コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru   作:elimin

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シリアスをぶっ飛ばせるララの発明品って物語上すごく便利な気がする( * . .)"


STAGE 10 影を吹き飛ばす嵐

深夜。

 

結城家の地下に設けられた、ララ専用の研究室。

その一角に、黒い装甲をまとった人型兵器が静かに佇んでいた。

 

蜃気楼。

 

かつて黒の騎士団の指揮官であり、ゼロとして世界を動かしたルルーシュ・ランペルージが操縦していたナイトメアフレーム。その機体は、今ではララの研究室の片隅に格納され、日々メンテナンスと修理を行いながら保管されている。

 

普段は機体の整備や各種システムの確認に使われているが、この世界ではもうひとつの役割ができていた。

 

ルルーシュの寝床である。

 

「……」

 

コクピットの中で、ルルーシュは静かに目を閉じていた。

 

シートを倒し、身体を預ける。機体の内部は狭いものの、彼にとっては慣れ親しんだ空間だった。外部からの視線を遮り、誰にも邪魔されずに過ごせる。何より、ここには自分の過去と結びついたものがある。

 

結城家の自室にベッドがあることは承知している。それでも、彼はこの場所を選んでいた。

 

誰にも踏み込まれない場所。

 

誰にも見られない場所。

 

自分だけの空間。

 

それは、かつて戦場で幾度となく命を懸けた彼にとって、奇妙な安心感をもたらす場所でもあった。

 

やがて、規則正しい寝息がコクピット内に満ちていく。

 

しかし、その眠りは長く続かなかった。

 

     ◇

 

赤い。

 

視界のすべてが、赤く染まっていた。

 

青空の下で燃え上がる炎。立ち込める煙。逃げ惑う人々の悲鳴。耳をつんざく銃声と、地面に倒れ伏す兵士たち。

 

その中心に、ひとりの少女が立っていた。

 

「日本人を……皆殺しにしなきゃ!」

 

ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

ブリタニア帝国の第三皇女。誰よりも平和を願い、誰よりも優しい心を持っていた少女。

彼女は、穏やかな笑顔を浮かべていた。

その手には銃が握られている。

 

「ユフィ……?」

 

ルルーシュは、呆然とその姿を見つめていた。

何かがおかしい。

 

彼女はこんなことを望む人間ではない。日本人とブリタニア人が共に暮らせる世界を作ろうとした。自分の立場も、周囲からの反発も顧みず、行政特区日本という理想を実現しようとした。

 

その彼女が、今、目の前で人々を殺している。

 

「やめろ……!」

 

声が出た。

しかし、ユフィは振り返らない。

 

「やめるんだ、ユフィ!」

 

ルルーシュは走り出そうとした。

 

だが、足が動かない。

 

地面に縫い止められたかのように、身体がまったく動かなかった。

 

「どうして……どうして、こんな…俺のギアスが…!」

 

ユフィが銃を構える。

その先には、逃げ遅れた日本人の少女がいた。

 

「やめろおおおおっ!!」

 

銃声が響いた。

少女の身体が崩れ落ちる。

ルルーシュの脳裏に、あの日の光景が蘇った。

 

自分が冗談交じりに口にした言葉。

 

自分の意思とは無関係に発動したギアス。

 

そして、ユフィの目に浮かんだ困惑と恐怖。

 

「……違う。俺は……!」

 

夢の中で、ルルーシュは必死に否定した。

自分が望んだことではない。

ユフィにこんなことをさせて尊厳をも傷つけるつもりなどなかった。

彼女の理想を利用するつもりも、彼女を殺すつもりもなかった。

だが、どれほど言葉を重ねても、目の前の惨劇は止まらない。

 

ユフィがゆっくりと振り返った。

 

「ルルーシュ……」

 

その顔には、血が飛び散っていた。

 

「どうして……?」

 

彼女の声が、かすかに震える。

 

「どうして、こんなことになったの……?」

 

ルルーシュは答えられなかった。

何も言えなかった。

ユフィは微笑もうとした。

だが、その表情は歪み、やがて苦しげに崩れていく。

 

「私……みんなと、仲良くしたかっただけなのに……」

 

その言葉を最後に、彼女の姿が傾いた。

 

自分の右手から響いた銃声。

 

倒れる身体。

 

赤く染まった地面。

 

そして、静寂。

 

「――っ!」

 

ルルーシュは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗いコクピット。

 

目の前には、蜃気楼の計器類が並んでいる。モニターの淡い光が、無機質な操縦席をぼんやりと照らしていた。

ルルーシュは、しばらく身動きが取れなかった。

 

「……はっ……はっ……」

 

荒い呼吸が、狭い空間に響く。

額には汗が滲み、心臓が激しく脈打っていた。

 

夢だ。

分かっている。

 

今の自分は戦場にいない。ブリタニアの皇子でも、ゼロでもない。あの悲劇から長い時間が経ち、世界はすでに変わっている。そして自分は今はその世界にはいない。

それでも、あの光景は消えなかった。

 

ルルーシュはゆっくりと顔を伏せ、片手で目元を覆った。

 

「……ユフィ……」

 

口からこぼれた名前は、ひどく小さかった。

あの日、自分が何をしたのか。

自分の力がどれほど危険なものだったのか。

その結果、どれだけ多くの人間が傷ついたのか。

 

それらを忘れたことなど、一度もない。

 

ゼロ・レクイエムを成し遂げたからといって、過去が帳消しになるわけではなかった。世界が平和になったとしても、失われた命が戻るわけではない。

 

まして、ユフィの命は。

 

彼女が望んだ未来を、自分自身の手で踏みにじらせてしまったという事実は、今も胸の奥に深く刻まれていた。

 

「……俺は……」

 

言葉が続かない。

自分は、あのとき何をすべきだったのか。

もっと慎重に行動していれば、違う結果になったのだろうか。

ギアスの危険性を理解していながら、なぜあんな言葉を口にしてしまったのか。

考えても答えは出ない。

答えが出ないと分かっていても、考えずにはいられなかった。

ルルーシュは、ゆっくりと背もたれに身体を預けた。

 

目を閉じる。

 

だが、眠気はすっかり消えていた。

コクピットの外は静まり返っている。地上の結城家から物音は聞こえない。家族たちは皆、眠っているのだろう。

 

誰かを起こして話を聞いてもらうという選択肢が、頭をよぎらなかったわけではない。

リトなら、何も聞かずに隣にいてくれるかもしれない。

ララなら、いつもの調子で何かを言って、無理やり笑わせてくれるかもしれない。

ナナもモモも美柑も、きっと心配してくれるだろう。

 

それでも、彼らに話すことはできなかった。

 

こんな時間に起こすことは迷惑だと考えたというのもある。

しかし自分の過去を知れば、彼らはどう思うだろうかという事が大半を占めていた。

かつて世界のほとんどを統べた一国の皇子であり、仮面を被り世界を混乱に陥れ、呪われた力で多くの人間を利用し、最後には世界の憎しみを一身に集めて死んだ男。

 

そんな自分が、何事もなかったように居場所を提供してくれた彼らと食卓を囲み、学校へ通い、くだらない騒動に巻き込まれている。

 

そのことを、どう説明すればいいのか。

そもそも、自分の背負ってきたものを理解してもらう資格が自分にあるのか。

 

「……くだらないな」

 

ルルーシュは自嘲気味に呟いた。

考えたところで、何も変わらない。

そう自分に言い聞かせ、彼は再び目を閉じた。

 

だが、眠りは訪れなかった。

時間だけが、静かに過ぎていく。

 

やがて、地下室の換気設備が作動する音が聞こえ始めた。遠くから、朝の鳥の声がかすかに届く。

 

夜が明けようとしていた。

 

ルルーシュは、結局一睡もできないまま、ゆっくりと身体を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。

 

結城家の食卓には、焼きたてのトーストと目玉焼き、サラダにスープが並んでいた。

 

「おはよう……」

 

ルルーシュが食堂に入ると、すでに美柑が朝食の準備を終えていた。

 

「おはよう、ルルーシュさん。……あれ?」

 

美柑は、彼の顔を見て首を傾げた。

 

「どうしたの? すごく眠そうだけど」

 

「……少し寝不足でな」

 

ルルーシュは平静を装って席に着いた。

 

「昨日、遅くまで何かしてたの?」

 

「いや、特に何も」

 

「そう?」

 

美柑は少し心配そうに彼を見たが、それ以上は尋ねなかった。

 

やがて、リトとララ、ナナとモモも食堂にやってきた。

 

「おはよー!」

 

「おはよう、ララ」

 

リトが席に着き、ララは隣に座る。

 

その後ろから、ナナとモモが並んで入ってきた。

 

「おはよう。……って、どうしたんだよその顔」

 

ナナがルルーシュを見て、眉をひそめる。

 

「そんなに眠そうな顔して、夜更かしでもしたのですか?」

 

「……少しな」

 

「ふーん?」

 

ナナは疑わしそうに目を細めた。

 

「でも、あんたがそんな顔するの、珍しくない?」

 

「そうですね。普段のルルーシュさんなら、多少の寝不足くらいでは表情に出さないと思うのですが」

 

モモも、いつもより慎重な口調で言った。

 

ルルーシュは内心で小さく息を吐いた。

 

観察眼の鋭い姉妹だ。

 

適当に誤魔化すだけでは、余計に疑われるかもしれない。

 

「昨日は少し考え事をしていてな。気づいたら、あまり眠れていなかっただけだ」

 

「考え事?」

 

「大したことじゃない」

 

「本当に?」

 

ナナが身を乗り出す。

 

「何か悩みでもあるなら、言ってみろよ。別に相談くらい乗ってあげてもいいんだから」

 

「……ありがとう。だが、心配はいらない」

 

ルルーシュは微笑んだ。

その笑みは、普段と変わらないように見えた。

 

しかし、美柑は少しだけ気になっていた。

ルルーシュは、誰かに頼ることがあまり得意ではない。普段から落ち着いていて、何事も自分で解決しようとする傾向がある。

だからこそ、こうして眠そうにしている姿を見ると、何か無理をしているのではないかと心配になる。

 

「無理しないでね。今日は授業中に眠くなっちゃうかもしれないし」

 

「……善処する」

 

「それ、絶対に無理する人の返事じゃない?」

 

リトが苦笑した。

ララも、ルルーシュの顔を覗き込む。

 

「ねえ、ルルーシュ。眠いなら、あとで私の発明品で元気にしてあげようか?」

 

「……遠慮しておく」

 

「えー、なんで?」

 

「君の発明品に頼るくらいなら、眠気を我慢する方が安全だ」

 

「ひどーい!」

 

ララが頬を膨らませる。

食卓に小さな笑いが起こった。

ルルーシュも、かすかに口元を緩めた。

だが、その表情は長く続かなかった。

 

目の奥が重い。

昨夜の夢が、まだ頭の片隅にこびりついている。

 

ユフィの声。

銃声。

赤く染まった地面。

 

ルルーシュは、スープを口に運びながら、静かに視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登校時間。

 

結城家を出たルルーシュは、リトとララと並んで歩いていた。

朝の空気は澄んでいて、通学路には制服姿の生徒たちが行き交っている。自転車のベルが鳴り、近くの家からは朝食の匂いが漂っていた。

いつもと変わらない、平穏な朝。

それなのに、ルルーシュの足取りはどこか重かった。

 

「……なあ、ルルーシュ」

 

隣を歩くリトが、ちらりと顔を覗き込む。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「何がだ?」

 

「いや、朝からずっと眠そうだしさ。歩きながら寝ちゃいそうなくらいだぞ」

 

「そこまででは…ないはずだ」

 

「いや、さっき電柱にぶつかりそうになってたじゃん」

 

「……あれは考え事をしていただけだ」

 

「それを眠そうって言うんじゃないの?」

 

ララが楽しそうに笑う。

ルルーシュは軽く眉をひそめた。

 

「君たちは、随分と人の体調を気にするんだな」

 

「そりゃ心配するだろ。友達なんだから」

 

リトは何気なく答えた。

その言葉に、ルルーシュは一瞬だけ目を伏せた。

友達。

何気なく口にされたその言葉が、胸の奥に小さく引っかかる。

自分に、そんな呼び方をされる資格があるのだろうか。

 

そう考えかけて、彼は思考を止めた。

今は、余計なことを考えるべきではない。

 

「……分かった。気をつける」

 

「うん。無理はするなよ」

 

「分かっている」

 

ララは二人の会話を聞きながら、何かを思いついたように顔を輝かせた。

 

「そうだ! ルルーシュが元気になるような発明品、今日こそ作ってあげるね!」

 

「……頼むから、余計なことはしないでくれ」

 

「えー!」

 

リトが苦笑する。

 

「ララ、ほどほどにな」

 

「大丈夫! 今度のは自信作だから!」

 

「その言葉、何回聞いたかな……」

 

ルルーシュは小さくため息をついた。

そのやり取りをしている間だけは、昨夜の悪夢を考えずに済んだ。

だが、学校が近づくにつれて、再び眠気と倦怠感が身体を覆っていく。

彼はそれを悟られないよう、いつも通りの表情を保った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間目。

 

教室には、朝特有の落ち着かない空気が漂っていた。

生徒たちは授業の準備をしながら、昨夜見たテレビ番組や、放課後の予定について話している。

ルルーシュは自分の席に座り、教科書とノートを机の上に並べた。

教師が教室に入ってくる。

 

「それでは授業を始めるぞ」

 

いつもと変わらない授業が始まった。

黒板に書かれる文字。教師の説明。ノートを取る音。

ルルーシュは最初こそ真面目に授業を聞いていたが、次第にまぶたが重くなっていった。

 

(……まずいな)

 

彼は頬杖をつき、意識を保とうとする。

だが、頭がぼんやりして、教師の声が遠くなっていく。

昨夜、ほとんど眠れていない。

当然の結果だった。

 

(……少しだけ……)

 

一瞬だけ目を閉じる。

ほんの数秒。

そう思ったはずだった。

 

「……ルルーシュ?」

 

近くで誰かが呼ぶ声がした。

しかし、返事をすることはできなかった。

彼の頭は、ゆっくりと机の上へ傾いていく。

そして、とうとう額がノートに触れた。

すう……。

 

静かな寝息が漏れた。

 

斜め後ろの席にいたリトが、思わず目を丸くする。

 

(寝ちゃった……)

 

ルルーシュが授業中に居眠りする。

それは、リトにとっても意外な光景だった。

 

普段の彼は、授業中に集中を切らすことがほとんどない。教師の説明を聞きながら、必要な情報だけをノートにまとめ、時には先の内容まで理解しているような顔をしている。

 

そのルルーシュが、今は机に突っ伏して眠っている。

 

「……ふふっ」

 

近くの席から、小さな笑い声が聞こえた。

 

「ルルーシュくん、寝てる……」

 

「珍しいな」

 

「昨日、夜更かしでもしたのかな?」

 

周囲の生徒たちは、面白がるように彼の姿を眺めていた。

その視線に気づいた教師が、黒板から振り返る。

 

「……ランペルージ。おい、起きろ」

 

反応がない。

 

「ランペルージ!」

 

教師が少し声を強めた。

ルルーシュの肩が、ぴくりと動く。

 

「……っ!?」

 

彼は勢いよく顔を上げた。

 

「……はい!」

 

教室中から笑いが起こる。

 

「おお、起きた!」

 

「ルルーシュでも寝るんだな!」

 

「なんか親近感湧いたわ!」

 

教師は呆れたように息を吐いた。

 

「転校してきてから、授業中に寝る姿など見たことがなかったが……。体調が悪いなら、無理をするなよ」

 

「……申し訳ありません。少し、寝不足で」

 

ルルーシュは姿勢を正し、頭を下げた。

 

「なら、今日は早めに休むことだ。授業中に寝ていても、何も身につかんぞ」

 

「……はい」

 

教師は再び黒板に向き直った。

笑い声は、しばらくして収まっていく。

 

隣の席の古手川は隣から小声で尋ねた。

 

「……大丈夫?」

 

「……ああ」

 

ルルーシュは短く答えた。

 

「すまない。授業の邪魔をしてしまったな」

 

「いや、別にそれはいいけど……」

 

古手川は少し困ったように言う。

 

「昨日ちゃんと眠れなかったんでしょう?」

 

「……少しな」

 

「今日は帰ったら、ちゃんと寝なさいよ」

 

「分かっている」

 

そう答えながらも、ルルーシュはノートに視線を落とした。

文字が、少しだけ滲んで見える。

彼はペンを握り直し、授業の内容を書き留めようとした。

だが、心のどこかでは、先ほどの夢の光景がまだ消えていなかった。

 

ユフィ。

 

あの日の自分。

 

そして、取り返しのつかない結果。

 

教室の中では、いつも通りの時間が流れている。

誰もが授業を受け、友人と話し、何気ない日常を過ごしている。

その平穏を守るために、自分は何をしてきたのか。

考え始めると、また胸の奥が重くなった。

 

ルルーシュは、静かに窓の外へ目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも授業が続いて四時間目が終わり、昼休みの時間。

教室は再び賑やかになった。

男子たちは机を寄せて談笑し、女子たちは次の授業の準備をしながら、友人同士で話している。

 

ルルーシュは席に座ったまま、窓の外を眺めていた。

 

眠気は少しだけ薄れていたが、気分が晴れたわけではない。

昨夜の夢を思い出すたびに、胸の奥に鈍い痛みが広がる。

彼は頬杖をつき、ぼんやりと空を見上げた。

 

青い空。

 

白い雲。

 

穏やかな風に揺れる木々。

 

何もかもが平和だった。

その平和が、かつて自分が望んだものだということは分かっている。

それでも、彼自身がその中にいていいのか、まだ答えを見つけられなかった。

 

「……ルルーシュ?」

 

声をかけられ、彼は顔を上げた。

ララが、机の横に立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「……いや、何でもない」

 

「本当に?」

 

ララは首を傾げた。

 

「ずっと元気ないよ?」

 

「寝不足なだけだ」

 

「でも、朝からずっとそうじゃない?」

 

ララは少し考え込むように頬に指を当てた。

 

「うーん……。よし!」

 

突然、彼女は両手を打ち合わせた。

 

「私が元気にしてあげる!」

 

「……何?」

 

ルルーシュが眉をひそめる。ララは得意げに笑った。

 

「実はね、昨日、新しい発明品を完成させたの!」

 

「……また発明品か」

 

「今度のは、すごいんだよ!」

 

「その言葉は聞き飽きた」

 

「えー! そんなこと言わないでよ!」

 

ララは頬を膨らませたものの、すぐに笑顔を取り戻した。

 

「とにかく、これを使えば、どんな人でも一瞬で元気になれるんだから!」

 

「……どういう仕組みだ?」

 

「それはね――」

 

ララが説明を始めようとした、その時だった。

 

「ちょっと、ララさん!」

 

教室の入り口から、古手川唯の声が響いた。

彼女は腕を組み、ララを睨んでいた。

 

「また変な発明品を持ち込んでいるんじゃないでしょうね!?」

 

「えー? 変じゃないよ!」

 

「この前、廊下を水浸しにしたのは誰だったかしら?」

 

「それは……えへへ」

 

「笑って誤魔化さない!」

 

唯は呆れたようにため息をついた。

 

「学校に危険なものを持ち込まないで。何かあったら、どうするつもりなの?」

 

「大丈夫だって! 今回は安全だから!」

 

「その言葉が一番信用できないのよ!」

 

ルルーシュは、二人のやり取りを眺めながら、深く息を吐いた。

 

(……嫌な予感しかしない)

 

彼はララの手元に目を向けた。

小型の装置。中央には丸いレンズのような部品があり、側面には複数のスイッチが並んでいる。

見た目だけなら、それほど危険そうには見えない。

だが、ララの発明品だ。

外見から安全性を判断することはできない。

 

「ララ。念のため聞くが、その装置は何をするものなんだ?」

 

「えっとね、これは――」

 

「説明する前に、使用を中止しなさい!」

 

唯が即座に遮った。

 

「学校で実験なんて許可できないわ!」

 

「えー、ちょっとだけなのに!」

 

「ちょっとだけでも駄目!」

 

ララは困ったように頬を掻いた。

 

「うーん……。でも、ルルーシュを元気にするために作ったんだけどなあ」

 

「……俺のため?」

 

ルルーシュは思わず聞き返した。

 

「うん! ルルーシュ、今日ずっと元気ないから!」

 

その言葉に、彼は一瞬だけ返事を失った。

ララは、いつものように無邪気な笑顔を浮かべている

彼女は深い事情を知らない。昨夜の悪夢も、ユフィのことも、ルルーシュが何を抱えているのかも知らない。

それでも、彼の様子がいつもと違うことには気づいていた。

そして、元気にしてあげたいと思った。

 

その単純な善意が、少しだけ胸に刺さる。

 

「……気持ちはありがたい。だが、無理に元気づける必要はない」

 

「でも……」

 

「俺は大丈夫だ」

 

そう言って、ルルーシュは微笑んだ。

ララは、少しだけ不満そうに唇を尖らせる。

 

「……そっか」

 

その様子を見た唯が、腕を組み直した。

 

「ほら、本人もそう言っているんだから。そんなもの、さっさと片づけなさい」

 

「うーん……」

 

ララは装置を見つめた。

 

そして、何かを思いついたように顔を輝かせる。

 

「そうだ! じゃあ、ちょっとだけ試運転してみよう!」

 

「だから駄目だって言ってるでしょう!?」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

「ララさん!」

 

ルルーシュは立ち上がった。

 

「待て、ララ。説明も済んでいない装置を動かすな!」

 

だが、ララはすでに装置のスイッチへ手を伸ばしていた。

 

「えいっ!」

 

「おい――!」

 

装置が、眩い光を放った。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

突然、教室の中に強い風が吹き荒れたように見えた。しかし風は吹いていなかった。

机の上に置かれていたノートが舞い上がり、椅子が床を滑る。窓際に置かれていたカーテンが大きく膨らみ、生徒たちの悲鳴があちこちから上がった。

 

「な、何だ!?」

 

「うわっ、机が!」

 

「ちょっと、危ない!」

 

唯は反射的に身を屈め、飛んできたプリントを避けた。

 

ルルーシュは装置の光を見つめた。

 

(……やはり、何かがおかしい!)

 

ララの説明はまだ終わっていない。装置の機能も、作用範囲も、制御方法も分からない。

この状況で、最も優先すべきなのは装置を停止させることだ。

 

「ララ! スイッチを切れ!」

 

「えっ、えっと……!」

 

ララは慌てて装置を操作しようとした。

しかし、装置の中央部分がさらに強く光り、教室の空気が歪んだように揺らいだ。

 

次の瞬間、ルルーシュの足が地面から離れた。

 

「なっ――!?」

 

身体が宙に浮く。

重力が一瞬だけ失われたような感覚。

彼は反射的に机の端を掴もうとしたが、指先は空を切った。

 

「うわああっ!」

 

そのまま、勢いよく横方向へ引き寄せられる。

目の前には、ちょうど立ち上がったばかりの唯がいた。

 

「えっ!?」

 

唯が振り返る。

 

だが、避けるには遅すぎた。

 

「きゃあっ!」

 

「うわっ!」

 

二人の身体が、もつれ合うように床へ倒れ込んだ。

ルルーシュは咄嗟に腕を伸ばし、床に手をついた。

衝撃を逃がすための動作だったが、体勢は完全に崩れている。

唯の上に覆いかぶさるような形になり、彼女の身体に触れてしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

一瞬、教室の喧騒が遠のいた。

ルルーシュは、自分の手がどこに触れているのかを理解した瞬間、顔色を変えた

この年齢にしてはかなり豊満で柔らかな胸を、ルルーシュは手のひらで掴んでしまっていた。彼女を押し倒す形で。

 

「……っ!」

 

慌てて手を離し、身体を起こす。

 

「す、すまない! 今のは事故だ!」

 

唯は目を見開いていた。

状況を理解するにつれて、顔がみるみる赤くなっていく。

 

「……なっ……!」

 

「違う! 俺は決して、そのような意図で──」

 

「この……!」

 

バチィン!!

 

乾いた音が、教室中に響き渡った。

ルルーシュの顔が横を向く。

頬に、じんとした痛みが走った。

 

「ハレンチなっ!!」

 

唯は顔を真っ赤にしたまま、勢いよく立ち上がった。

 

「何するのよ、このヘンタイ!」

 

「……っ」

 

ルルーシュは、頬を押さえながら彼女を見た。

言い返す言葉なら、いくらでも思いつく。

自分はわざとやったわけではない。ララの発明品が暴走した結果、不可抗力で倒れ込んだのだ。そもそも、最初に装置の使用を止めようとしたのは自分である。

 

だが、そんな説明をしたところで、唯の怒りが収まるわけではないだろう。

何より、彼女に触れてしまったことは事実だった。

 

「……本当に申し訳ない」

 

ルルーシュは、真剣な表情で頭を下げた。

 

「どんな理由があろうと、君に不快な思いをさせたことは事実だ。言い訳をするつもりはない」

 

唯は、まだ怒りを隠そうとはしなかった。

 

「……分かってるなら、最初から気をつけなさい!」

 

「……ああ」

 

ルルーシュは、それ以上何も言わなかった。

教室のあちこちから、ひそひそと声が聞こえてくる。

 

「おい、今の見たか?」

 

「ルルーシュが古手川にビンタされたぞ……」

 

「いや、完全に事故だろ」

 

「でも、古手川だしなあ……」

 

「……聞こえているぞ」

 

ルルーシュが低い声で呟くと、男子たちは慌てて口を閉じた。

その様子を見ていたリトは、何とも言えない顔をしていた。

 

「……ルルーシュ、大丈夫か?」

 

「……大丈夫に見えるか?」

 

「いや、全然」

 

「なら聞くな……」

 

リトは苦笑した。

その横では、ララが装置を抱えたまま、申し訳なさそうに肩を落としていた。

 

「ご、ごめんね、ルルーシュ……」

 

「……ララ」

 

ルルーシュは、ゆっくりと彼女の方を向いた。

 

「君は、何を作ったんだ?」

 

「えっと……物体の重力の向きを一時的に変える装置……」

 

「……重力のベクトルを操作する?」

 

「うん。移動を補助するための装置なんだけど……」

 

「その説明を先にしろ!!」

 

思わず声が大きくなる。

ララはびくっと肩と黒い尻尾を震わせた。

 

「ご、ごめんね!」

 

ルルーシュは深く息を吐いた。

頬がまだ痛む。

教室は散らかり、クラスメイトたちは自分を見ている。唯はまだ怒っているし、ララの発明品は結局何が起きたのかよく分からない。

そして何より、ほんの少し前まで、自分はユフィのことを考えていた。

 

あの日の惨劇。自分の過ち。決して消えることのない記憶。

それが今では、ララの発明品と古手川の平手打ちによって、頭の中から完全に追い出されていた。

 

(……何をやっているんだ、俺は)

 

ルルーシュは、深いため息をついた。

昨夜の悪夢から始まり、朝食では心配され、登校中にも気を遣われ、授業中には居眠りをし、休み時間には発明品に巻き込まれ、女子生徒に平手打ちを食らう。

これほどまでに散々な一日があるだろうか。

 

「……まったく」

 

彼は机の上に散らばったノートを拾い集めながら、もう一度ため息をついた。

ララが、おずおずと近づいてくる。

 

「……ルルーシュ、本当にごめんね」

 

「……分かった。次からは、せめて説明をしてから使ってくれ」

 

「うん!」

 

「それと、学校で実験をするなら、事前に教師の許可を取ることだ」

 

「はーい!」

 

「……本当に分かっているのか?」

 

「もちろん!」

 

ルルーシュは、疑わしそうに目を細めた。その様子を見ていたリトが、思わず吹き出す。

 

「……ふっ」

 

「何がおかしい?」

 

「いや、ごめん。なんか、いつものルルーシュに戻ったなって思って」

 

「……は?」

 

ルルーシュは眉をひそめた。リトは、少しだけ安心したように笑った。

 

「朝からずっと元気なかったからさ。今はいつも通り怒ってるし、ちょっと安心した」

 

「……君は、随分と失礼なことを言うな」

 

「ははっ、ごめんって」

 

ルルーシュは呆れたように息を吐いた。だが、リトの言葉を否定することはできなかった。

確かに、今は昨夜の夢のことを考えていない。

頬の痛みも、散らかった教室も、ララの発明品も、唯への申し訳なさも、目の前の問題として存在している。

 

それらに対処することだけで、頭がいっぱいだった。そのことが、少しだけ不思議だった。

自分は、過去を忘れたわけではない。

ユフィのことを許されたわけでもない。

それでも、今この瞬間には、別のことを考えている。

 

それだけのことが、妙に新鮮だった。

 

「……さて」

 

ルルーシュは、机の上を片づけ終えると、静かに椅子へ腰を下ろした。

 

「次の授業の準備をするか」

 

「えっ、もう?」

 

リトが驚く。

 

「さっきまで大騒ぎだったのに、切り替え早いな……」

 

「いつまでも騒いでいても仕方がないだろう」

 

「それはそうだけどさ……」

 

ララは、装置を抱えたまま首を傾げた。

 

「ねえ、ルルーシュ。元気になった?」

 

「……少なくとも、眠気は吹き飛んだ」

 

「やったー!」

 

「君の発明品のおかげだとは、到底認めたくないがな」

 

「えーっ!」

 

教室に、再び笑い声が広がった。

唯はまだ不満そうに腕を組んでいたが、ルルーシュがもう一度小さく頭を下げると、少しだけ視線を逸らした。

 

「……次からは、本当に気をつけなさいよ」

 

「ああ。肝に銘じておく」

 

「……ふん」

 

唯はそれだけ言うと、教室の外へ歩いていった。

ルルーシュは、その背中を見送りながら、静かに息を吐いた。

 

今日は、どうにも調子が狂う。

けれど、教室の中には、相変わらず人の声が満ちていた。

笑い声。話し声。椅子を引く音。次の授業を告げる予鈴。

何もかもが、いつも通りだった。

そして、そのいつも通りの中に、自分もいる。

 

ルルーシュは窓の外へ目を向けた。

青い空は、朝と変わらず穏やかだった。

胸の奥に残る痛みは、まだ消えていない。

それでも、今はそれを抱えたまま、次の授業を受けることができそうだった。




過去明かすタイミングどうしよね( * . .)"
なんかいいタイミングで明かせないかなって思うけれども…悩む( ´~`)
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