コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
なんの前後編かって?次に上げる後編を読めばわかります(`・ω・´)キリッ
放課後の彩南高校。
窓の外では、昼過ぎから降り始めた雨が、校庭を白く煙らせていた。
つい先ほどまで晴れていた空は、いつの間にか厚い雨雲に覆われている。校舎の屋根を叩く雨音が廊下にまで響き、窓ガラスには細かな水滴が絶え間なく流れていた。
「……参ったな」
昇降口に立ったルルーシュは、雨に濡れた校庭を眺めながら小さく息を吐いた。
傘を持ってきていない。
朝の天気予報では、午後から晴れると言っていたはずだ。少なくとも、ここまで本格的な雨が降るとは思っていなかった。
仕方なく、雨が弱まるまで待つことにする。
昇降口の端にあるベンチに腰を下ろし、鞄から文庫本を取り出そうとした、その時だった。
「あれ……ルルーシュくん?」
聞き覚えのある声に顔を上げる。そこには、紺色の髪を揺らした少女が立っていた。
「西連寺か」
「うん。ルルーシュくんも、傘を忘れちゃったの?」
「ああ。天気予報を信用しすぎたらしい」
「ふふっ。私もなの」
春菜は少し困ったように笑い、ルルーシュの隣に腰を下ろした。
「結城くんは?」
「リトなら、職員室に呼ばれている。何か提出物のことで教師に確認されているようだったな」
「あ、そうなんだ」
春菜は窓の外へ視線を向けた。
雨は一向に弱まる気配がない。むしろ、先ほどよりも強くなっているようにさえ感じられた。
「……しばらく止みそうにないね」
「そのようだな」
短い沈黙が訪れる。
二人とも、無理に話題を探すことはしなかった。雨音を聞きながら、ぼんやりと校庭を眺める。
やがて、春菜がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ルルーシュくんって、結城くんと仲がいいよね」
「……そう見えるか?」
「うん。最近、学校でもよく一緒にいるところを見るから」
「まあ、居候の俺から見ても世話の焼ける男だからな」
「ふふっ」
春菜は小さく笑った。
「結城くんって、家でもあんな感じなの?」
「最近来たばかりで長い付き合いではないが……少なくとも、俺が知る限りでは家でもリトは変わらないな」
「変わらない?」
「誰かが困っていれば放っておけない。自分が損をすることになっても、相手のために動こうとする。そういう男だ」
ルルーシュは窓の外を眺めながら続けた。
「ただ、少々考えなしなところがある。目の前の問題に飛び込むのはいいが、その後のことをあまり考えていない」
「……あはは。確かに」
春菜は苦笑した。
リトが困っている人を見つけると、つい手を差し伸べてしまうことは、彼女もよく知っていた。時にはそのせいで、思いもよらない騒動に巻き込まれてしまうこともある。
「でも、そういうところが結城くんらしいんだと思う」
「そうだな。俺も、そこは嫌いではない」
「……うん」
春菜は、少しだけ目を伏せた。
「結城くんって、誰にでも優しいよね」
「…ああ」
「困っている人がいたら、すぐに助けようとするし……自分が大変な時でも、誰かのことを気にかけているし」
「それが、あいつの長所でもあり、欠点でもある」
「ふふっ。ルルーシュくん、結城くんのことをよく見てるんだね」
「居候…以前に友人だからな」
ルルーシュは、何でもないことのように答えた。
春菜はその横顔を見つめる。
「……私も、結城くんのそういうところが好き」
ぽつりと零れた言葉は、雨音に紛れそうなほど小さかった。
しかし、隣に座るルルーシュには、はっきりと届いていた。
彼は春菜の方へ視線を向ける。
春菜は自分の発言に気づいたのか、少しだけ頬を赤くして、慌てて窓の外へ顔を戻した。
「……そうか」
ルルーシュは、それ以上何も尋ねなかった。
彼女の気持ちを、わざわざ言葉にさせる必要はない。
リトが鈍感なのは今に始まったことではないが、だからといって、第三者が無理に二人の関係を進めるのも違うだろう。
ただ、彼女の言葉を聞いて、ひとつ思うことがあった。
(……あいつも、少しは自分のことを考えればいいものを)
そんなことを考えていると、廊下の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「おーい!ルルーシュ!西連寺!」
リトだった。
片手には黒い傘を持ち、もう片方の手で鞄を抱えている。職員室での用事が思ったより長引いたらしく、少し息を切らしていた。
「悪い、待たせた!」
「お疲れさま。何かあったのか?」
ルルーシュが尋ねる。
「いや、提出物の確認だけだったんだけど、先生の話が長くてさ……」
リトは苦笑しながら、手にした傘を持ち上げた。
「それより、二人とも傘ないんだろ? 俺、持ってきてるから一緒に帰ろうぜ」
春菜が顔を上げる。
「えっ、でも……」
「ん? どうした?」
リトは不思議そうに首を傾げた。春菜は何か言いかけて、結局口を閉じる。
その様子を見たルルーシュは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「ちょうどよかった。リト、西連寺を彼女の家まで送っていってやれ」
「え?」
「傘があるんだろう?」
「そりゃそうだけど……ルルーシュは?」
「俺はもう少し雨が弱まるのを待つ。どうせ夕立といったところだろう、すぐ止むさ」
「いや、でも……」
「気にするな。二人で帰ればいい」
ルルーシュは立ち上がり、鞄を肩に掛けた。
リトはまだ何か言いたそうだったが、春菜が遠慮がちに口を開く。
「……じゃあ、結城くん。よかったら、一緒に帰ってもいいかな?」
「あ、ああ! もちろん!」
リトの声が、少しだけ裏返った。春菜が傘の下に入る。
二人の肩が、ほんの少し触れ合った。
リトは緊張した様子で傘を持ち直し、春菜もどこか照れくさそうに笑っている。
「それじゃあ、ルルーシュくん。また明日ね」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「ルルーシュも、あんまり遅くなるなよ!」
「分かっている」
二人は並んで昇降口を出ていった。
傘の下で、春菜が何かを話しかける。リトは少し慌てた様子で答え、やがて二人の間に笑い声が生まれた。
ルルーシュは、その後ろ姿をしばらく眺めていた。
「……まったく。世話の焼ける男だ」
そう呟くと、彼は再びベンチに腰を下ろした。雨は、まだ降り続いていた。
結局、雨は一向に止まなかった。
昇降口で待ち始めてから、すでに三十分近くが経過している。窓の外は薄暗くなり始め、校庭には大きな水たまりがいくつもできていた。
ルルーシュは腕時計を確認し、小さく息を吐いた。
「……これ以上待っても仕方がないか」
鞄から携帯電話を取り出し、天気予報を確認する。どうやら、この雨は夜まで続くらしい。
彼はしばらく画面を見つめてから、諦めたように携帯電話をしまった。
傘を買うという選択肢もあったが、学校の近くにある店まで行くには、結局ある程度濡れる必要がある。ならば、いっそそのまま帰ってしまった方が早い。
(……まったく。天気予報も当てにならないものだ)
ルルーシュは鞄を抱え直し、昇降口を出た。
途端に、冷たい雨粒が頬を打つ。
「……っ」
思わず目を細めながら、彼は校門へ向かって歩き出した。
最初のうちは、できるだけ水たまりを避けながら歩いていたものの、すぐに制服の肩や髪が濡れていく。やがて雨水が襟元から入り込み、シャツが肌に張りつき始めた。
それでも、足取りは変わらない。春菜とリトが並んで歩いていた姿を思い出す。
二人の会話は、きっと今頃も続いているだろう。リトは相変わらず緊張しているかもしれないが、春菜が隣にいれば、少しは楽しく帰れるはずだ。
(……あいつにも、ああいう時間が必要だろう)
そんなことを考えながら、ルルーシュは雨の中を歩き続けた。
やがて、結城家の門が見えてくる。
玄関にたどり着いた頃には、髪から水滴が滴り、制服はすっかり濡れきっていた。
「……ただいま」
誰に聞かせるでもなく呟き、玄関に入る。
そのまま浴室へ向かい、濡れた制服を脱いで熱いシャワーを浴びた。身体を温め、着替えを済ませると、ようやく一息つく。
夕食の席では、リトが帰宅後の出来事を話していた。
「いやあ、今日は大変だったよ。帰りに春菜ちゃんと一緒だったんだけど、途中で雨が強くなってさ」
「……そうか」
「でも、いろいろ話せたし、楽しかったな」
リトは少し照れくさそうに笑う。
「ルルーシュが先に帰っていいって言ってくれたからさ。ありがとな」
「気にするな。傘が一本しかなかったんだから、当然の判断だ」
「それでもだよ」
美柑は二人のやり取りを聞きながら、テーブルに料理を並べていた。
「それにしても、ルルーシュさん。あんなに濡れて帰ってくるなんて、風邪引いちゃうよ」
「大丈夫だ。シャワーも浴びたし、問題ない」
「本当に?」
「心配しすぎだ」
そう答え、ルルーシュは温かいスープを口に運んだ。
その時、鼻の奥がむずむずする。
「……っくしゅん!」
突然のくしゃみに、リトが顔を上げた。
「おい、大丈夫か?」
「……ああ。少し冷えただけだ」
「ほら、言ったじゃん。風邪引くって」
美柑も心配そうに彼の顔を覗き込む。
「今日は早めに休んだ方がいいよ」
「分かっている」
ルルーシュはそう答えたものの、食事を終えるといつも通り地下のラボへ向かった。
蜃気楼の状態を確認しておきたかったのだ。
地下へ続く階段を下り、ラボの照明を点ける。そこには、見慣れた漆黒の機体が静かに鎮座していた。
ルルーシュは機体の周囲を歩き、外装や各部の状態を確認する。
「……問題はないな」
そう呟くと、コクピットへ乗り込んだ。
狭い操縦席に身体を収め、背もたれに寄りかかる。目を閉じれば、ここが一番落ち着く。長い間、彼はこの場所で眠ってきた。
今日も、いつもと変わらない夜になるはずだった。
翌朝。
「……ん」
ルルーシュは、頭の重さを感じながら目を覚ました。
視界がぼやける。身体の節々が妙にだるく、喉にも違和感があった。
彼はゆっくりと上体を起こそうとしたが、頭に鈍い痛みが走り、思わず眉をひそめる。
「……っ、何だ……?」
額に手を当てる。熱い。
嫌な予感がして、体温計を探そうとしたところで、ラボの扉が勢いよく開いた。
「ルルーシュ!」
リトの声だった。
「……何だ、朝から騒々しい」
「何だじゃない! 学校行く時間なのに起きてこないから、見に来たんだよ!」
リトはコクピットの中を覗き込み、ルルーシュの顔を見て表情を変えた。
「……お前、顔真っ赤じゃん」
「…そうか…?」
「そうか? じゃねえよ!」
続いて美柑もラボへ入ってくる。
「ルルーシュさん、ちょっと失礼するね」
美柑は彼の額に手を当てた。
「……熱い!」
「……大げさだな」
「大げさじゃないよ! 熱があるじゃない!」
美柑はすぐに体温計を取り出し、ルルーシュに渡した。測定が終わるまでの間、リトは腕を組んで彼を睨んでいた。
「昨日あんなに濡れて帰ってきたんだから、そりゃ風邪も引くって」
「……少し濡れただけだ」
「全身びしょ濡れだっただろ!」
やがて体温計が鳴る。美柑が表示を確認し、眉を寄せた。
「三十八度二分……」
「……なるほど」
ルルーシュは妙に納得したように呟く。
「なるほど、じゃない!」
リトが声を上げた。
「今日は学校休め! 絶対安静!」
「しかし、授業が……」
「そんな状態で授業受けられるわけないだろ!」
「俺は問題ない」
「問題大ありだよ!」
美柑も頷く。
「ルルーシュさん、今日はちゃんと休もう。ね?」
二人の視線を受け、ルルーシュは小さく息を吐いた。
「……分かった」
渋々ながら、彼はコクピットから降りようとした。ところが、立ち上がった途端に足元がふらつく。
「……っ」
「危ない!」
リトが慌てて肩を支えた。
「ほら! 全然大丈夫じゃないじゃん!」
「……少し、立ちくらみがしただけだ」
「いいから!」
リトはルルーシュの腕を自分の肩に回し、ゆっくりと歩き始める。美柑も反対側から支えた。
「まったく……。どうして毎晩、こんなところで寝てるのよ」
「……慣れているからだ」
「慣れていても、身体にいいわけじゃないでしょ」
「……それは、そうだが」
二人に挟まれ、ルルーシュは地下のラボを後にした。
「……ここは?」
リトの部屋に入ったルルーシュは、ベッドを見て足を止めた。
「ここで寝るんだよ」
「いや、俺は自分の寝床が……」
「だから、その寝床が問題なんだって!」
リトは半ば強引に彼をベッドへ座らせた。美柑が布団を整え、枕の位置を直す。
「今日はここを使っていいからね。私はすぐおかゆを作ってくるから」
「……そこまでしてもらう必要はない」
「あるの!」
美柑はきっぱりと言い切った。
「ルルーシュさんは、ちゃんと休むこと。いい?」
「……分かった」
彼は観念したように頷いた。靴下を脱ぎ布団に入るとき、ルルーシュは美柑に尋ねる。
「…そういえば美柑、学校はどうするんだ」
「あぁ、大丈夫だよ。学校ならおかゆ作ったあとでも間に合うし、それにルルーシュさんをこのままにはしておけないでしょ?」
「…すまない、迷惑をかけた」
柔らかなマットレスが身体を受け止め、枕が頭を優しく支えた。その感触に、ルルーシュは思わず目を細める。
(……これは)
普段、蜃気楼のコクピットで眠るときには、どうしても身体を丸める必要がある。寝返りを打つ余裕もなく、硬い座席に長時間身体を預けることになる。
だが、ここは違った。肩の力を抜いても、身体が沈み込むように支えられる。足を伸ばしても窮屈ではない。
「……悪くないな」
「だろ?」
リトが笑う。
「じゃあ、俺とララは学校に行ってくるから。何かあったら携帯で連絡してくれよ」
「ああ…」
「あと、勝手に起き上がるなよ」
「……分かっている」
「リトー!遅刻しちゃうよー!早くいこーよー!」
リトはまだ心配そうだったが、玄関にいるララに促されて部屋を出ていった。扉が閉まる。
部屋の中が静かになった。
ルルーシュは天井を見上げる。
窓の外から、朝の鳥の声が聞こえていた。雨はすっかり上がり、薄い雲の隙間から柔らかな陽射しが差し込んでいる。
身体はまだ熱っぽい。それでも、さっきまで感じていた頭の重さは、少しずつ薄れていくようだった。
彼は布団を肩まで引き上げ、目を閉じた。
そして、ほどなくして深い眠りに落ちた。
その日の昼。
結城家のリビングには、静かな時間が流れていた。
家に残って昼食を終えたナナとモモは、セリーヌを連れて二階へ上がった。朝からリトの部屋で眠っているルルーシュの様子が気になっていたのだ。
ルルーシュは、まだ眠っていた。
朝に比べると顔色も落ち着いている。額の冷却シートを取り替えようと近づいたが、彼は起きる気配を見せなかった。
「……よく寝てるな〜」
「ふふ、こうして見ると可愛らしいですね」
「こいつ、いつも偉そうなのに寝てると普通だな」
「もう、病人をからかってはいけませんよ」
「まう?」
ナナが寝顔を覗き込むとモモは小さく笑い、セリーヌはルルーシュの頬をつつこうとした。モモはそれをたしなめると3人はそっと部屋を出た。
普段のルルーシュは、何事にもきちんとしていて、昼間から長時間眠るような姿は想像しにくい。ましてや、誰かのベッドを借りて、ここまで無防備に眠っているのは珍しい。
それだけ、身体が休息を求めていたのだろう。
夕方が近づく頃、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
先に学校から家に帰っていたララが元気よく玄関へ向かう。リトは買出し中だった。
扉を開けると、そこには春菜が立っていた。
「こんにちは、ララさん」
「春菜! どうしたの?」
「ルルーシュくんが風邪を引いたって聞いて……お見舞いに来たの」
春菜は手に持った紙袋を少し持ち上げた。中には、果物とゼリーが入っている。
「あっ、ありがとう! ルルーシュならリトの部屋で寝てるよー!」
「……えっ?」
春菜は思わず聞き返した。
「結城くんの部屋?」
「うん! 朝から熱があってね。リトと美柑が地下のラボから連れてきたの」
「そうなんだ……」
春菜は少しだけ目を瞬かせた。
リトの部屋。何度か訪れたことがある場所だ。机や本棚、ベッドの位置まで、なんとなく覚えている。
そこに、ルルーシュが眠っている。
(……なんだか、不思議な感じ)
もちろん、ルルーシュは結城家に居候しているのだから、リトの部屋で寝ていたとしても何もおかしくはない。
それでも、普段は教室で見かける彼が、リトの私的な空間で眠っているという状況は、春菜にとって少し新鮮だった。
「春菜〜?」
ララが不思議そうに顔を覗き込む。
「どうかした?」
「う、ううん! 何でもない!」
春菜は慌てて首を振った。
「それじゃあ、ちょっと様子を見てくるね」
「うん! 起こさないようにね!」
「分かった」
春菜は紙袋を持ち直し、二階へ向かった。リトの部屋の前に着くと、足を止める。
扉の向こうは静かだった。
(……お見舞いに来ただけ。普通に入ればいいの…うん…)
自分にそう言い聞かせ、軽くノックする。
「……失礼します」
返事はない。
春菜はそっとドアを開けた。
カーテン越しの柔らかな夕陽が差し込む部屋の中で、ルルーシュが静かに眠っていた。
いつもは背筋を伸ばし、隙のない雰囲気をまとっている彼が、今は布団に包まれ、無防備な寝顔を見せている。
春菜は思わず足を止めた。
「……寝てる」
小さく呟き、ベッドのそばまで歩み寄る。額には冷却シートが貼られ、枕元には飲みかけの水と体温計が置かれていた。
ルルーシュの頬はまだ少し赤いものの、呼吸は穏やかだった。
春菜はほっと胸を撫で下ろす。
「……よかった」
持ってきた果物とゼリーを机の上に置く。
起こさない方がいいだろうか。少し迷ったものの、せっかく来たのだから、ひと言くらい声をかけておきたい。
「……ルルーシュくん」
そっと呼びかける。
「お見舞いに来たよ」
ルルーシュのまぶたが、かすかに動いた。
「……ん」
ゆっくりと目が開く。ぼんやりとした視線が天井をさまよい、やがて春菜の姿を捉えた。
「……西連寺?」
「うん。起こしちゃったかな?」
「……いや」
ルルーシュは少し身体を起こそうとしたが、春菜が慌てて止めた。
「だ、だめだよ! まだ寝ていて」
「……そうか。すまない」
彼は枕に頭を戻した。
「わざわざ来てくれたのか」
「うん。風邪を引いたって聞いて、心配で……」
「……そうか。ありがとう」
ルルーシュは、少しだけ微笑んだ。その表情を見て、春菜も自然と笑顔になる。
「昨日は、ありがとうね」
「……昨日?」
「結城くんと一緒に帰れるようにしてくれたでしょう?」
「ああ……そのことか」
ルルーシュは思い出したように頷いた。
「別に、大したことではない」
「でも、おかげで結城くんといろいろ話せたの。楽しかった」
「それなら何よりだ」
「……でも、ルルーシュくんは雨に濡れて帰ったんでしょう?」
春菜の表情が少し曇る。
「私たちだけ先に帰っちゃって……ごめんなさい」
「気にする必要はない。俺がそう判断したんだ」
「それでも……」
春菜は言葉を探すように、視線を落とした。
「風邪を引いちゃったって聞いて、私のせいだったらどうしようって思ったの」
ルルーシュは少し困ったように眉を下げた。
「……君のせいではない。傘を持っていなかった俺の判断が甘かっただけだ」
「でも……」
「それに、リトと一緒に帰れたんだろう?」
春菜は顔を上げる。ルルーシュは、穏やかな表情で彼女を見ていた。
「なら、俺としては十分だ」
春菜は一瞬、言葉を失った。それからゆっくりと微笑む。
「……ありがとう、ルルーシュくん」
「礼を言われるほどのことではないさ」
「ううん。やっぱり、ありがとう」
春菜はベッドの脇に置かれた椅子へ腰を下ろした。しばらく、二人の間に穏やかな沈黙が流れる。
窓の外では、夕方の風が木々を揺らしていた。遠くから、部活動を終えた生徒たちの声がかすかに聞こえる。
「……それにしても」
ルルーシュが天井を見上げたまま口を開く。
「ここで眠るのは、思っていた以上に快適だな」
「ふふっ。結城くんのベッドだもんね」
「ああ。普段の寝床とは大違いだ」
「普段の寝床って……?」
「あぁ…えと、地下室にあるララのラボの作業スペースに座椅子があって、そこで寝ている…とても居候が図々しく部屋を強請るわけにも行かないしな」
もちろん、嘘ではない。しかしとても「ナイトメアフレームという人型戦闘ロボットのコクピット内で寝ている」と馬鹿正直に伝えるわけにも行かなかったので、言い方を変えた。
春菜は少し驚いたように目を瞬かせた。
「毎晩、そこで寝てるの?」
「……ああ。特に不便はないと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい」
ルルーシュは小さく息を吐いた。
「今朝は、リトと美柑に半ば強制的に連れ出された」
「ふふっ。二人とも心配だったんだね」
「……まったく。少々過保護すぎる」
そう言いながらも、ルルーシュの表情は柔らかかった。
春菜は、その横顔を眺める。
彼が結城家でどのように暮らしているのか、春菜は詳しく知らない。けれど、こうして話していると、彼が少しずつ家族との距離を縮めていることが伝わってくる。
「……ルルーシュくん」
「何だ?」
「無理しないでね」
春菜は、まっすぐ彼を見つめた。
「いつも落ち着いていて、何でもできそうに見えるけど……風邪を引くことだってあるんだから」
ルルーシュは少しだけ目を見開いた。
そして、苦笑する。
「……肝に銘じておこう」
「うん」
春菜は満足そうに頷いた。
その後、少しだけ雑談を交わしてから、彼女は椅子を立った。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るね。ゆっくり休んで」
「ああ。今日はありがとう」
春菜はドアの前で一度振り返った。
「……お大事にね、ルルーシュくん」
「ありがとう。君も気をつけて帰れよ」
春菜は微笑み、静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
再び、部屋に静けさが戻った。
ルルーシュは天井を見上げ、少しだけ考え込む。
リトと春菜が、どんな話をしたのか。
二人の関係が、これからどうなっていくのか。
それは、彼が決めることではない。ただ、あの二人が笑っていられる時間が増えるなら、それでいい。
「……さて」
ルルーシュは布団を引き寄せた。まだ熱は残っている。身体も重い。
今は余計なことを考えず、休むべきだろう。
柔らかな枕に頬を預け、目を閉じる。
窓の外では、夕暮れの空がゆっくりと色を変えていた。
その日、ルルーシュは久しぶりに、誰かのためではなく、自分自身のために、静かな眠りを取っていた。
改めて漫画とアニメ見直すと春菜かわいいなぁって、学生時代を終えたばかりの今の年齢になると強く感じるな〜
ToLOVEるの後期ED「kissの行方」の映像の春菜は曲調も相まってめっちゃ可愛く感じる( * . .)"