コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
考えてた時めちゃくちゃ楽しかった( * . .)"
夕暮れも過ぎた結城家には、どこか不穏な匂いが漂っていた。
今日の結城家はナナとモモ、美柑が不在だった。ナナとモモは一緒に珍しい宇宙の動物と植物を探しに地球の外へ、美柑は小学校の友人の家に泊まりに行っている。つまり、ララとリトとルルーシュの三人だけの晩飯だった。
「みんなー! 今日は私が晩ごはんを作ったんだよ!」
キッチンから飛び出してきたララが、両手を広げて満面の笑みを浮かべる。その後ろには、彼女が自信満々に用意した大皿が鎮座していた。
リトは一瞬、息を止めた。
皿の上にあるものを、彼は知っている。いや、正確には、知っているつもりだった。過去に何度も遭遇してきた、ララの独創性が爆発した料理。そのたびに食卓には、料理という概念そのものを疑いたくなるような光景が広がってきた。
今回も例外ではないらしい。
緑とも紫ともつかない色をしたソースが、パスタに絡みついている。ところどころに浮かぶ赤い粒は、トマトなのか、あるいは別の何かなのか判然としない。皿の縁には、なぜか星形に切り抜かれた黄色い野菜が並べられていた。
「……ララ、これ、何?」
「デビルーク式の特製クリームパスタ! 地球のパスタをベースに、宇宙の食材もいっぱい使ってみたの!」
「そ、そっか……」
リトは引きつった笑顔を浮かべた。その向かいで、ルルーシュが腕を組み、料理を観察している。
「宇宙の食材というのは、具体的に何を使ったんだ?」
「えっとね、ネバネバ星人の卵と、爆発キノコの胞子と、あと味が変わる不思議な果実!」
「……最後のものは、どういう効果がある?」
「食べるとね、甘くなったり、辛くなったり、酸っぱくなったりするの!」
「味覚が安定しないということか?」
「うん!」
ルルーシュは眉間にしわを寄せた。
「それを料理に使う合理的な理由は?」
「面白そうだったから!」
「……そうか」
何か言いたげな顔をしながらも、ルルーシュは口を閉じた。
彼はララの奔放さにも、発明品の奇抜さにも、すっかり慣れたつもりでいた。しかし、食事に関してだけは、未だに彼の理解の範疇を超えている。
「それじゃ、いただきまーす!」
ララが元気よく宣言する。
リトはフォークを手に取った。
逃げたい。
心の底からそう思った。
けれど、ララは嬉しそうにこちらを見ている。自分のために作ったと言っていた。彼女が料理を振る舞うときの、あの期待に満ちた顔を、リトは何度も見てきた。
だから、食べる。
少なくとも、彼女が喜んでくれるうちは。
「……いただきます」
パスタを巻き取り、口に運ぶ。
その瞬間、リトの脳裏に、これまでの人生で経験したことのない味覚の暴力が吹き荒れた。
甘い。苦い。辛い。酸っぱい。何かが舌の上で弾けたかと思えば、次の瞬間には妙な痺れが走る。飲み込もうとすると、鼻の奥から謎の香りが抜けていった。
(うわ……!)
顔が引きつりそうになる。
しかし、目の前にはララがいる。
「どう? どう?」
「……うん。えっと……」
リトは、必死に笑顔を作った。
「個性的、かな……」
「ほんと!? やったぁ!」
ララが両手を合わせて喜ぶ。
その様子を見て、リトは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。料理の味はともかく、彼女が喜んでくれた。それなら、もう一口くらいは頑張れる。
そう思って、再びフォークを手に取ったときだった。
「……リト」
ルルーシュが、静かな声で呼びかけた。
「何だ?」
「君は本当に、それを食べ続けるつもりなのか?」
「え?」
「見れば分かる。相当無理をしているだろう」
リトの手が止まる。
ララは不思議そうに二人を見比べた。
「えー? リト、おいしくないの?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「ならば、なおさら問題だな」
ルルーシュは料理を一瞥した。
「ララ。君はリトに喜んでもらうために、これを作ったんだろう?」
「うん! リトにいっぱい食べてもらいたくて!」
「なら、まずは食べる相手のことを考えるべきだ。味の組み合わせも、食材の安全性も、何ひとつ考慮されていない。相手を喜ばせるどころか、苦痛を与えているのなら、目的と手段が完全に逆転している」
「……え?」
「リトが君に気を遣って無理をしていることにも気づいていないのか? 君が喜ぶからという理由で、彼は自分の味覚や体調を犠牲にしている。そんなことをさせて、君は本当に嬉しいのか?」
その言葉は、ひどく冷静だった。
声を荒らげたわけでも、怒鳴ったわけでもない。だからこそ、一つ一つの言葉が妙に明瞭に響く。
ララは、瞬きをした。
「……私、そんなつもりじゃ……」
「つもりの問題ではない。結果として、リトに負担を強いていることは事実だ」
ルルーシュは、そこで一度言葉を切った。
「相手のためだと言いながら、相手がどう感じているのかを考えないのでは、単なる自己満足だろう」
──あ。
リトは、思わずルルーシュを見た。
言っていることは、分かる。分かるのだ。
確かに、ララの料理はとんでもない。自分だって毎回、食べるたびに覚悟を決めている。無理をしていることも、否定できない。
けれど。
「……そっか」
ララの声が、かすかに震えた。
「私、リトのために作ったつもりだったんだけどな……」
いつもの笑顔を浮かべようとしたのだろう。
ララは口角を持ち上げた。
「えへへ……そっかぁ。私、リトに無理させちゃってたんだね」
笑っていた。
確かに、笑っていたはずだった。
なのに、その頬を伝うものがあった。
ぽろり、と一粒。
ララは自分の頬に触れ、そこで初めて涙が流れていることに気づいたようだった。
「あれ……?」
慌てて手の甲で拭う。
「おかしいな。私、別に……」
もう一度、笑おうとする。
「ごめんね、リト。せっかく作ったのに、迷惑かけちゃった」
その言葉の途中で、また涙がこぼれた。
一粒だけではなかった。
拭っても、拭っても、次から次へと溢れてくる。目元をこすり、笑顔を作ろうとするたびに、頬を伝う涙が増えていく。
「……っ、あれ? おかしいなぁ……」
声が少しずつ細くなっていく。
「私、リトに喜んでほしかっただけなのに……」
その言葉を聞いた瞬間、リトは椅子を引いて立ち上がった。
「ララ!」
「ごめんね……! 私、もっとおいしいもの作れると思ってたんだけど……」
「違う、ララ! そうじゃないんだ!」
リトはララのそばへ駆け寄った。
彼女は笑おうとしていた。泣いていることを悟られないように、いつものように明るく振る舞おうとしていた。
けれど、うまくいかない。
口元は笑みの形を保っているのに、目元からは涙が止まらない。何とか笑ってみせようとするほど、その表情が痛々しく歪んでいく。
リトの胸が、ぎゅっと締めつけられた。リトは黙ったままルルーシュの手を掴み、ダイニングルームを出て廊下に出る。二人だけの空間で、話し合い…否、気持ちのぶつけ合いが起きようとしていた。
ダイニングのドアを閉めたリトは、ルルーシュの名前を呼ぶ。
「……ルルーシュっ!」
振り返った声には、明確な怒りがあった。
「あそこまで言わなくてもいいだろ……!」
ルルーシュは、平然とした顔のままわずかに目を見開いた。
「……何?」
「確かにララの料理は、その……すごい味だけどさ! でも、ララは俺に喜んでほしくて作ってくれたんだ!」
リトは、ドアの向こうでガラス越しに見える、涙を手で拭いているララの方へ視線を戻した。
「俺は、それが嬉しかったんだよ」
「リト……」
「だから、食べたいんだ。ララが作ってくれたものを、ちゃんと受け取りたいんだよ」
「だが、君は無理をしているだろう」
「それが何だよ!」
思わず声が大きくなった。
リト自身も驚くほど、強い言葉だった。
だがリトは止まらない。
「俺が無理して食べてるからって、ララの気持ちまで否定していいわけじゃないだろ!」
ルルーシュは黙った。
リトは、拳を握りしめた。
「ララが俺のために料理を作ってくれた。その気持ちは本当なんだ。俺が食べて喜んでほしいって思ってくれたのも、本当なんだよ」
少しだけ、息を吸う。
「……ララの善意まで嘘にしたくないんだ」
その言葉が、静かに落ちた。
ルルーシュは何も返せなかった。
彼の頭の中では、すでにいくつもの反論が組み立てられていた。
善意が本物であることと、その行動が適切であることは別だ。相手を思いやる気持ちがあるからといって、結果として生じた問題を看過する理由にはならない。そもそも、リトが自分の体を犠牲にする必要などない。
どれも間違ってはいない。
だが、それを今ここで口にしたところで、何になる?
ララが泣いている。
その原因を作ったのは、自分だ。
リトを助けようとした。ララにも、これからは相手のことを考えて料理を作るように促したかった。彼女の善意が、結果的に相手を苦しめるものにならないように。
そう考えて行動した。
しかし、実際にはどうだ。
ララは、自分の善意を否定されたと感じている。リトは、自分のために動いたルルーシュを怒っている。
何より、ララは泣きながら、それでも自分に謝っている。
(……俺は、何をしている?)
その問いが、胸の奥に重く沈んだ。
ルルーシュは、これまで何度も自分の判断を正しいと信じてきた。
世界を変えるために必要な犠牲。守るべきもののために切り捨てる選択。結果を出すために、感情を脇へ置くこと。
そのすべてが正しかったとは思わない。だが、少なくとも自分は、選んだことの責任を負う覚悟を持っていた。
そして今も、自分の発言に責任を持つべきだった。
ならば、まずは。
「……ララ」
扉を開け、ダイニングテーブルに戻ってきたルルーシュは、ゆっくりと口を開いた。
ララが涙で濡れた顔を上げる。
「……すまない。言い過ぎた」
「……ううん。私が悪いんだよ」
「いや。君の料理に問題があることと、私が君にどう言葉を向けるべきだったかは、別の話だ」
ララは、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……え?」
ルルーシュは、テーブルの上の皿に目を向けた。そして、空いている椅子を引く。
「……私にも、それを食べさせてくれ」
「えっ?」
リトが目を丸くした。
「お、おい……」
「批評する以上、まずは自分で味を確かめるべきだろう…口もつけずに批評するべきではなかったな」
ルルーシュは、何事もなかったかのようにフォークを手に取った。
もっとも、その内心は決して平静ではなかった。
目の前の料理は、視覚情報だけでも十分に危険だった。先ほどから漂っている匂いは、既に彼の生存本能に警告を発している。
だが、ここで食べずに引き下がるわけにはいかなかった。
自分の言葉でララを傷つけた。
ならば、自分の言葉が正しいかどうかを、少なくとも自分自身で確かめるべきだ。
それが、彼なりの筋の通し方だった。
「……いただきます」
一口。
瞬間、ルルーシュの脳内で警報が鳴り響いた。
(――ッ!)
舌の上に広がるのは、想像を絶する味の奔流だった。
甘味と苦味が互いに主張し、酸味がそれらを蹴散らし、最後に何とも形容しがたい刺激が襲いかかる。喉の奥に何かが引っかかったような感覚があり、胃が反射的に拒絶を示した。
(何だ……これは……!)
吐き気を堪える。
顔に出すな。
ここで顔をしかめれば、ララはまた傷つくかもしれない。
ルルーシュは、全神経を表情の制御に注いだ。
政治的な交渉の場で、敵の思惑を見抜きながら平然と笑ってみせたことは何度もある。どれほど危険な状況でも、冷静さを失わずに振る舞うことには慣れていた。
だが、今の彼にとっては、この一口を飲み込むことの方がよほど難しかった。自身の兄にして最大の強敵だったシュナイゼルとの壮絶な頭脳戦の方がまだマシだったかもしれない。しかし、ルルーシュは咀嚼を続けた。
ごくり。
どうにか喉を通す。
「……なるほど」
ルルーシュは、真顔のまま口を開いた。
「まず、食材の組み合わせに問題がある。特に、爆発キノコの胞子が香辛料と反応しているのか、妙な刺激が生まれている。これは改善すべきだ」
ララは、じっと彼を見つめていた。
「……うん」
「それから、味が変化する果実を加えたことで、味覚の予測ができなくなっている。食べる側にとっては、かなり負担が大きい」
「……そっか」
ルルーシュは、再びパスタを口に運んだ。
(……まだあるのか)
胃が悲鳴を上げている。
しかし、ここで終わるわけにはいかない。
「だが……」
少し優しくなった声色を聞いたララが、わずかに顔を上げた。
「野菜の切り方は丁寧だ。大きさが揃っている。下ごしらえに時間をかけたのだろう?」
「……うん。いっぱい練習したの」
「そうか」
ルルーシュは、ほんの少しだけ目を細めた。
「それに、栄養のある食材を使おうとした発想自体は悪くない。健康を考えて料理を作るという方向性は、評価できる」
「……ほんと?」
「ああ」
その返答には、嘘がなかった。
少なくとも、そこだけは本当に評価していた。
ララの顔に、ほんのわずかに笑みが戻る。
「……よかった」
その声を聞いて、ルルーシュは再びフォークを手に取った。
食べる。
飲み込む。
耐える。
そして、また食べる。
彼は最後まで、表情を崩さなかった。
その内側では、何度も吐き気を堪え、味覚を遮断しようと必死になり、今すぐ水を大量に飲み干したい衝動と戦っていた。
それでも、皿の上のパスタが少しずつ減っていくにつれて、ララの表情は明るくなっていった。
「ルルーシュ、全部食べてくれるの?」
「……ああ。出されたものを残すのは、あまり好きではないのでな」
「えへへ……ありがとう!」
その笑顔を見たとき、ルルーシュはようやく、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
やがて、皿が空になる。ルルーシュはフォークを置き、静かに息を吐いた。
「……ごちそうさま」
「わあっ! 完食だ!」
ララが嬉しそうに両手を叩く。
リトは、呆れたような、感心したような顔でルルーシュを見ていた。
「……お前、よく食べきったな」
「……出されたものを残さないと言っただろう」
「いや、そういう問題じゃ……」
リトは言いかけて、口を閉じた。
ルルーシュの顔は、いつもと変わらない。だが、ほんの少しだけ、額に汗が浮かんでいる。
(……こいつ、相当無理してるな)
そう思うと、先ほどまでの怒りが、少しずつ別の感情に変わっていく。
ルルーシュは、決してララを傷つけようとしていたわけではない。
リトを助けようとした。ララのためにもなると思って、問題点を指摘した。
ただ、その方法が間違っていた。
そして今、彼なりにその失敗を埋め合わせようとしている。
リトは小さく息を吐いた。
「……ルルーシュ」
「何だ?」
「……ありがとな」
ルルーシュは、わずかに眉を上げた。
「何がだ?」
「いや……何でもない」
リトは、少しだけ笑った。その隣で、ララがルルーシュの袖をつまむ。
「ねえ、ルルーシュ」
「……何だ?」
「また、私の料理を食べてくれる?」
ルルーシュは、思わず固まった。先ほどまでの味が、鮮明に蘇る。
胃の奥が、再び不穏な動きを見せた。
しかし、ララの目は、泣き腫らしてはいたがもう涙で濡れてはいなかった。彼女は、いつものように明るく笑っている。
「……改善する余地があるのなら、考えておこう」
「えへへ! じゃあ、次はもっとおいしいもの作るね!」
「……そうしてくれると助かる」
ララは嬉しそうに笑い、キッチンへと戻っていった。その背中を見送ってから、ルルーシュはテーブルに肘をつき、額を押さえた。
(……次は、何としても事前に材料を確認しよう)
心の底から、そう誓った。
一方、リトはそんな彼の様子を見て、苦笑した。
「……なあ、ルルーシュ」
「今度は何だ」
「お前って、ほんと不器用だよな」
ルルーシュは、少しだけ不満そうに眉を寄せた。
「……何を言っている。俺は合理的に判断しただけだ」
「はいはい」
リトは笑った。
ルルーシュは反論しようとしたが、結局、何も言わなかった。先ほどのリトの言葉が、まだ胸の奥に残っていたからだ。
──ララの善意まで嘘にしたくない。
あの言葉の意味を、彼はまだ完全には理解できていない。
善意は善意であり、結果は結果だ。両者を混同すべきではない。そう考える自分がいる。
けれど、目の前で泣いていたララの顔を思い出すと、どうにもその考えだけでは足りない気がした。
自分が正しいと思うことを、相手に伝える。
それ自体は、決して悪いことではないはずだ。
だが、相手の気持ちを置き去りにしてしまえば、どれほど正しい言葉であっても、届かないことがある。
それどころか、相手の大切なものを壊してしまうことさえある。
ルルーシュは、静かに目を閉じた。
(……まだまだ、学ぶことが多いな)
そんなことを考えていると、リトがふと口を開いた。
「……でもさ」
「何だ?」
「ララ、きっと嬉しかったと思うぞ」
ルルーシュは、目を開けた。
「……そうか?」
「ああ。お前がちゃんと食べて、ちゃんと考えてくれたこと。ララには伝わったんじゃないかな」
「……そうだといいが」
ルルーシュは、少しだけ視線を落とした。自分の行動が、誰かのためになったのかどうか。その答えは、いつも簡単には分からない。
それでも、今は。あの涙が、少しでも笑顔に変わったのなら。
それだけで、今日の自分の行動には意味があったのかもしれない。
そう思いながら、ルルーシュは、まだ胃の奥に残る強烈な違和感を、必死にやり過ごしていた。
その後ルルーシュは3時間トイレに籠城することになったのはまた別の話。
不器用ながらも自分なりに責任を取るルルーシュ、結構書いてて楽しかった
ララ曇らせるのは迷ったけど実行しました( ´•ᴗ•ก )