コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
登場人物めっちゃ少ない回は比較的短い気がする
休日の午後。
結城家の玄関前に、一人の少女が立っていた。
「……結城くん、いるかしら」
古手川唯は手にした鞄を持ち直し、玄関のインターホンへ手を伸ばした。今日ここへ来たのは、学校の課題について少し相談したいことがあったからだ。
提出期限が近づいている課題について、どうしても一人では判断できない部分があった。結城なら知っているかもしれない。そう思って訪ねてきたのだが――。
ピンポーン。
呼び鈴を鳴らしても、返事がない。
「……留守なのかしら?」
もう一度鳴らしてみる。やはり反応はない。古手川は少し考えた。
「おかしいわね……。結城くん、今日は家にいるって言ってたと思うけど」
その時だった。
『……古手川か?』
「え?」
突然、インターホンのスピーカーから声が聞こえた。聞き間違えるはずがない。
「ルルーシュくん?」
『ああ。どうした?』
「どうしたって……今、どこにいるの?」
少し間があった。
『……普通に家で留守番だ』
「留守番?」
古手川は眉を寄せた。一軒家にしてはやけに声が響く。
『悪いが、今玄関の鍵を開けておいた。そのまま入ってくれ』
「え、ええ……」
言われるままカチャッという音が鳴ったばかりの玄関を開ける。
「お邪魔します……」
当然ながら、家の中には誰もいない。
リトも、美柑も、ララも、ナナも、モモも、セリーヌも。本当に誰もいなかった。
「ルルーシュくん?」
返事はない。その代わり「ウィィィン……」と低い機械音が、かすかに響いていた。
「……何の音?」
古手川は耳を澄ませた。機械が動いているような音。しかも、どうやら床下から聞こえてくる。
「床下?……まさか」
家の奥へ進むと、普段は気づかなかった場所に、見慣れない扉があった。
「こんなところに……?」
扉を開ける。その先には、地下へ続く階段が伸びていた。古手川は目を丸くした。
「……地下室?」
少し迷った。勝手に入っていいものなのだろうか。しかしさっきから聞こえているこの機械音も、ルルーシュの声の残響も気になる。
「まさか……ララさんの発明品?」
それなら納得できる。あの家では、常識では考えられないような発明品が日常的に飛び出してくるのだ。古手川はため息をついた。
「……一応、見ておきましょう」
階段を下りていく。一段。また一段。やがて、視界が開けた。
「…………え?」
古手川の足が止まった。そこにあったものを理解するまで、数秒かかった。
巨大な人型機動兵器。
漆黒の装甲。
鋭く伸びた肩部。
巨大な翼のような装備。
金色のラインが黒い装甲を走り、薄暗い地下空間の中で不気味なほど存在感を放っている。
まるで、闇そのものが人の形を取ったかのようだった。
「な、何……これ……?」
古手川は呆然と呟いた。背部の赤い飛行ユニットに開いたコクピットがあった。
そして――。
「……あ」
そこに座っている人物を見つけた。
「ルルーシュくん!?」
「――古手川!?」
二人の声が、ほとんど同時に響いた。
ルルーシュはコクピットの中で驚いたように振り返っていた。作業用の端末を手にしている。いつもの制服姿とは違い、機械の調整作業をしているためか、袖をまくっていた。
「なぜ君がここに!?」
「それはこっちの台詞よ! 何なのよ、これ!?」
古手川が指差す。ルルーシュは一瞬黙った。そして、小さく息を吐く。
「……そういうことか」
「何が『そういうこと』よ!」
「いや、君がここまで来た経緯は分かった。だが、まさか地下まで来るとは思わなかった」
「だって、地下からこんな音が聞こえてきたら気になるでしょう!」
「それは……そうかもしれないな」
ルルーシュは苦笑した。しかし、古手川は納得できない。
「それより、説明して!」
「何を?」
「この巨大ロボットよ!」
「ロボットではない。ナイトメアフレームだ」
「そこはどうでもいいわよ!」
「いや、俺としては重要な違いなんだが……」
古手川は額を押さえた。
「……どうしてあなたの家の地下に、こんなものがあるのよ」
「俺の所有物だからだ」
「…………」
古手川は言葉を失った。
「……あなたの?」
「ああ」
「これが?」
「そうだ」
「……何で?」
ルルーシュは答えなかった。その沈黙が、古手川には妙に引っかかった。普段の彼なら、何かしらもっともらしい説明をする。だが今は違う。
視線を落とし、ほんの一瞬だけ表情を曇らせている。
「……必要だったからだ」
ようやく出てきた言葉は、それだけだった。
「必要って……」
「今は、詳しく話せない」
「……そう」
古手川は、それ以上追及しなかった。彼の表情を見れば、これ以上聞いても簡単には答えてくれないことくらい分かる。ただ、一つだけ気になることがあった。
「……あなた、本当にこれに乗ってたの?」
ルルーシュは少しだけ目を細めた。
「どうしてそう思う?」
「だって、操縦席にいるじゃない」
「整備しているだけだ」
「でも……」
古手川は改めて蜃気楼を見上げた。巨大な機体。その中央に座るルルーシュ。いつもの教室での姿とは、まるで違う。
普段の彼は、教師の質問にも涼しい顔で答え、女子に囲まれても動じず、男子たちとくだらない話をしている。
なのに今はこの巨大な機械の中心に座り、複雑なシステムを当たり前のように操作している。
まるで――。
「……なんだか、別人みたい」
思わず口から漏れた。
「何?」
「ううん。なんでもない」
古手川は誤魔化すように首を振った。しかし、どうしても目が離れなかった。ルルーシュがコンソールを操作する。指先が迷いなく動く。画面に表示された情報を一瞬で読み取り、必要な項目だけを調整していく。
「……すごい」
「何がだ?」
「え?」
「さっきから俺を見ているようだが」
「っ!」
古手川の肩が跳ねた。
「べ、別に見てないわよ!」
「そうか?」
「そうよ!」
ルルーシュは不思議そうに首を傾げた。その仕草が妙に腹立たしい。
「……古手川」
「何?」
「乗ってみるか?」
「え?」
ルルーシュは立ち上がった。そして、コクピットの縁へ足を掛ける。
「興味があるんだろう?」
「そ、それは……」
確かに興味はある。これほど巨大な機械を目の前にして、何も思わない方がおかしい。
「でも、いいの?」
「構わない。操縦させるわけではないからな」
ルルーシュは手を差し出した。
「足場が狭い。気をつけて」
「……ありがとう」
古手川はその手を取った。そして、コクピットへ乗り込む。
「わあ……」
想像していたより狭い。前方には巨大なモニター。左右には複雑な操作パネル。中央には操縦装置。
「これ、本当に一人で操作してたの?」
「ああ」
「こんなの、覚えるだけでも大変そう……」
「慣れれば問題ない」
「あなた、こういう時だけ妙に自信満々ね」
「こういう時だけ、というのは心外だな」
古手川は苦笑した。その時だった。
「……あっ」
足元の段差に気づかなかった。
「きゃっ!」
身体が傾く。
「古手川!」
ルルーシュが咄嗟に腕を伸ばした。古手川も反射的に彼の腕を掴む。
そのまま――。
「……っ!」
二人の身体がコクピットの座席へ倒れ込んだ。ルルーシュが背中から座席へ。古手川は、その胸元へ身体を預けるような格好になっていた。しかもルルーシュの手は古手川の生脚…太ももに触れてしまっていた。あと少しで下着に指先が到達しそうというくらいの感じであった。
「…………」
「…………」
一瞬。完全に時間が止まった。
「……す、すまない」
ルルーシュが先に口を開いた。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
「どこか痛めていないか?」
「平気よ……」
古手川はそう答えながら、慌てて身体を起こした。
顔が熱い。
「……悪かった。足場をきちんと説明しておくべきだった」
「あなたのせいじゃないわよ」
「いや、君を乗せたのは俺だ。注意を怠ったのはこちらの責任だ」
「だから大丈夫だってば!」
古手川は照れを隠すべく顔を逸らした。心臓が、妙にうるさい。ただ転んだだけ。ただの事故。
それなのに――。
どうしてこんなに意識してしまうのだろう。
「……古手川?」
「何?」
「顔が赤いが、どこか具合が悪いのか?」
「違う!」
思わず大きな声が出た。
「……そうか?」
「そうよ!」
ルルーシュは納得していないようだったが、それ以上は聞かなかった。
「ならいい」
その真面目な態度に、古手川はますます困惑した。本当に何も気づいていない。この人は、自分が今どんな顔をしているのかも分かっていないのだろうか。
「……もう、降りましょう」
「そうだな」
二人がコクピットから出ようとした、その時だった。ルルーシュが先に足を掛ける。
「ここから降りれば――」
「危ない!」
ルルーシュが声を上げた。しかし遅かった。古手川の足が、わずかに滑った。
「――っ!」
「古手川っ!」
彼女は咄嗟に体勢を立て直そうとした。だが、足場が狭い。バランスを崩した身体が、先に降りていたルルーシュの方へ倒れ込む。
「きゃっ!」
二人はそのまま床へ倒れた。
ドンッ!
「……っ!」
古手川は目を閉じた。しかし、痛みはほとんどなかった。恐る恐る目を開く。
「…………」
すぐ目の前に、ルルーシュの顔があった。あまりにも近い。古手川の思考が、一瞬止まった。
「……すまない!」
ルルーシュは慌てて身体を起こそうとした。だが、その前に彼女の顔を真剣に見つめる。
「大丈夫か?」
「え……」
「頭は打っていないか? どこか痛むところは?」
その眼差しは、真剣だった。からかう様子もない。気まずさをごまかす様子もない。ただ、本気で古手川の身を案じている。
「……だ、大丈夫」
「本当に?」
「本当よ……」
「ならよかった」
ルルーシュは安堵したように息を吐いた。
「すまない。二度も君を転ばせてしまった。俺の不注意だ」
「……もういいわよ」
「しかし――」
「いいって言ってるでしょ!」
古手川は慌てて顔を逸らした。胸の奥が、どうしようもなく騒がしい。
(何なのよ……これ)
ただの事故だ。そう、ただの事故なのに。
(なんで……こんなにドキドキしてるのよ……)
ルルーシュが立ち上がり、手を差し出してくる。
「立てるか?」
「……ええ」
古手川はその手を取り、身体を引き起こされる。その瞬間、また顔が近づいた。
「……っ」
「どうした?」
「な、なんでもない!」
慌てて手を離す。ルルーシュは不思議そうに彼女を見る。
「そうか」
「……そうよ」
古手川は深呼吸した。
落ち着け。
いつもの自分に戻れ。
相手はルルーシュだ。
ただのクラスメイト。
少し変わった転校生。
それだけ。
……のはずなのに。
先ほどの真剣な眼差しが、頭から離れなかった。
「ところで、古手川」
「な、何?」
「さっきの話だが」
「……うん」
「この機体のことは、他言しないでほしい」
古手川は少し驚いた。
「……分かったわ」
「ありがとう」
ルルーシュは静かに頭を下げた。
「君なら、理解してくれると思っていた」
その言葉に、古手川は少しだけ目を見開く。
「……どうして?」
「君は規則や責任を重んじる人間だ。だからこそ、これがどれほど危険なものかも理解できるはずだ」
「……確かに、そうね」
古手川は蜃気楼を見上げた。こんな巨大な兵器が、一般家庭の地下に存在している。普通に考えれば、とんでもないことだ。
「でも、一つだけ約束して」
「何だ?」
「この機体を使って、誰かを傷つけたりしないこと」
ルルーシュは黙って蜃気楼を見上げた。その横顔には、一瞬だけ深い影が落ちた。
「……分かっている」
短い返答。けれど、その声には妙な重みがあった。古手川は、また何かを感じた。
この人は、この機体をただの趣味や発明品として所有しているわけではない。もっと重い何かを、この機体と一緒に抱えている。
「……あなたって、本当に何者なの?」
思わず口に出た。ルルーシュは答えなかった。ただ、静かに古手川を見つめる。
「今は、まだ話せない」
「……そう」
古手川も、それ以上は聞かなかった。少なくとも今は。
「じゃあ、課題の相談は?」
「あ」
ルルーシュが目を瞬かせた。
「そういえば、そのために来たんだったな」
「もう……!」
古手川は思わず笑ってしまった。
「こんなものを見つけたせいで、完全に忘れてたわ」
「すまない。すぐに上へ戻ろう」
「ええ」
二人は地下室を後にする。階段を上りながら、古手川は一度だけ振り返った。薄暗い地下空間。その奥に佇む、漆黒の機体。
蜃気楼。
それはまるで、ルルーシュ自身の過去を象徴しているようだった。学校では決して見せない顔。誰にも話そうとしない過去。そして、そのすべてを静かに覆い隠している黒い機体。
――影。
古手川は、そんな言葉をふと思い浮かべた。
けれど同時に。
「……ルルーシュくん」
前を歩く彼の背中を見る。先ほど、自分を心配していた真剣な目。あの表情だけは、嘘には見えなかった。
「どうした?」
「……なんでもない」
古手川は小さく首を振った。そして、自分でも気づかないうちに、ほんの少しだけ頬を赤くした。地下に隠された巨大な影を知ってしまった。
その代わりに。彼女自身の中にも、まだ名前のつかない小さな感情が生まれていた。
それが何なのかは、古手川自身にも、まだ分からなかった。
一般的な感性を持つキャラに蜃気楼の存在が知られると面白そうだなと思って
ここから徐々に色んな人にルルーシュの秘密が知られてく感じかな( * . .)"