コードギアス 騒動のルルーシュ 〜 Lelouch of ToLOVE Ru 作:elimin
毎度タイトルもここで書く内容も頭捻ってます( * . .)"
ちなみにこのペースで話を投稿できるのは事前に数ヶ月かけて文章を溜めていたからです(コードギアス見たのは実は今年に入ってから)
メモアプリが重い…
翌朝──。
ルルーシュは姿見の前に立ち、結城家であらかじめ用意してもらった新しい制服に袖を通していた。
アッシュフォード学園の黒と金の漆黒の制服から一転、彩南高校の標準制服──清潔感のある白い半袖ワイシャツに、緑の長ズボン。
「……ふむ」
本来ならどこにでもあるごく普通の高校生の装い。しかし、すらりと伸びた長身、引き締まった身体のライン、そして何より洗練された佇まいと端正な顔立ちが合わさることで、まるで高級ブランドのモデルがカジュアルを着こなしているかのような、圧倒的な洗練さを醸し出していた。
「うわ……ルルーシュ、それすごく似合ってるよ。本当に同じ制服か……?」
カバンを手にしたリトが、玄関で思わず溜息を漏らす。
「そうか? 特別な着こなしをしているわけではないが……まあ、この街の日常に溶け込むにはこれが一番だろう」
「いや、溶け込むどころかめちゃくちゃ目立つと思うけど……」
苦笑いするリトと共に、ルルーシュは二度目の登校路へと歩み出でた。
校門を潜り、校舎の階段を上って到着したのは、2年A組の教室前。
ガラガラと扉が開くと、朝の静けさを破るようにクラス内が騒然となった。
黒板の前に立ったヨボヨボの老教師──担任の骨川先生が、チョークを握る手を震わせながら、掠れた声で黒板に文字を滑らせる。
『ルルーシュ・ランペルージ』
整った文字が黒板に刻まれると同時に、骨川先生がゴホゴホと咳き込んだ。
「えー……本日から我が2年A組に編入することになった、ルルーシュ・ランペルージ君じゃ……。ほれ、挨拶を……」
チョークを落としそうになる老教師に対し、ルルーシュは素早く手を差し伸べ、落ちかけたチョークを優しく受け止めた。そして、骨川先生の背中をそっと気遣うようにさする。
「大丈夫ですか、先生。お顔色が優れないようです、どうぞお座りください」
「おお……なんと気遣いのできる生徒じゃ……ありがとう、ルルーシュ君……」
その一連の洗練された、あまりにも紳士的で温かい振る舞いに、教室中の女子生徒たちから一斉に歓声と溜息が漏れ跳んだ。
「きゃああっ! 見た!? 今の立ち振る舞い!」
「顔だけじゃなくて心までイケメンなんて反則でしょ……!」
「昨日、校長を撃退したのあの人よね!? すっごい素敵……!」
女子たちの目が一瞬でハートマークに変わる一方で、男子生徒たちの席からは凄まじい地獄の嫉妬の視線が集中する。
「チッ……気取りやがって……!」
「猿山、見たかよあいつ! 初日から女子の心を独占だぞ!」
「許せん……! リトの奴、なんであんな奴と知り合いなんだ!」
猿山ケンイチが血の涙を流しながら机を叩き、リトは「俺に言われても……」と頭を抱えて肩を小さくした。
教室の後方には、好奇心旺盛な瞳を輝かせる宇宙人アイドル・ルンや、恥ずかしそうに頬を染めてルルーシュを見つめる西連寺春菜、そして無邪気に手を振るララの姿もあった。
「静かにしなさい! 授業前ですよ!」
パンッ!と教壇を叩く甲高い声。
真面目な顔で起立し、クラスの騒がしさを一すの厳しさで制したのは、風紀委員の古手川唯だった。
しかし、その唯もまた、教壇に立つルルーシュへと視線を向けた瞬間、ピクリと肩を揺らした。
(昨日の……転校生……。近くで見ると、なんて整った顔立ちなの……。ううん、それ以上に……)
ルルーシュがすっと姿勢を正し、クラス全体を見渡す。
「ルルーシュ・ランペルージだ。訳あってこの街に引っ越してきた。分からないことも多いが、よろしく頼む」
完璧な微笑みと、癖のない澄んだ声。
骨川先生が満足そうに頷き、ルルーシュの席を指差し指示した。
「よしよし……ではルルーシュ君、君の席はあの窓際の一番後ろ……古手川さんの隣じゃ」
「承知しました」
ルルーシュは静かな足取りで廊下の通路を歩き、指定された席へと向かう。
その隣の席で、古手川唯は背筋をピンと伸ばし、どこか緊張した面持ちでルルーシュが近づいてくるのを見上げていた。
席に腰を下ろしたルルーシュは、隣の唯へと視線を向け、紳士的に小さく会釈した。
「よろしく頼む、古手川さん」
「……ええ。風紀委員の古手川唯よ。……校内の規律を乱すようなハレンチな真似は、絶対に許さないからね!」
少し力みの入った声で突っぱねる唯。
だが──その「声」がルルーシュの鼓膜を揺らした瞬間。
「っ……!?」
ルルーシュの身体が、一瞬だけ硬直した。
凛としていて、真っ直ぐで、どこか不器用な温かみを秘めたその声の響き。
脳裏に一瞬でフラッシュバックするのは、かつて車椅子の上で自分を呼び、最後には血に染まった自分の手を握りしめて泣き叫んでいた、最愛の妹の姿──。
(ナナリー……なのか……?)
あり得ない。目の前にいるのは、この世界の高校生であり、全くの別人だ。
だが、その声の波形は、あまりにもルルーシュの心の最も深い場所に残る「妹の面影」と重なりすぎていた。
ルルーシュの瞳に、ほんのわずかな切なさと、愛おしさと、痛みが混ざり合った複雑な影が落ちる。
唯は、自分の声を耳にした途端にルルーシュが魅せた、その悲しげで深い眼差しに思わず息を呑んだ。
(な……何かしら、今の目……? まるで、すごく大切な人を遠くから見つめるような……)
ドクン、と唯の胸が高鳴る。
「……ルルーシュ君……? 私の顔に、何か書いてあって……?」
唯の問いかけに、ルルーシュはハッと正気に戻り、すぐに完璧な笑みを張り直した。
「……いや、すまない。君の声を聞いていると……離れた場所にいる妹を思い出してね」
「い、妹……さん……?」
「ああ。君のように筋が通っていて、優しい声だった」
さらりと、けれど本気で呟かれたその言葉。
唯の頬が一気にカッと熱くなった。
「なっ……! は、ハレンチな口説き文句は減点よっ! 妹だなんて……そんなお世辞で誤魔化されないわよ!」
慌ててプイッと横を向く唯だったが、その耳たぶは真っ赤に染まっていた。
そして、胸の奥で湧き上がる「この人は、一体どんな過去を抱えているんだろう」という、消せない興味と動揺。
窓から差し込む朝の光の中、古手川唯の隣で、ルルーシュの「彩南高校での学園生活」が、静かに、そして波乱含みに動き始めたのだった。
キーンコーンカーンコーン──。
4時間目の授業終了を告げるチャイムが響き渡り、教室内に一気に解放感が広がった。
「ふいーっ、やっと昼休みかぁ!」
「リト、一緒に購買行こうぜ! 焼きそばパン争奪戦だ!」
猿山たちがゾロゾロとリトの席の周りに集まり始め、教室のあちこちで賑やかな話し声が弾け出す。
だが、窓際の最後列──ルルーシュ・ランペルージの席の周りだけは、まるで時間の流れがそこだけ止まっているかのように静まり返っていた。
ルルーシュは頬杖をつき、肘を机に預けたまま、窓の外に広がる青空を静かに見つめていた。
(……古手川唯、か)
授業中、教科書を読む彼女の声、先生の問いかけにハキハキと答える声、隣で「姿勢を正しなさい」と注意してくる声。
そのすべてが耳に届くたび、胸の奥底で消えかけた火種が不意に燻り出すようだった。
──凛とした声の響き。
──真面目で、不器用で、まっすぐに自分の信じる正しさを貫こうとする響き。
(まさか……声の波形がこれほどまでに似ているとはな)
目を閉じれば、今にも鮮烈に蘇るあの日。
玉座という名の自ら望んだ処刑台。
血に染まった自分の白い手を、小さな両手で必死に握りしめていた少女。
世界中がゼロを称える歓声をあげる中で、ただ一人、世界の真実と兄の真意を知り、魂を搾り出すように泣き叫んでいたあの声。
『ダメです! 目を開けてください、お兄様!!』
『私を……私を置いていかないで……!』
『愛しています……! お兄様、愛していますッ!!』
(……ナナリー)
刺された胸の奥が、冷たく、熱く疼く。
あの愛しい叫びと、胸を貫いた剣の感覚は、生涯自分から離れることはないのだろう。
自分はすべてを壊し、すべてを繋ぎ、そして死んだはずだった。なのに今、こうして見知らぬ世界の穏やかな風に吹かれ、かつての妹の面影を宿した声を聞きながら生きている。
(俺は……お前に、平和な明日を残せただろうか……)
ふっと、長いまつ毛を落とし、物憂げな眼差しで遠くを見つめるルルーシュ。
完璧な横顔に落ちる、かすかな哀愁と影。
──だが、彼自身は全く気づいていなかった。
その「無自覚な美貌と切ない雰囲気」が、周囲にどれほどの破壊力をもたらしているかを。
「ねえ……見て……っ」
「嘘でしょ、何あの絵画みたいな美しさ……」
「なにか悲しい過去でもあるのかな……抱きしめてあげたい……っ!」
遠巻きに見ていた女子たちが、胸をキュンと押さえて次々と撃沈していた。
普段は自信満々で理知的な転校生が見せた、ほんの数秒間の「儚げな影」。ギャップ萌えという言葉では片付けられないほどのミステリアスな色香に、女子たちのハートは完全に射抜かれていた。
(……な、何かしら……っ!?)
そして隣の席の古手川唯もまた、教科書を片付ける手がピタリと止まっていた。
ちらりと盗み見たルルーシュの横顔。
先ほど自分が「妹を思い出す」と言われた時の言葉。ただのお世辞や口説き文句だと思っていたのに、いま目の前にいる彼は、本当に遠い世界に行ってしまった大切な妹を思って、胸を痛めているようにしか見えなかった。
(あんな……あんな哀しそうな目をするなんて……)
ドクン、ドクンと胸が高鳴る。
いつもなら「ハレンチな妄想はダメよ!」と自分を叱咤するところだが、今のルルーシュが纏う影はあまりにも深く、唯の生真面目な心を激しく揺さぶっていた。
(私……何か失礼なこと言っちゃったのかしら。あの声……私が怒鳴った声で、傷つけちゃったの……?)
気になる。気になって仕方がない。
風紀委員として規律を守らせる立場でありながら、目の前の男の「秘められた過去」という最大の謎に、唯の心は完全に囚われ始めていた。
一方、当のルルーシュはといえば──。
(……ふむ、昼飯は美柑が持たせてくれた弁当があったな)
感傷からあっさりと頭を切り替え、カバンから愛妻弁当ならぬ「妹手作り弁当」を取り出そうとしていた。
己の罪深さにも、周囲の女子を総ノックアウトしていることにも全く無自覚なまま、罪な男・ルルーシュの平穏(?)な日常は続いていく。
カバンから美柑の手作り弁当を取り出した、まさにその時だった。
「ねえねえルルーシュく〜ん! ちょっとウチと付き合ってよ〜!」
パンッと威勢よくルルーシュのデスクに両手を突いてきたのは、制服のスカートを短く穿きこなした明るいギャル──籾岡里紗だった。そのすぐ隣には、メガネを指でクイッと押し上げながら興味津々の瞳を輝かせるツインテール少女──沢田未央が並んでいる。
「ちょっ、籾岡さん……! ちょっと、急に馴々しく話しかけちゃルルーシュくんびっくりしちゃうでしょ!」
隣の席から古手川唯が慌てて起立し、二人を制しようとする。しかし、二人の勢いは止まらない。
「いいじゃん古手川〜! だって気になって夜も眠れなかったんだからさ!」
「そうですよ!昨日の昼間、あの暴走した校長を一言で土下座させたって本当ですか!? どんな魔法使ったんですか!?」
瞬く間にルルーシュの席の周りには人山ができあがり、女子生徒たちの質問攻めが怒涛のように押し寄せてきた。
「どこから転校してきたの〜?」
「彼女はいるの!?」
「好きなタイプは!?」
「連絡先教えてよ〜!」
本来なら、いきなりの詰問に辟易するところだろう。だが、ルルーシュは眉ひとつ動かさず、完璧な角度で洗練された笑みを浮かべた。
「みんな、一度に尋ねられては答えきれないな。一つずつ話そう」
その低く落ち着いた美声と、大人の余裕すら感じさせる対応力に、籾岡と沢田は「キャーッ!」「声までイケメン!」と頬を染めて悶絶する。
「まず、昨日の校長先生の件だが……特別な手など使っていないよ」
ルルーシュはすっと視線を落とし、誰もが納得せざるを得ない「誠実な嘘」を口にした。
「人の心理というものは、極度の興奮状態にある時ほど、理性的で強い言葉に弱くなるものだ。俺はただ、校長先生の教育者としての良心に訴えかけただけに過ぎない」
「ええっ!? 『女子を追い回すな』って言っただけなのに!?」
「心理学の応用というやつだ。……とはいえ、少々乱暴な解決だったことは反省しているよ」
さらりと完璧なロジックで説明してみせるルルーシュ。
実際にはギアスという「絶対の強制力」を行使したのだが、この完璧すぎる弁明に沢田未央はメガネの奥の目を輝かせた。
「すごい……! 単なる腕力じゃなくて、知性で解決したんですね! 知的な男性って素敵です……!」
「ねえねえルルーシュくん、今度放課後にモールでカフェ行かない〜? 私が案内してあげるからさ!」
籾岡がグイッと顔を近づけて誘いをかける。
ルルーシュは「申し訳ないが、しばらくは新居での生活基盤を整えるのに忙しくてね。またの機会にしよう」と、相手のプライドを傷つけない完璧な言い回しでスマートに辞退してみせた。
(な、なんて完璧な受け答えなの……! 全くスキがないわ……!)
隣で見ていた古手川唯は、あまりのスマートさに絶句していた。
そんな喧噪の様子を、少し離れた席からお弁当箱を抱えて見つめていた人物がいた。
西連寺春菜だ。彼女は可憐な瞳を不安そうに揺らし、隣のリトへとそっと声をかけた。
「結城君……ルルーシュ君って、最近から結城君のお家に泊まってるんだよね……?」
「あ、うん! 西連寺! そうなんだよ、ひょんなことから一緒に暮らすことになっちゃってさ」
リトは春菜と話せたことに鼻の下を伸ばしかけつつも、慌ててルルーシュのフォローに回った。
「で、でもルルーシュはすごく良い奴なんだ! 頭もめちゃくちゃ良いし、見た目は気取ってるように見えるかもしれないけど、全然威張ったりしないし!」
「ふふ、結城君がそこまで言うなんて、本当に素敵な人なんだね」
春菜はふわりと優しい微笑みを浮かべると、意を決したようにルルーシュの席へと歩み寄っていった。
「あの……ルルーシュ君」
「ん? 君は……」
人集りの隙間から小さく声をかけた春菜に対し、ルルーシュは群がる女子たちをすっと押し分け、彼女の目線に合わせて優しく微笑みかけた。
「西連寺春菜さん、だったな。リトから話は聞いているよ」
「えっ……結城君から私のことを……?」
春菜の頬がほんのりと桃色に染まる。それを見たリトは遠くで「ルルーシュ余計なこと言わないでくれよ〜!」と心の中で頭を抱えていた。
「ああ。君はとても真面目で、クラスの皆からも頼られている優しい人だと。……実際、お近づきになれて光栄だよ」
ルルーシュは決して好意を振りまいているわけではない。かつてブリタニアの宮廷で培われた、極めて自然で洗練された「社交辞令」をこなしているだけなのだ。
だが、その溢れ出る紳士的オーラと、一人ひとりを尊重する丁寧な物腰は、少女たちの心を過剰なまでに揺さぶってしまう。
「あ……ありがとう、ルルーシュ君。その……もし学校のことで分からないことがあったら、私にも何でも聞いてね」
「感謝する、西連寺さん。心強いよ」
完璧な笑みを返すルルーシュ。
その横顔を、古手川唯はどこか胸の奥がキュッと締め付けられるような、モヤモヤとした感情を抱きながら見つめていた。
(誰にでも優しくて、誰にでも完璧な対応をして……。なによ、本当に『罪な男』なんだから……!)
そして、クラスの男子たちの怨嗟の視線は限界突破を迎えていた。
「見たか猿山……! 春菜ちゃんまであいつの毒牙に……!」
「許せん……! イケメンで、知性派で、気遣いまでできて、春菜ちゃんにまで優しく接するなんて……! ギルティだ! ギルティすぎるぞルルーシュ・ランペルージ!!」
女子からの圧倒的な好感度と、男子からの凄まじいジェラシー。
己の圧倒的なスペックと紳士的な振る舞いが引き起こす「学園内の大混乱」に、当の本人は一切の自覚もないまま、美柑のお弁当のフタをパカリと開けた。
「……まあ、ともかく二人とも、ルルーシュ君のお弁当の邪魔をしちゃダメでしょ」
見かねた春菜が、苦笑いを浮かべながら籾岡と未央をたしなめた。
「えー、春菜まで堅いこと言わないでよ〜! せっかくのイケメン転校生なんだから、もっと情報収集したいじゃん!」
「そうだよ! 好きな食べ物とか、休日の過ごし方とか、いろいろ聞きたいことは山ほどあるんだから!」
食い下がる籾岡と未央だったが、ルルーシュはパカリと開けたお弁当箱──美柑が腕によりをかけて詰めた、彩り豊かな卵焼きや唐揚げを見つめながら、静かに可笑しそうに目を細めた。
「気遣いには感謝する、西連寺さん。だが、彼女たちの問いに答えるくらいは、食事の合間でも構わないよ」
ルルーシュは箸を手に取り、洗練された仕草で卵焼きを一口運んだ。
「……ふむ、美味いな。美柑の料理は本当に素晴らしい」
「えっ、ルルーシュ君、それ結城の妹ちゃんが作ったの!? すごーい、愛されてるね〜!」
「結城君の家の居候になったというのは、本当だったんだねぇ」
籾岡が目を丸くし、未央がメガネを押し上げながら頷く。
ルルーシュは自然な動作で返答を続けながら、巧みに女子たちの質問を捌いていった。
好きな食べ物を聞かれれば
「家庭的な料理全般だな。特に手をかけて作られたものは素晴らしい」
と美柑の料理を立て、
休日の過ごし方を問われれば
「読書やチェス、あとは……街の散策といったところか」と、ミステリアスかつ知的な私生活を匂わせる。
その一つ一つの回答が完璧すぎて、群がっていた女子生徒たちは「大人っぽい……!」「ギャップがヤバい……!」と溜息を漏らすばかりだった。
一方で──。
「うぐぐ……あいつ、メシ食ってる姿すら絵になりやがって……!」
「おいリト! お前なんであんな超絶スペックの奴を家に匿ってんだよ! 危険だぞ、我が校の女子が全滅する!」
猿山をはじめとする男子連中が、遠くからリトの襟首を掴んでガタガタと揺さぶっていた。
「だ、だから俺の意思だけで住まわせてるわけじゃないってば! ルルーシュだって困ってて……っていうか、猿山、引っ張るな! 苦しい!」
悲鳴を上げるリトの様子をチラリと横目で見やりながら、ルルーシュは心の中でフッと自嘲気味な笑みを漏らしていた。
(平和だな……)
かつてアッシュフォード学園の生徒会室で、ミレイ会長の気まぐれな提案に振り回され、シャーリーやリヴァルとくだらない雑談に花を咲かせていた頃と同じ──あるいはそれ以上に、突拍子のない賑やかさ。
自分の過去の重みや、左目に宿る呪われた力のことなど、誰も知らない。
ただの「転校生のルルーシュ・ランペルージ」として、少女たちに囲まれ、男子たちに羨望と嫉妬の視線を向けられる。
(ゼロ・レクイエムの果てに、俺が世界に残したかったのは……こういう『くだらないことで笑える明日』だったはずだ)
胸の奥に残る古傷が、ほんの少しだけ温かく和らぐような感覚。
「ちょっと、ルルーシュ君! ぼーっとしないで私の話も聞きなさいよ!」
隣の席で、古手川唯が腕を組んでプンプンと眉をひそめていた。
彼女もまた、ルルーシュが自分の声を聴くたびに見せる「あの切ない影」が気になって仕方がない様子で、主にリトを起点に発生するハレンチな騒動についてを注意しつつも、視線を外せずにいるのだった。
「すまない、古手川さん。……君の声があまりにも心地よくてね、つい耳を傾けていた」
「なっ……!? は、ハレンチな口説き文句はダメだって言ってるでしょーっ!!」
真っ赤になって叫ぶ唯と、ドッと沸き立つ女子たち。
賑やかで、ハチャメチャで、けれどどこまでも優しい時間が、彩南高校の昼休みにゆっくりと流れていく。
キーンコーンカーンコーン──。
放課後を告げる終鈴が鳴り響き、彩南高校は部活動へと向かう生徒や下校する生徒たちの活気に包まれた。
「ふぅ……初めての授業も滞りなく終わったな」
カバンに教科書を収め、仕立ての良い動作で立ち上がるルルーシュ。
隣の席では、古手川唯が委員の書類を几帳面に揃えながら、ちらりとこちらを伺っていた。
「……ルルーシュ君、帰るの?」
「ああ。今日は街の地理を覚えるのも兼ねて、歩いて帰ろうと思ってね」
「そう……。校則はしっかり守って、寄り道しすぎるんじゃないわよ」
どこか名残惜しそうなニュアンスを滲ませつつも、毅然と言い捨てる唯。ルルーシュは「善処しよう」と爽やかに微笑みを返し、教室を後にした。
廊下に出ると、リトとララ、そして西連寺春菜が待っていた。
「おーい、ルルーシュ! 一緒に帰ろうぜ!」
「ルルーシュ〜! 今日の授業、すっごく面白かったね〜!」
無邪気に手を振るララと、少し照れくさそうに「お邪魔じゃなければ、私も途中まで……」と微笑む春菜。
5人で校門を出て、夕陽が橙色に染め上げる彩南町の商店街へと差し掛かった頃──。
「あ、お姉様ー! リトさ〜ん!」
「春菜にコケ川にルルーシュも!」
前方から、買い出し袋を手にしたモモとナナが手を振って駆け寄ってきた。まだ地球の学校には通っていない二人は、美柑に頼まれて夕飯の買い出しに来ていたらしい。
「ナナ、モモ! 二人も買い物帰りか?」
「ええ。美柑さんに頼まれたお野菜を買いに。……あら、ルルーシュさんも付き合っていますのね♡」
「まあな、この町の地理に疎いうちは散策するのも悪くない」
賑やかなメンバーが揃い、ワイワイと商店街のアーケードを歩いていた、その時だった。
──「泥棒ーっ! ひったくりだぁーっ! 誰か捕まえてくれーっ!!」
老人の悲鳴のような叫び声が響き渡る。
人ごみを押し分け、大きなハンドバッグを抱えたガラの悪い男が、猛烈なスピードでこちらへ向かって走ってきた。
「どけどけぇっ! 邪魔する奴はぶっ殺すぞッ!!」
男はポケットからジャックナイフを取り出し、刃をチラつかせながら突進してくる。周囲の客たちが悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑う。
(……チッ! ひったくりか……!)
ルルーシュは瞬時に思考を巡らせた。
ナイフを持った暴漢。このままではリトや春菜、少女たちに危害が及ぶ可能性がある。
(……やむを得ん。ギアスで自首させるか、あるいは動くのを止めさせるか……!)
ルルーシュの右手が、左目を覆う前髪へと伸びる。
人が密集する商店街でのギアス行使。目撃者を出さずに一人だけに照射する角度計算と、命令の構築を脳内で一瞬にして組み上げた──まさにその瞬間。
「あ! おじいちゃんのバッグ盗んじゃダメだよー!」
「なっ……!? ララ、待て──!」
ルルーシュの制止の声を置き去りにして、ララがぴょんと前へと飛び出した。
「退かねえか、このガキがぁぁッ!」
ナイフを振りかざし、一直線に襲いかかるひったくり犯。
だが、ララは恐怖するどころか、無邪気に首をかしげると──すれ違いざまに、ひったくり犯の胸元へポーンと軽やかにデコピンを叩き込んだ。
──ドッッッッガァァァァンッッ!!!!
「ごはぁぁっっ!?」
けたたましい衝撃音。
一瞬前まで猛スピードで走っていた大柄の男が、まるで大砲の弾のように後方へと吹き飛んだ。
そのまま商店街のシャッターを豪快に突き破り、凹んだシャッターの奥で白目を剥いて完全に気絶した。
静まり返る商店街。
風が吹き抜け、男の手から落ちたバッグが転がる。
「えへへ、取り返したよー!」
ケラケラと無邪気に笑いながら、バッグを拾い上げるララ。
「……」
ルルーシュの思考が、完全に停止した。
目の前で起きた事象が理解できない。
物理法則を完全に無視した破壊力。爆薬でも使ったのか? いや、あの少女はただ、指先で軽く弾いただけだ。人間一人がシャッターを突き破って吹き飛ぶなど、KMF(ナイトメアフレーム)の腕力でもなければ不可能な芸芸である。
(……なんだ……? 今のは……一体、何の兵器だ……!?)
元皇帝のIQをもってしても計算不能な光景に、ルルーシュは顔を引きつらせ、珍しく呆然と立ち尽くした。
「はぁ……姉上ったら、地球ではあんまり目立つ力を使っちゃダメって言ってるのに……」
ナナが呆れたようにため息をつき、モモが「まあまあ、おじいさんのバッグを取り返せたのですから良いではありませんか」と苦笑する。
ルルーシュは冷や汗をダラダラと流しながら、隣に立つリトの肩をガシッと掴んだ。
「リ、リト……。今のは……なんだ? あの少女の腕には、何らかの超高出力筋力増幅ギミックでも仕込まれているのか……!?」
「え? あ、ああ……言ってなかったっけ?」
リトは困ったように頭を掻きながら、ルルーシュに向かって声をひそめた。
「ララやナナ、モモは……『デビルーク星人』っていう宇宙人なのはルルーシュも既に知ってるよな。見た目は俺たちとそっくりだけど、宇宙最強って言われる種族で……生まれつき地球人の何十倍も力が強いんだよ」
「う……宇宙最強の、種族……!?」
ルルーシュの脳裏に、これまでの記憶が駆け巡る。
一緒に食卓を囲み、ドリアを美味しいと笑っていたあの少女たち。
自分のKMF(蜃気楼)を面白半分に調べていたピンク髪の少女。
子供のようにはしゃぎながら飯を平らげていた快活な少女。
寝床がないと言ったら甘い声で部屋へ誘ってきた小悪魔のような少女。
(あいつらが……全宇宙を統べる最強の戦闘種族だと……!?)
あの無邪気でハチャメチャな日常の裏に隠されていた、規格外すぎる真実。
もし彼女たちがその気になれば、国家どころか地球の軍事力など一瞬で粉砕できるのではないか。
「ふふ、ルルーシュさん、驚かれました?」
モモが静かな足取りでルルーシュの隣へ並び、その長い尻尾をパタパタと揺らしながら、悪魔的な笑みを深めた。
「私たちデビルーク星人は、身体能力だけではなく、宇宙規模の軍事力も有していますのよ。お父様……銀河の覇王であるギド・ルシオン・デビルークは、星の一つや二つ、一撃で壊せますわ♡」
「ほ、星を……破壊……!?」
神聖ブリタニア帝国がどうの、世界征服がどうのという次元を遥かに超越した、宇宙規模のパワーバランス。
ルルーシュは額を手で覆い、深々と溜息をついた。
(……ギアスで校長を土下座させている場合ではなかったな……。俺は、とんでもない存在と同居していたというわけか)
「あ! おじいちゃん、バッグどうぞー!」
「お嬢さん、ありがとうねぇ」
周囲の拍手と歓声を浴びながら、無邪気に手を振るララ。
その眩しい笑顔を見つめながら、ルルーシュは己の左目に宿る「絶対遵守の力」が、この異世界においてはあまりにもちっぽけに思えてくるのだった。
(……やれやれ。世界を壊し、世界を創った男の第2の人生は……想像以上に常識外れなようだ)
衝撃に揺れる元皇帝をよそに、夕暮れの彩南町には、今日も変わらぬ賑やかな笑い声が響き渡っていた。
一応この世界でのギアスの力は向こうと同じ据え置きで、一般的な人間の知能と精神構造さえあれば宇宙人相手でも通用するものとして描写します
ルルーシュがそれを使うかどうかは別として( * . .)"