100億人に一人の才能 作:キモいよ
良く整えられた並木道。暖かな印象のレンガの舗装道路。オシャレな大学生のカップルがカフェで一服し、そこかしこに工事の音が鳴り響く。活気のある街だった。
「小奇麗な街ね。目に毒だわ」
「目に毒は俺達の方だと思うけど……」
「……」
性接待するための際どい服を着た美女美少女3人。女性の体操着を着た少年。強面の大柄な軍人。歩いていれば怪しすぎるだろう。
「夜まで船で待つのか?」
「そうするしかないでしょうね」
「じゃあ暇だから修行しよっか」
「私達には休憩が必要よ」
「同じく! 休憩お願いします!」
「しゃあねえなあ。動物達を鍛えるか」
「質問があるんだが」
軍人が話に入ってきた。
「何か?」
「俺は君達と行動を共にしていいのか? やはり女性の集団に俺がいることが、君達を余計に目立たたせてしまうと思う」
「そうは言っても一緒に行動しないとあなた逃げるでしょ」
「念による何らかの枷をつけられる覚悟はしている」
軍人とモレナ姫がクチナシを見た。
「別に自由でいいんじゃねえの?」
「バッ! 逃げたらどうすんのよ!」
「見つけ出して殺せばいいじゃん」
「どうしてそんな面倒なことをしなくちゃならないのかしら!」
「うーん。でも、こいつと一緒に暮らすよりはマシでしょ?」
「今すぐ殺せばいいって言ってんの!」
クチナシがつまらなさそうな顔で軍人の方を見る。
「うーん。でも、今すぐ殺してもつまらないしなあ。
せっかく見つけたおもちゃなんだからしっかり楽しみたい」
「逃げたら遊ぶも何もないでしょうが!」
「いやいや、かくれんぼだよ。隠れてるおっさん探すの楽しいでしょ?」
「何にも楽しくないわよ! おっさんなんか探して何になるのよ!」
「我がままだなあ」
「どっちがよ!」
クチナシは軍人に向けてどこへでも行けという風にプイプイと手を振る。
軍人は一礼してから港へと降りて行った。
「あー、もう! 逃げてくじゃない! あいつらは暗殺のスペシャリストよ! 遠距離で狙撃されたらどうするの!」
「殺気に気づいて避ければいいよ」
「あなたはよくても私は無理よ」
「修行あるのみだね」
「ああーっ! さいあくーっ! なぐりたいーーーっ!」
モレナ姫はそう言いながらクチナシの頭をグーで何度も殴った。
だが、今まで拷問のような日々を続けていたモレナ姫達の疲労は相当なものだ。
しばらくすると急激な眠気に襲われ、眠ってしまった。
深い夢を見るモレナ姫。地獄の中から助けられたはずだったのに、やっぱりまた地獄に落ちる。自分は幸せになれないのだろうか。そんな不安を掻き立てられる夢だった。
潮風に交じって動物達の匂いがする。臭い虫の匂いもだ。
「またあの小僧が虫を……っ」
想像以上にビッシリ虫と動物がいた。船には歩く隙間もないほど。
「ああ、モレナ。起きたのか」
「何よこれは!」
「ちょっと黙ってろ。治療中だ」
「はあ? 治療?」
見ると、ドゥの周りに非常に多くの虫が集まっている。鼻の穴や耳の穴、いや、おそらく下の穴にも入り込んでいるだろう。ドゥは苦しそうにうめいている。
「ちょっ、ちょっと! それ大丈夫なの!」
「だから治療中だから黙れって!」
「治療中って、そう言われても……」
苦しそうなドゥの表情、虫の大群という生理的な嫌悪感を見ると止めたくなる。
だが、クチナシの怒声は真剣そのもの。止めるのは憚られた。
「むっ! 一旦ストップだ!」
クチナシとドゥのオーラが引っ込み、虫たちが一斉にドゥの身体から出てくる。
一部はクチナシの髪の毛の隙間や体内に入っていき、一部は自然に還った。
「ぷはあっ。はあ、はあっ。ごほっ、ごほっ」
ドゥは脂汗をかき、咳をしている。だが、顔の血色がよくなっている気がした。
「ふぅーっ。精神的に疲れるな。これ」
「どういう治療をしているの?」
「和の応用って感じかな? 俺と虫とおばさんの精神をリンクさせて、俺が毒の解毒方法を教えたり、虫に解毒させたり、栄養を運んだり、まあいろいろやってたわけだ」
「虫に薬を運ばせたってこと?」
「薬というか、あくまで解毒するのはおばさん自身だな。俺と蟻がおばさんの毒を受けて、解毒方法を自分の身体で理解して、それをおばさんに教える感じ。エネルギーが足りない分は分けてあげたり」
「そう。理屈は分かったわ。ドゥさんは治りそう?」
「ま、順調に行けば一週間くらいか?」
「そんなに早いの!?」
「上手くコントロールすればもっと早くできそうだが、あまり急ぐとおばさんが壊れてしまいそうでな。この人は姉ちゃんと違って基礎体力がふつうの人より低い」
「そう。加減が分かっているのならいいわ」
そこにカミィがやってきた。
「あっ、モルナさん起きられたのですね! ごはんの準備できてますよ!」
カミィがそう言うと、虫や動物たちが飛び立ち、船の中の机へと道ができる。机の上には4人分の食事が置いてあった。
「ごはんはありがとう。だけどモルナって言うのは?」
「ああ、すみません。モレナさんだとあの方と被ってしまうので。モルナさんと。安直すぎますかね?」
「……」
モレナ姫はしばらく考えるが。
「もう、それでいいわ」
「ありがとうございます!」
モレナ姫はモルナと呼ばれることになった。
「でも、できれば私の本名、知りたいなあ」
「モレナなら知ってるんじゃないか? お前の雇い主だったんだろう?」
「……そうかもね」
殺す前に確認するか、とモルナは戦いの段取りを1つ増やした。
船とドゥのお守りも必要だろう。
船にはクチナシが残り、モルナとカミィが服を手に入れるべく夜の街を歩く。
兵士達が命令に背いてでも手に入れたかった美女と美少女。性的なコスプレで歩けば当然男性の目を引く。
「姉ちゃん達、2人合わせてこれでどうだ」
一人の恰幅のいいおじさんが手で8を作る。
「車内希望。先に服の買い物に」
「よし来た! 待ってろ!」
おじさんはいそいそと車を出す。そして美女2人を乗せて24時間営業の服が売ってある店へと消えて行った。
「ありがとう。パパッ!」
「へへっ。いいってもんよ。それよりこれ、連絡先! また溜まったら頼むよ!」
「うん! よろしくね!」
男の車が立ち去るのを見てから、ペッと唾を吐き捨てる。
「とりあえず服は手に入ったわ。これで昼間から活動できる」
「モルナさんは昼間は何をなさるのですか?」
「ネットで地道に仲間を探すつもり」
「ネット……、電脳ネットですか?」
「ええ。顔を晒すリスクを減らせるし世界中から同士を集められる」
「世界から……!? 何かすごいですね」
「ええ。せっかくだから大きいことをやりたいわっ」
「おおっ、すごいです!」
「あなたはどうするの?」
「私は……。アルバイトでしょうか?」
モルナは難しい顔をする。
「働ける場所、あるかしらねえ?」
「えっ、無理ですか?」
「だってあなた、不可持民になるわけでしょう? しかも子供。タダ同然で働かされて搾取されるのがオチよ」
「で、では。どうすれば」
「あなたも仲間を集めることね。夜職をするにしても、ある程度の武力が必要よ」
「私の、仲間……」
「そうそう。強くて信頼のおける仲間」
「クチナシくんはダメですか?」
「あいつはやめておきなさい」
「どうしてですか?」
などという話をしながら、船に戻る。
「ほら、あなたの服よ。サイズが少し違うのは我慢してね」
「おうっ。サンキューな」
「ドゥさんは、私が着替えさせますね」
ドゥは自分で着替えられないのでカミィが着替えさせた。
「というわけで、私は昼間に仲間探し、夜にお金稼ぎをすることになりました」
「俺の修行を受ける話はどこへ行った? 軍人を倒すんだろ?」
「そんな話はありません。私には私の目的があります」
「私の全てをあげるとか言ってたのになあ。勝手なやつだ」
「……目的を遂げた後なら、修行にも付き合ってあげるわ」
「モレナを殺した後ってことか?」
「ええ。それまでは私の事情を優先したいの」
「それだったら俺がモレナをやっちまったら早いんじゃねえの?」
「はぁああーーー!?」
モルナは真夜中だと忘れて船上で怒鳴った。
「あなた、自分が何を言っているか分かってるの!?」
「実に合理的だと思うが」
「あ、れ、だ、け! 私が頼んだのに!? どうでもいい軍人を見逃して!?
こ、れ、だ、け! 私が! 自分で! 殺りたがっているのに!? あなたがモレナを殺すですってぇ!?」
「言われてみるとそうだな。隣の芝は青く見えるってやつかな?」
「ぜんぜん違います!」
モルナはクチナシの眉間にビシィと指を突き立てた。
「とにかく、モレナには手を出さないで! あれは私の獲物ですからね!」
「へいへい。モレナには手を出しません。じゃあお前も俺の修行受けろよ」
「なにがじゃあよ! そこまで言うなら受けるけど!」
カミィがそっと手を上げる。
「あのぉ、私も修行、受けていいですか?」
「何言ってんだ。お前も受けるに決まってんだろ」
「あっ、はい」
「カミィ、嫌なら断っていいのよ?」
「嫌じゃないです」
「本気?」
「はい」
「はあ。もう手遅れのようね」
「失礼なやつだなあ」
その後、昼間は修行し、夜は夜職で稼いだりネットで仲間を探す日々が続いた。
その間にドゥの治療は劇的な進歩を遂げいていた。
毒を吸い取るためには動物より植物、特に根の無機物を吸い込み浄化する機能が有効であることに気づいた。
最適な場所は森林。格好は全裸。抱き合い、絡み合い、脚をかけ、キスをし、舌も入れ、できるだけ密着。
「んっ、あっ」
ドゥの喘ぎ声。クチナシはモルナが言っていた気持ちいいという話が少しわかった気がした。
だが、これはあくまで治療。この状態で、”和”を用いてドゥ及び植物と同化。
植物の根を自身の一部のように操り、ドゥの口、耳、恥部、肛門、穴という穴に張り巡らせていく。
「はうっ。がはっ。ぐうっ」
喘ぐドゥに構わず、より深く、より奥まで、より隅々まで。
一滴のミスもゆるさず、全ての毒を吸い取り、栄養を与えるイメージ。
ドゥは圧迫感と毒との戦いにもがき苦しむ。全身から大粒の汗が出る。和を通してそれがクチナシにも伝わる。クチナシからも大粒の汗が出る。
お互いに全身汗だく。汗と汗が混ざり合い。毒と毒が混ざり合い、クチナシの力によりすさまじい勢いで浄化され、蒸気となって飛んでいく。
実は、毒と一緒に死者の念もこびりついていた。蟻の物理然様でも浄化仕切れなかったはずだ。だが、普段から死者の無念を浴び続け抗い続けているクチナシであれば、コントロールできる。死者の無念を自分に移し、自分で受け、その上で抵抗し無力化する。あっけない者だった。
結果、ドゥの全身はくまなく浄化された。
活力もみなぎり、完全に意識を取り戻すことに成功した。
「はあ、はあ、はあ。ありがとう。小さなお医者さん」
「はあ、はあ、はあ。いやあ、いい汗かいた。こういうのも、いいもんだね」
「ふふっ。毒と戦っていたはずなのに、なんだか清々しいね。全身の痛みも、勲章というか……」
「詰まっていたうんこが出るってやつだね」
「その喩えはやめて!」
「え? なんで?」
女性心が分からないクチナシであった。
「とにかく、ありがとう。これからも、よろしくね」
「ああ、よろしくな。ドゥ」
「ミネルバって言って。実は本名はドゥじゃないの」
「そうなんだ。ミネルバ、いい名前だな」
「ありがとう。ふふっ」
ミネルバは全裸のまま笑顔でクチナシの頬っぺたや胸を撫でる。
感謝の気持ちもありつつ、別の気持ちもあるようだった。
さて、ミネルバが復活したことで、彼女のお守りから解放されたクチナシ。
彼には行ってみたい場所があった。
「この町に大学があるだろ?」
「あるわね。生物学の研究で有名な大学。実は私もNGLに行けなかったらここの大学に入るつもりだったんだ」
「だったらちょうどいいや。侵入してみようぜ」
「ええ? 怒られないかしら」
「だからいいんじゃないか。すごく怪しい死者の無念が出てるんだ」
「大丈夫かなあ」
少年の好奇心は止まらない。