100億人に一人の才能   作:キモいよ

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ナチュラル

道行く蟻(アリ)を潰して遊ぶ2歳の男の子。

働き蟻は人間に目もくれずエサや巣の材料を巣に運んでいる。

 

そこを手で軽く潰すと、痛みを感じ取ったように動きが速くなる。

だが急いで巣に戻るだけだ。

 

蟻が人を攻撃するには時間が必要だ。

蟻を攻撃した状態で、しばらく停止して蟻の行動を妨げる。

そうすることで初めて蟻酸を発し、人間に痛みを生じさせる。

 

しかし、人間が一度離れると再び攻撃に転じることはない。

ただ蟻としての仕事を再開するのみ。

 

蟻が人間を記憶し、敵だと認めることはない。

それが酷く不愉快だった。

 

命の危険に対し、何も感じない生命体。

あまりにも愚かで、己と同じ物だと思いたくない。

 

男の子は蟻に知性を与えたかった。

目の前で仲間の蟻を潰し、泥で道を塞ぐ。

死体を見た蟻達は、慌てふためく。

 

だが、素早く動くだけで統率がない。

それでは脅威たりえない。

 

男の子は仲間の蟻を潰しながら、思いを蟻に伝えていく。

適当に動くのではなく攻撃を見て避けろ。

蟻酸を使って人が嫌がる攻撃をしろ。

 

どのような攻撃が有効か学習しろ。

死んだ仲間の無念をくみ取れ。

何かを変えなければ、お前も死に、仲間達も死んでしまうぞ。

 

男の子の意志は不思議な思念の波となって蟻に伝わっていく。

死者の魂が形を持っていく。

 

何度か繰り返した後。変化は訪れた。

蟻が男の子を見ただけで加速し、攻撃を避けるようになった。

死者の思いをくみ取り、蟻が学習したのだ。

 

男の子はさらに蟻を殺していく。また変化が訪れる。

蟻は自ら男の子に近づき、蟻酸を吐きかけるようになった。

 

さらに蟻を殺していく。また変化が訪れる。

男の子の死角を狙い、後ろから足を這い上がるようになった。

 

蟻は男の子を敵だと認識したらしかった。

もはや殺さずとも、蟻は学習し、強くなっていく。

いや、失敗もあり成功もある。とかく、蟻はもがく。変わっていく。

 

その現実を認識し、男の子は満足した。

ありふれた日常。

蟻としての決まり切った人生。

そこに、変化を与えることができた。

 

人生、こうでなくてはおもしろくない。

結果の見えた未来ほどつまらないものはないのだ。

 

 

 

男の子は蟻潰しを通じて、大人達も知らない何かが世の中に溢れていることに気が付いた。

声を用いず蟻と意思疎通した時に、自分と蟻の間を覆っていた何か。人を含む、全ての生物、いや地面などからも微弱に溢れている何か。はっきりとそこにあるのに、大人達は感じることができない。これに関しては、人間よりも動物や木々の方が遥かに感度が鋭い。

 

特に、死んだ蟻の無念が浮遊する何か。

これは、生きている蟻に浮遊するものよりも強く、蟻の成長を加速度的に高めている。

この死んだ無念の力を、コントロールできるようになりたい。

男の子はそう思い、訓練に励むようになった。

 

訓練相手は、近所の蟻達。自らと共に蟻も鍛え続ける。

そして、毎日の食事。

 

人間は食べるために生命を殺している。

動物に限らず、植物も。

生きている時の何かが離散し、死んだ時の無念があふれ出る一瞬がある。

食品に加工を重ねることで、無念の形は歪み、コントロールは難しくなるが。

生に近い食材であれば、ある程度練習することはできた。

 

食材の無念を理解し、人間を敵だと認識させ、成長を促す。

葉っぱは繊維を固くし、苦みを出し、人に食されることから逃れようとする。

豚肉は腐敗を強め、人を内側から殺そうとする。

体内で行われる死者との戦い。

男の子の日常にまた楽しい戦いが加わった。

 

日々未知と戦い、成長を促し、己がそれを乗り越える。

相手の成長が己の成長となるのだから、この遊びには終わりがない。

男の子は楽しい世界に感謝し、世界を愛した。

 

そうして10年後。男の子の村で謎の奇病が流行した。

ある者は全身が虫にさされたように腫れ上がり、ある者は1日で10kg痩せるほどの下痢に襲われる。

 

この頃になると男の子は浮いていた。

蟻やカエルや魚を飼っているかと思えば、その蟻やカエルや魚に嫌がらせをし、自分を攻撃させて、喜ぶ。

食事に死者の無念がどうのこうのいい、周りを嫌な気分にさせてから、飯を不味くする。

その上で「こんなにひどい毒を食べたのに自分は腹痛にならなかった」と自慢する。

 

これほどの異常者だったのだ。

虫刺されにせよ下痢にせよ男の子と深いつながりがあるに違いない。

村人達は男の子が奇病の原因ではないかと考えた。

 

村人達は男の子を村の外へ追放することに決めた。

ジャポンの離島からの島流し。通常の子供であれば生き残れるはずがない。

家族は涙ながらに無罪を訴えたし、よそ者の医者も非科学的だと村人を批判した。

だが、村人は譲らなかった。

島流しは予定通りの日時に行われた。

もっとも、日々毒を食らいそれを自慢していた男の子だ。

村人達は島流し程度で彼が死ぬとは思えなかった。

 

村を追放された男の子。彼は本当に無罪だった。

村人を攻撃したのは、彼の死者の念ではない。彼は自分が育てた死者の念は自分にしか向かないようにコントロールできていた。

だが、彼の強すぎる死者の念。それが、はるか遠くの死者の無念を引き寄せ、それらが村で悪さをしていた。

 

だから、村人の判断はある意味正しかったのだ。

男の子がいなくなれば、遠くから死者の無念がやってくることもなくなる。

実際、男の子を追放してから、村では奇病が綺麗さっぱりなくなった。

 

その、無罪とも有罪とも言える男の子だが、彼は現状にむしろ喜んでいた。

村では遊べる相手は蟻やカエルだけ。だが、村の外にはもっと大きくて強い動物がいる。

それに、殺しても誰も文句を言わないような、悪い人間も。

 

男の子は死者の無念に敏感だ。

彼の島に漂ってきた死者の無念の方向を感知することもできていた。

遠い海の向こう、カキン王国。地図上のその国がある方向から、強い破壊の妄念が漂って来ていた。

 

 

日々生のエネルギーを高め、死者の無念を扱い、蟻と死闘を繰り広げてきた男の子。

彼は常人を遥かに超える腕力とスタミナを持っている。

その男の子にとっても、村人から与えられた小舟でカキン王国に到達することは難しかった。

力の限り漕いでも先に船が壊れて沈没してしまう。

自らの生の力で船を覆い守ろうとすると、先に自らのスタミナが尽きてしまう。

 

これは難題だ。

簡単な方法を取るならば、先にジャポンのどこかの村に移動し、大きな船と食料を用意してからカキン王国を目指すべきだ。

だが、男の子は難題こそを喜んだ。難しいからこそ工夫し、乗り越えることで、自らの成長につなげられる。

 

男の子は海に飛び込み、バタ足でバシャバシャと音を立てた。

海の怪物達が獲物の音を頼りに近づいてくることは勘づいていた。

狙い通り、巨大な歯を持つ恐るべき魚がやってくる。

 

5mを超えるイタチサメ。

人を遥かに超える体躯と怪力。そして骨ごと肉をかみ砕く牙と顎。

常人であれば水中でその姿を目にしただけで恐怖に泣き叫ぶことだろう。

だが、男の子はうすら笑いを浮かべた。

 

イタチサメはぶつかる直前に男の子の危険性を感じ取り、少しの間硬直してしまう。

その硬直が命取りだった。

男の子は人の身でありながら水中を魚のように猛スピードで動き、イタチサメの眼球へと右の突きを放つ。それは眼球をつらぬき、脳をつらぬき、一瞬でイタチサメを絶命させた。

 

眼球から漂う血液と髄液。

その匂いが別のサメを引き寄せる。

まずは正面から2匹、後ろからも1匹。

遠いが四方八方からさらに13匹来ている。

 

「さあて、俺を楽しませてくれよ」

 

男の子は殺したサメの肉を齧りながら敵の到着を待った。

 

 

サメ達との戦いは心躍るものだった。

単純に巨体で力が強いのもあるし、眼球以外なら耐久力もある。刃で噛まれれば男の子でさえただでは済まない。だが何より男の子を喜ばせたのは、学習能力の高さだった。

死んだサメの失敗を見る。男の子が死者の無念を伝える。眼球を守って戦うようになる。

 

それでも勝てないと知らしめる。コンビで戦うようになる。

タイミングを合わせ、後ろから攻撃をしかけてくるようになる。

歯で噛みつくタイミングをズラし、フェイントを入れるようになる。

 

ついには生の活力の存在に気づき、男の子と同じように生の力を纏って戦う個体が現れる。

肉体的に圧倒的に強いサメが、生の活力を身にまとう。その力や耐久力は男の子を遥かに上回るものとなった。

 

油断していた男の子に、急加速したサメの突進が不意打ちのように当たり、その離れ際に右足を食いちぎられる。水中での大量出血。初めて感じる戦場での死の気配。だが、ピンチはチャンス。

サメは男の子を食べたことで、男の子が普段からせめぎ合っている猛毒を体内に入れてしまった。激痛で動きが鈍くなる。

男の子はその隙に、サメが食べてきた小魚達の死者の無念を感じ取り、形を与える。

 

「お前達の無念を俺の力としろ。そうすれば俺が無念を晴らしてやる」

 

黒い力が男の子を覆い、男の子の全身が変質していく。

筋肉が魚のような流線形となり、その皮膚に水中の抵抗を和らげるためのうろこがついていく。脚の怪我と出血も、両足が尾ひれに変形する過程でなくなった。

 

「もう、お前は俺のスピードにはついていけないぜ」

 

格好つけたセリフを言ってから、男の子は猛スピードで生の活力をまとうイタチサメに突進する。

その狙いは眼球。イタチサメはそう判断し、咄嗟に生の活力を眼球付近にまとい、防御能力を高める。これは念能力者の間で堅と呼ばれる技術に酷似したものだった。

 

だが、男の子の狙いは眼球ではなく全身だった。

死者の無念をコントロールし、全身をドリルのように回転させ、猛スピードでイタチサメに突っ込む。

男の子の身体は、まるで豆腐を通り過ぎたかのように、何の抵抗もなくイタチサメの眉間から尾にかけてを通り過ぎ、その内部をズタズタに切り抜いた。

 

 

勝者となった男の子。記念品はサメの肉と全身の変化。少し意識すれば水中で呼吸することも可能だった。

魚の姿を手に入れた男の子に船はもはや必要なく、そのまま泳いでカキン王国を目指した。

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