100億人に一人の才能 作:キモいよ
「なに……、あれ……?」
森の中に改造しまくっている巨大なトラックがあった。
特に目につくのはトラックの荷台。巨大な女がそれより巨大な木に包まれるようにして瞑想している。
木の枝の先には謎の蔓でグルグル巻きにされた何かが13個ぶらさがっている。凝で見るとうっすらと人の影が見える。
「人……!? あんた、何やってんの!?」
木の中で新しい生命体でも作っているのだろうか。メンチは生命の冒涜的な何かを感じ、クチナシの胸倉を掴む。
「試験官の姉ちゃんも無関係じゃないよ。木に入ってるのは死にかけていてどうしても治せなかった受験生だから」
「え……」
少し、ドキリとするメンチ。今まで気にも留めていなかったが、試験で失われる命を気にかけている偽善者がいてもおかしくない。
「このままカキンに運んで治療しようと思ってね」
「って、そこまでする!? あんたそんなに正義感強かったの!?」
「正義感もあるかもしれないけど、医学研究自体が楽しくてね。生命の神秘って考えれば考えるほど奥が深いんだ」
「ほへ~」
メンチはぽかんと口を開ける。
「あの医学生の子、ネルーだっけ? いつの間にあんなに大きくなったの?」
正体を知るモルナが尋ねる。元は160cm程度だったが現在は3m以上ある。しかも、3頭身。エネルギーを注ぎ込まれたためかぽっちゃりしている。ゆるキャラみたいな見た目だ。
「俺が離れると死んじゃうから、栄養を蓄えさせておけばいいって気づいたんだよ。そしたら大きくすればいいことに気づいた」
「勝手に大きくしていいの?」
「クジラの自己暗示を開始してからちょっとずつ大きくなってはいたよ? ハンター試験始まった頃には2mくらいあったかな。でも、怪我の功名って言うのかな。大きくしてみると彼女はやっと目覚めることができたんだ。もともとの細胞はほとんど死んじゃってたから、新しい細胞の割合を増やさないと復活できなかったってことだと思う。見た目も変わったしほとんど生まれ変わりみたいなもんだよね」
「えーっと、本人が納得しているならまあいいわ」
「納得してないわよ……」
瞑想していた女がパチリと眼を開ける。
「命を救ってもらったことには感謝してる。ずっと陰部に覆い隠されていたことにも目を瞑る。だけどあたし、バレェが趣味だって言ったじゃない! こんな体型でどうやって踊ればいいのよ!」
「頑張れば踊れるよ……?」
クチナシは全身を変形させ、ネルーと同じような体格になって見せる。
「ほら? ほら?」
ぽよんぽよんと丸っこいクチナシが躍る。手足を伸ばしても伸びているのかどうか分からない。
「違う……! あなたのそれはバレェじゃない!」
「そこまで言うなら整形してあげてもいいけど……?」
クチナシは全身を木化させネルーに近づけていく。ネルーは全力で嫌がった。
「や、やめて! 自分でやる……! 整形手術なら自分でやるから! お〇んちんの中はもういやぁああああああああああああ!!!!」
「望みを叶えてあげようとしているだけなのに。そこまで嫌がる? わがままな女だよね」
「おちん……? なんて? というかあんた変化系なの? 操作系じゃないの? 特質系?」
「それよりも彼女、歩けるのかしら。バレェの前にまずそこじゃない?」
「歩けるけど、木から離れるとなんか力が抜けちゃうのよ! 瞑想して生のエネルギーを感じ取れとかなんとか言われてるんだけどさ!」
「ああ、精孔を自分で閉じるために瞑想していたわけね」
「たぶんそういうやつ!」
ネルーは目を瞑り、再び瞑想を始める。
「聞いたことがあるわね。念での治療の難しさ。治ったはいいものの精孔が開くと生命エネルギーを失って死んでしまう。だから治療系念能力を病院で生かすのは難しいってさ」
メンチは凝で木を眺める。
「この木、あなたのオーラの塊ね。足りなくなった分の生命エネルギーを木から女の子へ分け与えている。だけど、オーラを他の物体に溜めておいてしかも他人に譲渡するなんて高度な技よ。放出系の能力かしら?」
メンチはいろいろ疑問を投げかけるがクチナシ自身にも放出やら操作やらは理解できないので返事はなかった。ただ、基礎修行を繰り返していたらできるようになった。それだけだった。
「あっ! クチナシ君! モルナさんも!」
そこへ、カミィがやってきた。両手に儀礼用の布や紙をたくさん持っている。
「あなた、無事だったの? タワーから落ちちゃってる所が見えたけど」
「はい。全身骨折で大変でしたけど、クチナシ君に治療してもらったので。今はぴんぴんしてます!」
カミィはメンチの疑問に答えながらクチナシに儀礼用の布や紙を渡す。
クチナシはそれを木のいろいろな所に貼っていった。
「何してんの?」
「念のこと、ネテロ会長にはできるだけ隠せって言われてるけど……。こんだけ大きいと出航の時にはどうしても見られちゃうでしょ? だから宗教的な道具だと思ってもらおうかなって」
「変な所で気を遣うのね……」
儀礼用の布を貼り終えると、トラックでザバシの港へと移動する。
「こんだけ大きな木、どうやって運ぶの? 船はあるの?」
「もちろん泳いで運ぶよ」
「泳いで!? それは無理でしょ!?」
と、メンチが言いながら気づいた。
「分かったっ! あのアザラシね!」
「いや、アザール君達はカキンに帰っちゃったし、向こうで偽ハンター試験を手伝ってもらってるから」
「偽ハンター試験!? どういうこと!?」
「いや、ネットにいろんな偽情報が出回っていたからさ。俺も偽情報ばら撒いて偽ハンター試験やってみようかなって」
「偽情報!? どうして真似すんのよ!? バカじゃないの!?」
メンチはツッコミっぱなしだった。この男、全ての言動がデタラメ。他の女達の反応が薄いのもおかしなことだった。
「それよりも私、重要なことに気づきました」
モルナがいきなり話題を切り出した。シルフの方をじっと見る。
「何かしら?」
「私、クチナシの力を借りずに自分で仲間を集めてあの女に復讐すると言っていたでしょう? だけどシルフの力があれば1人で簡単に勝ててしまうわ。そうすると私の努力はなんだったのってならない?」
「ごめんなさい。私は一般人だから勝てないと思うの」
「ごめんなさい。プロハンターで一般人は通用しないわ。あなたのそのキャラ付けは終わりました」
「えっと、プロハンターは今日でやめることになるかな」
「やめないでよ! あんなに大変な思いをしたのに!」
シルフがハンターライセンスを捨てようとするのを、モルナは必死で止める。試験官のメンチは自分の仕事をバカにされているようで不愉快だった。
港に到着する。船ではなく泳ぐと言っていたが船はあった。50人は乗れそうな大型船だった。
「あれ? 船はないと言っていたのに」
「俺も呼んだ覚えはないよ」
船から男達が出てくる。クチナシが命を救った受験生達だった。
「よぉ。そいつら運ぶなら船が必要だろ?」
「みんなで金を出し合ったんだ」
「中古を借りただけだがな」
「これくらいさせてくれ。命の礼なら安いもんさ」
いい顔で笑う受験生達。
「えーっと、船は必要なかったんだけど……」
「まあまあ、こういう時の人の好意は受け取っておきなさい」
「えー?」
巨木を背負って海を泳いで渡るという行為。クチナシにとっても過酷だが、過酷だからこそ修行になる。クチナシは船の提案を断るつもりだった。だが、モルナがクチナシを胸にうずめて黙らせる。
確かに、彼等は今いい笑顔なのだ。やり切った男の義理人情。美しき親切心の絆。それをあえて無下にすることもないだろう。
「ありがとう。助かるよ」
「へへっ。いいってもんよ」
クチナシは他人を立てることを覚えた。それがハンター試験最大の収穫だったのかもしれない。
中古船でのカキンへの移動。道中の食材は素潜りや釣りで確保する。受験生達も試験会場へ辿り着けただけあって素潜りは余裕でこなした。取った食材についてだが、メンチが「合格祝いの特別サービス」と言って料理をしてくれた。何か心変わりすることがあったのだろう。グルメハンターだけあって料理はとてもおいしかった。