100億人に一人の才能 作:キモいよ
受験生を食らう巨大カエル。マチボッケ。スピードはないが図体は大きく一度食らった獲物は逃さない。
「アウッ!」
「げろおおおおおおおお!?」
だが、念を扱う鍛え抜かれたアザラシの正拳突き。それは脂肪の厚みを越えて胃に届き、一撃で受験生を吐き出すに至らせる。
「アウッ! アウッ! アウッ!」
「ゲロ!? ゲロロロロオオオオ!?」
さらには腹部に連撃。これでもかと連撃。カエルは涙目となり、降参を示すために腹部を丸出しにして仰向けに倒れた。
アザラシは吐き出された人間を背負い、トラックへと戻っていく。
ホラガラス。嘘八百を並べ立てて人間を罠に嵌めて殺し死体を漁るカラス。今回は天然の竹槍状態になった崖下に人間を誘い込み、落下させ、死肉を食らうつもりだった。
「ブシャアアア!」
「クロイ!? ミエナイ! 俺ヲ助ケナイト人間タスカラナイ!」
そこに、タコとイカがやってくる。タコはカラスの視界を防ぎ、イカは竹やりの隙間に入りながら人間を回収していく。竹やりが刺さった部分は自らの触手で締め付け、血が漏れないように気を付けながら。
「ゲッ、ゲッ! ガメェ!」
「アウッ!」
キリヒトノセガメ。背中に群生する人に似たイチゴを使い、人をおびき寄せて襲う。クマのような巨体の人食いカメ。だが、オーラを扱うアザラシにタコ殴りにされ、人間を吐き出してしまった。
不思議な飛び方で人間を眠らせ、幼虫の餌とするサイミンチョウ。だが、幼虫の卵を植え付けた身体が、アザラシによって運ばれていく。
ジライタケの林。爆発に合わせて振によるオーラ防御で威力を相殺。キノコをも傷つけずに回収しつつ、先に倒れていた人間達を回収するクチナシ。オーラを見られると失格になるらしいので、包帯代わりに木でグルグル巻きにして目隠しもする。
彼等がトラックに戻ると全裸の女達が待っていた。カミィ、モルナ、シルフの姿。エッチなポーズで誘っている。
「ねえ、その人達どうするの?」
「助けるんだよ」
「そんな無駄なことするより、あっちでいいことしない?」
「いいことって?」
「もうっ♡ 言わせないでよ♡ エッチよエッチ♡」
モルナの姿をした女の頭部が粉砕される。トラックの中から服を着たモルナが飛び出していた。
「私に化けるなんて、あの女を見ているみたいでムカつくわね」
「でも、こいつら使えるんじゃないの? 相手の目を欺く時とかさ」
「え……っ」
他の全裸の女は慌てて逃げて行く。必死の形相になると人間ではありえないような長い舌が出る。彼女達はメスの人面猿だったのだ。そのうちの一匹を、クチナシは確保する。カミィに化けた人面猿だった。
「カミーラは王族の仕事で忙しいって言って何かと修行を断るんだよね。こいつを影武者にできれば修行時間増やせるかも」
「あなた本当に修行が好きね……。でも、そのアイディアは使えるかも……」
モルナも全身にオーラを纏って飛び出し、シルフに化けていたメスの人面猿を捕まえた。
「うわぁあああああああああああああ!」
「たすけてくれぇえええええええ!」
近くから悲鳴が聞こえる。湿原に入ってから悲鳴ばかり。
アザラシ達も総出で助けているのにキリがない。
「どうするの? 全員助けるつもり?」
「そのつもりだったけど……、トラック乗り切るかなぁ?」
クチナシ達はトラックで少し進んで死にかけの人間を助け、また少し進んで死にかけの人間を助けると繰り返す。念能力を見られないために最後部を走っているため、死を待つばかりの受験生は全て目に入るのだ。その全てを回収してきたが、トラックがそろそろ満杯だった。もはやアザラシ達の入る隙間はない。
「改造するか……」
トラックの荷台に木を生やすクチナシ。その木の枝に、グルグル巻きにした重傷者を繭のような形で括りつける。この形式ならばいくらでも荷物を増やせる。トラックの燃料や馬力もクチナシのオーラでいくらでも強化できるので問題ない。
「これ、どう見ても念能力よね」
「だね」
「不合格になるのはもったいないわよ。あなたなら絶対に合格できるのに。この人達は死を覚悟してハンター試験を受けているわけだし、ハンターっていうのは他の生物の命を奪う仕事。だからあなたが彼等を見捨ててもそうおかしい事じゃないと思うの」
「でも、俺は遊びでやっているだけなんだ。遊びのために助けられる命を見捨てるっていうのは、こう、何というか……。自分の許せる範囲からはズレてるなって……」
「はあ、意外と甘ちゃんなのね。博愛主義って言うの?」
「でも、俺が甘ちゃんじゃなかったらモルナ達はまだあの無人島にいたでしょ?」
モルナはハッとした。
「そうね。甘ちゃんに助けられた私が皮肉を言える立場じゃなかったわ」
「ま、俺は遠慮がない方が気持ちいいけどね」
「……」
その後も、人助けを続けた。しばらくして、悲鳴と共にヒソカの凶悪なオーラの波動が伝わってきた。
「あの男、また殺し始めたわね」
「シルフと戦ったっていうピエロ?」
「ええ。どうする? 助けようとしても妨害してくると思うけど?」
「俺が戦っている間にアザール君に重傷者を回収してもらうかな?」
「一応言っておくけど、あのピエロは怪物よ? あなたでも危ないかもしれないわ……」
「うーん、でも、オーラ量自体は大したことないんじゃないかな。精神性が危ういって感じかな?」
「あのオーラを見て、大したことないと?」
「うん。たぶんアザール君より少ないと思う。クジラと比較すると30分の1とかじゃないかな。俺はそのクジラに勝ったわけだから」
「……一応、気を付けなさい」
「うん。ありがとう。行ってくるよ」
トラックから飛び出すクチナシ。特に会話に入ってこなかったシルフもトラックから飛び出した。彼女はクチナシの隣を走る。
「あれ? 自分で戦いたかった?」
「そういうわけじゃないわ。でも、モルナの仲間なら私にとっても仲間。危なくなったら助けるわね」
「信用ないなあ。俺、そんなに弱くないんだけど」
「んふっ。自信があるのはいいことよ。でも、過信には気を付けてね」
「はいはい」
ザッ。
ヒソカの前にさっそうと現れるクチナシとシルフ。後ろからアザール君も走ってきている。
「やあっ♡ 久しぶり♡ 君達も僕とやってくれるのかい?」
ヒソカはいい笑顔でクチナシの方を振り向いた。周囲には血まみれの受験生が5人倒れている。血と悲鳴で気持ちよくなっているのがうかがえる。
「お生憎様。私は見学よ」
「俺が相手になるよ。でも、あまり時間はかけたくないんだ」
「短時間が希望かい♦ じゃ、できるだけ激しくやろっか♥」
キィイイイイイ――ン。
木々を揺らすほどのオーラがヒソカから漏れ出る。森の動物達がヒソカから逃げて行く。ヒソカのち〇ちんもバキバキに勃起して戦闘態勢は十分だ。
ドンッ。ドンッ。ドンッ。ドンッ。
対して、クチナシのオーラ操作の基本は振だ。オーラはオンとオフを繰り返す。ヒソカの目がパッと見開かれる。
「初めて見た型だね。彼女が君の師かい?」
「いいや、初対面だよ」
「へぇ? っ!?」
ズギュウウウウウウウン。
ヒソカは凝を怠ってなどいなかった。だが、返事している間にもクチナシが目の前にあった。何の前触れもない、見たことがない移動法だった。
クチナシは背後に自身の体重よりも重い女性入りち〇ちんを背負っている。振を利用してこれを爆発的に後方に送ることで、クチナシ自身を爆発的に前方に送り出すことができる。ゆえに足や腕において何の前触れもなく移動することが可能なのだ。重心移動を伴わない姿勢制御、ジャポンで人気のガ〇ダムでAMBACと呼ばれる技術だった。
――バンジーガム――
ヒソカは急いで防御の体勢を取り、ガムでクチナシの攻撃を受けてついでに全身にガムをなすりつけようと考える。
――渦――
ギャギャギャギャギャッ!
だが、気づくと渦を用いた巨大な顕在オーラがクチナシの右手に纏われていた。咄嗟に出したヒソカの堅とはまるで比較にならないオーラ量。実はクチナシは陰で隠しながら渦のオーラを右手に纏い、威力を溜め続けていたのだ。
一流の陰使いにして天才的な勘の鋭さを持つヒソカがそれに気づけなかった理由はいくつかある。クチナシの陰は通常の陰とは違い和を用いており、穏やかさを装っていたこと。クチナシの本心に本当に殺意が無かったこと。逆に念は死後の力を宿しており殺意があったこと。このチグハグさがヒソカをもってしても分りづらかった。
だが、それらよりも、ヒソカ自身が圧倒的弱者の受験生を痛ぶって遊んでいたために、勘が鈍ってしまっていたことが隙を晒した最大の原因だったのかもしれない。
「ガッ!?」
渦状のとてつもないオーラはガムの壁を削りながら、ヒソカの骨を容易く粉砕し、そのまま肺に突き刺さる。だが、殺す手前でクチナシは渦を離散させた。
両腕部複雑骨折、肋骨骨折。右の肺破裂。陰を見抜けなかったという落ち度。それがヒソカにもたらした被害は甚大なものだった。
「どうする? 次の攻撃を受けると死んじゃうかもしれないけど。まだ続ける?」
ドッキリテクスチャーとバンジーガムの組み合わせ。ヒソカは肺を修復しながら立ち上がる。腕の骨もだ。硬いゴムに変えて少しずつ修復する。
まだ、戦いはやめない。だが、認識を改める。これは一方的な狩りではない。どちらが狩られるか分からない強者と強者の戦い。自分も本気で行かなければ死ぬ。
「俺にとってこれは遊びだから、君みたいに殺す気でやることはできない。だから、一旦やめにしないか? 俺は早く受験生を助けないといけない」
向こうからは攻撃してこない。その隙に周囲に陰で隠したバンジーガムを飛ばす。時間は自分に対して有利に働く。身体を回復させるフリをして周囲を自分にとって有利なフィールドに作り替える。
「降参するなら今のうちだよ?」
相手は油断している。次はこちらが相手の隙を突く番だ。
――バンジーガム――
足元のバンジーガムを弾き、自分をクチナシの方へと跳躍させるヒソカ。クチナシは回避の体勢を取るが。
――バンジーガム――
最初のガムで防御した時にクチナシの頭部にガムの一部は付着していた。左手でそれを引っ張りクチナシのバランスを崩させる。その隙に攻撃する。
「えっ?」
だが、むしろヒソカの方がバランスを崩してしまった。クチナシの頭部を引っ張り反動を得るつもりだったのに、クチナシの頭部がバンジーガムと同じような材質となって同時に伸びたためだ。ヒソカがバンジーガムならクチナシは自認天然ゴム。変態は変態を理解できない。
ヒソカはゴムの反動を得られず盛大に空ぶり身を捩じってしまう。隙だらけの背中を晒す。
――渦――
先ほどの渦より遥かに弱い、手加減した攻撃。だが、防御が間に合っていないヒソカの背骨をズタズタにするはずだった攻撃。それが当たる直前、目の前にルアーが飛んできた。
「あっ」
ルアーに気を取られた数瞬の隙。ヒソカの防御が間に合う。
――硬――
ヒソカの硬とクチナシの渦がぶつかり合う。
「ぐっ!?」
互角とまでは言えないが大半のオーラによる攻撃は硬で相殺できた。が、衝撃までは殺し切れない。ヒソカはきりもみされながら森の中を飛んでいく。
「お前、あのピエロの仲間か?」
クチナシはルアーを飛ばした少年を睨みつける。
「えっ、ちがっ。オレはレオリオとクラピカを助けるために……っ」
ゴンは近くで冷や汗を流している長身の男と中性的な若者に目を配る。
「ゴォオオン! 何やってんだ! 相手はヒソカだろ!」
「ごめん! その! オレ、ヒソカの隙を狙ってたんだけど、何が何か分からなくなって!」
クチナシはオーラを鎮める。相手の言いたいことが何となく分かったのだ。
「俺の獲物に手を出すなってことか? 悪かったな」
「えっ!? あっ、ちがっ!? ご、ごめんなさい!」
ゴンは大きく頭を下げ、レオリオクラピカと共に慌てて逃げて行った。