コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
ルルーシュはどんな内容の命令をToLOVEるの世界で初めて下すのか…あんま期待しないでくださいいやマジで(´•ᴗ• ก )՞
「ギャアアアアアアアッ!?!? も、モモォォーッ!?」
早朝の静寂を切り裂く、腹の底からの絶叫。
蜃気楼のコクピット内で静かに眠りについていたルルーシュは、重厚な装甲を透過して届いたその悲鳴に、ガバッと跳ね起きた。
「……何事だ!?」
手早くハッチを開け、瞬時に「警戒モード」へと思考を切り替える。
敵の奇襲か、あるいはララの新たな爆発兵器の誤作動か。ルルーシュは身を躍らせて階段を駆け上がり、悲鳴の発生源である二楼のリトの部屋へと向かった。
ドスン、と乱暴に扉を開け放つ。
「リト、無事か──」
言いかけたルルーシュの動きが、完璧に静止した。
目の前に広がっていたのは、まさに混沌(カオス)そのものの光景だった。
布団の上で腰を抜かし、顔を限界まで真っ赤にして泡を吹いているリト。
そして、そのリトの布団の中から、ゆったりと体を起こす少女──モモ。
彼女はほぼ裸──透け感のある極薄のベビードール一枚という扇情的な姿で、胸元を隠す素振りすら見せず、濡れたような瞳でこちらを振り返った。
「あら……おはようございます、ルルーシュさん♡」
「モ、モモッ……お前、なんで俺のベッドに入ってきてんだよぉぉっ!?」
「ふふ、リトさんがあんまり気持ちよさそうに眠っていらっしゃるから、つい……♡」
乱れた髪、肌に張り付くシーツ、そして小悪魔的なモモの微笑み。
ルルーシュの明晰な頭脳が、昨夜の地下室でのやり取りを一瞬でフラッシュバックさせる。
(……『私のお部屋にお招きしますのに』、か……)
冷や汗がスーッと背中を伝う。
もし昨夜、あの甘い誘いに乗って彼女の部屋へ行っていたら、今頃この惨状の中心にいたのは自分だったのではないか。
(……あぶなかった。昨日、あの誘いを断ったのは命拾いだったな……)
心底から安堵の吐息を漏らした元皇帝は、瞬時に表情を極めて紳士的な「他人の顔」へと切り替えた。
そして、実に申し訳なさそうに、スッと手を胸元に当てて優雅に一礼する。
「……なるほど。諸君、朝からお楽しみのところ、邪魔をしてしまったようだな。……これは失敬」
「ち、ちがう! 大違いだルルーシュ!! 誤解だぁぁぁっ! 俺は何もしてない! 目覚めたらこうなってたんだってば!!」
必死に手を振って叫ぶリトを余所に、モモはルルーシュに向けて蠱惑的に目を細め、くすりと悪戯っぽく微笑んだ。昨夜の借りを返すかのような、実に見事な仕返し(あるいは挑発)であった。
「……気にせず続けてくれ。俺は下で待たせてもらう」
パタン。
静かに、しかし断固とした手つきで扉を閉めるルルーシュ。
「ルルーシューーーッ!! 話を聞いてくれええええっ!!」
背後から響くリトの悲痛な絶叫を聞き流しながら、ルルーシュは「フッ……」と小さく鼻で笑い、階段を下りて行った。恐ろしい世界だが、どこか退屈だけはしそうにない。
その後、リビングではリトに対する美柑の冷ややかな視線と、激怒したナナの「このケダモノッ!」という罵声が飛び交う、極めて騒がしい朝食の時間が繰り広げられた。
「だから本当に俺は悪くないんだってば……!」
「はいはい、言い訳はいいから早くご飯食べちゃって。遅刻するよー」
「うう……ルルーシュ、信じてくれよ……」
「ああ、気にするなリト。男には口を閉ざさねばならぬ時もある」
「全然信じてないじゃん!!」
ララが「あはは、リトは今日も賑やかだね〜!」とパンを頬張り、モモが「ふふ、リトさんの慌てるお顔、ごちそうさまでした♡」と上品に紅茶を啜る。
そんな破綻した、けれど不思議と暖かい食卓の風景に、ルルーシュはどこか居心地の良さを感じていた。
食後、ルルーシュは地下室へ戻り、昨日見つけたアッシュフォード学園の黒い制服に袖を通した。
鏡に向かい、金のラインが入った襟元を整える。
(まずは、この世界での基盤を作らねばならん)
この異世界で生きる以上、いつまでも身元の分からない居候でいるわけにはいかない。
幸い、昨夜のうちにララのデビルーク由来の技術(と、彼女の気まぐれな協力)を少し借りて、この世界の公的データベースに必要な身元情報──「ルルーシュ・ランペルージ」としての戸籍データを滑り込ませる手筈は整えてある。
階上へ戻ると、カバンを持ったリトが待っていた。
「ルルーシュ、準備できたか? 今日は彩南高校の職員室まで一緒に行くよ。編入の手続きだろ?」
「ああ。世話になるな、リト」
「いいってことだよ! ……あ、でも学校ではあんな勘違い、絶対誰にも言わないでくれよな!?」
「フッ……善処しよう」
「絶対言う気だこの人……!」
頭を抱えるリトを引き連れ、ルルーシュは結城家の玄関の扉を開けた。
鮮烈な朝の光が視界を染める。
澄み切った青空、穏やかな風、そして遠く聞こえる登校中の生徒たちの声。
かつて世界のすべてをチェス盤に見立て、血と炎の中で時代を動かした少年──ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
彼は今、黒い制服のポケットに手を突っ込み、一人の高校生「ルルーシュ・ランペルージ」として、新しい世界の街並みへと一歩を踏み出した。
──世界を変えた少年が、今度は「日常」を変えていく。
その新しい物語の幕が、今、静かに上がろうとしていた。
朝の光が降り注ぐ彩南高校の校門を潜った瞬間、周囲の空気が露骨に変わった。
「ねえ、見てあの人……すごくカッコよくない!?」
「ハーフかな? 背も高いし、モデルさんみたい……!」
「彩南の制服じゃないよね? どこかの転校生かな……!?」
登校途中の女子生徒たちが足を止め、一斉にヒソヒソと囁き始める。
漆黒の生地に黄金の刺繍が映えるアッシュフォード学園の制服。凛とした立ち姿に、どこか神秘的で陰のある端正な顔立ち。ルルーシュが歩くだけで、女子たちの視線が磁石のように引き寄せられていった。
当の本人は、そんな狂騒などまるでどこ吹く風といった様子で、冷徹なまでに落ち着いた足取りで廊下を歩いている。
「うわ……すごいな、ルルーシュ。女子の視線が集中してるぞ……」
隣を歩くリトが肩を狭くしながら呟く。
その時、人集りの向こう側に、見覚えのある人物たちの姿があった。
大人しく可憐な雰囲気を纏った黒髪の少女──西連寺春菜。
そして、その隣で「ちょっと、廊下で立ち止まらないでちょうだい!」と厳しく注意を呼びかけている風紀委員──古手川唯。
ルルーシュたちが横を通り過ぎる際、春菜の頬がほんのりと朱に染まり、吸い寄せられるようにルルーシュの横顔を見つめた。
(えっ……!? さ、西連寺……!?)
リトの心臓が跳ね上がった。
密かに想いを寄せる春菜が、目の前でルルーシュを見つめている。
(いやいやいや! そんなはず……! 西連寺がルルーシュに惚れてる!? いや、でもルルーシュめちゃくちゃイケメンだし、紳士的だし……うわああ、どうしよう!?)
一人で勝手にパニックを起こして青ざめるリト。
一方、古手川唯もまた、怒鳴り散らしていた口を急に噤み、ルルーシュの姿を凝視していた。
(何かしら、あの生徒……。見慣れない制服だけど……あの佇まい、ただ者じゃないわ。それに、なんだか胸の奥がザワつくような……)
言葉にできない奇妙な胸の引っかかりを覚えながら、唯は遠ざかっていくルルーシュの背中を目で追っていた。
「リト、職員室はどちらだ?」
「あ、うん! この角を曲がった先の……うわっ!?」
角を曲がった直後、前方に立っていた女性とリトがぶつかりそうになった。
「あら、ごめんなさいね。……って、結城君? 朝から相変わらず賑やかね」
そこに立っていたのは、白衣を羽織り、妖艶で落ち着いた雰囲気を纏った美しい女性──養護教諭の御門涼子だった。
「み、御門先生! すみません、ちょっと慌ててて……」
「いいのよ。……それより」
御門の視線が、リトの隣に立つルルーシュへと注がれた。
魅惑的な紫色の瞳が、ルルーシュの全身を射抜くように見つめる。そして、彼女の視線は一直線に、ルルーシュの「左胸」へと落ちた。
「……君。服の上からでも分かるわ。身体の奥に、相当重い『痕跡』を隠しているわね」
「……なに?」
ルルーシュの眉間がピクリと跳ね上がった。
昨日、デビルークの天才科学者であるララに見抜かれたのと同じ。この女性もまた、タダの高校教諭ではない──ルルーシュの直感が即座に警戒アラートを鳴らす。
「ふふ、そんなに警戒しないで。私はただの保健室の先生……それと、ちょっとした『お医者様』よ。ねえ君、職員室に行く前に……少し保健室で私とお茶でもしない?」
「御門先生、ルルーシュは編入の手続きが──」
「いいのよ結城君、教頭への連絡なら私が後で入れておくわ。……さあ、いらっしゃい」
抗いがたい大人の包容力と、逃げ道を塞ぐ巧みな話術。
ルルーシュはふっと息を吐き、諦めたように首を振った。
「……フッ、良いだろう。案内してもらおうか」
重厚なカーテンで遮光された、静かな保健室。
ハーブティーの香りが漂う空間で、ルルーシュはパイプ椅子に腰掛け、差し出されたカップを受け取った。リトはソワソワと入口の近くで立ち尽くしている。
「さて……改めまして、御門涼子よ。よろしくね、ルルーシュ君」
御門はデスクの縁に腰を掛け、組んだ足を魅惑的に揺らしながら、柔らかく微笑んだ。
「単刀直入に言うわね。あなたのその胸の痛み……肉体の傷というより、次元を超えた時に発生する『因果の歪み』と、魂の痛覚ね? あなた……この世界(地球)の人間じゃないでしょう?」
「っ……!」
ルルーシュの瞳が一瞬、冷徹な光を帯びる。懐に忍ばせた拳銃の感触を意識しかけたが、御門の眼差しには敵意も、告発する意図も一切なかった。
そこにあったのは、すべてを温かく包み込むような、圧倒的な「大人の余裕」と包容力。
「驚かなくていいわ。私はこれでも宇宙医術のスペシャリストだから、異星人や異世界の事象には慣れているの。……リト君も知っているのでしょう?」
「あ……はい。昨日、うちに急に現れて……」
リトが気まずそうに白状すると、御門はルルーシュに向かって優しく目を細めた。
「辛かったでしょう。見知らぬ世界に一人で放り出されて、胸に消えない痛みを抱えたまま……強がって一人で抱え込もうとして。ここでは、誰もあなたを責めたりしないわよ」
「……っ」
その言葉は、過酷な「ゼロ・レクイエム」を遂行し、自らを悪と定義して死んだルルーシュの、一番柔らかい部分にそっと触れてきた。
戦略も、嘘も、ブラフも、この成熟した大人の前では一切の効力をなさない。
ルルーシュは深く息を吐き、かぶっていた仮面をゆっくりと降ろした。
「……フッ。一本取られたな。……そうだ、俺は君たちの言う『異世界』から来た」
ルルーシュはカップを置き、静かに語り始めた。
「俺のいた世界には、宇宙人も、このような穏やかな平和もなかった。そこにあったのは戦争と、奪い合いと、支配だ。……俺はその世界で皇帝となり、自らすべての憎しみを集め、最後は命を捨てて世界に平和を託した」
静寂が支配する保健室。
ルルーシュの口から語られる重苦しい過去に、リトは息を呑んで聞き入っていた。
「死んだはずの俺が、なぜこの世界に生きているのかは分からん。胸の痛みも……俺が奪ってきた数多の命と、罪の報いだろう。……それが、俺のすべてだ」
語り終えたルルーシュは、冷めた紅茶を見つめたまま口を噤んだ。
御門はしばらくの間、静かにルルーシュを見つめていたが、やがてふっと温かい溜息をつき、彼の頭にそっと手を置いた。
「……よく頑張ったわね、ルルーシュ君」
「……!?」
「世界を背負って、一人で戦って……本当に、偉かったわ。でもね」
御門はルルーシュの目線を合わせるように屈み込み、優しく微笑んだ。
「この学校にいる間は、あなたただの『高校生』よ。過去の罪だとか、皇帝だとか、そんな重い荷物は一度降ろしなさい。……ここではね、バカなことで笑って、ハレンチな騒動に巻き込まれて、そうやって生きればいいの」
「御門先生……」
ルルーシュの胸の奥で、カチリと何かが解ける音がした。
かつて世界を相手に戦った元皇帝は、大人の女性の温かい膝の上で、生まれて初めて「ただの少年」として扱われる安らぎを知ったのだった。
「結城君、あなたはもうすぐホームルームでしょう? ルルーシュ君のことは私に任せて、早く教室に行きなさい」
御門の言葉に、リトは「あ、はい! じゃあなルルーシュ、後でな!」と手を振りながら廊下へ駆け出していった。
静けさを取り戻した保健室で、ルルーシュはハーブティーを一口含み、微かに喉を湿らせた。
「……感謝する、御門先生。少し、心が軽くなった」
「ふふ、どういたしまして。いつでも話を聞いてあげるわ。……さて、重い昔話はここまでにして、これからの話をしましょうか」
御門は書類の束を整えながら、妖艶に微笑んだ。
「あなたがこの世界で生きていくには、まず学歴と居場所が必要よ。教頭には話を通しておいたわ。これから職員室で編入試験を受けてもらうけれど……大丈夫かしら?」
「問題ない。どのような学問であれ、俺の知識の域を出ることはない」
「あら、頼もしいこと。じゃあ行きましょうか」
職員室で行われた特別編入試験。
渡されたのは、国語、数学、英語、理科、社会の全5教科の高校2年分テスト問題だった。
結果は────全教科、完全満点の100点。
しかも、制限時間の半分も使わずにすべてを解答し終えていた。採点をしていた学年主任の教師は、眼鏡をズリ下げながら絶句していた。
「な、なんだこの解答は……! 数学の難問を独自の上級公式で解いているばかりか、英語はネイティブ以上の完璧な構文、歴史や社会に至っては教科書の誤植まで指摘しているぞ……! 君は一体、何者なんだ!?」
「ただの独学です。学問の基礎ができていれば、それほど難解なものではありません」
さらりと答えるルルーシュに、教師たちは生唾を飲み込んだ。
こうして、ルルーシュは「超絶的な頭脳を持つ天才転校生」として、明日からリトやララたちが在籍する2年A組へ編入することが正式に決定したのだった。
手続きを終え、御門に連れられて校内を案内されるルルーシュ。
陽の光が差し込む長い廊下、教室から聞こえる生徒たちの賑やかな声、運動場から響く掛け声──。
(……アッシュフォード学園と、よく似ている)
ルルーシュの脳裏に、かつて生徒会で過ごした黄金の日々が蘇る。
ミレイ会長の強引なイベント、シャーリーの眩しい笑顔、リヴァルの軽口、ニーナの没頭、そして……車椅子のナナリーの温かい手。
(俺はまた、このような場所に身を置くことになるのか……)
胸の奥に広がる切なくも愛おしい既視感に浸っていたルルーシュだったが、隣を歩く御門の言葉によって、その余韻は一瞬で打ち砕かれた。
「そういえばルルーシュ君。この学校に通うにあたって、一つだけ絶対に関わっちゃいけない人物がいるの」
「ん? それは生徒か? それとも教師か?」
「校長よ」
御門は心底嫌そうな顔をしてため息をついた。
「この彩南高校の校長なんだけど……言葉を選ばずに言えば、救いようのないド変態なの。隙あらば女子生徒を追い回してセクハラしようとするから、注意しておきなさいね」
「……は?」
ルルーシュは耳を疑った。一校の頂点に立つ教育者が、ド変態?
(一国の皇帝や将軍ならいざ知らず、学校のトップが変態だと……? この世界の権力構造はどうなっているんだ……)
呆れ果て、内心で「ギアスを使うかどうか迷わせる事象が、まさかそんなくだらない案件とはな……」と深い溜息をついた、その直後だった。
「待ちなさぁぁぁい! 美しい仔猫ちゃん逃げないでぇぇぇッ!!!」
ドタドタドタドタッ!と廊下の奥から響く不快極まりない重低音。
「キャアアアアッ!? 誰か助けてぇーッ! 校長がまた暴走してるーッ!」
悲鳴を上げて走ってくるのは、スタイルの良い女子生徒。
そして、そのすぐ後ろを……上半身裸にトランクス一丁という、正視に耐えない凄惨な格好をした小太りの男──校長が、口から泡を吹きながら猛猛しいスピードで猛追していた。
「ぬはははは! 君のみずみずしいプロポーション、校長先生がじっくり指導してあげるよぉぉッ!」
「ひええええっ! 気持ち悪いーッ!」
「なっ……!?」
ルルーシュはその地獄絵図のような光景に絶句した。
文字通り、目を疑うレベルの狂気。女子生徒は恐怖でパニックになり、転びそうになっている。
御門が「まったく、また始まったわね……」と呆れて足を出そうとした瞬間、ルルーシュの中で「元皇帝」としての、そして「紳士」としての理性が完全に弾け飛んだ。
(……ええい、見るに耐えん!! このような害悪、野放しにしておけるかッ!!)
ルルーシュは素早く女子生徒と校長の間に割り込み、立ちはだかった。
「な、なんだ君はぁ!? 私の愛のレッスンを邪魔する気かねッ!」
突進してくる変態校長。
ルルーシュは右手を顔の前に掲げ──ゆっくりと、左目の前を覆っていた前髪をかき上げた。
パキィン──ッ!!
左目の瞳孔が赤く発光し、鳥のような紋章──「絶対遵守のギアス」が鮮烈に浮かび上がる。
ゼロ・レクイエムを終え、この異世界へと渡ってきてから、初めて解放する絶対遵守の力。
世界を破滅させ、世界を再構築した絶対の王権が、いま、眼前の「裸の変態校長」へと照準を合わせた。
(命令する……!)
ルルーシュの冷徹な声が、ギアスの波動とともに校長の脳幹へと直接突き刺さる。
「──校長! 今すぐに女子生徒に謝罪し、校内で女子生徒を追い回すのを金輪際やめろ!!」
「────ッ!?」
校長の瞳の周りに、赤いリング状の光線が侵食していく。
「あ……あああ……!イエス・ユア・ハイネス!!」
ギアスの絶対命令に書き換えられた校長はルルーシュに敬礼した。そしてそのままくるりと向きを変えると、女子生徒に謝罪しながら校長室へと走っていった。
「うおおおっ! 申し訳ありませんでしたぁぁぁッ!!」
遠ざかっていく変態の背中。やがて遠くから「申し訳ありませんでしたーッ!」という校長の叫び声と、土下座をする音が響き渡った。
「……ふう」
ルルーシュは左目を手で覆い、ギアスを消灯させた。
助けられた女子生徒は「あ、ありがとうございました……!」と顔を赤くして頭を下げ、走っていった。御門も「あら……なんだかよく分からないけど、大人しくなったわね?」と首をかしげている。
一人取り残されたルルーシュは、静かに天を見上げた。
(……俺は……)
かつて生き残るために周りにいた兵士を自決させたところから始まり、実の兄クロヴィスを殺害し、実の姉コーネリアと智謀を競い、黒の騎士団を率い、数多の知略と闘争の末に実の兄シュナイゼルと世界の覇権を賭けてチェスを打った際に幾度となく使った、あの「絶対遵守のギアス」。
(俺は一体、何のために……この力を解放したのだ……)
あまりにも無駄遣いすぎるこの世界でのギアスの初使用。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの胸に、かつてないほどの虚しさと脱力感が押し寄せていたのだった。
「きゃああああっ! すごいカッコよかった!!」
「校長を一言で撃退しちゃったよあのお兄様! 奇跡じゃない!?」
「ねえ、今の見た!? あの横顔、美しすぎるんだけど……!」
廊下の曲がり角や教室の窓から一部始終を目撃していた女子生徒たちから、一斉に黄色い悲鳴が上がった。
校長という理不尽な暴走機関を一瞬で平伏させた鮮やかすぎる手腕。そして、前髪をかき上げた瞬間の、息を呑むほどに鋭く美しい横顔。女子たちの目は一瞬でハートマークに染まり、廊下は熱狂の渦へと巻き込まれていく。
一方で、周りの男子生徒たちの反応は真逆だった。
「チッ……なんだよあの気取った転校生はよ……」
「校長を脅してイキってんじゃねーぞ……!」
「女子にチヤホヤされやがって……! ギルティだ、ギルティ!!」
メラメラと燃え上がる男子たちの凄まじい嫉妬と怨嗟の視線。
しかし、そんな周囲の騒ぎなど、ルルーシュの耳には一切届いていなかった。
(やってしまった……。ギアスの初使用が、まさかあのような変態校長の矯正だとは……!)
額に手を当て、頭痛をこらえるように天を見上げるルルーシュ。
だが、その真横で、そして少し離れた廊下の陰で、言葉を失って絶句している者が二人いた。
(……なによ、今の……?)
御門涼子は、いつもの余裕ある微笑みを完全に消し去り、黄緑色の瞳を大きく見開いていた。
宇宙医術の権威であり、様々な超常現象を目にしてきた彼女ですら、今起きた現象の異常さを見抜いていた。
ルルーシュが目を光らせた瞬間、空間の波動が一瞬だけ歪み、校長の脳波と精神データが強制的に書き換えられた。薬物でも催眠術でもない。精神そのものへの不可逆な干渉──。
(言語による命令の一括上書き……? まさか、あの子の言っていた『世界を変えた力』って……)
御門の背中に、ひやりとした冷汗が伝わる。
そしてもう一人──物陰から息を呑んで見ていた結城リトだった。
「(い、一言命令しただけで……あの暴走した校長が、急に正気に戻って土下座しに走っていった……!?)」
リトは己の目を疑った。
ララの発明品でも、デビルークの兵器でもない。ルルーシュ自身の『力』。
言葉一つで他人の意志をねじ曲げ、絶対の従属を強いる、恐ろしくも冷徹な王の力──。
「……あ」
呆然と立ち尽くすリトの視線の前に、ゆっくりと歩み寄ってくる影があった。
ルルーシュだ。
彼は何事もなかったかのように前髪を直し、アッシュフォードの制服の襟元を整えながら、リトのすぐ横へと差し掛かる。
「ル、ルルーシュ……今のって……」
リトが引きつった声で尋ねようとした、その瞬間。
ルルーシュは足を止めることなく、ただ横目をリトに向け──その鋭い瞳に、わずかな苦笑と深い信頼の光を宿らせて呟いた。
「……今夜、話す」
低い、けれど静かに響く声。
すれ違いざまにそれだけを言い残すと、元皇帝は不意に巻き起こった女子たちの歓声と男子たちの嫉妬の視線の中を、何事もなかったかのように優雅に通り抜けて行った。
一人取り残されたリトは、去っていくルルーシュの背中を見つめながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
今夜、自分はこの男の──ルルーシュ・ランペルージという男の「本当の過去」と「本当の力」を知ることになるのだと、予感しながら。
一応一通り確認して修正・加筆した上で投稿してますけど、見落としてたら遠慮なく報告してください
ToLOVEる自体、数年前に読んだきりなのでまた近いうちに買い直そうかな…
ルルーシュのギアスの用途が元の世界と比べてくだらなすぎるけど、これはこれで平和だしいいのかなー、と( * . .)"