コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
ルルーシュが毎晩コクピットで寝るシチュはガンダムSEEDの砂漠編のキラっぽいな振り返ると…
風邪を引いた日から、数日が経った。
結城家の地下にあるラボでは、いつもと変わらない光景が広がっていた。
漆黒の装甲に金色のラインが走る巨大な人型機動兵器――蜃気楼。その正面には大型モニターが展開され、ルルーシュは端末に接続されたドルイドシステムを操作していた。
「……機体制御系、異常なし。ハドロン砲の出力も規定値内か」
画面に流れる診断結果を確認しながら、ルルーシュはキーボードを叩く。ドルイドシステムが蜃気楼の各部を自動的に走査し、機体内部の状態が次々とモニターへ表示されていく。
「姿勢制御プログラムに、わずかな遅延があるな。補正を入れておくか」
ルルーシュは数値を入力し、シミュレーションを実行した。画面上で蜃気楼の仮想モデルが動き、修正後の挙動が表示される。
「……よし。これで一通りの確認は終わったな」
端末に表示された最終診断結果を確認し、ルルーシュは小さく息を吐いた。
先日の風邪はすっかり治っている。熱も下がり、身体のだるさもなくなった。学校での生活にも支障はない。
ただ、ひとつだけ以前と変わったことがあった。
「……やはり、寝床は考え直すべきか」
ルルーシュは、モニターの向こうに表示された蜃気楼のコクピットを見上げた。
あの日、三十八度を超える熱を出して倒れたのは、雨に濡れたことだけが原因ではないだろう。狭い操縦席で身体を休める生活も、多少は影響していたのかもしれない。
もっとも、本人としては大きな問題だとは考えていなかった。
コクピットで眠ることには慣れている。ドルイドシステムで機体の状態を確認してから、そのまま休めるため、むしろ都合がいいとすら思っていた。
しかし、リトや美柑たちの反応を見る限り、どうやら周囲はそう考えていないらしい。
「……余計な心配をかけるのも本意ではないが」
そう呟き、ルルーシュがシステムを終了させようとした、その時だった。
「ルルーシュさーん!」
階段の上から、聞き慣れた声が響いた。
「……美柑か?」
「ちょっと上に来てくれる?」
「何かあったのか?」
「ううん。みんなで話があるの!」
「みんな?」
ルルーシュは首を傾げた。
何か面倒な相談事だろうか。ララの発明に関する話なら、できれば事前に内容を聞いておきたいところだった。
彼はドルイドシステムを待機状態に切り替えると、階段を上がっていった。
リビングに入ると、そこには結城家の面々が勢揃いしていた。
リトと美柑に加え、ララ、ナナ、モモ、そしてセリーヌまでいる。
テーブルの上には、住宅の間取り図らしき紙が広げられていた。
「……これは?」
ルルーシュが尋ねると、ララが勢いよく立ち上がった。
「ルルーシュのお部屋を作ろうと思いまーす!」
「……は?」
予想外の言葉に、ルルーシュは思わず目を瞬かせた。
「お部屋?」
「ああ。前から話してたんだよ」
リトが苦笑しながら説明する。
「この前、風邪で倒れただろ? それで改めて考えたんだけどさ。お前、毎晩地下のラボで寝てるんだよな」
「そうだが」
「いや、そうだが、じゃなくて。普通にベッドで寝た方がいいだろ」
「……それは理解している」
「だったら、部屋を作っちゃえばいいじゃん!」
ララが身を乗り出す。
「私の発明品を使えば、二階に新しい部屋を増やせるんだよ!」
「……待て。部屋を増やす?」
ルルーシュは間取り図を覗き込んだ。
結城家は一般的な住宅であり、二階にはすでに家族の部屋が配置されている。新たに一室を設ける余裕があるとは思えなかった。
「今の間取りでは、物理的に難しいだろう」
「ふっふっふ。そこは私にお任せ!」
ララは自信満々に胸を張った。
「空間拡張装置を使うの!」
「……空間拡張?」
「そう! 建物の外側はそのままにして、内部の空間だけを広げる装置だよ。デビルーク星の技術を応用すれば、これくらい簡単なんだから!」
「……簡単、ね」
ルルーシュは眉をひそめた。
以前からララの発明品には何度も振り回されている。便利なものも多いが、予想外の機能や副作用が付いてくることも少なくない。
「ちなみに、安全性は?」
「大丈夫!」
「具体的な検証結果は?」
「えーっと……」
ララの視線が泳いだ。
「……ララ」
「だ、大丈夫だってば! ちゃんと計算してあるもん!」
「その計算を見せてくれ」
「うっ……」
リトが苦笑した。
「ほら、やっぱりそうなるだろ」
「……念のため確認するだけだ」
「ルルーシュ、細かいなあ」
ナナが呆れたように言う。
「いや、こればかりは細かく確認すべきだろう」
「まあまあ。お姉様も、今回はきちんと安全性を確認しているようですよ」
モモが微笑みながら間に入った。
「それに、せっかくですから、ルルーシュさんのお部屋を作って差し上げたいですもの」
「……モモまで」
ルルーシュは困ったように息を吐いた。その時、美柑が静かに口を開いた。
「ルルーシュさん」
「何だ?」
「私たち、前から気になってたの。ルルーシュさんが毎晩、あんな狭いところで寝てること」
美柑は地下へ続く階段の方をちらりと見た。
「この前、リトのベッドで寝た時、すごく気持ちよさそうだったよね」
「…そうだったか…?」
「うん。起こすのが申し訳なくなるくらいだった」
リトも頷く。
「俺もびっくりしたよ。普段のお前なら、もっと早く起きてそうなのに」
「……体調が悪かっただけだ」
「それだけじゃないと思うけどな」
リトが肩をすくめた。
「それにさ。お前、ここに来てからずっと、部屋を欲しがるようなことを一度も言わなかっただろ」
ルルーシュは少しだけ視線を落とした。
「……俺は居候だ。そこまでしてもらう理由はない」
「理由ならあるよ」
美柑が即座に答えた。
「ルルーシュさんも、ここで一緒に暮らしてるんだから」
その言葉に、ルルーシュは顔を上げた。
美柑はいつものように穏やかな笑顔を浮かべている。
「だから、自分のお部屋があってもいいと思うの」
「……」
「ね?」
ルルーシュは、すぐには返事をしなかった。
居候という立場を考えれば、これ以上何かを求めるのは図々しい。そう考えるのは、彼にとってごく自然なことだった。
しかし、目の前の彼女たちは、誰一人として迷惑そうな顔をしていない。
むしろ、当然のことのように部屋を作ろうとしている。
「……分かった」
やがて、ルルーシュは小さく頷いた。
「そこまで言うのなら、ありがたく使わせてもらおう」
「やったー!」
ララが両手を上げる。
「それじゃあ、早速お部屋の準備を始めよう!」
「……その前に、装置の設計図を見せてくれ」
「ええーっ!?」
リビングに笑い声が広がった。
その日の午後。
ララが持ってきた設計図を確認したルルーシュは、空間拡張装置の仕組みに興味を示していた。
「……なるほど。内部空間の座標を一時的にずらし、外部の構造と干渉しないように固定するわけか」
「そうそう!」
ララが嬉しそうに頷く。
「これなら、二階の廊下の突き当たりに新しい部屋を作れるんだよ!」
「理論上は可能だろうな。だが、空間を拡張した状態で建物の構造に負荷がかからないか?」
「そこもちゃんと計算してあるよ!」
「……ならいい」
ルルーシュは設計図をテーブルに置いた。
「ただし、装置の出力と安全装置は確認しておきたい。万が一、空間が不安定になれば、生活どころではなくなるからな」
「うん! じゃあ、一緒に確認しよう!」
ララは嬉しそうに笑った。二人はそのまま設計図を広げ、細かな調整を始めた。その様子を見ていたナナが、呆れたように口を挟む。
「……なあ、これって部屋を作る話だよな?」
「そうだけど?」
「なんで二人とも、そんな難しい顔してんだよ……」
「安全性の確認は重要だ」
ルルーシュが淡々と答える。
「うわ、真面目……」
ナナは肩をすくめた。
「まあ、いいや。あたしは家具を選ぶ方に参加するから!」
「家具?」
「そう! せっかく新しい部屋を作るんだから、かわいいものをいっぱい置こうぜ!」
「……かわいいもの?」
ルルーシュの眉がわずかに動く。ナナは気にせず、テーブルの上に家具店のカタログを広げた。
「ほら、これとか!」
そこには、色とりどりのクッションやぬいぐるみが掲載されていた。
「……」
ルルーシュは無言でページを見つめた。
「どうだ? いいだろ?」
「……部屋の用途を考えた方がいいと思うが」
「えー! こういうのがあった方が楽しいじゃん!」
「俺は寝室兼作業部屋として使うつもりだ。必要以上に物を置く理由はない」
「つまんねー!」
ナナが頬を膨らませる。モモはそんな姉を見て、くすりと笑った。
「ナナ。ルルーシュさんにも好みがあるから、無理に押しつけてはいけないわよ」
「分かってるって!」
「本当かしら?」
「モモ!」
また笑い声が起こった。一方、セリーヌはテーブルの上に広げられたカタログに興味を示し、小さな手を伸ばしていた。
「まう?」
「おっと、セリーヌ。これは食べ物じゃないぞ」
リトが慌ててカタログを持ち上げる。
「まうー!」
セリーヌは不満そうに声を上げた。
「……まったく。家具選びだけでも大変そうだな」
ルルーシュは小さく息を吐いた。
数日後。
休日の朝、結城家の玄関には、出かける準備を終えた面々が集まっていた。
「よーし! 今日は家具を買いに行くぞー!」
ナナが元気よく声を上げる。
「まったく、そんなに気合いを入れる必要があるのか?」
ルルーシュが苦笑する。
「あるに決まってんだろ!なんせルルーシュの部屋を作るんだからな!」
「…ふ、そうだったな」
「それじゃあ、出発!」
ララの掛け声とともに、一同は家を出た。向かった先は、郊外にある大型家具店だった。
広い店内には、ベッドや机、ソファ、収納家具などが整然と並んでいる。展示された部屋の一角には、実際の生活を想定したインテリアが配置され、照明やカーテンまで含めたコーディネートが紹介されていた。
「わあ……! いっぱいあるね!」
ララが目を輝かせる。
「まずはベッドから見ていこうか」
美柑がカタログを手に取った。
「ルルーシュさん、どんなベッドがいい?」
「……普通のもので構わない」
「またそれ?」
リトが呆れたように言う。
「せっかくなんだから、ちゃんと選ぼうぜ」
「……分かった」
ルルーシュは展示されたベッドを見比べた。
硬さや大きさ、寝返りのしやすさ。実用性を考えれば、選ぶ基準はいくらでもある。
しかし、実際に横になってみると、どれもそれなりに快適だった。
「……これは悪くないな」
彼が選んだのは、落ち着いた色合いのシンプルなベッドだった。
「じゃあ、これにしようか」
美柑が頷く。
「次は机だな」
ルルーシュは展示スペースを歩き、いくつかの机を見比べた。
「……もう少し広い方がいい」
「勉強用?」
リトが尋ねる。
「それもあるが、書類や資料を広げることもある。作業スペースは広い方がいい」
「なるほどな」
リトは感心したように頷いた。結局、十分な広さがあり、引き出しも備えた木製の机を選ぶことになった。
次は本棚だった。
「ルルーシュさん、かなり本を持ってるんですのね」
モモが尋ねる。
「必要な資料が多いだけだ」
「それでも、かなりの量ですよ?」
「まあな、知識は身につけて損はない…」
モモは棚のサイズを確認しながら、いくつか候補を挙げていく。
「こちらなら、収納力もありますし、机との色合いも合いますね」
「…落ち着いているな、確かに」
ルルーシュは本棚を眺めた。落ち着いた木目のデザインで、部屋全体の雰囲気にも馴染みそうだった。
「これにしよう」
「決まりですね、ふふっ」
モモは満足そうに微笑んだ。
その頃、ナナは別の売り場で何やら物色していた。
「おーい! ルルーシュ!」
「……何だ?」
「これ、どうだ?」
ナナが両手で抱えていたのは、黒い猫のぬいぐるみだった。丸い目と小さな耳が特徴的で、どこか愛嬌のあるデザインをしている。
「ぬいぐるみか」
「そう! 部屋に置いたら絶対かわいいって!」
「…俺の部屋に?」
「そうだよ!」
ルルーシュは、しばらくぬいぐるみを見つめた。
「…必要性は感じないな」
「えー!」
ナナが不満そうに声を上げる。
「じゃあ、こっちは?」
今度は、白いウサギのぬいぐるみを差し出す。
「……それも同じだろう」
「なんだよー! ひとつくらいいいじゃん!」
「……」
ルルーシュは困ったように眉を寄せた。
その様子を見ていたモモが、そっと助け舟を出す。
「ナナ。ルルーシュさんが困っています」
「……ちぇっ」
ナナは不満そうに頬を膨らませた。
しかし、ぬいぐるみを棚に戻す直前、ルルーシュが口を開いた。
「……その黒い猫なら、悪くないかもしれない」
「えっ?」
ナナが目を丸くする。
「本当か!?」
「……ああ。ひとつくらいなら、置いても問題はないだろう」
「やったー!」
ナナは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、これに決まりだな!」
「…はは、そんなに喜ぶことか?」
「喜ぶに決まってるだろ!」
ナナはぬいぐるみを抱えたまま、嬉しそうに笑った。
ルルーシュは少しだけ視線を逸らす。
「……まったく」
その口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。
家具選びは、その後も続いた。
カーテンは、ルルーシュ自身が深い青色のものを選んだ。派手すぎず、落ち着いた色合いで、部屋全体を引き締める効果がある。
ラグは美柑が手触りを確かめながら選び、照明はモモが柔らかな光を放つものを提案した。
「これなら、夜も落ち着いて過ごせると思います」
「……そうだな。目にも優しそうだ」
「決まりですね」
一方、ララは相変わらず、便利な機能を追加しようと張り切っていた。
「ねえねえ! 部屋の中に自動掃除機を走らせるのはどう?」
「……必要ない」
「えー! じゃあ、温度調節機能は?」
「普通の空調で十分だ」
「じゃあ、壁に小型の映像投影装置を埋め込むとか!」
「……お姉様」
モモがララの勢いに押されている中、ルルーシュは額を押さえた。
「部屋は休息と作業のために使う場所だ。機能を増やせばいいというものではない」
「むー……」
ララは頬を膨らませた。
「ルルーシュって、意外とこだわりが強いんだね」
「……必要なものと不要なものを分けているだけだ」
「はいはい」
リトが笑う。
「でも、これくらいの方がルルーシュらしいかもな」
「……どういう意味だ?」
「いや、何でもない」
その後、買い物を終えた一同は、購入した家具の配送手続きを済ませ、帰路についた。
帰り道、リトは荷物を運ぶ段取りについて美柑から説明を受けていた。
「机と本棚は結構重そうだな……」
「配送してもらうから、リトが運ぶ必要はないよ」
「いや、組み立てとかは手伝うつもりだけどさ」
「それは助かるけど、無理しないでね」
「分かってるって」
その会話を聞いていたルルーシュは、ふと口を開いた。
「……俺も手伝う」
「いや、お前は休んでろよ」
リトが即座に返す。
「自分の部屋だ。何もしないわけにはいかないだろう」
「それなら、組み立ての説明書を読んでくれればいいよ」
ララが微笑む。
「力仕事は私たちに任せて!」
「……分かった、お前達に任せる」
ルルーシュは小さく頷いた。
翌日。
結城家の二階では、朝から慌ただしい作業が続いていた。
ララの空間拡張装置が設置され、二階の廊下の突き当たりには、新しい部屋へ続く扉が現れていた。
外から見れば、以前と何も変わらない。
しかし、扉を開けると、そこには十分な広さの空間が広がっていた。
「本当に広がっているな…」
ルルーシュは、部屋の中を見渡した。
「でしょー!」
ララが胸を張る。
「これがデビルーク星の技術だよ!」
「確かに、見事なものだ」
ルルーシュは壁や床を確認し、空間の安定性を確かめる。
「今のところ、問題はなさそうだな」
「だから大丈夫だって言ったじゃん!」
「…念には念を入れるべきだ」
ララは苦笑した。
その後、地下のラボへ続く専用エレベーターの設置も始まった。
部屋の一角に設けられた扉の向こうには、小型の昇降機が用意されている。これを使えば、二階から地下のラボまで直接移動できる仕組みだ。
「これで、蜃気楼のところまで一気に行けるよ!」
「それは便利だな、感謝するぞララ」
ルルーシュは感心したように頷いた。
「ただし、誤作動は困る。安全装置の確認をしておきたい」
「もちろん!」
ララは操作パネルを叩き、試運転を開始した。
低い駆動音とともに、昇降機がゆっくりと動き出す。
「…あぁ、問題なさそうだな」
「でしょ?」
「ああ。助かった」
ルルーシュが素直に礼を言うと、ララは嬉しそうに笑った。
「えへへ!」
その間、リトたちは家具の搬入を進めていた。
ベッドを組み立て、机を配置し、本棚を壁際に設置する。美柑はカーテンの長さを確認し、モモは家具の配置を微調整していた。
ナナは購入した黒猫のぬいぐるみを抱え、置き場所を探している。
「うーん……ここかな?」
ベッドの枕元に置いてみる。
「いや、そこだと寝返りを打った時に邪魔になりそうだな」
ルルーシュが指摘する。
「じゃあ、こっち?」
今度は本棚の上に置く。
「そこなら問題ないだろう」
「よし!」
ナナは満足そうに頷いた。
セリーヌは部屋の中を興味深そうに歩き回っていた。新しい床の感触が気に入ったのか、裸足でぺたぺたと歩き、時折、家具の脚を叩いている。
「まうー!」
「セリーヌ、そこは危ないよ」
美柑が声をかける。
しかし、セリーヌは気にせず、ベッドの上へよじ登ろうとした。
「おっと」
ルルーシュが慌てて抱き上げる。
「……まったく。君は本当に目が離せないな」
「まうっ!」
セリーヌは嬉しそうに笑い、ルルーシュの頬に小さな手を伸ばした。
「……こら」
その様子を見ていたナナが、くすくすと笑う。
「なんだよ、ルルーシュ。セリーヌには甘いんだな」
「幼児相手に厳しくする理由もないだろう」
「ふーん?」
ナナは意味ありげに笑った。
「…何だ?」
「別にー」
ルルーシュは、わずかに眉をひそめた。
おやつの時間を少し過ぎた頃。
家具の配置が終わり、部屋はすっかり整っていた。
ベッドには新しいシーツが敷かれ、机の上には必要な文房具が並べられている。本棚には、ルルーシュが持ってきた本や資料が収められ、深い青色のカーテンが窓辺を彩っていた。
壁際には、ナナが選んだ黒猫のぬいぐるみがちょこんと座っている。
「……完成、か」
ルルーシュは部屋の中央に立ち、ゆっくりと周囲を見渡した。
自分のために選ばれた家具。自分が使うために用意された空間。そして、ここに至るまでに動いてくれた家族たち。
彼は、何か言おうとした。
しかし、すぐには言葉が出てこなかった。
「どう? 気に入った?」
ララが、少し不安そうに尋ねる。
ルルーシュはもう一度、部屋を見渡した。
「……ああ。十分すぎるほどだ」
「本当?」
「机も広いし、本棚も使いやすそうだ。カーテンの色も気に入った」
「よかったです♪」
モモが嬉しそうに微笑む。
「ルルーシュさんの雰囲気に合うように、皆さんで考えたんですもの」
「……そうだったのか」
「そうだよ!」
ナナが胸を張る。
「ぬいぐるみも、あたしが選んだんだからな!」
「それは分かっている」
「ちゃんと大事にしろよ!」
「……あぁ、ただナナのぬいぐるみへの拘りは強いな」
「はぁ!?どういう意味だー!」
部屋の中に、明るい笑い声が広がった。その時、美柑がルルーシュの隣に立った。
「ルルーシュさん」
「何だ?」
美柑は、部屋の中を見渡しながら、穏やかに言った。
「もう冷たいコクピットで寝なくてもいいんだよ」
その言葉に、ルルーシュは少しだけ目を見開いた。
美柑は、彼の顔を見上げる。
「これからは、ちゃんとベッドで寝てね。疲れた時は、ここでゆっくり休んでいいんだから」
「……美柑」
「ここはルルーシュさんのお部屋なんだから」
その言葉は、決して特別なものではなかった。
けれど、ルルーシュの胸には、静かに染み込んでいった。
彼はこれまで、誰かのために戦い、誰かのために計画を立て、誰かのために自分を犠牲にしてきた。
自分の居場所を求めることは、いつの間にか後回しになっていた。
必要なものだけを手元に置き、与えられた場所で過ごす。それが当たり前だと思っていた。
しかし、目の前の人々は、彼が求めるより先に、居場所を用意してくれた。
「……ありがとう」
ルルーシュは、静かに言った。
「みんな。ここまでしてくれたことに、感謝している」
「どういたしまして!」
ララが明るく答える。
「気に入ってくれたならよかったよ」
リトも笑った。
「……まあ、これからは毎晩ちゃんと寝ろよ。コクピットで寝るのは禁止な」
「……善処する」
「おい!」
「冗談だ」
ルルーシュは、わずかに口元を緩めた。
その様子に、リトも笑う。
「まったく……」
ナナは満足そうに腕を組み、モモは穏やかに微笑んでいる。美柑も、どこか嬉しそうだった。
セリーヌはベッドの上で跳ねながら、楽しそうに声を上げていた。
「まうっ! まうっ!」
「……おい、セリーヌ。布団が乱れるだろう」
ルルーシュが慌てて声を上げる。
「まうー!」
「だから、跳ねるなと言っている!」
そのやり取りに、みんながどっと笑った。
その夜。
結城家の二階は、すっかり静まり返っていた。
ルルーシュは机の上に広げていた資料を片付けると、椅子から立ち上がった。
新しい部屋には、まだ少しだけ家具の匂いが残っている。窓の外からは、夜風に揺れる木々の音が聞こえていた。
彼はベッドの脇に置かれた黒猫のぬいぐるみを見た。
「……まったく。余計なものを買ってくれたものだ」
そう呟きながらも、ぬいぐるみを本棚の上から手に取り、ベッドの枕元へ移した。
そこなら、睡眠のときに寝返りの邪魔にはなるかもだが、不快にならないし問題ない。
それだけの理由だった。
ルルーシュはカーテンを閉め、照明を落とした。
ベッドに腰を下ろす。柔らかなマットレスが身体を受け止めた。
そして、ゆっくりと横になる。
肩の力を抜き、枕に頭を預ける。足を伸ばしても、身体を丸める必要はない。寝返りを打つ余裕も十分にある。
「……快適だな」
小さく呟き、目を閉じた。
これまで眠ってきた蜃気楼のコクピットとは、まるで違う。
あの場所には、戦場で生き残るための機能が詰まっていた。操縦桿も、モニターも、警告灯も、すべてが戦うために存在していた。
だが、この部屋にそういう物騒な類のものは何もない。
ただ眠るためのベッドと、日々を過ごすための家具があるだけだ。
それなのに、ここには不思議な安心感があった。
廊下の向こうから、誰かの足音が聞こえた。おそらく、リトか美柑だろう。
やがて足音は遠ざかり、家の中は再び静かになった。
ルルーシュは、天井を見つめた。
自分の部屋。
自分のために用意された場所。
その言葉を、心の中でゆっくりと反芻する。
「……悪くない」
そう呟くと、彼は目を閉じた。
今夜からは、地下のラボへ降りる必要もない。
明日の朝も、ここで眠っていればいい。
ルルーシュは布団を肩まで引き上げ、静かに息を吐いた。
その夜、彼は初めて、結城家の中に自分だけの居場所を持った。
この辺からルルーシュも内面が変わり始めたり…秘密を知る人が増えていったり?(っ ॑꒳ ॑c)