会議はそれで終わった。
俺は椅子に座ったまま、スクリーンに残った懐中時計の写真を見ていた。
あの女が、次に何を止めるつもりなのか。今のところ手がかりはゼロだった。
会議室を出たところで、廊下の向こうから足音が近づいてきた。走っている。
「風峰せんぱーい!」
声だけで誰か分かった。解析課の新人、都築ひな乃。
「どうかした?」
「先輩がいたので!」
息を切らしながら追いついてきて、俺の腕を両手で掴んだ。
「聞きましたよ、時計止める女! しかも懐中時計持ってるとか、もう完全に悪役の格好じゃないですか!」
「相変わらずテンション高いな」
「高くないとやってらんないですよ、この職場! みんな暗すぎ! 氷室さんとか会話が全部命令文だし、里見さんは笑うところで笑わないし」
「まあ、否定はしない」
氷室が横で、心底どうでもよさそうな顔をしている。
「だからこそ、ひな乃みたいなやつが隣にいると助かるんだけどな」
これは本音だ。常に氷室みたいなやつといたら俺のメンタルは崩壊してしまうだろう
「…急に褒めないでください」
珍しく静かになったひな乃の顔は、少し赤みがかっていた。怒らせてしまったのだろうか。
「それで、本当に何も要件がないってことはないだろ?何か気づいたことがあったなら教えてくれ」
「あ、そうでした!私、解析課で懐中時計の写真見てたんですけど、あれ骨董品ですよ。造りが古い。今どき機械式の懐中時計、しかもあの精度で動かせるのって、相当な年代物か、相当なコレクターです」
「急に有能なこと言うじゃん」
「急にじゃないです! いつも有能です! 先輩がいつも聞いてないだけです!」
都築はぷくっと頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻った。
「とにかく、暗い顔してる場合じゃないですよ。私が骨董品ルートから調べるんで、先輩は先輩にしかできないことやってください」
「先輩にしかできないこと?」
「危ないとこに突っ込んで、無事に帰ってくることです」
あっけらかんと言われて、返す言葉に詰まった。
「じゃ、また連絡しますね!てかもう送ってるので早く既読つけてください! 氷室さんも、たまには笑ってくださいね!」
言うだけ言って、都築は来たときと同じ勢いで廊下を走っていった。
「……なんか、疲れが取れたような取れてないような」
「元気なだけだ、あいつは」
氷室はそれだけ言うと、資料の束を抱え直して歩き出した。
ひな乃のLINEは、50件くらい通知が溜まっていた。
乞食させて