100億人に一人の才能 作:キモいよ
ズキュウウウウウン。
砕けた座り方でエレベーターを眺める変態。ヒソカの一物はいきり立っていた。理由は上方から時折感じるオーラの波動。非常に落ち着いていておだやかだがその中に底知れない力強さがあった。ヒソカは自分が最強だと自負している。その自分が底を把握し損ねる相手など滅多にいないのだ。どれほどの相手がやってくるのか待ち切れない。
イルミ、ではなかった。その弟のキルアでもない。だがイルミもキルアもとてもおいしそうだ。忍者のハゲでもない。ああダメだ。もう待ち切れない。次にそれなりの相手が降りて来たら襲い掛かってしまいそうだ。抑えないと、抑えないと……。
必死に昂ぶりを抑えようとするヒソカ。だが、そんな彼をあざ笑うかのように優れたオーラの持ち主が現れる。
体格のいい犬の面の男、長身の娼婦風の女、少し背の低い黒髪に三日月のような白髪が混じった女。3人組。背の低い女は一般人に擬態しているが明らかに死の匂いがこびりついている。
「モウ……ッ、我慢デキナイィッ!!!」
ヒソカはトランプを手に背の低い女に襲い掛かった。
ギャアンッ!
オーラがダダ漏れだったので不意打ちにはならなかった。大振りに切りかかったヒソカのトランプと女の靴がぶつかり合い、材質を無視した金属音を響かせる。
「モルナ、こいつは化け物。受験生に隠れて逃げて」
「だけどシルフ! あなたが!」
一撃で死ななかったことにち〇ちんをぴくつかせるヒソカ。次の一撃を味わうためにトランプを三枚用意し、これ見よがしに周のオーラを纏わせる。
「うっしゃあああああああああ!」
犬の面をかぶった男が、ヒソカに突撃した。強化系。一般人にしてはよく練られたオーラだろう。
「くくくっ!」
ヒソカはトランプを3枚投擲する。一番強い女は別の女を突き飛ばし、自分もその反動で避ける。犬の面を被った男は腕でトランプを受け、深々と刺さりながらも切断せずに堪える。そして痛みに顔をしかめながらヒソカに突進するが。
ゴギンッ!
ヒソカのボレーキックが犬の面の男の顔面を捉える。犬の面の男は顔面を陥没させながら、側面の壁まで瞬時に飛ばされ叩きつけられる。
「ドッグマン!」
「早く逃げて!」
背の低い女が長身の女を突き飛ばす、長身の女は逃げてと言われながらも、犬のお面の男の方に近づいていき、ヒソカを警戒しながらも守るような体勢を取った。
この長身の女はまだまだ強くなれる。今食べるのはもったいない。自分に相対できる背の低い女で、昂ぶりを抑える。
「くくくくっ。君は逃がさない♦」
「その方が都合がいいわ」
背の低い女は覚悟が決まった目をしていた。やはり闇の世界を知っている目だ。死を恐れていないのだろう。仲間のためであれば自分の命をかけることも厭わない。
だからこそ、狩る。
「に、逃げろぉおおおおおお!」
「どっちもバケモンだぁあああああ!」
一般の受験生たちが逃げて行く。ただ戦闘の余波をうけただけで錯乱。ヒソカにとっては自分を萎えさせるつまらないおもちゃ。
「ひうっ!?」
適当に一人の男にバンジーガムをひっつけ、背の低い女に投げつける。
「悪趣味ね。命は大切にしたら?」
女はそう言いながら投げつけられた人間を即殺。ガムがひっついている背中のあたりを凝で調べる。
「粘着性のある、ゴム……?」
「正解……♣ どんどんいくよぉ♦」
次々と受験生を投げていくヒソカ。女は特に苦も無く対処する。
だが、これは準備。ヒソカの本当の狙いは受験生にまぎれて陰で隠してあるバンジーガム。クモの巣のように背が低い女の周囲に張り巡らせる。
「これでおしまい? 案外あっけないのね」
「うん♦ 準備はおしまい♥」
バンジーガムの罠は貼り終えた。ここからは狩の時間だ。
トーン、トーンとジャンプするヒソカ。最後のジャンプでバンジーガムの上に乗り、ヒモの反動をもらいながら女の方に跳ぶ。
「ぐっ!?」
「どんどん速くしていくよぉ♣」
女の肩が浅く切り裂かれる。反応できたが躱しきれなかった。そのことにヒソカは満足する。いきなり本気を出すつもりはなかった。これはメインディッシュの到着までの暇つぶし。女が反応できる範囲の速度、ギリギリ死角にならない角度を見極めながら、バンジーガムの強度と方向を調節する。
だが、不意に女の口端が歪んでいることに気づいた。彼の本能が違和感を訴える。笑みの正体は何かしらの逆転への期待。罠。カウンター型の念能力でもあるのだろうか。凝で確認し、少し慎重に攻撃する。が、不意に視界が揺れた。
「毒か……♦ やられたよ……♥」
地下道という密室。毒からの逃げ場がない。だがそれは彼女の仲間も同じはず。
「ごほっ、ごほっ」
ちらと見ると、長身の女も咳込んでいる。しかし目の前の女は気にしていない。抗体があるのだろう。
「悪いけど、君は前菜♦ 添い遂げる気はないんだ♥」
ヒソカは長身の女の傍に移動し、首元にトランプを当てながら背の低い女を脅す。
「君を殺して君の身体から抗体を探すのは簡単♣ でも探している間に毒が回ってしまう♥ すると今日のメインディッシュと戦う時においしく食べられなくなっちゃう♦ くれるかい? 抗体?」
何人か殺したこと、そして毒が回ったことで、昂ぶりもだいぶ納まった。抗体をくれた後なら背の低い女に襲い掛からない自信がある。だからこその提案だった。
「どうする? 早くしないと彼女も死んじゃうと思うけど……?」
背の低い女はヒソカが死ぬまで抗体を渡さず逃げ続けることもできる。だがそれをすると彼女が庇おうとした長身の女も死んでしまう。彼女はどこかのタイミングで長身の女に近づき抗体を渡す必要があるのだ。そのタイミングでヒソカは抗体を奪って飲むことができる。
じりじりと時間が過ぎる。背の低い女の額に汗が浮かぶ。そして、ふぅと息をついた。
「そろそろタイムリミットね。抗体はあげるわ。だけどモルナに手は出さないと約束してほしいの」
「もちろん。ボクは約束は守る方だよ♦」
背の低い女は長身の女に近づき、カプセルを飲ませようとする。そのカプセルをヒソカが奪い、飲む。その後、背の低い女は同じタイプのカプセルを長身の女に飲ませる。
「ああ、でもここで戦うのはよくないか♣ メインディッシュが毒で弱った状態だと萎えるからね♦」
抗体を得たのだろう。毒の影響が退いていくのを感じるヒソカ。それと同時に戦闘の昂ぶりも消えた。今日のメインディッシュは、ここで食べるにはふさわしくない。
そう思ったタイミングで、エレベーターが開かれる。
「アウッ、アウッ」
「ああ、これは毒だな。一旦戻ろう」
エレベーターに乗っていたのはよく鍛えられたアザラシの群れとイカとタコと魔獣。
感じていたオーラはこれだった。エレベーターは再び閉じ、上がっていく。
「うーん♣ アニマルプレイは好みじゃないんだよね♦ 萎えちゃった」
「クチナシ! クチナシ! どうして私より後から来るのよ!」
モルナがエレベーターで登ってきた。彼女はクチナシを引っ張り、エレベーターの中に入れようとする。
「あ! モルナも試験会場到達できたんだ!」
「そんなことより速く地下に来て!」
「地下は毒が満たされているようだったけど、戻るの?」
「急患よ! あなたじゃないと助けられない!」
「ああ、そういうことね」
クチナシはエレベーターから地下に降り、モルナに引っ張られるままにドッグマンの元へ移動。首の骨が折れ、呼吸も心臓も止まっていた。
「これですぐに目覚めなかったら2人目か。こいつ身体大きいししんどいかもなあ」
ち〇ちんは既に塞がっている。だが、修行を繰り返し成長したクチナシなら髪の毛でも治療できる。クチナシは木製にした髪の毛で男を包み込み、大量のオーラを与え、蘇生した。ついでにその辺で死亡、または死にかけている受験生も治療していく。何人かは助からなかったが何人かは蘇った。
「ごふっ、モルナ。お前のためなら俺は……」
「よかった! 目が覚めたのね!」
ドッグマンと呼ばれる大男はすぐに目を覚ました。もともと念能力が扱えたこともあり、精孔が開いて死ぬこともない。ネルーのように長時間クチナシに保管されることはなかった。
「はじめまして。あんたらがモルナの新しい仲間ってわけね」
「ええ、はじめまして。シルフよ」
「ドッグマンだ」
クチナシはドッグマンについてはちらと見る程度だったが、背の低い女はガン見していた。
「ちょっと、女性をジロジロ見るのはやめなさい。はしたないわよ」
「いや、けっこう強いと思ってね」
「あら嫌ね。私は一般人よ? 戦えないわ」
「まあそうだね。隠した方がいいと思うよ」
「バレるような陰はしてないと思うのだけど……」
背の低い女は困ったようにモルナの方を見た。
「というかシルフ。私にまで隠すことないんじゃないの? あそこまで強いとは聞いてなかったわよ」
「あらごめんなさい。でも乙女の秘密なんて多い方が素敵でしょう?」
「あなた少し、クチナシに似ているかもしれないわね」
「あらそう? 秘密の多い子なのかしら」
「俺に秘密なんてあるかなあ? ただ天才過ぎるだけだと思うなあ」
「何て言うの? 天然なフリして周りを振り回す感じ? そっくりよあなた達。気を付けなさい」
「気を付けるって、何もしなくていいって意味だよな?」
「アイサー! キャプテン!」
このようなやり取りをしていると、ガスマスクをつけた豆のような男が近づいてきた。
「はいこちら、番号札です。無くさないように」
「ああ、これはどうも」
「ありがとう。豆の人」
「こちらのガスですが、どれくらい強力なものですか? 場合によっては試験会場の変更が必要になります」
「そうね。1週間は影響が残るわ。会場は変更した方がいいかも」
「なるほど。それでは急いで本部に連絡しないと……」
豆のような男が本部に連絡を取り、しばらくして試験会場の変更が決まる。多くの受験生は地下通路の奥の方に逃げている。その先で、一次試験を開始するようだ。
「急いでください。制限時間は4時間です」
「4時間で距離は何キロ?」
「言えません。それも試験のうちなので」
「先に逃げ出した受験生が有利だと思うけど」
「あなた達の暴走でこうなりましたので、ペナルティだと思ってもらえれば」
「俺達は戦闘終わってから来たんだけど……」
「オーラを扱える分のハンデだと思っていただければ」
「アザール君達には番号札くれないの?」
「動物は受験生の一部としては認められますが、受験生としては認められません」
「なんだ。残念」
と、その時、エレベーターが再び開く。
「うわっ! 酷い匂い!」
「なんだと!? 毒か!?」
「レオリオ! クラピカ! 口を塞いで!」
ツンツン頭の少年が背の高い男と中性的な若者に覆いかぶさるようにして叫ぶ。エレベーターは再び閉じ、登って行った。