コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
ここはコードギアスの色がかなり強いかも( * . .)"
放課後の夕闇が迫る結城家。
リトの部屋は、窓から差し込む茜色の陽光によって赤銅色に染まっていた。
机の縁に腰を掛け、静かに目を閉じるルルーシュ。
その向かい側で、リトは落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりしていたが、やがて意を決したようにルルーシュの前に立ち止まった。
「……ルルーシュ。昼間のこと、教えてくれ」
リトの直球な問いかけに、ルルーシュはゆっくりと瞼を開いた。
「校長が……急に君の命令に従って、女の子から離れてっただろ。あの時、君の左目が真っ赤に光ったのを見たんだ。……あれは、一体何なんだ?」
問いただすリトの声には、困惑と、ほんの少しの恐怖が混ざり合っていた。言葉一つで人間の意志を奪い、思い通りに操る力。それは、これまで数々の宇宙人やハチャメチャな科学技術を見てきたリトにとっても、根底から異質で恐ろしいものに映っていた。
ルルーシュは逃げることも、誤魔化すこともせず、まっすぐにリトの瞳を見つめ返した。
「……『絶対遵守のギアス』」
「……ギアス……?」
「ああ。俺の左目に宿る、人の心を歪め、いかなる命令をも絶対に強制させる力だ」
ルルーシュは自らの左目を指先で軽く触れながら、淡々と、しかし偽りのない声で語り始めた。
「対象と直接目を合わせ、口頭で命令を下すことで、相手の記憶や精神を書き換える。抗うことは不可能な絶対の王権……それが俺の持っている『力』の正体だ」
「人の……心を、書き換える……」
リトはゴクリと唾を飲み込んだ。
言葉通りの「恐ろしい力」だった。もしその気が判定すれば、目の前の男は世界中の人間を自分の意のままに操り、意図的に戦争すら起こすことができる。
「昼間の校長も、俺が『追い回していた女子生徒に謝罪し、金輪際校内で女子生徒を追い回すな』と命じたからこそ、あの行動に出た。……くだらない使い道だったがね」
ルルーシュは自嘲気味に息を吐いた後、ふっと表情を消した。
部屋を包む沈黙。
夕日の影が二人の間を分かつように長く伸びていく。
ルルーシュは、リトの拳が微かに震えているのを見逃さなかった。自分を見る目に宿る、拭いきれない恐怖と警戒心。
(当然の反応だ……。人の意志を奪う力を前にして、恐怖を感じない人間などいない)
かつてギアスの真実を知った自分の実の妹や、黒の騎士団の仲間たちがそうであったように。
ギアスという力は、人を孤独にし、人と人との絆を切り裂く魔王の毒なのだから。
ルルーシュは静かに机から降り立ち、リトとの距離を一歩詰めた。
そして──嘘偽りのない、澄み切った真剣な眼差しで、リトの目を真っ直ぐに見据えた。
「リト。お前が俺を恐れるのは、当然のことだ」
「ルルーシュ……」
「だが、これだけは覚えておいてほしい。俺はこの世界で誰かを支配するつもりも、己の野望のためにこの力を振るうつもりもない。そして──」
ルルーシュは右手を自らの左胸──かつて剣で貫かれたあの傷痕の位置に当て、深く言葉を刻み込むように言った。
「俺を温かく迎え入れ、行き場のない俺に居場所をくれたお前や、美柑、ララたちに対し……俺がこのギアスを使うことは絶対にない。それを、俺の魂に誓おう」
その瞳には、かつて世界を欺いた「魔王」の冷徹さは微塵もなかった。
そこにいたのは、ただ自分を救ってくれた親友(リト)に対し、誠実に恩を返そうとする一人の少年の姿だった。
「……っ」
リトは目を見張り、ルルーシュの真摯な誓いを受け止めた。
部屋を漂っていたピリついた緊張感が、夕風とともにゆっくりと溶けていく。
「……そっか」
リトの表情から、すーっと強張りが消え、いつものお人好しで温かい苦笑いが戻った。
「そっか……わかったよ、ルルーシュ。俺、お前を信じるよ」
「……いいのか? 簡単に人を信じれば、足をすくわれるぞ」
少し意外そうに眉をひそめるルルーシュに、リトは頭を掻きながら笑った。
「だって、本当のこと言ったら人を操れる力なんて、めちゃくちゃ怖いに決まってるさ。……でも、そんな力を持ってるルルーシュが、すごく悲しそうな顔で俺たちに誓ってくれたんだ。嘘をついてるようには、とても見えないよ」
「リト……」
「それにさ! 朝の校長の件だって、結局は困ってた女の子を助けるためだったんだろ? 根っからの悪い奴がやるようなことじゃないよ」
リトはそう言って、照れくさそうに鼻の下を擦った。
ルルーシュは一瞬、呆けたように目を見張り──やがて、フッと負けを認めたように口元を緩めた。
「……フッ、お前は本当に……おめでたいほどのお人好しだな」
「なんだよそれ! 人がせっかく信じるって言ってるのに!」
「褒めているんだ。……感謝する、リト」
二人の間に流れる、確かな信頼の空気。
ルルーシュにとって、この異世界で初めてできた「自分の秘密を共有できる存在」──それが結城リトという少年だった。
「よし! じゃあ秘密も打ち明けてくれたことだし、夕飯にするか! 今日の美柑のメニュー、ハンバーグの残りで作ったドリアらしいぞ!」
「ほう、それは楽しみだな」
二人で部屋を出ようとした、その時──。
──ドカーンッ!!!!
「きゃあああっ! リト〜! たすけて〜〜っ!!」
1階から響き渡る爆発音と、ララの絶叫。
「うわああああっ! またララの発明品が暴走したぁぁッ!?」
頭を抱えて廊下へ飛び出すリト。
ルルーシュは深いため息をつきながら、アッシュフォードの制服の袖を捲り上げた。
「……やれやれ。ギアスなど使わずとも、この家の日常を生き抜くこと自体が、最大の戦いのようだな」
茜色の夕暮れの中、元皇帝の「退屈とは無縁な第二の人生」は、今日も賑やかに続いていくのだった。
「あー……もう! ララ、部屋の中でワープ実験するのは禁止だって言ってるだろ! 美柑のドリアが焦げちゃうところだったんだぞ!」
リビングへ駆け下りたリトが、煙の上がる廊下で頭を抱えて叫んでいた。
ララは「えへへ〜、ごめんごめん! 『すいすいお掃除くん』が暴走しちゃってさ〜!」と黒焦げの掃除機のような機械を抱えて笑っている。
「もう、二人とも静かにして! ご飯冷めちゃうから席について!」
美柑の怒声が飛び、夕食の準備が整う。
今夜の献立は、昨日の残りをアレンジした特製ハンバーグドリアと、新鮮なサラダ。香ばしいチーズの焦げた匂いが食欲をそそり、リビングに立ち込めていた煙もララの換気器であっという間に吸い出された。
「それじゃあ、いただきまーす!」
ララやモモ、ナナたちが賑やかにスプーンを動かし始める。
ルルーシュもまた、美柑から渡されたスプーンを取り、アツアツのドリアを静かに口へと運んだ。濃厚なホワイトソースと肉汁の旨味が広がり、思わず吐息が漏れる。
「……美味いな。美柑、料理のセンスが実に素晴らしい」
「えっ……ありがと、ルルーシュさん。お口に合ってよかった」
照れくさそうにする美柑。
そんな和やかな食卓の空気を楽しんでいたルルーシュだったが、ふと、隣で神妙な顔をしてドリアを突いているリトに視線を向けた。
リトは先ほど自室で聞いた「ギアスの真実」の余韻がまだ残っているのか、どこか上着の襟元を気にするように落ち着かない様子だった。
(……フッ、生真面目な奴だ)
ルルーシュはスプーンを置くと、グラスの水に軽く口をつけ、隣のリトへ向けて、家族には聞こえないような落ち着いた低い声で語りかけた。
「……リト」
「え? あ、なに、ルルーシュ?」
リトがビクッと肩を揺らして視線を向ける。
ルルーシュは周囲の会話を遮らないよう、絶妙な声量と洗練された仕草で、リトの目だけを真っ直ぐに見据えた。
「昼間の学校での件だが……安心していい」
「え……?」
「俺はお前の『恋路』に手を出すつもりはない。……どのような手段を使おうと、な」
「〜〜〜〜っ!?」
リトの顔が、一瞬で茹でダコのように真っ赤に染まった。喉に詰まったドリアを危うく吹き出しそうになり、ゴホゴホと激しく咳き込む。
「け、ケホッ! なっ……ななに言ってるんだよルルーシュ急にっ! 恋路って何のことだよ!?」
「フッ、自覚がないのか? 昼間、廊下で会ったあの黒髪の少女──西連寺と言ったか。お前が彼女に向ける視線を見れば、察しはつく」
ルルーシュはニヤリと可笑しそうに口元を緩め、リトにだけ伝わる「真の意図」を暗に込めて囁いた。
(お前が恐れていた『力』を使って、女子の気を引くような真似も、お前の好きな相手を横取りするような真似も絶対にしない……ということだ)
二人きりの自室で交わした誓い。
「ギアス」という忌むべき禁忌の単語は一切使わず、けれどリトの疑念と不安を完璧に払拭してみせる、ルルーシュ流の粋で完璧なフォローだった。
「だ、だから西連寺とは別にそういうアレじゃなくて……! っていうか、なんで俺の視線で分かっちゃうんだよ!?」
「見れば分かる。俺の目は誤魔化せんよ」
優雅に微笑むルルーシュに対し、リトは「うう……」と耳まで真っ赤にして俯くしかなかった。
「あれ〜? リト、お顔真っ赤だけど熱でもあるの〜?」
ララが首をかしげて顔を近づけてくる。
「な、なんでもないってララ! ルルーシュが変なこと言うからだろっ!」
「ふふ……リトさんは相変わらず素直じゃありませんわね♡」
モモがくすくすと上品に微笑み、
「ふん! どうせまたハレンチなこと考えてたんでしょ!」
ナナがジト目でミカンを口に運ぶ。
「もうリト、ご飯中に騒がないの」
美柑の呆れ声が響き、食卓は再び賑やかな笑い包まれた。
(……ギアス、か)
ルルーシュは賑やかにお喋りを続ける結城家の人々を静かに見つめた。
人の心を強制し、意志を奪う絶対の王権。
その力を誰にも知られてはならない。そして、決してこの平和な世界で悪用してはならない。
それは、リトと自分だけの間に交わされた「秘められた約束」であり、二人きりの時以外は絶対に口にしてはならない不文律。
自分の過去の業も、左目に秘めた毒も、この賑やかな食卓の光の中に溶かして隠せばいい。
「ルルーシュさん、ドリアのお代わりあるから言ってね!」
美柑が笑顔で声をかけてくる。
「ああ、ぜひいただこう」
ルルーシュは頷き、温かい皿を受け取った。
過去を隠し、力を秘め、二重生活を歩んでいた少年。
だが、その瞳に宿る光は、かつて世界を壊そうとしていた頃の冷たさではなく、いま目の前にある「小さな日常」を慈しむ、穏やかな温もりに満ちていたのだった。
ルルーシュのギアスについて初めてこの世界でしっかりと詳細を知ることになったのはリトでした
ここはどうしても譲れません
ToLOVEるにおける男同士の友情ってあんまりないから割と書いてて新鮮だった( * . .)"